GANTZ:S   作:かいな

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確かな現実

 重苦しい雰囲気漂う司令室にて、弦十郎は装者達に作戦概要を伝える。

 

「協力者である"彼"の情報通り……既に風鳴宗家への戦闘は始まってしまっている」

 

「……」

 

 ヒイロからの情報を得たS.O.N.G.は即座に風鳴本邸の周りに調査員を派遣し、調査を行っていた。

 しかし時既に遅く……既に戦闘は始まってしまっており、到底調査員が割り込めるような状況ではなかった。

 

「故に、俺達は風鳴宗家での戦闘を鎮圧し……風鳴訃堂を保護した後、逮捕せねばならない」

 

「……やっぱ、そうなるのかよ」

 

「……ああ」

 

 弦十郎が語るS.O.N.G.の目的にたいして、雪音クリスは嫌悪感を隠せない様子でぼやく。

 だが、それも仕方の無いことだ。

 

 S.O.N.G.とはあくまでも国連所属の組織であり……その行動の殆どは規定に則ったモノとなる。

 彼等は、何処までも国家に協力するという形でしか活動できない。

 

「……」

 

 そのことを彼女達は理解している。

 理解しているが……何処までも後手に回される事、多くの人を殺した存在を命をかけて助けねばならない現状に……表情を歪める。

 

 ──しかし。

 

「……了承しました。司令」

 

「!? 先輩、あんた……!」

 

 最も風鳴訃堂の活動による被害を被っていた風鳴翼が、いの一番に作戦を了承した。

 

 そのことに、思わずクリスは驚愕の声を上げた。

 他の装者達もクリスと同じ思いだった。

 

 何せ、翼は外道の存在を著しく嫌う人だから。

 例え任務とは言え……その様な相手も守ることに了承するとは考えづらかった。

 

 だが、翼はそんな視線を受けようとも、何処までも真剣な表情を浮かべ……自身の思いを吐露する。

 

「……親族だから守りたいと言うわけではない。……いや、むしろ家族だからこそ……キチンと牢の中で罪を償って貰わねば困る」

 

「……先輩」

 

 それは、身内の恥を自身の手によって片付けたいという防人としての彼女の思い。

 

「……俺としても、風鳴家の問題を君達に任せてしまうこと、申し訳ないと思っている」

 

「……」

 

「──だが、頼む。この通りだ」

 

「ちょっ、おっさん!?」

 

 それは弦十郎としても同じだった。

 風鳴訃堂がアルカノイズを所有している情報があるが故に、シンフォギア装者達に任せざるを得ないという現状。

 ──その他()()()()()()()()により、司令室で命令を下すことしか出来ないと言うこと。

 

 不甲斐ない思い、虚しい気持ちが溢れてくるが……今弦十郎にできることは、こうして頭を深く下げることばかり。

 

 だが、その真摯な態度は装者達に伝わっていく。

 故に。

 

「……ったくしょうがねぇな。分かったから頭を上げてくれよ、オッサン」

 

「そうですよッ! だから顔を上げてください! 私達が……その戦いを止めて見せますッ!」

 

「デスデス!」

 

 彼女達は皆、口々にそう言った。

 

「……すまん皆……頼んだ。此方も司令として……いや、()()()()の最善を尽す」

 

 彼女達のその優しさに一瞬涙ぐみそうになった弦十郎だったが……即座に司令として表情を引き締め、彼女達に指示を出す。

 

「──では、これより作戦を開始するッ!」

 

 そして、弦十郎の掛け声と共に彼女達は作戦行動に移っていった。

 

 

 ヘリを用いて可能な限り迅速に現着したS.O.N.G.の装者達は……家の外からも見える死体の山を見て顔を青くする。

 

 この先に一体どのような地獄が広がっているのかなどと、考えるまでもない。

 だが気分が悪いだなんて言ってられない。

 

 今は……彼女達の責務を果たさなければならないのだから。

 

