睡眠を終え、インドでの死闘を乗り越えたヒイロの心は癒えることはなく。
一人帰ってきたヒイロは、何をするでもなく。
悲しみを抱えたまま、もう一度寝た。
そして。
「……おーい。ヒイロー……?」
時刻が深夜にさしかかろうという時分に、何処か気まずそうな声色のプレラーティが部屋に現れた。
そんなプレラーティの問いかけには何も返ってこず、怪訝な表情を浮かべた彼女は辺りを見渡す。
すると彼女はガンツの後ろに何かを見つける。
部屋が暗くなっていたために気が付かなかったが……ヒイロがそこに横たわっているのを見つけた。
未だにヒイロとミラアルクの戦いの記憶は新しく……忍び足でヒイロの近くに近付いていく。
「……寝てるワケか?」
「起きてるが?」
「うえっ」
だが。
独り言に返事が返され、そのことに驚いた彼女は……ずざざっとヒイロから距離を取る。
「お、おう……起きていたワケか……」
「……」
気まずさを爆発させたプレラーティの言葉に、ヒイロもまた無言で立ち上がる。
無言の時が流れ、互いに視線が絡み合う。
「……」
「……」
プレラーティはまるで後ろめたいことが有るかのような目で、ヒイロは何処か気恥ずかしそうな目で、互いを見る。
そうしてしばし無言で見つめあった両者だったが……その沈黙に折れたのはプレラーティだった。
「……さっきは済まなかったワケだ」
「え?」
ヒイロは投げかけられた言葉の真意をよく汲み取れず、抜けたような声を返してしまう。
そんなヒイロの姿に拍子抜けしたプレラーティだったが、それでも言葉を続ける。
「……いや、手伝って貰ったのに色々と……アレな事言ってしまったワケだし……」
「……ああ」
基本的に謝るという行為に慣れていない彼女の言葉は何処かたどたどしく。
だがそれでも、その真意は伝わってくる。
だからだろう。ヒイロは……気恥ずかしそうに頭を掻く。
「まぁ、それに関してはちょっと……やり過ぎたなって。今思えば寝不足で頭おかしくなってた」
「……ヒイロ……」
「寝て頭冷やして……少し落ち着けたよ。こっちこそ、色々と気回してくれてありがとな」
「……」
ミラアルク半殺しにすることが"ちょっと"って認識なのか?
という引っかかりはありつつも……結果的に、ミラアルクという尊い犠牲の元……彼女とヒイロはキチンと仲直りが出来た。
故に。
「……まぁそれはそれとして……あの技は絶対私には使わないで欲しいワケだ」
「まだ言う? 俺がそんなことする奴だと思う?」
ヒイロとプレラーティは何時ものように軽口を投げ掛け合い。
「時と場合によってはやりそうなワケだ」
「は? 何だてめぇ……
「ほらな」
「~~ッ!!」
彼等は、また以前のように互いを煽り合った。
◇
さて……暫しの間罵り合ったヒイロとプレラーティだったが、落ち着いた所で情報交換を始める。
ヒイロはミラアルクとの戦闘での詳細を語り、プレラーティはミラアルクの容体についてヒイロに伝える。
それによると、どうやらミラアルクの容態は安定しているらしい。
「……そうか。まぁ死なないよう加減したし、生きてて貰わないと困る」
「……」
そんな情報交換の中溢した言葉にプレラーティは突っ込みたい思いで一杯になったが、それをおさえて言葉を続ける。
「……そうそう。実は耳寄りな最新情報が有るワケだ」
「え? 何それ」
それは、このまま手ぶらで来るのもアレかな? と思ったプレラーティが手土産に持ってきた情報である。
すなわち、ヴァネッサとの戦闘の行く末や……ノーブルレッドの背後についていた組織について。
S.O.N.G.にて行われたヴァネッサの尋問に参加していた彼女は、一連の事件の真実を知っていたのである。
故にプレラーティは得意げに語り出す。
「……訃堂がノーブルレッドを?」
「ああ。ヴァネッサがあっさりと情報を吐いてくれたワケだ」
そうして語られたのは、予想外の黒幕。
なんと! ノーブルレッドは風鳴訃堂が裏で糸を引いていたのだ!
