「!? こ、このアウフヴァッヘン波形は……ッ!?」
司令室にて、友里が埒外の力の輝きに目を丸くする。
今までに検出したことのない力に驚愕すると共に、その正体について探っていく。
「まさか……神の力ッ!? でも何処からそんな……」
「……どうもこうもこんなの……アメリカから奪取された……腕輪しかッ!」
だが、その桁違いの出力の目星などそう多くはない。
故に藤尭のその推理は正に、皆の代弁であった。
「……シェム・ハの……腕輪……」
思わず呟いたエルフナインであったが、その一言には一つの疑問が詰まっている。
つまり、何故その力が起動しているのか……という当然の疑問である。
本来、その疑問には誰も答えることが出来なかっただろう。
しかし。
「──力の起動。それは……風鳴訃堂によって行われたと見て間違いないだろう」
「!?」
唐突に開かれた司令室の扉から、一人の壮年の男が現れた。
「遅くなった。コレより私がS.O.N.G.の指揮を執ろう」
──彼こそ、臨時のS.O.N.G.司令。
弦十郎がS.O.N.G.を任せられると考え……また、自身の草案を政府に押し通せるからと頼った男。
風鳴八紘である。
「ほ、本当に八紘氏が……」
「無駄口を叩くな。それよりもすぐに……私の指令を装者達に送れ」
「は、はいっ」
厳しい口調で釘を刺された藤尭だったが、即座に八紘と装者達の通信を繋ぐ。
「通信行けます!」
八紘は一瞬、言葉を選ぶような素振りを見せ……しかし、意を決したように現場の装者達へと指示を出す。
「私は風鳴八紘だ。これより風鳴弦十郎司令官と代わり……S.O.N.G.の指揮を執る。これからは私の指示に従え」
『……え? お父様!?』
何処か一方的な通告に、通話越しに装者達の動揺が見て取れる。
それは彼の愛娘である翼も同じの様で、何処か驚いた様な声色の返事が返ってくるが……しかし八紘は何処までも冷静に彼女達に指示を出す。
「返事は要らん。ただ私の指示を逃すことなく聞き届けることだけに集中しろ」
『……』
「ではコレより、作戦を伝える」
そして……新生S.O.N.G.が動き始める。
◇
それは戦場から遠く離れた地点。
そこで……ヒイロと岡はぶつかり合い……そして、語り合っていた。
「ほれ、どや」
『ぐぅっ!?』
ハードスーツによる拳撃。
それは正しくヒイロの腹を打ち抉る。
だが。
「ほう?」
当たった感触がまるでない。
その異様な感覚に、岡はそれでも楽しそうに言葉を溢す。
『があああっ!』
だが、ヒイロは何を言うでもなく。
その衝撃を返すと言わんばかりに、ソードを岡八郎へと突き立て──。
『なっ!?』
ヒイロに合わせるように放たれたハードスーツのブレードに、刀を受け止められる。
そして……。
『馬鹿なッ!? どう言う速度してやが──』
「ほれ」
『!?』
こんっ、と言う軽い音が……ヒイロの顔面を抜き穿つ。
『っ! ぐっ……!? なんっ……』
ヒイロはその軽い衝撃を受け流せなかったという事実に目を丸くし、自由を失った身体はとうとう膝を付かせられる。
軽い脳震盪……ではない。
戦闘続行能力のためにと、受け身の技術と内功を鍛え続けたヒイロが、この程度の衝撃で膝をつく事など有り得ない。
であるのなら……この身体の不自由にも何か絡繰りが有るはずだ。
即座に内心の焦りを落ち着かせ、呼吸を整え次なる一手を考えたヒイロは……。
「ええなぁ。やっぱキミなら……」
『何を言って──』
「止めや。これ以上は手合わせやなくなる」
『……は?』
見事なまでの梯子外しを喰らっていた。
「ほな、最初に言った通り……世間話でもしようや」
そう語る岡は地面に座り込み、まるで本当に世間話でもするかのようにヒイロへ視線を投げかける。
『……何言ってんだ……?』
「元々俺の目的はキミの足止めや。
『……』
そうして岡は感情を伺わせない声色で語ると……今も動けないでいるヒイロに、感情の籠もった言葉を投げかける。
「しかし、キミも難儀な奴やな」
『あ?』
「
『……』