『──皆、聞こえているか? その道を真っ直ぐ行った所が本邸となっているが……その途中で、何人か黒スーツの男達が居る』

 

「!」

 

 彼女達は風鳴本邸へと走っていく道すがら、司令室より伝令が走る。

 

『場合によっては戦闘を許可するが……可能な限り交渉によって道を切り開いてくれ』

 

「……分かりましたッ!」

 

 そして、その指示通りに……本邸の門の近くで、彼女達は黒スーツの集団と相対した。

 

「……」

 

 瞬間、両者の間に流れたのは沈黙だったが……黒スーツの中でも高校生くらいの青年が、不思議そうな顔で装者達を見て呟いた。

 

「……なんだこのコスプレイヤー達……」

 

「多分星人じゃないっぽいけど……というか風鳴翼に似てる奴居ない?」

 

 ──その反応を見て、一瞬訝しんだ装者達だったが……ヒイロから聞いていた情報を思い出す。

 

『ブラックボールにはミッション中、ミッションによる戦闘を隠蔽する機能が幾つかあってな』

 

『その機能はデフォルト設定じゃ使えないから……今の『企業』連中のミッションは丸見え状態の筈だ』

 

『……で。部屋の住人の中には、自分の姿がミッション外の人間から見られてないと思って……こう、()()()()()してる奴が居るかも知れない』

 

『もし作戦中に黒スーツを着た奴がやべぇ行動してたら、まぁそう言う事だと思ってくれ』

 

 それは確か、装者達への警告として教えていた情報である。

 ヒイロの危惧した状況とは違えど、装者達は即座に彼等の反応の理由を理解できた。

 

 要は、自分達の姿が見えているとは思っていないのだ。

 

「……あの、そこを退いて貰って良いですか」

 

「……」

 

 故に。

 装者達を代表するように、シンフォギアを纏った立花響が……その青年の目を見て声をかける。

 

「え? 俺? ……え? あの、というか……俺達の姿見えてる?」

 

「……はい」

 

「えぇ?」

 

 『神殺し』と訃堂の戦いに巻き込まれぬよう離れていた香川部屋の青年は、立花響の返事に困惑したように声を漏らす。

 

「なぁ皆、なんか俺達の姿見えてるらしいぞ?」

 

「マジかよ。住人……でもなさそうだよな」

 

「つかそれよりもさ、めっちゃ風鳴翼に似てる人居ない?」

 

 そして彼だけではない。

 香川部屋の住人と、他にも大阪部屋の住人達。次いで何かの機械。

 

 彼等は皆、『神殺し』と訃堂の超次元の戦いについて行け無いと察し……せめて邪魔だけはしないでおこうと遠くに居た者達である。

 

「──退いて貰っても良いですか? 私達は……そこで戦っているお爺さんに用があるんです」

 

「……」

 

 そんな彼等だったが……自分達が戦闘では役に立たないと理解していたからこそ。

 

 邪魔になる可能性は可能な限り排除すると心に決めていた者達でもある。

 

「もしかしてさ、キミ……『お嬢様』達の戦いの邪魔しようとしてる?」

 

「……」

 

 装者達は、目の前に居る男達の雰囲気が変わったことを理解する。

 

「答えないか。……まぁどっちにせよ、戦いが終わるまでここで足止めさせて貰おうかな」

 

「……」

 

 ゆらりとホルダーから刀を抜き放った青年の目からは、確かに殺意を感じない。

 だからと言って、彼等の目は真剣そのもの。

 

 そして。

 

「おーい! 大阪部屋の人達と…………機械? ……も手伝ってくれよ」

 

「……」

 

 彼等のその目から、手加減する気は微塵も無いと分かった。

 

 だからこそ。

 

「行くよ切ちゃん!」

 

「デデデース!」

 

「うおっ!? なんだこのノコギリと鎌ッ!?」

 

 不意を突くように飛び出た二人が、即興の足止めを買って出る。

 

「私達が足止めするからッ!」

 

「皆さんは先に進むデース!」

 

