GANTZ:S   作:かいな

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護国の神

 沈黙が場を支配する。

 人が真っ二つに叩っ切られたその光景は……装者達にとってはあまりにもショッキングなモノだった。

 

 そして漸く……翼が口を開いた。

 

「……そんな……お爺……さま……」

 

 彼女の眼前には、変わり果てた訃堂の死体が転がっていた。

 

「……」

 

 その光景は……哀しくほどに現実の物だった。

 そしてその光景を実現したのは『神殺し』でもシンフォギアでも誰でもない……伏兵のごとき一人の男だった。

 

 唐突に現れた金髪の何処かの外国人のような彼は……今、この場の誰よりも注目を集めていた。

 

 と。

 

「……っつつ……」

 

「わ、和井さん!?」

 

 彼こと和井が、重力に負けるように膝をつく。

 彼の身体は既に満身創痍。

 

 どう見ても立っていられるような……いや、そもそも戦えるような状態では無い。

 すぐにでも病院に行かねば死んでしまうような大怪我で……それでも彼は不敵に笑みを浮かべてその苦しみを誤魔化した。

 

「あはは……ちょっと気ぃ抜けたわ。血も大分抜けてるんやけどなっ!」

 

「! 止血します!」

 

「……え? いやそれちょっまああああああああッ!!??」

 

 ……だが、どうやら青髪の少女は本気で和井の事を心配しているようで……容赦なく身体中の出血場所を締め上げてくるから、和井の身体はそれもう痛い痛いだった。

 

 そんなギャグのような一幕はあれど、取りあえず応急処置が出来た事で落ち着いた青髪の彼女……『チノちゃん』は血の混じった涙を流しながらも、どこか不思議そうに尋ねた。

 

「……でも、どうやって……」

 

 それはこの惨状からどのように生き残ったのか……という問いかけだ。

 

 だがそんな彼女の問いかけに、当の本人もまた不思議そうな顔をしていた。

 

「いやそれがなぁ、正直ワイにも分からんって言うか……途中から記憶ないねん」

 

「……」

 

 そう、彼の記憶は目を潰され……片腕をぶった切られた後より無くなっている。

 なので正直、和井は現状についても……何故『チノちゃん』が泣いていたのかも……というか、何故生きていたのかも分かっていない。

 

 ただ、何も分かっていなくとも……自身の愛する女性の危機だけは理解できた。

 

 だから彼は咄嗟に死体の山より這い出して、彼女を救う事が出来た。

 

 ──さて。

 

 真実を語るのであれば……彼は気絶していたのではなく、事実として一度死んでいた。

 

 和井は訃堂の攻撃を食らった後、大量出血による心肺停止という状況に追い込まれていた。

 ただ、その状態で大量の死体を身体の上に積まれていた彼の身体は……奇跡的に今の『チノちゃん』にして貰っている止血と同程度の止血が行われた。

 

 しかしそれでも精々仮死状態となったに過ぎず……彼が目覚めることは、それもあのタイミングでなど本来であれば無かっただろう。

 

 だが、偶然というモノは二度起これば三度起こるもの。

 

 訃堂のあの空中に衝撃を飛ばす攻撃による刺激。

 それは彼の意識を此方側に引き寄せるには十分な威力だった。

 

 故に彼はあのタイミングで目覚めることが出来た。

 

 ……彼の復活の裏には、こんな幾つもの偶然の重なりが存在した。

 

 ──まさに奇跡だ。

 

「……よく分かりませんが……ともかく生き残りがいらっしゃったのですわね。それは良いことですわ」

 

 だが、そんな奇跡の連続が起こっていたことなど知らない彼等は、単純に生き残りの存在に息を吐いた。

 そして。

 

「しかしやってくださりやがりましたわね貴方……点数横取りは酷いですわ!」

 

「うるさいですね……さっさとやらない貴方達が悪いんです」

 

「ククク酷い言われようだな。まぁ事実だからしょうが無いけど」

 

