GANTZ:S   作:かいな

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ラスト・オブ・ヴァンパイア

『ほう……これで起動は完了となるか』

 

 ヴァネッサは、思い出していた。

 

『……神の力……さてどのように使うか』

 

 それはアジトで行われた腕輪の起動実験。

 それは見事に成功した。

 

 しかしそんなこと、ヴァネッサにはもう関係なかった。

 彼女……いや、彼女達の目的はただ一つ。

 

 訃堂との最後の仕事を完遂し……エルザを殺した犯人の情報を得る。

 

 彼女達にとって、それが最も重要なことで、他のことは些事でしか無い。

 だからか……彼の問いかけの真意には気付けなかった。

 

『……そう。神の力を注ぐ器……時に、これはどのようなモノであれば可能となる?』

 

 神の力を注ぐに値する……。

 そう問われて即座に浮かぶのは……オートスコアラー等の人形、もしくは無機物などの──。

 

 言いかけた所で、訃堂がその言葉を遮る。

 

『……ほう。では何故、()()()()その力をその身に宿せぬ』

 

 ……何故?

 それは、人類に掛けられた原罪が為だ。

 

『……原罪』

 

 そう。

 つまりはバラルの呪詛の作用に他ならない。

 

『……人類……では報告にあった通り……』

 

 訃堂はその答えに納得したのか、何処か呆けたようにブツブツと呟くと……最後の問いかけをした。

 

『では……仮に……人の胎より生み出されたのではなく……()()()()()()()()()()()()()に……原罪は宿るか?』

 

 その問いかけの意図を、ヴァネッサは掴めなかった。

 ただ、ヴァネッサは訃堂の言うソレをホムンクルスと解釈し……彼女なりの答えを返す。

 

 それを聞いた訃堂は……一際その怪しい笑みを深め、そして。

 

『あい分かった。では……』

 

 彼は……エルザを殺した犯人。

 つまりは、シンフォギアの居場所を彼女達に教えた。

 

「……」

 

 何故、今ソレを思い出すのか。

 ヴァネッサは、視界の下で暴れ回るアルカノイズを見ながら考える。

 

「……何でかな。何でだろう」

 

 ──それは、彼女の『人』として残っていた部分が見せた記憶。

 

 残された理性が……あまりにも不自然に舗装された復讐への道に違和感を覚える。

 

「……でも。……もう何も見たくない」

 

 だが。

 

「もう何も……考えたくない……ッ」

 

 喪失の悲しみ、そして怒り。

 その感情の渦が……彼女達の目を曇らせ、その思考を鈍らせていく。

 

「仇を……エルザちゃんの仇を取るッ」

 

 怒りが、憎悪が。

 彼女達を突き動かす。

 

「──早く来いッ、シンフォギアァァァァッッ!!」

 

 全武装を解放し、放ちながら……彼女はたった一人、天に向かって叫んだ。

 

 

「これはっ!?」

 

 現着した立花響達装者は……そのあまりの破壊痕に目を見張り……すぐに上空に浮かぶ褐色の美女の姿に気付く。

 

「──来たわね、シンフォギア」

 

「ッ!? ノーブルレッドかっ! ……!?」

 

 既にシンフォギアを装着した翼が叫び剣を構え……ヴァネッサの異常に気付く。

 

 身体の殆どが、ボロボロで……全身から煙を放っている。

 どう見ても全力とは程遠いであろう状態だというのに、その目に映る闘志は異様な程鋭かった。

 

「ああ、これ? 実はまだアメリカの研究所に潜入した傷が癒えて無くて……」

 

「……」

 

 彼女はご丁寧にも、ボロボロの躯体の説明を始める。

 その動きは何処かぎこちなく、彼女の言葉が真実である事を窺い知れた。

 

 それでも。

 

「でも安心して。ちゃんと貴方達を……殺してあげるからッ!」

 

 彼女は引くこともせず、一直線に立花響達へと向かっていく。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくださいッ! 貴方達は何で……!」

 