「ッ──お前等避けろ!」

 

 鎌による足狩りと、丸鋸による面の制圧力。

 その二つのコンビネーションは悪魔的で──即座に刀を抜き放った香川部屋の男達の行動を釘付けにする。

 

「ごめん! 先に行くねッ!」

 

「え、ちょっ、お前等ッ!? 本気で危ねーから戻ってこいって!」

 

 その空隙を狙うように……二人以外の装者達は先へと進む。

 

「……」

 

 進んでいく中……辺りに舞う死臭がより強く、より強固になっていく。

 

「……おい、マジでそのじいさんは生きてるんだろうな?」

 

「……生きておられるはずだ。たとえ殺しても死なぬような方だ」

 

「……マジかよ」

 

 殺しても死なないってどんだけだよ。

 彼女達は顔をしかめながら……表情を苦しげに歪めながら。

 それでも、風鳴本邸へと足を踏み入れる。

 

 ──そして。

 

 彼女達はそこで……風鳴訃堂が処刑されようとしている瞬間に遭遇した。

 

「──待ってくださいッ!」

 

「……あ?」

 

 そこに居たのは、青髪の少女と、黒髪ロングの大和撫子。そして……皆同じような、生気の無いマネキンのような顔をした男達だった。

 

「……」

 

「……」

 

 一瞬、彼等彼女達は未知との遭遇をしたとばかりに固まる。

 そして。

 

「う…うわあああ! コスプレイヤーがミッションの敷地内を練り歩いてる!?」

 

 生気の無いマネキン男の一人が、その生気の無い表情のまま……驚いたようなポーズを取る。

 

「……だ、誰ですの……?」

 

「……」

 

 二人の女性も何処か奇妙なモノでも見るように装者達を見つめ、しかしすぐに訃堂へと視線を戻し、銃を向ける。

 

「まぁ良いですわ。どうせ一般徘徊コスプレイヤーですわ。それよりもさっさとこの方を殺──」

 

「ま、待ってください! その人を殺すのは……」

 

「……ん? あれ? もしかして私達の姿見えてる?」

 

 しかし。

 装者達の発言に……ようやく彼等はキチンと彼女達を見る。

 

「えっ」

 

「なにっ」

 

「な、なんだあっ」

 

「うわああああ俺達の姿見えとる!?」

 

 同じ顔をした男達は皆感情を窺えない表情のまま、揃ってビックリしたような態度を取る。

 そして……彼等は皆揃って手を後ろに回していく。

 

「あ、あの……」

 

 先程と全く同じやり取りに少し面倒臭いと思った彼女達だったが、すぐに気を取り直して語りかける。

 

「……見えてますから……その人の身柄を」

 

 しかし。

 

「──うるさいですね」

 

「……」

 

 青髪の少女が……立花響の言葉を切って捨てる。

 

 そして……ギョーン、という取り返しが付かない音が鳴り響く。

 

「……え?」

 

 装者達はこの音がなんなのか知っている。

 これは、ブラックボールの武器が使われた時の音だ。

 

「コイツは私の大切な人を殺した。なら……こっちも殺さなきゃ気が済みません」

 

「ちょっ、待っ──!?」

 

 彼女達は動こうとして……気付く。

 

 四肢の動きが封じられていた事に。

 

「……貴方達が何かなんて知りませんが……お引き取り願います」

 

 ギョーン、ギョーン、ギョーンという音は途切れることなく鳴り続け……動けぬ装者達の眼前にて……Xガンは容赦なく訃堂に打ち込まれた。

 

「……」

 

 彼女達は息を呑む。作戦の失敗と……直後起こる惨劇を予想して。

 

 ──だが。

 

「……あれ? どうして爆発しないんですの?」

 

 何故か訃堂の身体はビクビクと痙攣するだけで、いつまで経っても破裂することはなく。

 

「! ま、まさかXガンの衝撃を筋肉で受け流してる!?」

 

「え!? そ、そんなことが人類に可能ですの!? じゃあYガンで……!」

 