驚愕の真実が明かされたが、伴って湧いて出た違和感をヒイロはプレラーティへと尋ねる。
「ヴァネッサってもう一人のノーブルレッドだろ? 何か仲間殺されたとか色々と訳ありっぽかったけど……随分あっさり情報吐きやがったな」
「ああ。それに関しては色々と悶着があったワケで……それはもう、感動的な話があったワケだ」
「へぇ……」
至極興味がなさそうなヒイロの声と共に、プレラーティは語り出す。
それはプレラーティが参戦する直前のこと。
身体に仕込まれた全ての弾丸を悉く防がれたヴァネッサは……自身に搭載された最後の兵器を開帳しようとしていた。
さて。
ノーブルレッド最年長であり、リーダーでもある彼女の身体について一言で言うのなら……『歩く高純度のエネルギー』だ。
彼女の身体は、首から下が
この
しかしその特性故か、出力はファウストローブやシンフォギアほどではなく、結果的に兵器としての採用を見送られた過去がある。
だが、ほんの一瞬であるが……
『常時あり続けられる』という不変を崩し、その不変エネルギーを絶大な破壊力と転化する決死の一撃。
それすなわち『自爆』。
彼女は、例え死んでも……エルザを殺した復讐を果たそうとした。
だが。
死んで全てを終わらせようとした彼女を留まらせた者が居た。
それが立花響。彼女は、例えヴァネッサにどれだけ攻撃されようとも……戦おうとせず、あくまでも話し合おうとした。
手を伸ばし続けた。
ヴァネッサが自爆する……その瞬間まで。
だからだろう、化生と成った彼女の心に……一片の疑問が生まれた。
本当に……この優しい少女がエルザを殺したのか? と。
しかしその疑問ももう遅く、次の瞬間には自爆が始まろうとして──。
「それを止めたのが私というワケだ」
「へぇ……」
最後まで語り終えたプレラーティは……ドヤ顔で自身の功績を語る。
──けれどそれを聞いていたヒイロは、それはもう興味なさげな顔で頷くだけだった。
「反応雑じゃない?」
「いや、仮にどう言う反応したら正解なんだよ」
なにせヒイロの関心は既に、ヴァネッサとの戦いの顛末なんかよりも……プレラーティが最初に言ってた話の方に移っていたのだから。
「いや、んな事よりもさ。黒幕の訃堂とか、結局誰がエルザを殺したのかが気になるんだが」
自身の活躍を一切無視したヒイロの質問に若干機嫌を悪くしたプレラーティだったが、しかしそれでも質問には答える。
「……黒幕の訃堂はそのまんま、一連の事件の裏で全ての糸を引き……ノーブルレッドに指示を出していたのが風鳴訃堂だったってワケだ」
「えぇ? じゃああのライブ襲撃も訃堂の指示ってか?」
プレラーティはこくんと頷き、静かにそうで有るとヒイロに伝える。
「……えぇ……」
……ヒイロは、何とも言えない気分になった。
想像よりもずっと全ての黒幕であった訃堂である。
一体何を思ってライブ会場の襲撃なんてしたのだろう。
最早……怒りよりも困惑の方が先に感情と表れ出る。
なので一旦、黒幕の訃堂の話は置いておく事にして……プレラーティに言葉を投げかける。
「……じゃあ、誰がエルザを殺したんだ?」
「エルザ殺しの犯人?」
そう、エルザ殺しの犯人。
どうもミラアルクへと感情移入してしまったヒイロには……そっちの方も気になっていた。
というのも、今のところの犯人筆頭が妹とそのお友達になるのだから。
「ああ……ミラアルクが言うにはS.O.N.G.が殺ったらしいが……んな訳無いよな?」
「いや、アイツらヤる時はヤる奴等なワケだが」
「え?」
立花響は置いておいて、それ以外の人員は割と敵に容赦がない。
そんな風に語るプレラーティの言葉には何処か実感が宿っている。
そうして実際に殺されかけた事もあるプレラーティは……嫌なことでも思い出したかのように顔を歪めた。
──そして。
当然そんなことを言われれば不安になるのが人間というモノ。
ヒイロは分かりやすく動揺し始める。
「……え? じゃ、じゃあマジでS.O.N.G.がエルザを殺したのか? ……き、切歌が殺ったって訳じゃないよな!?」
「!? お、おい!?」
プレラーティの肩を握りしめたヒイロは、ガクガクと彼女を揺らして答えを求める。
「おい! 止めろ! 話すから手を離せッ!」
「あ、ああ……」
「ったく……で、一応装者達全員のアリバイを調べさせて貰ったワケだが……エルザが殺害された時刻は皆アリバイがあったワケだ」
あわや妹が人殺しになる所だったヒイロは、あからさまにホッと息を吐く。