 緊張が解けたように彼女達はからかうように話し始める。

 それは激戦を共に潜り抜けた戦友として、しかし点数を奪い合うライバルとして、彼ら彼女らはバチバチと言葉を交わし合った。

 

「……」

 

 そんな三人の会話を聞いていた和井は、彼らの語り口調に眉をひそめ、そして。

 

「……おぉ? お前もしかして……『お嬢様』か!?」

 

「……あら? 貴方私のこと知ってらっしゃるの?」

 

「そや、ワイやワイ……『なんJ』や!」

 

 直接会うのは初めてやな! と和井は続け……ようやく『お嬢様』は合点がいったような表情を浮かべた。

 

「あら! そうでしたの! 初めまして、私三千三……『お嬢様』ですの」

 

 自分の名前を言う所で一瞬どもりはしたが、彼女はまるで本当のお嬢様のように何処か芝居がかった仕草でお辞儀をした。

 

「お~……お前リアルでもほんまにそう言う喋り方すんのな……」

 

 和井は何処までも意外そうな表情で、しかしスッと残った方の腕を彼女へと差し出す。

 

「……ま、『チノちゃん』助けてくれてありがとうやで」

 

「あら、そんな気になさらなくても……此方も助けられましたし、両成敗ですわ」

 

 そうは言いつつも、『お嬢様』も和井へと手を伸ばしぎゅっとその手を握りしめた。

 

 ネットを通じて色んな事を語り合った仲だったが……タイミングが合わず中々出会うことの無かった二人。

 だが。彼らは死線の先で、遂に巡り会ったのだ。

 その光景は何処か少年漫画の様な雰囲気であったが……だが、その光景を睨み付ける少女が一人。

 

「……」

 

 『チノちゃん』である。

 彼女は自身の愛する人が別の人と仲良くしている様に、それはもう苛ついていた。

 

「……はい。もう一回止血しますね、和井さん」

 

「え? ……いやもう良いと思うけどあああああああ!?」

 

 故に彼女はもう一度、それはもうギャグのように和井の傷口を絞り上げた。

 

「……」

 

 さて。

 今回のミッションの勝者で有る『神殺し』達は何処までも明るい様子だったが……相反する様に暗い表情を浮かべていたのは装者達であった。

 

「……クソ。気持ちのやり場がねぇ」

 

「……」

 

 任務の失敗。

 だが、だからと言って装者達は……目の前の『神殺し』達に対して攻撃する気にもなれなかった。

 それは……自身の祖父を殺された翼でさえ。

 

 ──何故なら、彼女達は聞いていた。

 

 青髪の少女の慟哭を、怒りを、悲しみを。

 そして……彼ら()()()()はただ巻き込まれただけの一般人でしか無いと言う……黒スーツ達の境遇もまた、聞き及んでいた。

 

 故にだろうか。

 青髪の少女の言っていた『大切な人』が生きていたと言う事実に、むしろ彼女達はホッとする想いすらあった。

 

「……クソッ」

 

 だから彼女達に出来たのは、自身の感情に区切りを付け、何処までもS.O.N.G.所属の装者として最適な行動を取ること。

 その為にも彼女達は司令本部へと連絡を取り──。

 

「……こちらマリア。御免なさい、作戦は──」

 

『──』

 

「……え?」

 

 返ってきた返事に、皆言葉を失った。

 

 

「……」

 

 装者達が去った後、司令室は慌ただしく動き始める。

 

「友里! 風鳴本邸の状況はッ!」

 

「はいッ! 依然として戦闘は継続中です!」

 

「変化があればすぐに伝えろッ! 藤尭、ヘリの手配早くしろッ!」

 

「やってますって!」

 

 方々への活動の認可、変化し続ける現場の監視、ヘリの手配等など。

 

 戦闘管制オペレーターである二人はそれらを一挙にこなしていき、弦十郎はその指示と許可を出していく。

 

