GANTZ:S   作:かいな

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正しい人間

 風鳴本邸にて、全戦力が集結しつつある。

 

『……コイツが……風鳴訃堂』

 

「そや。気ぃ引きしめぇや」

 

 『七柱殺し』と『人類最強』。

 

「ヒ……GANTZ君!」

 

『!? 弦十郎さん! こっちに来てくれたかッ!』

 

 そして『神殺し』達と、シンフォギア装者。

 

「ちょっ、なんでお前がここに居るんデスか!? 足止めは……!」

 

「それよりも切ちゃん! 私達も抜剣して時間を……!」

 

「うぅ~! お前ッ後で色々と説明して貰うデスよ!」

 

 戦いは既に総力戦の形を為していた。

 ──だが。

 

「……次から次にゾロゾロと……!」

 

 勝利には、幾つもの犠牲が伴う。

 

「あああぁあああっ!」

 

 イグナイトモジュールを起動し、決戦状態へと移行した装者達による決死の足止め。

 

 クリスは弾丸をばら撒き。

 翼は具現化した巨大な刀剣を訃堂へと突き立て。

 マリアは溢れんばかりのエネルギーを一点へと集中し、ゼロ距離で訃堂の腹へとぶちかまし。

 

 そして立花響はぶん殴る。

 

「儂の……護国の邪魔を……するなァッ!」

 

「!?」

 

 しかしそれら全て、訃堂にとってはただ鬱陶しいだけの攻撃でしか無い。

 

「嘘ッ!?」

 

 弾丸が、刀剣が、ビームが、拳が……全ての攻撃が訃堂の全身へと突き刺さる。

 

「如何な毒手であろうと……来ると分かっておれば対策など容易いわッ!」

 

 直後、訃堂は──。

 

「はあアッ!」

 

 護国の力を光と解放する。

 

「ぐうあっ!?」

 

 その怪光線を真正面から受けた立花響は身体は軋みを上げ、シンフォギアのプロテクターが砕かれる。

 どころか、その光線は衝撃を伴って彼女の身体ごと周囲全てを吹き飛ばす。

 

「!? おい大丈夫かッ!? クソ、この爺さん全然攻撃が効かねぇんだけど!?」

 

「くっ……! 流石はお爺様……ッ!」

 

「まだなの!? 私達だけじゃこれ以上……!」

 

 マリアのその叫ぶような問いかけはS.O.N.G.司令室に向けてのモノだろう。しかし、その返事は芳しくなかったのか……彼女の表情が苦く歪む。

 

 だが。

 

「──あの化け物相手に普通に戦っている姿には好感が持てる」

 

「っ、真似人さん!」

 

 吹き飛ばされた立花響を受け止めた『マネモブ』達が……装者達に付き従うよう、歩みを揃える。

 

「今度は私達が道を切り開こう。()()()があのお爺さんに届けば……まだ勝機はあるんだろう?」

 

「……はい」

 

 再度確認するような問いかけに、神殺しの拳を持つ立花響は神妙な表情で頷いた。

 

「……よし。私達が彼の意識を逸らす。長く持たすことは出来ないから……機を逃さないでくれよ」

 

 そう言って『マネモブ』達は……いや、()は全霊を持って時間を稼ぐ方法を考慮していく。

 そんな中、彼は思い出していた。

 

 先程交わされた会話と、渡された通信機によって行われた説明を。

 

 

 茂部真似人。通称『マネモブ』には、一つのモットーがある。

 曰く……『人助け』。

 

 そんな彼の死ぬまでの人生とは、それはもう……普通の人生だった。

 普通の家庭に生まれ、普通の学校に通い、普通の部活をして、普通の大学に合格し、普通の会社に就職した。

 彼はそんな人生こそが幸せだと知っていたし、そんな人生はクソだとも思っていた。

 

 何故なら……彼のモットーは『人助け』。

 普通の人生で『人助け』出来る数は……限られているのだから。

 

 そう。彼の『人助け』への思いは重く、自身の人生をクソと愚弄する程である。

 けれど哀しいことに彼は教員として働けるほど頭が良くはなかったし、警察官になれるほど身体は強くなかった。

 

 彼は酷く絶望した生活を送っていた。

 だが、それでも。

 

 『彼』は最後に……交通事故に遭おうとする子供を助ける事が出来た。

 

 その結果死んでしまったが、『彼』は死への苦しみよりも誰かを助けられた事の方がずっとずっと大きかった。

 