「……じゃあ、そのエルザを殺したのはまだ分からねぇって?」
だが……それでも、今だ重要な所は分からない。
そんなヒイロの問いかけに、プレラーティはフンスと息を吐いた。
「──言ったワケだ。
「……は?」
瞬間、周囲の温度が幾ばくか下がるように感じた。
プレラーティの語る言葉を幾ばくか反芻し……そして理解していくたび、ヒイロの雰囲気が変わる。
「おい……じゃあまさか……」
「そのまさかなワケだ」
「……」
ヒイロはそのやり取りで察して……思わず押し黙る。
そして、脳裏で点々としていた情報達が一気に一つの形と為していく。
「……」
──ヒイロが仕入れた企業の情報では、風鳴訃堂は政治的な問題により私兵を持たないという。
だからこそ彼は……常に自由に動かせる駒を欲していたはずだ。
そんな訃堂と、生きるために稀血が必要となるノーブルレッドは正に蜜月の関係となり得る。
そうして彼等は互いに利用しあっていた……が。
恐らく何処かのタイミングで、訃堂は彼女達を切り捨てることに決めた。
それが政治的な問題で、日本で暴れる彼女達との関連性を疑われたからなのか。
それとも……もっと別の理由による物なのかは分からない。
だが、訃堂は彼女達を切り捨てることに決め……そして、
浮かび上がってきた一連の事件の真相。
これが真実なのかはまだ分からないが……仮に本当だとしたらとんでもないことだ。
ヒイロは胸の内に込み上げる訃堂への嫌悪感を吐き捨てる。
「……訃堂ってのは随分と鬼畜だな。……本当に企業から守るべきなのか?」
ヒイロの語る言葉の意味。それは現状、S.O.N.G.が掲げる作戦目標。
つまる所、『企業』により
仮に『企業』が風鳴訃堂を討伐すれば……即座に国の要所をおさえて建国に走るだろう。
故にそれを阻止するために立てていた作戦であったのだが……。
まさか守ろうとしていた存在が、こんな事を裏でして居るとは思ってもみなかった。
「ま、私はそこまで関与してないからよく分からないワケだが……コレがお前が寝てる間に分かった最新情報なワケだ」
「……そうか。サンキュープレラーティ」
「ふっ……もっと言っても良いワケだ」
実際このことを知らなかったらヒイロはさっさと別の仕事を受けていただろう。
早期に知れたのは僥倖だ。
その感謝の言葉は軽い口調ながら、ヒイロは本気で感謝していた。
それはそれとして、ヒイロはドヤるプレラーティを放置し思考を走らせる。
「……」
すぐにヒイロはガンツの黒々とした表面に触れ……緒川と連絡を取る。
今後の事を語るためにも、ヒイロは一度緒川か弦十郎と合流しなければならない。
だが。
「……なんだ? 連絡が……」
何かガンツの反応がおかしい。
いや、具体的にはガンツの接続先に違和感を覚えた、と言った方が正しいだろう。
「どうしたワケだ?」
「……いや、何だ……これは…………」
「?」
すぐに両の手をガンツに触れ、より深く違和感の正体を探っていく。
傍目から見たら何をしているのかさっぱりなヒイロの行動に、プレラーティは首を傾げる。
そして。
「……あ…………あぁ!?」
「!? ちょ、ど、どうしたワケだ!?」
──即座に違和感の正体を探ったヒイロは……悲鳴のような驚き声を上げる。
「な、何故……何故だ!?」
「だ、だから一体何が」
「何故……
「……?」
唐突に訳の分からないことを言い出したヒイロを見て、プレラーティは困惑し続け。
そんな彼女を置いて、ヒイロの焦りは一人加速する。
「待て……おい、クソ……」
「……」
顔色を変えたヒイロは、困惑するプレラーティを放置して、顔中に汗を滲ませながら全力でブラックボールを操作する。
──そして、一つの答えに辿り着く。
「……クソ! やられたッ!」
「うおっ!?」
「……標的は『風鳴訃堂』……間違いなくもう始まろうとしている……クソッ! アイツらダミーの情報を流してたのかッ!?」
そう。その答えとは……。
「……お、おい!? なんか動いてるワケだが!?」
「……」
ガンツから、明るい歌が流れた。
『あーたーらしーいあーさがきた』
これは、現在日本に設置されてある全てのブラックボールに配信された討伐のミッション。
『こいつをたおしにいってくだちぃ』
ふどう
特徴
・つよい さいきょう ごこくのおに
好きなもの
・くに
つまる所……企業にとっての最終決戦。
どちらが勝とうが負けようが、これが『日本』という国で行われる──