岡の言葉にヒイロは思わず息を呑む。
何故なら……それは確かに、ヒイロが今戦っている本来の目的。
つまるところ、この世界のあらゆる危険から切歌を守る……と言う
S.O.N.G.との接触も、アメリカの足止めも。
結局の所それが全ての行動である。
そんな彼の根底にある想いをあっさりと見透かされたことに動揺したヒイロは、苦し紛れに言葉を吐き捨てる。
『そのフッたって情報必要か?』
「必要やろ。セバスの元々の予定やったら……今頃キミは妹ちゃんとえぇ感じになってたんや」
『……』
だが、ヒイロは要らぬ追加情報を更に喰らってしまい……どうにもグロッキーになる。
それも、二十回クリアによりセバスと同じ領域に至っていると言う情報が有るからこそ、彼の言葉には真実味が宿る。
『……』
思えば、先程から会話するたびにこうだ。常に会話の先を取られるし、心の奥底に沈めてあった自身の思いや感情を無理矢理に掘り起こされるし。
……先程のようなヒイロの心を抉るだけの情報をノーモーションで放ってくるし。
最早ヒイロには分からなくなっていた。
岡の真意というモノが。
『……何なんだよアンタ……マジで……俺を足止めして何がしたいッてんだ……?』
そうだ。先程の戦闘にしても、ヒイロは全く岡からの殺意というか……戦意というのものを感じ取ることが出来なかった。
かと思って何かを語ったかと思えば……本当にこんな会話ばかりで。
足止めと言うにはどうも──。
「何度も言うとるやろ……俺はただ、強い奴と戦いたいだけや」
『……は?』
そして。
返ってくるとは思わなかった返事に、ヒイロは思わず言葉を漏らす。
「と言っても、別に死にたがりや言うワケやない」
『……』
「ギリギリの戦い……そしてギリギリの勝利。それを……楽しみたい……」
『……』
「俺の目的なんて……その程度のモノや」
それは先程から重ねてきた岡の目的。
……しかし、今回は何処か遠方を……風鳴本邸を見つめたかと思うと、語り出す。
「今の戦いは
『あ? 次?』
「そや。あの爺さん相手だと……戦いの駒は可能な限り隠しときたい。だからキミをここで足止めする必要があッた」
……その言葉からは、人を駒としか見ていない冷徹な感情が伝わってくる。
しかし。
それと相反する様に、何処までも真剣にミッションを攻略する意思が伝わってくる。
『……』
故に、ヒイロはようやく……岡という男の本質を理解出来た気がした。
『戦闘狂い……か』
何処までも戦うことが全てで……他人などその為の駒としか見ていない。
きっと、彼にとっての全てとは……戦うことなのだろう。
「……」
岡はヒイロのそんな独白に答えることはなく。
しかしゆっくりと視線をヒイロへと向けた。
ヒイロは互いに仮面越しだというのに……まるで見つめあうかのような感覚に陥る。
自身の心の奥底を見透かされるような……そんな感覚に。
「……人には何か……生まれた意味が有ると……思う……」
『……』
そうして岡から飛び出てきた言葉は、何時かヒイロが響に語った言葉。
そして……セバスから語られた、絶望の言葉。
「……だからオリジナルの俺が死んで……
『……』
「──なら、するべきは一つやろ」
今、岡もまた……ヒイロに一つの道を示した。
「戦って生き残る。それが全てで……一番の快楽や」
『……』
「……何せ俺には……自分以上に大切なモノも……戦いの快楽以上に大切なモノも……無かッた……から……」
戦い続けた男の行き着いた先を。
『……』
それはまるで自分自身の一つの可能性のようで。
ヒイロは、無言のままに岡の言葉を受け入れた。
「……さて。ほな世間話も程々にしとこか」
『……え?』
そして。
その時は唐突に訪れる。
ほの暗い夜の世界が、まばゆい光に照らされ……爆音が鳴り響く。
『!?』
思わず振り返ると……そこには、光の柱が突き立っていた。
まるでこの世の終わりのような光景にしか見えない光景である。
『なんだっ……あの光は……!』
その衝撃に吹き飛ばされないようにしていたヒイロの言葉に、岡が答える。
「神の力や」