 それ程に……彼の『人助け』への思いは大きく、重く。

 何故なら彼は……誰かを助けているときだけ、人として生きている実感があった。

 

「……話?」

 

「はい、貴方達に協力を要請したいんです!」

 

 だから、彼がその申し出を断ることなどせず。

 

「分かった。何をすれば良い?」

 

 一も二もなく頷いた。

 そんな『マネモブ』の姿に意外そうな顔を浮かべた装者達だったが……彼女達はすぐにシンフォギアに付けられていた通信機を外して彼へと渡す。

 

「今後はこの通信機で情報をやり取りする。可能な限り命令には従ってくれ」

 

「……ああ。分かった」

 

「……やけに物わかり良いな」

 

 そして、一旦彼を信用した装者達であったが……流石に物分かりが良すぎる『マネモブ』に疑念を抱く。

 だが、当の彼は何処までも冷静に通信機を耳元に付け、装者達へと言葉を返す。

 

「良いも何も、あのヤバいお爺さんを倒さないといけないのは私も同じだ。既に8号と6号が死んだ今、猫の手も借りたい」

 

 猫の手も借りたい、と言うのは事実である。だがそうは言いつつも、彼の真意は別にあった。

 

「それとも、君達は逃げてくれるのかな?」

 

「……それは、出来ません」

 

「……そう」

 

 それは、急に戦場に現れた彼女達の安全確保。

 それこそが元よりの理由で、それ故に『お嬢様』と二人で時間稼ぎを買って出たのだが。

 

 逃げることなく戦闘態勢を解かない彼女達を見て、彼女達もまた眼前の爺を倒さねばならないのだと……彼は判断した。

 

「なら作戦を教えてくれ。可能な限り力になる」

 

 であるならば。

 彼らにとっての最善は……被害が拡大する前に訃堂を討伐する事である。

 

『ご協力痛み入る。では、早速此方から情報を送る』

 

 そうして送られてきたのは『神』と化した存在の殺し方。

 

 詰まる所の……『神殺し』の方法である。

 

 そして時は現在に戻る。

 

「ぐうっ!」

 

 『神殺し』。

 彼もまた同じ名前で呼ばれているが……さて、神を殺すという偉業はどのようにして行われるのか。

 

 難しいようだが、行動自体はシンプルだ。

 立花響が……訃堂をぶん殴る。

 

 彼女の纏うガングニールには……人類が二千年掛けて蓄積させた哲学の兵装、『神殺し』の力がある。

 

 なので神となった訃堂にその力をぶつければ、それだけで有効打となり得る……のだが。

 先程はそれを気取られていたが故に効果が薄かった。

 

 ……ならば、意識の外からぶち込めば良いだけのこと。

 

「おおおっ!」

 

 『マネモブ』達はそれぞれの意識が繋がっていると言うわけではない。

 だが同一存在であるという利点は大きく、皆が皆何をしているのかが手に取るように分かる。

 

 故にこそ可能となる熟練の連携。

 

「おおおッォオオ!!」

 

「むっ」

 

 二人が全く同時に致死性の技を放ち……訃堂の気を引かせて足止めする。

 直後に止まった訃堂の足に痺れの効果がある蹴りを放ち、更に足止めに徹する。

 

 それを三百六十度様々な範囲から休み無く放ち続け、技を繋げていく。

 

「……」

 

 だが。

 その連携ですら……訃堂にとっては羽虫がぶつかるようなモノでしか無く。

 本来であれば全てが致命の一撃となり得る技は、訃堂の超絶技巧によって全てが打ち払われてしまう。

 

「……」

 

 だが、それでも流しきれない小さな痛みが有った。

 その痛みを例えるなら……強風で飛んできた雨がぶつかるような痛みと不快感。

 

 故に訃堂は鬱陶しそうに『マネモブ』達を払おうと──。

 

「ッ、ぐふっ!?」

 

「!?」

 

 した瞬間、小さくも蓄積された『マネモブ』からのダメージに、訃堂は思わず血を吐く。

 その予想外のダメージは彼達にとっても想定外のモノだった……が

 

 それが千載一遇の好機である事は間違いなく。

 

「──はああっ!」

 

 蹈鞴を踏む訃堂へと『マネモブ』の背後から飛び出た響が飛びかかり、そして──。

 

 ──さて。

 『神殺し』。

 正に神の天敵となるその力の一つは、人類から生まれた。

 

 それは哲学の兵装。

 『ガングニール』の持つ槍という性質に刻まれた……『神殺し』。

 

 人類が掛けた二千年の呪いは正に、『神』に対して圧倒的な効果を発揮するだろう。

 それ程に人類の持つ想いの力は強く、強大なモノなのだ。

 

 では。

 

「──え?」

 

 ()の抱く想いもまた……同じような力を持つのではないか?