 その筋肉の流動を見た『マネモブ』が訃堂が何をしているのかを悟り、『お嬢様』がすぐにYガンを構える。

 

 だが。

 

「ごぶっ……!?」

 

「……え?」

 

 ──何故か、青髪の少女が……全身から異様な量の血を吹き出した。

 

「──『呪詛返し』よ。まだまだ修練が足らんな。若き神通力使いよ」

 

「っ、嘘──」

 

 青髪の少女による拘束が解けた訃堂はゆらりと立ち上がり……足を地面に叩きつけた。

 

「はあアッ!」

 

「不味ッ──」

 

 その衝撃は地中ではなく空を伝い、どう言う理屈か訃堂以外の生きた存在全てを痺れさせる。

 

「ぐっ……!?」

 

 その攻撃はその場に居る誰も彼もに等しく降り注ぎ……装者達も『神殺し』達も皆、動きを封じられる。

 だが訃堂は油断なく宝刀・群蜘蛛を構え……眼前で血を吐く青髪の少女へと突きを繰り出す。

 

「──果敢無き哉」

 

 そして──。

 

 

 私が『あの人』と初めて出会ったのは……緊急治療室の中だったと思う。

 正直な所、最初は夢だと思っていたし……今でもずっと、夢だと思っている。

 

『……君、死のうとしてる?』

 

 最初に、そう問いかけられた。

 確か私はその時……まず、こう問いかけたはずだ。

 

 ここはお医者さんしか入れないのに……あなたはお医者さんなの? と。

 

 その人の格好はどう見てもお医者さんには見えなくて……普通の外国の人にしか見えなかった。

 緊急治療室の中には何時もお医者さんしかいなかったし、入れないって事を私は知っていたから、まず、そんな事を聞いた。

 

 すると彼は困ったように笑ってから、私に語りかけてきた。

 

『はっはっは! よく知ってるね! その年でそんなことまで知ってるなんて……君は頭が良いんだね』

 

 そう誤魔化すように笑ったかと思うと……ベッドの上で色んな管に繋がれた私に、もう一度問いかけてきた。

 

『それで、ね。僕の質問について……よく考えて、答えて欲しい。君は……死のうとしてるのかい?』

 

 その問いかけに……私は暫く考えて、目の前の彼に伝えた。

 

 生きてて良いの? と。

 

『……良いんだ。生きてても良いんだよ』

 

 でも、私のせいでお父さんとお母さんは死んじゃったんだよ。

 私と一緒に死ぬって……そう言ってたのに。

 

『……それでも。生きたいのなら……生きてて良いんだ』

 

 彼は私を勇気づけるように……何度も、何度でもそう言ってくれた。

 

『……君は、生きたい?』

 

 ……私は。

 

「……」

 

 私は……。

 

「……」

 

 ……私はッ。

 

「……い……き………たい」

 

 私は……掠れるような声で、生まれて初めて発した言葉で……彼に伝えた。

 

『──なら、生きるための力を君にあげよう』

 

 彼は、何処までも優しい顔で……私に力をくれた。

 

『……視床下部と大脳基底核の一部を…ちょっぴり……って、何をしたかは別に良いか』

 

「……」

 

『君には才能がある。だからきっと……僕が何日か教えるだけで君はすぐに動けるようになるよ』

 

 そう言って彼は、私に背を向けて……唐突に消えてしまった。

 

『でも今日はもうお休み。傷は治してあるとは言え……疲れたろう。僕はまた明日のこの時間にまた来るから』

 

 ……何もない所から発せられる声に最初は驚いたけど……その時の私は本当にただの夢だと思っていたから、そのことについてよく考えたりはしなかった。

 だから、気付かぬうちに全身の火傷も治されていた事も不思議だとは思っていない。

 

 でも、彼は翌日も現れて私に力の使い方を教えてくれた。

 その翌日も、その翌々日も。

 

 毎日のように彼は現れて……私に力の使い方を教えてくれて。

 そして。

 

