GANTZ:S   作:かいな

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予定の通り

 男は一人、風鳴本邸を眺めていた。

 

『……』

 

 彼は知っている。

 今はまだ平和なその屋敷が……ほんの数分後には屠殺場と化すと言うことを。

 

 だが、それでも男は動かない。

 ジッと……何かを待つように、男は……ロボの上から世界を眺めていた。

 

 ……と。

 男が何かに気付いたように身体を震わせ、即座にロボから舞い降りる。

 彼が地上に着地した瞬間……目の前に、誰かが転送されてきた。

 

『……来たか』

 

 彼の名はヒイロ。彼は男とは違い、身軽さを追求したような装備……『ゼロスーツ』とソード、次いでZガンのみである。太腿のホルダーには申し訳程度にYガンとXガンが差さっていた。

 

 もし、ヒイロを知らぬ者が彼の装備を見たのなら……一笑に付す事だろう。

 基本武装とZガン一丁……それに産廃武器だけで何をするつもりだ? と。

 

 だが違う。

 男には……彼の纏う装備が、幾多もの戦いの後洗練されたモノであることが理解できる。

 

 一人で戦ってきたからこそ、ヒイロは全てを一人でこなす必要があった。

 常に多対一であるからこそ、ヒイロはどのような敵、状況に対応する必要があった。

 そう言った素早い対応を求められ続けたからこその身軽い武装。

 

 それを理解せず舐めて掛かれば……一笑に付す事も出来ずに殺されるだろう。

 

『……』

 

 そんなヒイロと相反する男……『岡八郎』は、装備すらも彼とは真反対。

 全身をハードスーツという究極の黒衣に包まれ、鈍重と言われるロボに乗り……それ以外の武装はZガンとソードのみという潔さ。

 

 そう、彼はヒイロとは全く違う戦い方をする。

 彼の戦術とは……ロボを利用して敵を蹂躙し、ハードスーツのスペックで敵を嬲り……Zガンを用いて面による制圧を果たす。

 言ってしまえば、その戦い方は雑と言えるだろう。

 

 だが、実際の所はそうでは無い。

 

 岡八郎という男は基本的に臆病な男だ。

 だからこそ周囲に気を配り、情報を常に探っている。

 その結果得た情報は即座にその戦術に組み込まれ、大雑把な戦い方からは考えられないような繊細な戦闘技術を持ってして……相手を追い詰める。

 

 そう。

 彼は無茶苦茶な戦い方を、真に戦術と昇華しているのだ。 

 

『……アンタが……岡八郎さんか』

 

 ──そんな彼が、戦うまでもなくロボから降りた。

 

 それに一体どのような意味が有るのか。

 

『……』

 

 それはきっと彼にしか分からない。

 だが。

 

 彼が常に、自分の欲望のために戦ってきたと言うことは……確かだった。

 

 

「おわああっ!?」

 

 和井は情けない声を上げ、腰を抜かしたように尻餅をつく。

 ──直後、彼の頭上に何か異様な衝撃波が通った。

 

「ああああ!?」

 

「おげッ」

 

「ブッ」

 

 ババッ、という破壊音が彼の背後で巻き起こり……幾人もの断末魔が鳴り響く。

 

「うひぃ!? なんやあのじいちゃん!?」

 

 和井のビックリしたような声が響く中……幾人もの黒スーツ達は果敢に訃堂へと飛びかかる。

 だが。

 

「──果敢無き哉」

 

 意に介した様子もなく。

 訃堂はまるで、自分より後ろには行かさぬとばかりに徹底的な殺戮を繰り返す。

 

 だがそれでも途絶えない黒スーツ達の勢いに……訃堂は堪忍袋の緒が切れたとでも言うように、空気が震えるほどの怒声を投げかける。

 

「……同じ手しか取れぬ猿めが……その様な稚拙な戦法で、儂の首を取れると思うてくれるなッ!」

 

 ──その怒号の効果は抜群で、黒スーツ達の勢いが瞬時に止まる。

 

 しかし。

 

『──』

 

 それでも止まらぬ()も居た。

 ソレは人間の限界を超えた速度で風鳴本邸の外から現れた。

 

「ぬっ?」

 

「な、なんやぁ!?」

 

 そして。

 その場に居た皆が……その登場に目の色を変えた。

 

 ソレは、米軍の最新最高テクノロジーをもって開発した軍事ロボット……その人型プロトタイプ。

 "人間のような機械"と呼ばれる彼の名は……"トダー"。

 

「……絡繰りかッ!」

 

 今までとは毛色の違う敵の登場に軽く驚嘆した訃堂は、それでも反射的に刀を振るう。

 その刀の速度は音を超え……剣圧となって宙に浮くトダーへと襲いかかる。

 

「むっ」

 

 だが、トダーは放たれた剣圧を身を捻ることで避け──そのまま、不意を打つように足を伸ばす。

 

「な、なんやアイツ……強い!」

 

『キュウエンニキタ』

 

「え!? 喋るの!?」

 

 その痛烈な登場と攻撃に、黒スーツ達は皆目を輝かせる。

 

 当然である。

 彼には……戦うための各種機能が取りそろえられてある。

 

 彼の手足は全長の三倍まで伸ばすことが可能!