「何で……? ……貴方がそれを言うの?」

 

 ヴァネッサは全身を異形と変形させながら、全身の武装を駆動させる。

 

「──お前がソレを言うのか……お前が……お前がァァァァッ!」

 

「くっ……!」

 

 後のことなど何も考えない全弾斉射。

 近寄る者全てを破壊するその姿は……正に破壊の化身。

 

「ッ! 手を……手を取り合いましょう! まだ私達には……!」

 

「手を取る!? どうやってッ! 私のこの手をッ、握ってくれた人をッ! 殺したのはッ! お前だァァァァッ!」

 

「……え?」

 

「ああああああッッ!!!」

 

「!? がうっッ」

 

 ヴァネッサ。

 彼女の精神は既に……化け物の領域にある。

 

「ぐうッ、ああああああ!」

 

「お前、身体がっ──」

 

 故に、彼女は止まらない。

 止まれない。

 

 例え無理な駆動により……身体が破壊されようとも。

 

「止まって……止まってください! ヴァネッサさんッ!」

 

「うるさいうるさいうるさいうるさいッ! 黙れえええええ!」

 

 彼女()は、止まれない。

 

 

「……」

 

 ミラアルクは一人、地上を見下ろす。

 無言で、ただ一言も発せず……自身のしてしまった過ちを悔いていた。

 

「……」

 

 あの時、私がエルザに血清剤を求めていなければ。

 そうで無くても……皆と一緒に受け取りに行っていれば……また、何か違ったはずなのに。

 

 なのに……私は……!

 

「……」

 

 だからこれは、エルザに向けてのせめてもの償い。

 

「……来たか。シンフォギア」

 

 彼女の視線の先。

 普通であれば、皆アルカノイズから逃げるように走るはずである。

 

 だと言うのに……此方に向かって駆けてくる幾人かの少女の姿が見えた。

 

「……ヴァネッサ。そっちは思う存分……暴れてていいぜ」

 

 今、彼女より後方にて……ヴァネッサが先行したシンフォギア達と戦っている。

 

 作戦など無い。

 もとより化け物は作戦など要しない。

 

 暴れたいように暴れ、向かう欲求のまま目的を果たす。

 ただ、人としての理性を失ったときに……誤って家族を傷付けないための別行動。

 

「……エルザ。行くぜ」

 

 彼女は目を見開き……エルザが受け取り、最期に届けようとした稀血を、最後の晩餐とばかりに飲む。

 

「っ……」

 

 ──さて。

 突然ではあるが、彼女達ノーブルレッドが如何にしてその力を使い、自身の身体と向き合っているかについて語ろう。

 

 彼女達ノーブルレッドの身体には、ヒトとヒト以外の部分を繋ぐパナケイア流体と言う物が流れている。

 このパナケイア流体があるからこそ、彼女達の怪物の身体とヒトの身体は拒否反応を起こさずに力と利用できている。

 それだけで聞くと万能な力にも思えるが……そんな美味い話はない。

 

 むしろ、このパナケイア流体こそがノーブルレッドを卑しき錆色(ノーブルレッド)たらしめている。

 

 このパナケイア流体……実は使用すれば使用するほど、血中のパナケイア流体が徐々に濁っていってしまう。その結果……力の源であったパナケイア流体は、転じて死毒となってしまうのだ。

 故に定期的な人工透析が必要となり……またパナケイア流体が機能するには140万人に一人の稀血が必要となるのだ。

 

 このようなあからさまな欠点を持ち、兵器と扱うにはあまりにも不安定。

 

 故に彼女達は、完全を求める錬金術師から忌み嫌われ、非道の扱いを受けてきた。

 

「……っ……っ」

 

 そして今。

 そんなノーブルレッドの一人であるミラアルクは……エルザの残した稀血を大量に経口摂取……つまり飲んでいる。

 

 では一体……この行動は何なのか。

 稀血を人工透析として使うでもなく、無造作に飲み込むという行為。

 そもそも、現時点でパナケイア流体は濁り淀んでなどいない。

 