『……今日が最終日。明日にでもお医者さんに歩いてる姿を見せてごらん。きっと驚くから』

 

「……」

 

 その夢のような時間はあっという間に過ぎていって……気付けば私は、動けるようになっていた。

 

『……最後に一つ注意を。その力は使いすぎると内臓を弱らせてしまう。その力は……あくまでも筋肉の動きの補佐として使うんだ。良いね?』

 

「……わかっ……た……」

 

『よし、じゃあ最後にもう一つ』

 

「……な……に……?」

 

『……きっと、幸せになって欲しい。自分を守ってくれる人を見つけて、その人と家庭を築いて』

 

「……」

 

『そんな、幸せを……手にして欲しい』

 

 ……本当に、彼はずっと……優しかった。

 本当に、夢の中に出てくる神様みたいに優しくて……。

 

「……」

 

 私が……今生きてるこの世界のことを夢と思っているのも……そのせいだ。

 

 力の使いすぎで、どれだけ身体がボロボロになっても。

 内臓がぐちゃぐちゃになっても。

 

 ……そんな風になっても、守りたいと……守って欲しいと思える人が出来たことも。

 

 全部が全部、夢なんじゃないかって。

 

 本当の私は……何年もの間あの集中治療室で夢を見ているんじゃないかって。

 

 幸せで……楽しい夢を。

 

 ああ、だから……。

 

「──果敢無き哉」

 

 もう、起きなくちゃ。

 

「……」

 

 目前に迫る鬼神がごとき老人が……無慈悲な一撃を放つ。

 

 もうソレを避けるほどの体力も……力も出ない。

 一緒に戦ってくれた人達もまた……あの爺のよく分からない攻撃で動けないでいる。

 

「……」

 

 ゴメンね、和井さん。

 

 ……大好き。

 

 そんな最後の言葉を言う余裕もなく。

 血が、私の世界を覆った。

 

「──あ?」

 

 直後。

 感じ取ったのは痛みではなく……暖かな血飛沫の感覚。

 

「……え?」

 

 血に濡れた視界の先。

 

 あの爺の腹から……()()()()()()()()()()

 

「──どうや? 流石に意識の外からなら……受け流せんやろ」

 

「ぐっ!? き、貴様ッ──!?」

 

「……え?」

 

 耳朶に響くのは……聞き慣れた、何処か安っぽい関西弁。

 

 ──でも。

 

「ッ、おォおォオォおおおおッ!」

 

「あっあアアあァああ!?」

 

 私は、その声が……もう一度……もう一度だけ、聞きたかった。

 

「……嘘……」

 

 目の前の爺は両断され、息途絶えて地に伏せる。

 

 そして自然、私の目の前には……爺を切り伏せた人が現れる。

 

 ……彼は、正に満身創痍と言う言葉が似合う状態だった。

 彼は、片腕と片目を失って。

 

 全身傷だらけで……スーツももう死んでしまっている。

 

「……よっ! 互いに死にかけやな、チノちゃん!」

 

 それでも……生きて、私を……助けてくれた。

 

「……和井……さん」

 

「むっ!!!! 誰やチノちゃん泣かせた奴は!!!!」

 

 大粒の涙を流している私を見て、彼はプンスコと怒り始める。

 凄い大怪我なのに……私に心配させまいと、何でも無いように振る舞って見せて。

 

「……うるさいですね」

 

「えっ、ひどいやでチノちゃん!?」

 

「……本当に……うるさいですよ」

 

「……チノちゃん?」

 

 ズルいですよ。

 私は……どうやっても取り繕えないのに。

 

 何時も、貴方だけそうやって私をからかって。

 

「……」

 

 ……ズルい、ですよ。

 

 どうして、ここで私を……抱きしめてくれるんですか。

 

「……」

 

 遅れるように抱き返して……彼の体温を感じる。

 

 ああ。

 どうかこの世界が……。

 

 この世界が、本当の世界でありますように。

 

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