「……え?」
ヴァネッサは……アジトに訪れた訃堂の言葉に声を失う。
「ああ……あの娘は殺された……」
「……」
何処までも無感情の訃堂の言葉を、彼女たちは受け入れることが出来ないでいた。
「受け取りの後に、儂の部下が場に残されたコレを発見した」
「っ……」
そうして差し出されるのは……大量の血が付着したスーツケース。
彼女の持つスーツケース型のマニピュレーターデバイス、『テールアタッチメント』である。
未だ痛む体でどうにかそのスーツケースを受け取ったミラアルクは……付着してる血が正しくエルザのモノであると理解できた。
「あっ……ああ……」
「……嘘……どう……して……」
「あああああッ、ああああ……」
ミラアルクは崩れ落ち、ヴァネッサは……ただ呆然と遺品を見つめることしか出来なかった。
……だが、ヴァネッサはどうにか言葉を紡ぎ……訃堂に尋ねた。
「……エルザちゃん……エルザちゃんの身体は……」
「既に荼毘に付した。身体は所定の場所に置いておる。遺体の写真なら用意があるが」
ほれ、と軽く放り投げられた写真には、血とバラバラになった身体が写っている。
「ッ──」
──そして、ノーブルレッドの二人は……
その写真に写っていた血の海は、正しく二人の知るエルザの物であると……確信する。
「……」
場に沈黙がおりる。
だが、次第に彼女達は現実を理解していき……わなわなと震え始めた。
「……なんで……なんでッ!? あの子があんな目に……なんっ……でッ……!」
「わ、私のせいだ……私がエルザに……」
「……」
……訃堂は、何処までも無表情のまま、取り乱した様子の彼女達を見つめる。
だが。
「……」
彼女達に見えぬよう、怪しく笑ったかと思うと……唐突に口を開く。
「……知りたいか?」
「……え?」
「その者を殺した犯人を……知りたいか?」
「……」
その問いかけに、彼女達は静かに頷いた。
◇
「あぁー……しんど」
部屋に戻ってきたヒイロは、今回のミッションで戦った相手について考える。
「あのビリビリじじい強すぎるだろ……あぁー……疲れた……」
ギリシャとインド。
星人の中でも高位の存在達がそこらに居る魔境である。
日本における最後のミッションは、全国から集まった星人の生き残りと最高位の神々との戦い。
正に最終局面と言っても良い戦力のぶつかり合いだったが……。
恐ろしい事に、ギリシャやインドなどでは毎回のミッションがソレと同等クラス。
だからこそ世界中から生き残った星人達が集まる最後の砦となり……何時まで経ってもインドとギリシャはミッションに囚われ続ける羽目になっていた。
「……」
では、ミッションに囚われているとはどう言う事か。
実は、ミッションというのはブラックボールがデフォルトで設定しているモノであり、人類はコレを外から解除することが出来ないのである。
また、ミッション中はブラックボールの機能が大幅に制限されることとなり……その性能は著しく下がる。
これは逆に言えば、ミッションを全て終わらせられれば……つまり、その地域に住まう星人達を殲滅できれば、ブラックボールの全ての機能が解放されることとなる。
この機能全解放の事を『Apocalypse』と呼び、全世界の各企業は『Apocalypse』を迎えることで、ブラックボールを自由に使えるようになる。
「……眠い……」
──ただ。
前述の通り、インドとギリシャは全世界から凄い数の星人が集まりっている故か……殺しても殺しても星人が尽きることは無く。
そう言った国々の企業は……自力では最早どうにも出来ず、
「……また後1時間後に……インド……」
思わず横に倒れ込んだヒイロは、ブツブツと予定を語る。
彼の次の仕事は……
「……」
──そう。
インドとギリシャにとって朗報だったのが、『ミッション』は他国の部屋と協力することも可能であると言う点だ。
そこに商機を見いだした者達が、報酬を受け取って戦力を売る仕事を始めていた。
ヒイロもまたその一人である。
「……金……溜ったから……また……プレラーティに頼んで依頼書を……」
そうして真の意味でのフリーランスとなったヒイロは、現在その二国の中では人気者だ。
コンスタントに仕事を受けてくれるし、基本的に失敗はせずに殲滅してくれる。
ヒイロは金を稼げて、インドやギリシャは完全解放に一歩近づく。
彼等はWinWinの関係にあった。
ただ一つ問題を挙げるとすれば……毎度毎度戦う相手が強すぎるという上に、数が多すぎると言う点。
「……」
連戦に次ぐ連戦により……流石のヒイロも疲れを隠せなくなってきた。
だが、それでもヒイロは働き続ける。
ガンツにフリーの企業のリストを作って貰い、それをプレラーティに送って各言語の依頼書を作って貰う。
コレもまた彼にとって必要なこと。
アメリカの目を日本以外に向けさえる為の重要な仕事である。
戦って、依頼して、戦って、プレラーティに罵倒されて、戦って。
「……あ、そうだ……今日は日曜日か……」
ヒイロは……そんな毎日を送っていた。
当然キツいし、もう止めたいと思ったときは何度もあった。
──だが、そんな毎日でも……小さな楽しみと癒やしが、彼を支えていた。
「ほら、持ってきてやったワケだ」
