GANTZ:S   作:かいな

72 / 103
奇跡の力

 彼女が始めて覚えた言葉は……母親の嘆くような『どうして』だった。

 

 先天性の全身麻痺。

 当時、自身の真上で何度も飛び交ったその言葉の意味を彼女は理解できなかったが……その言葉が"良くないモノ"である事はなんとなく理解していた。

 

 彼女が本当の意味でソレを理解する様になったのは……時が流れ、彼女が外に出られるようになった頃からだった。

 

 そう。

 幾つもの初めてを知ったその日の事を彼女は忘れない。

 

 ある日の……よく晴れた日。

 病院を移動するときに使われていた何かに乗ったまま、彼女は何処かに連れて行かれた。

 

 思えば、それはきっと退院の日だったのだろう。

 

 生まれてから言葉を習うまでの間を病院のベッドで過ごしてきた彼女にとって、外の世界というのは全てが刺激的だった。

 

 窓の中からしか見れなかった……青い空も。

 白い服じゃない、色々な種類の服を着ている人達も。

 常に鳴り響く何かの音楽も。

 

 どれもコレもが魅力的で、そんな世界に彼女が魅了されるたび、違和感を覚える様になった。

 

 自分は何時も何かに乗せられているのに……他の人達は皆そんなモノに乗ってなんかいない。

 

 何故? どうして? 

 彼女がそう母親に問いかけても……母親は泣き崩れるばかり。

 

 彼女は最初、何故泣いているのか分からなくて困惑して……けれど、凄く悲しい気持ちが湧き上がった。

 そんな初めて味わう不思議な気持ちを感じながら、彼女は何処かの店に連れてかれる。

 

 彼女が初めて訪れた病院以外の建物は、家だった。

 

 ◇

 

「……和井……さん……」

 

 ()()は、呆然と目の前の光景を見て呟く。

 幾多もの死体が積み上げられたその中に……彼女のよく知る、片腕を失った最愛の人の姿があった。

 

「……」

 

 また、そこに知り合いの姿はなくとも……ここまでの死体の山を見せつけられた『神殺し』達は、その異様さに絶句する。

 幾多もの地獄を乗り越えた彼等であるが、流石にここまでの数の人の死体を見たのは初めてであった。

 

「……果敢無き哉……この中に知り合いでもおったか……国賊……共が」

 

 そして。

 死体の山の前にて無傷のまま立つ彼こそ、護国の鬼たる風鳴訃堂。

 

 その威風堂々たる姿は正に護国の鬼。

 既に齢100を遙かに超えてなお……その心に一遍の陰り無し。

 

 ──だが。

 

「……」

 

 彼の身体は、連日の戦いと護国のためと奔走し続けた事により……流石に限界を迎えようとしていた。

 

 この状況。

 まさに『企業』の戦略通りである。

 

 連日の夜襲に加え、日夜を問わずに偽の米国からの攻撃情報を流し続け……しかしその中に幾ばくか真実の情報を交え実際に襲撃を行う事により、訃堂の警戒態勢を一切解かせなかった。

 

 そして、最後の仕上げとばかりに残存する雑兵達を一斉にぶつけ。

 疲弊しきった所に……切り札(神殺し)をぶつける。

 

 色々あったせいで予定通りとは行かなかったが、それでも戦略通りに物事は進んでいた。

 

「……許さない……」

 

「……む?」

 

 それは……彼女の覚醒すらも。

 

「私の……ああッ……」

 

「……ん? あれ? え?」

 

 ()()は、普段の落ち着いた雰囲気からは考えられない怒りの籠もった言葉を発する。

 

「絶対に……許すもんかよ……このクソ爺ッ!」

 

「……あ、あの……? 貴方すこし浮いてませんこと?」

 

 和井から『チノちゃん』と呼ばれていた青髪の彼女は、幼く見える可愛い顔を怒りと歪めながら……何か見えない力を世界に溢し始める。

 すぐ隣であまりの惨状に圧倒されていた『お嬢様』はしかし、同じ神殺しの少女の異様な雰囲気に心配したように語りかける。

 

「ほう……神通力を用いるか。貴様のような餓鬼がここまでの出力を行使するとは……」

 

「殺す……殺すッ!」

 

 訃堂が何かを語るたび、彼女の周囲に亀裂が走り続ける。

 大地が割れ、世界が軋むような音が鳴り響く。

 

「……」

 

 訃堂はその長い人生の中で、幾度か相まみえたことのある超能力者使い達を思い浮かべる。

 だが、彼女の()()はそのどれよりも強大で強固。

 この天変地異の前触れのような現象は、それこそ彼女の力の予兆でしかないのだ。

 