 では……一体どのような意味が有るのか。

 

「……ぅううっ……アアッ!」

 

 全ての稀血を飲み終えたミラアルクは……胸の内より溢れる力に目を見開く。

 

 ──そう。

 その行動は、彼女の身体に刻まれた化け物の力に起因する。

 

 ミラアルクの元となった化け物。

 それは……()()()

 

 しかし改造の果て、彼女は()()()()()()()()()には到底及ばず……失敗作の烙印を押されていた。

 

 だが、それは本来の吸血鬼の力の使い方ではない。

 

 彼女は血を吸収しない段階での能力を見て……失敗作と嘲られたのだ。

 

 ──もう分かるだろう。

 

 彼女の行為の……真意が!

 

『──力が欲しいか』

 

「!?」

 

 不意に、彼女の脳裏に声が響いた。

 その声は嗄れた爺の声にも、今だ幼き少女の声にも、優しい女性の声にも、厳格な男性の声にも聞こえる。

 

「あ、アンタは……い、いやあなた様は……ま、まさか……ッ!」

 

 彼女に刻まれた吸血鬼の血が疼く。

 瞬間、彼女は頭ではなく……魂で理解した。

 

 そう、この声は──!

 

『──最後の吸血鬼よ。力が欲しいのなら……くれてやる!』

 

 その拳は音を超え、『一撃絶命』の異名を世界に轟かせ。

 しかし、()を表すにはその一言では足りず……幾つもの名が生まれた。

 

 彼は宿敵である太陽を退け陽光と共に現れることから……"明けの明星"。

 

 ()()()の名を持つ先史文明期の亡霊を幾度も退けたことから……"終わりを終わらせる者"。

 

 そして。世界中に散る吸血鬼達全ての王であることから……"吸血鬼最高指導者"。

 

「……」

 

 彼こそが『始まりの吸血鬼』。

 

 そして彼こそが……ミラアルクの血の奥底に眠っていた、吸血鬼の本能!

 

 その本能が、稀血によって励起し……彼女に埒外の力を与える。

 

「……身体が……軽い」

 

 今まで体験したことが無いほどに……全身から力が溢れてくる。

 

「こんなの……初めてだ」

 

 その力は彼女を蝕んでいた『五分殺し』を打ち払い……彼女の身体を全盛期と押し上げる。

 

「……もう、何も怖くないぜ」

 

 そして彼女は。

 エルザの届けてくれた稀血が、回り回って自身の身体を治してくれた事が……とても嬉しかった。

 

「……」

 

 彼女は小さく拳を握りしめる。

 

 既にその身体は完全なる化け物と変異してしまった。

 だが不思議と……不快な気持ちはなかった。

 

 だって、復讐を決めたその時から。

 彼女はとうに……ヒトを捨てていたのだから。

 

 ミラアルクは拳を構え、向かってくるシンフォギア達を睨む。

 

「来い、シンフォギアッ! ウチが……ぶちのめしてやるッ」

 

 今、最後の吸血鬼とシンフォギアによる……最後の戦いが始まろうと──。

 

 

 

『おい……このアルカノイズはてめぇがやったって認識で……良いんだよな?』

 

「──え?」

 

 する前に。

 彼女の背後から……死神の声が聞こえてきた。

 

 即座に振り返り、その声の出所を探す。

 しかし、そんなことしなくてもすぐに見つかった。

 

 何せ、もう既に彼女と同じビルの屋上に居たのだから。

 

『やっぱり生き残ってやがったな……』

 

「え?」

 

 彼は、何処か面倒臭そうに、しかし両の手をボキボキと鳴らしながら此方に近づいてくる。

 

『良いぜ。アイツに言われた手前死なねぇようにはしてやるが……』

 

「……え?」

 

 そして、両の手を重ねてミラアルクに向けた。

 

『折角だ……禁断の技を見せてやる』

 

「え……?」

 

 今、『最後の吸血鬼』ミラアルクの……最後の戦いが始まった。

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