 

「……光の……盾!?」

 

「盾呼ばわりとは不躾なッ! 護国の剣よッ!」

 

「!?」

 

 それは、彼の想いが繋いだ哲学の兵装。

 

「神殺し……神と至った以上、その様な力が儂に通じるのも詮無きことか」

 

 彼の『護国』への想いが形となり、『神の力』を以て現出した……光の剣。

 

「──だがッ! その様なモノが……我が護国の剣に勝ると思うたかッ!」

 

「ぐっう!?」

 

 本来であれば。

 ……そう、本来であれば、神の力で作り上げた訃堂の権能()は『神殺し』に淘汰される筈だった。

 

 だが、風鳴訃堂に常識は通用しない。

 

「人類が二千年かけて作り上げた呪いが、儂の護国への想いより強いなど……誰が決めたッ!」

 

 神殺しの呪いよりも、彼は上回ったのだ。

 より強固な護国への想いを以てして、『神の力』という概念を──『護国の力』と上書いた。

 

「ガングニールがッ……!?」

 

 直後。

 光の剣が巨大に膨れ上がり、シンフォギアごと立花響の拳へと上っていき──。

 

「──させるかッ!」

 

「え?」

 

 『マネモブ』達が呼応するようにソードを抜き放ち。

 

「──武器だッ! この光の盾は武器に反応する! 誰でも良い、攻撃をッ!」

 

「盾ではないッ! 剣だッ!」

 

 ──背後に迫る戦士達へと呼びかける。

 

『撃て撃て撃てッ!』

 

「ああっ!」

 

 遠距離から攻撃できる者は全力で光の剣へと攻撃し。

 

「響君ッ!」

 

「っ、師匠!?」

 

「素手じゃなく武器で攻撃をッ!」

 

「おうよっ!」

 

 『人類最強』の男、風鳴弦十郎は……地面を踏み砕き、空を伝う衝撃を武器とし。

 

 そして。

 

「ああああっ!」

 

 『マネモブ』達は皆、そのソードを光の剣へと突き立てる。

 

 ガキッン、ガガガッ、ギョーン。

 幾つもの音が重なり合い、紡がれていき。

 

 光の剣は立花響の拳ではなくそれらの武器へと集中していく。

 

「引き抜け!」

 

「は、はいっ!」

 

 『護国の力』が分散した瞬間を狙って、立花響とマネモブ、そして弦十郎が力を合わせて無理矢理拳を引き抜き、彼らは即座に後退する。

 

 直後。

 

『ぐうっ!?』

 

「うおっ! 爆発したッ!?」

 

 後方からは幾つもの爆発音が鳴り響き、『マネモブ』が突き立てたソードもまた同じように爆発した。

 

「……」

 

 武器達の末路は有り得たかも知れない自身の末路のようにも思えて……立花響は思わず身震いする。

 

「あの光……やっぱり向かってくる武器に反応していたか」

 

「あ、あの……ありがとうございます」

 

「気にしなくて良い。今はそれよりも……」

 

 彼女は即座に光の剣の絡繰りを見抜いた『マネモブ』に感謝の言葉を投げかけるが、彼の反応は芳しくなく何かを探している様な雰囲気だった。

 

「……待て、あのお爺さんは何処に──」

 

「……気配が……消えた?」

 

 それは、風鳴訃堂の姿。

 『護国の力』を展開した後より、風鳴訃堂の姿が見えない。

 

 そして、『マネモブ』達が上を見たその瞬間。

 

「──ッ!」

 

「え?」

 

 ポンッ、と。

 『マネモブ』達は響を弦十郎の元へと押しつけた。

 

 何が起こっているのかを即座に理解できなかった響は──しかし、弦十郎のその表情から何か嫌な予感を感じ取った。

 

 

 ──感情が希薄だと、私は祖母の葬式のおりに嫌みを言われた。

 私は祖母とそれ程会ったことも話したことも無いのでよく知らないが、きっと優しく良い人だったのだろう。

 

 葬式の最中、何も喋らず無表情で居る私を見た祖母の友達一同は……皆私を人形と言って罵った。

 

 確かに私の表情はよく感情が見て取れない仏頂面と言われる事が多い。

 だが私は……感情のない人形じゃない。

 痛みもある、苦しみも哀しみもキチンとある。

 