 その出力は既に人間が一生のうちに生み出すエネルギー量を遙かに超えており……その異常さは、訃堂をしてこう表現せざるを得なかった。

 

「……奇跡か」

 

 彼女は、訃堂の言葉にピクリと反応する。

 

「……奇跡だと……?」

 

 思わずこぼれで他と言わんばかりのその言葉には、彼女の万感の思いが詰められていた。

 

 怒り。悲しみ。苦しみ。嫌悪。

 人間の持つありとあらゆる悪感情を含んだ言葉は、当の本人ですら驚愕した。

 

 自分が、これほど人を嫌悪することが出来るという事に。

 

「……奇跡なモノか、この力がっ!」

 

「……」

 

「私にあらゆる未来を与えた……この力をッ!」

 

 両の手を前に差し出し──天変地異の力を訃堂へと差し向ける。

 

「奇跡などとッ! 呼ばせてたまるかぁぁぁッ!」

 

「──」

 

 直後。

『神殺し』と訃堂の戦いが勃発する。

 

 ◇

 

 奇跡。

 私はその言葉が嫌いだ。

 

 何が……生まれてきてくれたことが素晴らしい奇跡だから、それに見合うよう必死に生きろ……だッ! 

 もし私が生まれてきたことが奇跡ならッ! 

 

 どうして……私の父と母は自殺したッ。どうして私を産んだことを後悔しながら死んでいったッ! 

 奇跡があるのなら……どうして、ほんの少しでも早く、『あの人』と出会えなかったッ。

 

『あの人』がくれたこの力で、全身を動かして見せたときもそうだ。

 

『そんなことが……奇跡だ』

 

『凄い……! お父さんとお母さんが貴方に奇跡を与えてくれたのよ!』

 

 医者も、会う人来る人誰も彼も皆ッ、奇跡奇跡奇跡奇跡奇跡ッ! 

 

「アアアアアアアッ!!」

 

 目の前でクソ爺の首をへし折ろうとしているこの力は、奇跡なんてモノじゃない。

 

 あくまでも人の身体の一器官がもたらす作用でしかないッ。

 使えば使うほど内臓を酷使して壊死させていく一過性の力でしかないッ。

 

 ギュッと力を込め、目の前のクソ爺の首をへし折りに掛か。

 直後その代償とばかりに鼻血が吹き出るが、そんなこと気にせずに力を込め続ける。

 

 しかし。

 

「はあああっ!」

 

「──!? 気合いだけでッ!?」

 

 力を跳ね返され……瞬間的に無防備になる。

 

「ハアッ!」

 

 そして、その隙を穿つような鋭い突きが私へと迫り──。

 

「おいおい強い相手には連携でしょうが!」

 

「ちょっ!? あ、あの! 連携を取りませんこと!?」

 

 その突きを、同じ顔をした男達と……黒髪ロングの女が止めた。

 その光景に一瞬目を丸くし……その衝撃で衝動的な怒りが収まっていく。

 

 ……ああ、確かに。

 

「うるさいですね…………分かりましたよ」

 

 このままじゃ、このクソ爺を殺せないですもんね。

 冷静になった頭で、冷静にクソ爺を観察し、冷静に力を込めて縊り殺す。

 

 今度は……クソ爺の脳の血管。

 内臓がひしゃげるような痛みが走り──直後に力が現象となって現れる。

 

 ──しかし。

 

「くっ……こしゃくなァッ!」

 

「な…なにっ!? まるで抑えが効かない」

 

 今度も、その力を察知されたように……クソ爺にかけていた力がするりと逃げる。

 

「──ああ、そう言う」

 

 だが、冷静になった私の頭は……瞬時に理解した。

 

 このクソ爺もまた……私と同じ種類の力を持っていると。

 

「小娘がッ! 神通力に通ずるわ自身のみと思うなッ! 出力ばかりにかまけて手先が疎かになっておるわッ!」

 

「……」

 

 私よりも出力そのものは小さいけれど……でも、その小さな力で私の力に対応する。

 一体どう言う理屈か。

 

 目の前で、最優先目標だと言わんばかりにクソ爺が此方に迫るが……それでも冷静に思考を走らせる。

 そして。

 

「──!?」

 

 今度はクソ爺本体ではなく……クソ爺の踏み込んだ地面の方を抉らせる。

 それでも即座に対応して体勢を立て直してくる辺り、正に脅威と癒える。

 

「──貰ったッ!」

 

 けれど、黒髪女の隙を穿つ一撃が……一瞬の隙をさらしたクソ爺の脇腹へと突き刺さる。

 