 ……また、彼の蹴りの破壊力は3トンを超える。

 更に彼の持つ絶大なるバランス能力により、空中であろうとも凄まじい威力の蹴りを対象に確実に当てることが可能となるッ!

 

「……」

 

 仮にいかなる軍隊を連れてこようと……トダーは数分と掛からず殲滅する。

 

 そのトダーの渾身の蹴りが……無防備な訃堂の顔面へと迫る。

 

 しかし。

 

「ふんっ、温いわッ!」

 

『──!?」

 

 訃堂はトダーの3トンの蹴りを……裏拳で足事吹き飛ばし──。

 

「はあっ!」

 

 最早逃げることすら敵わぬ密度の剣圧と圧倒的な速度で、トダーの身体をバラバラに吹き飛ばした。

 

「……」

 

 そのあまりの一幕に、黒スーツ達は声を失っていた。

 何故なら、彼等は訃堂の最後の一振りを目で追うことすら敵わなかったのだ。

 

 いまだにそこの見えぬ訃堂の力。

 幾度もの戦いを乗り越えてきた猛者達も……その戦意を確かに失いつつあった。

 

 それは当然、その場に居る彼も。

 

「……」

 

 大阪部屋のリーダー、和井・ナンディーノJr.もまた……戦う意思を失いかけていた。

 

(……む、無理や……ワ、ワイじゃこのじいちゃんに勝てへん……に、逃げな……)

 

 それは死の恐怖故か……はたまた絶対的な存在に相対してしまったが故か。

 彼の心は完全に折れていた。

 

 ずざざっと情けなく身体を動かし、どうにか訃堂から距離を取ろうとする。

 

 ……だが。

 

(そ、そうや……逃げて……逃げて……逃げ……)

 

 『逃げる』、という言葉に彼は……後ずさるような動きを止める。

 

(……逃げて……ワイが逃げて……そしたらどうなる)

 

 それは彼のリーダーとしての矜持故か。

 それとも……別の理由があってか。

 

 どちらにせよ、彼の心にはまた闘志が戻りつつあった。

 

(……でもどうすれば。ワイが戦った所で、結局あのじいちゃんには──)

 

 だが、いくら闘志があろうと……その実力差は埋められるモノではない。

 そのどうしようもない現実に、またも心が折れそうになる。

 しかし。

 

(諦めないで!)

 

(!? こ、この声は……!?)

 

 ──彼の心に、少女の声が流れる。

 

(キュアブラック!? で、でも……あのじいちゃんクソ強いんや……到底勝てるわけが……)

 

(そんなのワイ君が考える事じゃないよ! ワイ君! 君の使命はなに!?)

 

 それは、彼の好きなアニメの主人公。

 彼女が……いや、彼女の姿を借りた彼の本心が、和井に発破をかける。

 

(……ワイの……使命…………そんなの、チノちゃん助けたいだけや)

 

(分かってるじゃん! ならここで逃げてどうなるの!? ここでワイ君が逃げたら……次に戦うのはチノちゃんだよ!?)

 

(……)

 

(あれ以上"あの力"を使っちゃったら……チノちゃん本当に死んじゃうかも知れないんだよ!?)

 

 和井の本心。

 それは何処までも彼に対して冷酷に、何処まで真摯に言葉を連ねる。

 

(私達には……例え無理だと分かっていても、やらなければいけないときがある! そうでしょ!?)

 

(……ワイは……ワイは……!)

 

 だからこそ、彼は立ち上がる。

 

「……ほう。存外のこと……腰抜けばかりではなかったか」

 

 先程の一幕からその威勢をなくした黒スーツ達を見ていた訃堂は、その中で唯一立ち上がった和井を見て……意外とばかりに言葉を溢す。

 それを受け取った和井は嬉しくないとばかりにうげっとした表情を浮かべ……即座に顔を引き締める。

 

 そして。

 

「ふんっ! ワイだけやない……お前等ッ! 何しょげてんねん!」

 

 戦意を失った黒スーツ達へと発破をかける。

 

「お前等なぁ! 最近のミッションしたことあるなら分かるやろッ! このじいちゃん殺さな家帰れへんって!」

 

「……」

 

「ならなぁ! もっと必死になれやッ! ワイはやるッ! やったるッ! 絶対に……家に帰るッ!」

 