「どうも……」
ヒイロの後方からまた転送の紋章か光り、得意げな顔で依頼書をちらつかせたプレラーティが現れる。
ヒイロはすぐにそれを受け取ったかと思うと、さっとまたガンツの前に座り込む。
「……」
その行動に、プレラーティはふと違和感を覚えた。
何時もであればもっと嬉しそうに受け取るヒイロが、何時にも増して素っ気ない。
その背中から何処か妙な雰囲気を感じたプレラーティは……ちらっと彼が何をやってるのか確認した。
「いっ!?」
そこで……プレラーティは恐ろしいモノを見た。
見たことも無いような半笑いで……ガンツの表面を眺める陽色がいた。
「……」
一旦その様子がおかしいヒイロから視線をずらしたプレラーティは、ガンツの表面に写ってるモノを見て……更に表情を引きつらせる。
「……お、お前……何やってるワケだ?」
そう。
そこには──。
「プリキュア……見てた」
画面一杯にプリキュアの放送が映されていた。
現時刻、朝の八時三十分。
「お、お前……」
「あ。もしかして遊んでるって思ってる?」
「……」
「ふっコレが実は重要な事なんだ」
訝しげなプレラーティの表情を見てか、ヒイロは明るい表情で弁明を始める。
だが。
「俺さ、気付いちゃって……プリキュアを見てれば
「……え?」
ヒイロが何か語るたび、プレラーティの表情は青くなっていく。
まるで何か別の生き物でも見るような目で……ヒイロを見つめていく。
「つまりだ。一週間後、またプリキュアを見れば更に一週間働ける……プリキュアが終わるまで動き続けられる……コレはもうノーベル賞並の発見だ」
「……」
彼の語る内容は何一つ理解できず、何も弁明になっていない。
どころか、ただただプレラーティのドン引きを加速させるだけに留まった。
「あ、一緒に見る? 詰めれば座るけど……」
「……」
そして。
何時になく楽しそうに語るヒイロを見て……プレラーティは──。
「……お前……」
彼女は。
「……寝た方が良いよ……」
本気で……彼の事を心配した。
◇
「──これがカラオケッ! 凄く楽しいですッ!」
カラオケの個室にて、エルフナインは初めての楽しさに目をカッと開いた。
「あ、朝から元気だねエルフナインちゃん……」
「はい!」
現時刻、朝の八時半。
立花響、風鳴翼、未来、そしてエルフナイン。
彼女達四名は……朝っぱらからカラオケを楽しんでいた。
何故彼女達がその様な事をして居るのか。
それは急な休日……と言う名の謹慎……が始まってしまったから。
「しかし、S.O.N.G.に強制査察とは……」
「うーん。私達に掛けられた疑い……錬金術師との裏取引って何だったんですかね?」
「考えられるのは、あのパヴァリアの離反者との繋がりを疑われたか……もしくはパヴァリアそのものとの関係か……」
そう。
彼女達のS.O.N.G.本部に、いきなり日本政府からの査察が始まってしまった。
確かに、S.O.N.G.はその成り立ちと立場から、作戦行動について逐一日本政府に開示、報告しなければ活動もままならない。
今回はその報告が不足してるという理由から査察が起こったのだが……。
「……錬金術師……」
「錬金術師……」
彼女達には全く以て身に覚えが無かった。
「うーん、錬金術師、って事は緒川さんが何か……?」
「確かに、今は緒川さんが最もパヴァリアと関わりが深いが……あの人はその様なミスはしない」
「そうなんですよね……あの緒川さんがそんなミスするとは思えない……」
「ああ……仮にやるとしたら誰にもバレずにするだろう」
「ええ…………え?」
正直困惑しか無かった彼女達だったが、査察官の異様な圧力と身に覚えの無い証拠を提示され、S.O.N.G.本部から叩き出されてしまった。
そんなこんなで生まれた休日。
何もしないというのも何なので、彼女達は久しぶりにカラオケに来ることにした。
「よし、では久方ぶりに私も……」
意外だったのは、翼が思いのほかノリノリだったと言うことだ。
「……そう言えば翼さん……またライブするんですよね」
「ああ。その為にも、こういった場所でも練習だ」
翼は、何処か吹っ切れたような表情でそう言って、歌を歌い始める。
楽しそうに、生き生きと。守るためでは無く……楽しむため、楽しませるために彼女は歌っていた。
「……翼さん」
それは、彼女がアイドルとして立ち直りつつあるという事の証左でもある。
立花響は、それが無性に嬉しかった。
「──よし! じゃあ未来、私達も歌おう!」
「うん!」
彼女達は久方ぶりの休日を遊び尽くそうとして──。
「はい、もしもし?」
そんな楽しい時間は、携帯のコールであっという間に終わってしまった。
『──響ちゃん!? アルカノイズが付近に発生! ノーブルレッドが出ましたッ!』
電話から聞こえてきたのは、戦闘管制の友里の声。
だが、それはおかしい。
何故ならまだ──。
「……さ、査察の方は……?」
『司令達の早い対応のおかげでもう終わってます! 急いで現場に……!」
「あ、は、はい!」
やはり無理がある査察だったのか、速攻で片付けられてしまった査察。
しかしそのおかげで、随分と早い対応が可能となった。
だからだろう。
『避難は此方で任せて!