『……神の……』
「ほな行こか。キミももう動けるやろ」
『……』
岡は何処まで、何もかもを見通したようにヒイロへと語りかける。
事実、ヒイロは既に動けるようになっていた。
『……チッ。ああ、分かったよ』
その何処までも見通すような岡の語りになれる事は無い。
……だが。
先程まで感じていた岡に対する不信感のようなモノは幾らか薄れていた。
◇
それは光の奔流。
輝きに満ちた世界。
その中央にて、女神は目を覚ます。
『……何? なんだこの状況は……?』
彼女はまず、困惑した。
何せ、目が覚めた直後に視界に入ってきたのは……光り輝く日本の姿だったから。
彼女にも何処か覚えのある島が、何故か刻々と色を変えて光り続けると言う謎の状況。
何が起こっているのか、まず彼女は自分自身の状況を把握しようと──。
「──何奴ッ!」
『!? 何だ貴様はッ!?』
した瞬間。
彼女は
「……いや、そうか。貴様が神の……」
次いで彼より飛び出た言葉に、思わず怒りが吹き出る。
『……貴様、我を神と知りながら……見下ろすかッ!』
人に見下されると言うこと。
それは人を道具としか見ていない彼女……シェム・ハにとっての最大級の侮辱に他ならない。
しかし青年はシェム・ハの怒号を聞こうが眉一つ動かすこともなく。
『!?』
どころか、唐突にシェム・ハの目前へと現れた彼は……彼女の首を片手で締め上げる。
「護国のための道具風情が意思を持つなど……」
ギリギリと締め上げる力を強めていき……そのあまりの苦痛にシェム・ハは渾身の力で暴れるが青年はびくともしない。
『ぐうっ!? き、貴様……な、何故私の支配を……!?』
彼女は……あらゆる手段を用いてその拘束から抜け出し、目の前の人間の身体を支配しようと試みる。
……だが、そのどれもが実を結ぶことはなく。
彼女は驚愕したように……絶望したように声を荒げる。
『人間が……道具風情がッ! 何故私の……造物主の意思に従わぬッ! 貴様は何者だッ! 本当に人間なのかッ!?』
しかし。
「──果敢無き哉」
『ぐぅっ!?』
彼はあくまでもシェム・ハの意識を殺すことにのみ意識を集中し、その目には殺意のみが宿っている。
……いや、むしろ──。
「──造物主の意思……か」
『ぁっは……』
「その様なモノがッ! 儂の想い……護国を思う気持ちに勝る等とォッ……誰が決めたァッ!」
シェム・ハのその言葉こそが、彼の心の琴線に触れた。
「見よッ! この美しき国をッ! コレこそが先達が血を流し守り抜いた神州日本ッ! 彼らよりより託されし想い、願い、希望が……日本という国なのだッ!」
『……』
最早シェム・ハの意識は遠い世界へと追いやられ……踏みにじられる。
「この国をッ、輝きをッ! 守護するためにッ」
そして。
「貴様を殺すこの手が……身体がッ!」
ぐしゃりと、シェム・ハの身体を握りつぶす。
「──護国の神。ディバインウェポンなり」
気付けば、彼の身体はシェム・ハの意思よりもずっと巨大なモノとなっている。
「それには……貴様は邪魔者よ。古き神」
最早自身が握りつぶした相手のことなど眼中にないとばかりに、彼は眼前に広がる神州日本へとうっとりしたような目を向けた。
「……守って見せよう。今度こそ……夷狄から……全てから」
──ここは、風鳴訃堂の心象風景。
彼は今、古き時代より眠っていた一柱の神との孤独な戦いに勝利した。
そして、彼は新たなる神として……現実にて目を覚ます。
「……おいおい、第二形態とかやり過ぎでしょうが」
耳障りな男の声を受けながらも、彼は神の見る世界を目撃する。
「……ほう。そうか……コレが護国の力……」
全身に注ぎ込まれる神の力と……神にすら勝る護国への想いが混ざり合い、一つの形となる。
「──そこか」
そして、一つの権能が生まれる。
それは──。
◇
さて。
現在『企業』の首脳陣は……一つのビルの中に集まっていた。
「ねぇ君、なんか風鳴訃堂凄いことになってるけど……アレ何?」
「……申し訳ございません。此方にもデータの無い変化です」