「装者達現着まであと三分ッ!」

 

「!? 未確認のエネルギーを検出、今までのどのパターンとも違うエネルギー波形ですッ!」

 

「エルフナイン君!」

 

「はいっ! 突入までに解析と対策を終わらせます!」

 

「よし、現着次第突入を始めろッ!」

 

 即座に仕事の振り分けと命令を下していった弦十郎は、次いで風鳴本邸の近くで控えていた緒川に連絡を飛ばす。

 

「俺だ、そちらの様子はどうだ」

 

『こちら緒川です。既に死傷者が出ていますが、現時点では『風鳴訃堂』が優勢となっています』

 

「……分かった。では今から本邸の捜査を頼む」

 

『はい、分かりました』

 

「……」

 

 現在緒川は、本来行う予定であった風鳴訃堂の強制捜査……の体裁を保つための侵入捜査を行っていた。

 本来であれば大人数で行う予定の強制捜査だったが、当然ながら超常の戦闘が行われている場所に非戦闘員を連れて行けない……という理由から、緒川単独での行動となっている。

 

 随分と無理矢理な家宅捜索では有るが、これで装者達を突っ込ませても書類上の問題は発生しない。

 

 そう。

 S.O.N.G.という組織はその成り立ち故、その行動の全てを事前に日本政府に提出しなければならない。

 万が一その提出した作戦から外れるような行動があれば、また妙な横やりが入ってしまう余地が出来てしまうのだ。

 

 故にこその無理矢理の緒川の派遣。

 そして故にこそ……弦十郎は司令室に釘付けにされてしまっている。

 

「……」

 

 ──と。

 自身のふがいなさに唇を噛んでいた弦十郎だったが、そんな彼の思考を遮るように連絡が入る。

 

『──し、司令ッ!』

 

「!? どうした緒川ッ!」

 

 それは先程潜入した緒川からの連絡だった。

 あの緒川が誰かに気取られるとも思えず……しかしその焦った表情からただ事では無いと言うことが受け取れた。

 

『そ、それが……』

 

 何処か言い辛そうな語り口調の緒川だったが、即座に映像を司令室へと回す。

 

『……風鳴本邸にて、こちらを発見しました』

 

 そこに映っていたのは──。

 

「……嘘。あれってノーブルレッドの……」

 

「こ、殺されたはずのエルザって子じゃ……」

 

 何かの機械に繋がれた、ノーブルレッドの一人である……エルザの姿。

 

 そして何より、そこには……。

 

「……ブラックボール……だとぉッ!?」

 

 ()()()()黒い球体が……鎮座していた。

 

 

 美しき国……神州日本。

 幾多もの先達がその命を散らしてでも守ってきた……尊き国。

 

 そして、それを守ると言うことがどう言う事なのか。

 自身の両肩に重くのしかかるのは……連綿と続いてきた国の歴史と、散っていった先達の遺志である。

 

 守らねばならぬ。

 例えどのような手段を用いようと。

 

 何故なら。

 責任よりも何よりも……儂はこの国を愛している。

 

 ……例え死に、命散らそうとも……死して護国の鬼となる。

 

 そうだ。この国に必要たるは、防人ではなく護国の鬼。

 あの無能共(ノーブルレッド)の御陰で、翼を鬼へと落とすことに失敗した今……最早鬼となるモノがおらぬ。

 

 であるならば。

 

「──そこの貴方達ッ! まだ戦いは……ッ!」

 

「……? 何を言って──」

 

 やはり儂こそが護国の鬼……いや、違うか。

 死した儂は鬼を超え……次の段階へと至ろう。

 

 ()()()()()()

 

 既に全快、肉体的には何ら問題は無い。

 

「ッ!? 避けろ──!」

 

 故に……今度こそ仕損じぬ。

 あの『ブラックボール』とやらが再生した……もう一つの『群蜘蛛』を、全力を持って振り下ろす。

 