 ──それは和井の必死さに感化されたのか、それとも自身に課せられたミッションを思い出したのか。

 彼に煽られた黒スーツ達は……いまだに深い絶望に有りつつも、武器をそれぞれ構える。

 

「……そうだ。俺も家に帰りたい」

 

「……やる……俺はやる!」

 

「そや……! ワイは死なん! 生きて……生きてあの子と……!」

 

 きっと彼等にも……死んでいった者達にも。帰りを待つ者やすべきことが有ったのだろう。

 

「……」

 

 そんな光景を訃堂は……何処か見飽きたように眺めていた。

 

 ──そう、彼は見飽きている。

 何せもう二十回以上見せられていたのだから。

 

「果敢無き哉」

 

 だからこそ、そんな彼等を馬鹿者と切って捨てることに……何の躊躇もためらいもない。

 

 数分後。

 

「……え?」

 

「……なんやねん……コレ……」

 

「……うそ……」

 

 神殺し達が訃堂の元に辿り着いた時には。

 

「ふん……まだおったか……国賊……どもめが」

 

 そこに立っている人間はもう……風鳴訃堂のみとなっていた。

 

 

 男達は二人、静かな広場にて佇む。

 

 幾ばくか睨み合いになったが、最初に動いたのは岡八郎だった。

 彼はハードスーツの頭部に触れ、何か操作した。

 

「──キミがヒイロか」

 

『! 俺の名前……知ってるのか』

 

 直後、岡の肉声らしきものがハードスーツから発せられる。

 老練の落ち着きが感じられるが……同時にナイフのような鋭さを持ち合わせた声。

 

 ヒイロは自然、意図の見えない岡の発言に身体を強ばらせる。

 

「当然やろ。キミ、割と有名人やで」

 

『……』

 

「せやな。少し……世間話しよか」

 

 そして、岡はヒイロと戦うでも何をするでもなく。

 何故か世間話をしようと語りかけてくる。

 

『……何が目的だ』

 

 当然岡の意図が掴めないヒイロは……即座に彼へと尋ねてみる。

 意外なことに、岡は特に隠すことなく口を開いた。

 

「そんなん、キミの足止めや」

 

『……は?』

 

 彼から飛び出てきた言葉に、ヒイロの思考に空白が生まれる。

 

「君は俺の足止めをしたかったようやが……奇遇なことに、俺も君を足止めしたかッた」

 

『……何言ッてんだ……アンタ……』

 

「ああ、あと言うとくが……転送しても無駄やで」

 

『……』

 

 その、まるで未来でも予知するかの様な物言いは……何処か()を思い出させる。

 ……いや、事実岡は彼と同じ領域に居るのだが。

 

 『企業』から盗んだ情報に書かれていたことを思い出し、ヒイロは仮面の奥でやりづらいとばかりに顔を歪める。

 そしてヒイロは無言のまま痛感し、再確認する。

 

『……』

 

 自分と岡。

 十九回クリア者と二十回クリア者の間には……やはり大きな格差が存在していると言うことを。

 

「俺はな……強い奴と戦いたい」

 

『……』

 

「だから……今キミに()()()()()()()()困るんや」

 

 それは実力以上に厄介な差で……実力以上に簡単に埋められる差でもある。

 

『……』

 

 ヒイロは無言のままガンツを駆動させ──。

 

「──一応言うとくけど、二十回クリアはオススメせぇへんで。セバスが言うとったの忘れたんか?」

 

『……』

 

 それを……岡に止められる。

 それも、ヒイロとセバスとの間で行われていた会話すら読み取るという形で。

 

「……ま。ぼちぼち行こうや」

 

『……』

 

 その岡の行動は、何処までも予定調和のように思える。

 ──いや、違う。

 

 事実として……ここまでの流れは彼にとって予定調和でしかないのだ。

 

 ヒイロはようやく理解した。

 マップ上でのあの不可解な行動も、どれもこれも全て。

 

 自分をここに呼び込むための──。

 

「せや。言うたろ? キミに向こう行かれるんは困るって」

 

「……何が」

 

「言うたやろ? 強い奴と戦いたいって」

 

「……」

 

「言うた筈やで……転送しても意味ないってな」

 

「……」

 

 どのような行動も思考も先読みされ……仮に自身から仕掛けたとして、すぐに鎮圧されてしまうとヒイロは肌で理解する。

 

 故にこそヒイロは動けない。

 

 故にこそ……。

 

「言うたやろ。ぼちぼち行こうや。ぼちぼち……な」

 

 岡は自身の元を離れない。

 

『……』

 

 ヒイロはガンツを駆動させ……現在GANTZの前で待機しているプレラーティへと連絡を送った。

 

 予定通り、と。

 

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