──友里は、響達を安心させるように……最後にそう付け加えた。
◇
「いやだッ!」
「だから、寝るワケだッ!」
「俺はッ、この時間が一番の楽しみなんだぞッ!」
ヒイロとプレラーティは、何故かプリキュアを見る見ないでガチの喧嘩をしていた。
彼等が知り合って数ヶ月。始めての喧嘩がコレである。
「楽しいだけ、気持ちいいだけじゃ駄目なワケだっ! 私もソレで痛い目を見たッ」
「プリキュアは全てに置いて優先されるッ! 当然睡眠よりも……!」
「この分からず屋めっ」
ギャーギャーと言い合いながらも、ヒイロはしっかりとプリキュアは見続ける。
「お前……」
心底呆れたと言わんばかりの目でヒイロを見つめたプレラーティだったが、次第に怒りが湧いてくる。
「人と話すときは人の目を見ろと、ママから教わらなかったワケか? あーん?」
「!? てめぇ! 今は母さんの話は関係ないだろッッ!」
「ふっ……図星なワケだ」
「~~!!!」
互いに怒りの地雷を踏みつけながら、その睨み合いは加速する。
「俺はなぁ……! アンタらパヴァリアのせいでなァッ! 風鳴翼とマリアのライブが見れなかったんだぞッ」
「はぁ? 私達のせい……? ……まさかノーブルレッド?」
「そうだよッ! あんたらのおかげでライブ会場で千人以上も人が死んだんだぞッ」
「……」
一瞬怪訝そうな顔を浮かべたプレラーティは、何か手元で紋章を操作する。
「……おかしい。アイツらにそんな大層なこと出来るワケ……」
「実際出来てるんだよッ! クソッ……パヴァリアは風鳴翼とマリアのライブだけでなく……俺からプリキュアすら奪おうってかッ!?」
「……」
「もしプリキュアすら奪われたらなァ、俺は暴れるぞッ!」
そのヒイロの言い草に一瞬言葉が詰まったプレラーティだが、しかしすぐに言い返す。
「……大体、録画で見れば良いワケだ」
「………………」
そしてその真っ当な言葉にヒイロもまた言葉に詰まる。
「……録画は…! 録画は嫌だろッ!」
「はぁ? ワケが分からないワケだ」
「……」
「馬鹿な事言ってないで、さっさと寝ろ」
キツい言葉でヒイロを一刀両断したプレラーティは、手元に浮かべた紋章を操作する。
「……チッ。やっぱりアルカノイズの数が合わない」
「え?」
「今見てるのはアルカノイズの在庫なワケだが……どうもここ数日、その動きが変なワケだ」
そうしてプレラーティは、次第に紋章を操作するのに躍起になっていく。
「最後に倉庫を出たのは……コイツか? いや、コイツは最近何処にも出てない……なら……」
「……」
「あっ! コイツだな……! 最近妙に金回りが良いと思ったらそう言う……!」
「……」
「よし、サンジェルマン達に連絡して……」
完全に仕事モードに移り、ヒイロのことなど忘れて同僚達に連絡を入れ始める。
──当然、ヒイロはその隙にガンツの前に戻って、プリキュアを見る。
「……」
何故、彼はプレラーティと喧嘩をしてまでプリキュアを見るのか。
それは、彼にとって今一番の癒やしだから。
プリキュアを見ている間は、嫌なことは忘れられるから。
「……」
仕事のこととか、アメリカのこととか、切歌に告白されたこととか、『くろのす』のこととか。
そういったこと全部忘れて、幻想の世界を楽しめるのだから──。
「あっ」
──なのに。
『緊急速報です。ただいま、都心にて災害が発生しました。近隣にお住まいの皆様は避難を──』
「……」
急に画面が切り替わり、彼の幻想が終わる。
そこに映るリポーターは、真剣な表情を浮かべて居るも……何処か焦ったような表情を浮かべていた。
「……」
無言となったヒイロの背後で、プレラーティが一仕事を終えようとしていた。
「……で、このアルカノイズが今……あれ? 東京に居る?」
「……そうか」
そして、彼女の言葉でヒイロは察した。
「……? お前何を──」
「許さねぇ……」
「え?」
「一度ならず二度までも……! 絶対に許さねえ……ノーブルレッドォッ!」
プレラーティは。
「っ」
プレラーティは……初めて見たヒイロのガチギレ顔に、少し怯んだ。
そして……。
「良いだろう……速攻で片付けてやる……」
「ちょっ!? 待て──」
プレラーティの制止も聞かず。
ヒイロは戦場に飛び出した。