 祖母が死んだことに哀しみはあった。ただ、それが表情と出ないだけで……私は本当に哀しいと思っている筈だ。

 ……筈なんだ。

 

 祖母の死のことを改めて考えた時。私は疑問を抱いた。

 私は本当に、祖母が死んだ事を哀しいと思っているのか? と。

 

 深く深く私の心を探ってみても、湧き上がってくるのは祖母の死に対する哀しみではなく。

 ただ、自身が『人形』と罵られた事だけが心の中で反響している。

 

 だから深い絶望があった。

 まさか私は本当に、親族が死んでも何とも思わぬ『人形(マネキン)』なのではないか? と。

 

 違う。

 

 違う違う……違うッ!

 

 私は、私は人間だ! 

 

 葬式の最中、私はそれだけを考え脳内を駆け回っていて……ふと気付いた時には祖母の死の事など何一つ考えて居ないことに気付き、絶望した。

 

 ……だから、人であろうと努力をした。

 表情を付ける練習も、溌剌とした喋り方も、あからさまなくらいのリアクションも。

 そのどれもが……実を結ぶことはなかった。

 

 どれだけやっても表情は豊かにならず。

 なのに言葉と行動だけが溌剌としていてチグハグ。

 

 気味悪がられ、人形と蔑まれ。

 

 けれど、そんな絶望の中にも光はあった。

 

 その始まりは……授業の一環としてやらされたただのボランティア活動。けれどその活動の際に、地域の人間に『ありがとう』を貰った。

 その時の筆舌に尽くしがたい感情は麻薬のようで。

 誰かのためになっている間は……私は誰かに人間と見て貰えていると実感したのだ。

 

 それからだ。

 人であり続けようと……認めて貰おうと、『人助け』に奔走したのは。

 だから、その結果例え死のうとも……構わなかった。

 

 人として、死ぬことが出来るのだから。

 

 だからオリジナルと……1号と2号は幸せだ。

 1号と2号(彼ら)は二人とも、心不全となった母の為に死んだ。

 

 母は元から心臓が弱い人だった。

 それでも普通に生活出来る程ではあった。

 

 だから、医者が言うには運が悪かったらしい。

 

 たまたま……発作が悪い方向に行ってしまった様で。

 病状を解決するには順番待ちで時間の掛かる心臓移植か……いまだ費用が高く術後の負担も大きい人口心臓しか方法がなかった。

 そんなモノ、最早選択の余地はない。

 故に私は全てを……自身の心臓を捧げる事にした。

 

 当然そんなこと、現代の医療も司法も許容しない。

 だから私は司法の外を頼ることにした。

 

 当然金は掛かるが、母を助けることは何よりも優先される。

 私は躊躇も躊躇いもしなかった。

 

 ──1号の心臓以外の内臓全てと、2号の内臓を何処ぞに売って資金を確保して。

 ──腕の良い闇医者に頼り、私の心臓を母に移植した。

 

「……」

 

 ……私には、それで死んでいった1号と2号の気持ちは真の意味では分からない。

 だが、彼らは幸せだったと思う。

 

 私も、そうなのだから。

 

「っ、真似人さん!?」

 

 そう嘆かなくても良い。

 私にとっては、これこそが本望なんだ。

 

 私には『人助け』の才能は無かった。

 だから毎回、効率の悪い方法でしか出来なくて。

 

 それでも私は……死んでも誰かのためになれる"人間"になりたかった。

 

 迷走に迷走を重ねて、通信教育という形で自衛の手段を広めて。

 酷い失敗もしたけれど、それでも私の技を使ってくれる人が居て。

 

 ……そうだ。

 『ひーろー』君。彼はずっと、私の技を使ってくれた。

 

 何時も助けられてる、なんて。態々手紙まで出してくれて。

 

 ……とんでもない。救われていたのは……私の方だ。

 

「……」

 

 光が、私の視界を埋め尽くす。

 

 ……あの光、武器を対象として発動しているのではなかった。

 恐らく……自身に迫る()()を対象としていたのだろう。

 

 そのことを、あのお爺さんもまた完璧には理解していなかったのだろう。

 

 ──ただ。

 もしかして、というか、やっぱりというか。

 さっきの大爆発もあのお爺さんがやったことだったんだな。

 

 極光に飲まれ……最早苦しみすらなく身体が飽和していく。

 

「……ああ」

 

 けれど最後に……あの強そうな彼が上手く逃げてくれた瞬間は見えて。

 

 私は……私達は、自分が人間として死ねたことに……とても安心した。

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