「ぐっ!?」

 

 直後……同じ顔をした男達もまたそれに続く。

 

「しゃあっ! 灘神影流『五分殺し』ッ」

 

「しゃあっ! コブラ・ソードッ!」

 

「しゃあ! しゃあ! しゅわー!」

 

「しゃあっ! 灘神影流『鼓爆破心掌』ッ!」

 

「しゃあっ! 灘神影流『輪転血掌』ッ」

 

「ぐうううっ!?」

 

 同じ顔、同じ声で同じ様なことを言っているため声が反射して聞こえる。

 

「……うるさいですね」

 

 非常にうるさいし聞いてて訳が分からなくなってくる。

 

 ……けど、非常に有効だ。

 あのクソ爺の動きはとても俊敏で捉えがたいモノだけれど……三百六十度全てから放たれた技には流石に対応し切れていない。

 

 ──そして。

 

「……」

 

 その攻撃の全てがクソ爺にとって致命的な一撃となっている。

『あの人』から貰った力は……私の目に透視能力をももたらしてくれた。

 

 だから、私の目には見える。あのクソ爺の体内の様子が。

 

「ぐっおおおっ!?」

 

 内臓の動きが変調し、鼓膜を破る一撃の衝撃で心臓にすら負担をかけ、どう言う理屈か血管内に幾つも血の結晶が生まれている。

 更には衝撃によって血流が促進した結果、上記全ての効果が()()()現れている。

 

 ……本当にどう言う理屈? 

 

「っ、あああああッ!!」

 

「っ!? まだ動けるんか!?」

 

 そんな攻撃を全身に食らったというのに……それでもクソ爺は、身体中から血を垂れ流しながらも雄叫びを上げる。

 

 けど。

 

「──うるさいですね」

 

「むぐ──!?」

 

 全身を雁字搦めにするように、超能力でクソ爺の身体を拘束する。

 即座にクソ爺も力で対抗してくるも……それは既に対策済みである。

 

「ふぅ……こんなモノですかね。……クソ爺の言う()()()()使()()()って言うのは」

 

「ぐっ! き、貴様ッ」

 

「あれ、まだ喋れたんですね。もっと苦しんで貰えるように頑張らないと」

 

 何処までも見下したように、意趣返しの様に……クソ爺に言葉を投げかける。

 次いで力の出力を高めながらも、このクソ爺の力を受け流すのも忘れない。

 

 あの時、クソ爺の使った技術を私なりに応用して使ってみたけれど……確かに対超能力者には良いのかも知れない。

 

 ──この技術について端的に言うのであれば……受け流しだ。

 基本的に超能力者の力というのは直線的なモノ。これを真正面から受ける場合、その力と同程度の力で対抗する必要があるけれど……受け流すのであれば話は別だ。

 

 真っ直ぐで強大な力であろうと、その矛先を受け流されては意味が無い。

 さっき、私の力から抜け出したのはコレの応用。全身に掛かる力の力点をほんの少しの力でずらしたのだ。

 

「……さっきから思ってたんですけど……それ何ですの?」

 

「うるさいですね……私がおさえている間にさっさとトドメを刺してください」

 

「ミッション達成に点数を譲るという冷静な判断には好感が持てる」

 

「うるさいですねッッッ! 早くヤれッ!」

 

 正直このクソ爺をおさえるのは長く持たない。

 

「……」

 

 流れ続ける鼻血に次いで痛みと共に目が紅く滲み涙のように液体が溢れ始める。

 ……流石に血涙をするのは初めてだ。

 それに、喉の奥から血が迫りだして、今にも溢れそう。

 

 ……既に内臓が限界に近い。こんなに力を全力で行使したのは……初めてだ。

 

 それにいくら小手先の使い方を知ったとは言え、悔しいけど一日の長は向こうにある。

 

「……分かりましたわ。では遠慮無く──」

 

 私の必死さが伝わったのか、黒髪女がソードを構え、周囲で同じ顔の男達が囲むようにXガンやXショットガンを構える。

 

「……」

 

 ほんの即興の連携とは言え、一緒に戦った中。

 彼等の気持ちが手に取るように分かった。

 

 ──このクソ爺は危険だ、と。

 

 初見の能力でハメた後、どうにかこうにか出力と駒の力でごり押し下に過ぎない。

 この中に居る誰か一人でも欠けていたら……勝つことなど出来なかった。

 

 だから念には念を入れて、このクソ爺は確実に──。

 

「──待ってくださいッ!」

 

「……あ?」

 

 トドメを刺す。

 

 その瞬間……謎のコスプレイヤー集団が現れた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。