「──散華せよッ!」

 

 空気を裂く音が鳴り響き──その空撃は確かに。

 

「……え」

 

 ()()()()()()()()()()()()()使()()()()()を真っ二つに叩っ切った。

 

 衝撃が巻き起こり、二つの身体が宙を舞う。

 

「ッ!? な、何がッ!?」

 

「ちょっ……もうミッションは終わったでしょうがッ!?」

 

 残りの国賊はいまだ健在。

 

 であるならば。

 

「鏖殺だ。悉く屍を晒せ」

 

 『群蜘蛛』を片手に、悠々と彼奴等の元へと向かう。

 だが……全く同じ顔をしたあの妙な体術を用いる男共が、儂の前に立ちはだかる。

 

「……君はあの二人を見てあげて欲しいんだよね」

 

「……分かりましたわ。すぐに戻ります」

 

 思わず笑みがこぼれそうだ。

 彼奴等の方から、儂に殺されに来てくれるとは。

 

「アンタ何者? ……確かに殺した筈なんだよね。もしかして、アンタも殺すのに条件が居る……神様って奴?」

 

 その間の抜けた問いかけに、抑えていた笑いが不思議と消え去り……気味の悪さと憤りが湧き出てくる。

 

「……ふん。儂はいまだ……貴様等と同じ……()()()()()よッ!」

 

「……」

 

「……そうとも、儂は──」

 

 そうだ。

 

 ()()()()()()……新たなる躯体を以て現世へと舞い戻ってきた。

 

 今の儂は……儂であって儂ではない。

 

 であるなら。

 今の自身を表す名が有るというのなら──。

 

「──我が名はフドウ。死しても変わらぬ……護国の化身也」

 

 ……懐から、一つの武器を取り出す。

 

 あの無能共(ノーブルレッド)は何処まで行っても無能だったが……コレの奪取と使い方を儂に与えたことだけは評価に値しよう。

 

「……なんスか、それ」

 

 目の前で油断なく……いや、儂を前にして動けぬだけの木偶共の言葉を無視し、それを天へと翳す。

 

「……」

 

 コレこそが、米国をはじめとする諸外国の『ブラックボール』への最大にして最新の抑止力。

 コレこそが……神州日本に報いるための……力なり。

 

「……血を流し命を礎としてきた先達よ。我が愛する……日本よ」

 

 先達に示すように、そして何より愛する国へと示すように……その力を天へと捧げる。

 

「……見守りください。私を御支えてください。その悲願、叶えて見せます」

 

 祝詞を読み上げるように、その腕輪を自身の腕へと通す。

 そう、儂こそが──。

 

「護国の力……お借りしますッ!」

 

 ──護国の神よ。

 

 

 

『──弦、俺だ』

 

「! 八紘の兄貴!?」

 

 巨大なモニターに映された兄の顔に、弦十郎は一瞬驚いたような表情を浮かべるも……すぐにその表情を明るいモノへと変えていく。

 

「……まさか、もう通ったのか!?」

 

『ああ。此方でねじ込んでおいた。今、私がそちらに向かっている』

 

「……そうか。心強いッ! 助かるぜ兄貴ッ!」

 

 興奮収まらない弦十郎と、要点だけを伝える八紘。

 それは二人だけに通じるやり取り故、二人の戦闘管制オペレーターは疑問符を浮かべていたが……遅れて八紘から送信された書類データを見て、ようやく理解した。

 

「し、司令、まさか……!」

 

『……ああ、そうだ。これからは私が臨時司令として命令を出す』

 

「……」

 

『……弦……』

 

 八紘は一拍溜めるように呼吸を置き、()()()()()として……弦十郎に指示を出す。

 

『──好きに暴れろ』

 

「……応ッ!」

 

 ──送られてきた書類には……予てより弦十郎が進めていた、自身が前線に出た際の指揮系統について書かれていた。

 

 今夜、全てが終わる。

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