「いやね? 正直攻めきれなかったらどうしようとか思うワケよ」
そして、プロジェクターに映し出されている現場の映像を見ていた彼らは、何処か不安そうに語り出す。
「負けちゃったら僕たちのこと捕捉されない?」
「まぁ……大丈夫でしょ。何せ『神殺し』達なんだもの」
「でもねぇ……」
それは、予想外の風鳴訃堂の復活によるモノ。
皆口々に不安そうにするが……それを遮るように無表情の壮年の男が司会者のように語り始める。
「はい。その点についてはご安心を。まだ此方には岡八郎も居ますし……何より、
「……ほう?」
その情報は初めて聞いたと言わんばかりに、皺が刻まれた老年の男は先を促す。
ホワイトボードの前に立つ壮年の男は、説明を始めた。
「──まず、仮に此方が捕捉され……乗り込まれた場合の対策についてご説明しましょう」
男はそう言って、このビルに施された幾つもの防御機構について語り始める。
「このビルに置かれているブラックボールの数は百を超え……全てが起動しています」
「へー、そうだったんだ」
「はい。更にそのブラックボールによる武装をした兵士は実に一万。彼らは皆厳しい訓練を受けており……その実力は非常に高く、一人一人が部屋の住人達のエース級に値します。仮に侵入されたとして……彼らを掻い潜って我々の元まで辿り着くのは厳しいでしょう」
「ほへぇ……凄いねぇ……」
「──更にブラックボールによる防御機構を幾重にもビルの外装に重ねることで、ビルの外壁の強化も万全です。万に一つ破られることはありません」
「ふーん……」
そして、とその壮年の男は言葉を続けた。
「──何より、
「彼……?」
お偉方の当然の疑問に、壮年の男は重苦しく頷く。
「はい。我々が現国家への反逆を企てたのには幾つか理由がありますが……その要因の一つが、
「……」
「『彼』は正に……人類最強の男と言っても過言ではありません。私の知る限り、彼より強い存在は見たことがありません。……もし『彼』よりも強いモノが襲ってきたとしたら……私どもは大人しく死ぬほか有りませんね」
そんな強気にも思える言葉は、何処か話半分に聞いていたお偉方の意識をも集めていく。
「それは岡君よりも?」
だからだろう。その中でも『岡八郎』のファンである一人が……そんな問いかけを投げかけた。
「……それは分かりません。彼らレベルの強さになると……最早実際に戦うことでしかその実力を測ることは不可能でしょう」
ただ、と壮年の男は言葉を続ける。
「私個人としては、『彼』は岡よりも強いと思っています」
「……」
その強気の言葉に、お偉方は思わず息を呑む。
「──『彼』は現在……一万の軍団の将軍として、あらゆる襲撃の可能性に備えていますし、何より──」
「……」
「今回のミッションが失敗したとしたら……『彼』が直接風鳴訃堂を始末しに行きますので」
なのでどうかご安心を。
壮年の男は最後にそう付け加えて話を締めくくった。
「……一つ良いかね?」
と、そんな彼の話を聞いていたお偉方の一人が、彼へと尋ねる。
「はい、何でしょうか」
「その『彼』ってのは何て名前なんだ?」
「……ああ、これは失礼いたしました」
どうやら、壮年の男は彼の強さを説明するばかりで彼の名前を言うのを忘れていたようだ。
お偉方は彼のその失敗にドッと笑って、無表情ばかりだった壮年の男は恥ずかしそうに頭を掻く。
「……失礼いたしました。彼は──」
そうして壮年の男が口を開こうとした……その時。
──ビルの真上に、巨大な影が生まれていた。
それはまるで、何かの紋章の様に見える。
あまりに異様な光景だが、ビルの中に居る彼らは気付かない。
それは当然……『彼』も。
故に。
その紋章から巨大な光の刀がビルへと突き刺さった事も。
その光の剣が当たり前のようにビルの防御機構を吹き飛ばしたことも。
この技が、護国の神となった訃堂が新たに作り出した権能……国を崩そうとするモノを焼き払うである事も。
それら全て……彼らは何が起こったのかを知る事も無く。
全てが、一瞬にして蒸発した。