GANTZ:S   作:かいな

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逆転への狼煙

「そんっ……な……」

 

 弦十郎の超人的な跳躍により訃堂の権能から逃れた立花響は……生き残ったというのに、何処か絶望したような表情を浮かべていた。

 

「……くっ!」

 

 そして、彼女と同じように苦しげな顔をしているのは『人類最強』の男である風鳴弦十郎である。

 彼の視線は既に空へと向いており……そこには、何処までも見下すような表情を浮かべている風鳴訃堂の姿があった。

 

「果敢無き哉」

 

 常の見下すような語り口調。

 けれどその声色には何処か憐憫のようなモノすら含まれており……死んでいった何人もの『マネモブ』の行動がまるで理解できぬと言わんばかりに息を吐く。

 

「その命を犠牲に救ったのが……小娘一人か」

 

「っ……」

 

 そんな訃堂の言葉は、生き残った立花響の心に突き刺さる。

 

「……真似人……さん」

 

 関わった時間はほんの少し。

 けれど彼女は知っている。『マネモブ』が……その冷酷そうな見た目と反した、とても優しい人であると言うことを。

 

 だからこそ、そんな彼が自身のせいで死んでしまったという事は少女の心に深く傷を刻みつけていた。

 だが、そんな彼女の思考を現実に引き戻すように、弦十郎が少女を地面へと下ろす。

 

「……師匠……私……っ」

 

「……苦しいか、響君」

 

「……」

 

「だが今は……それでも前を向くんだ」

 

 その縋るような言葉に、弦十郎はしかし厳しく前を向かせる。

 そして。

 

『──おい! 大丈夫かッ!?』

 

「特訓バカッ!」

 

 後方にて支援を行っていた者達が駆け寄ってくる。

 

「……皆、彼女を連れて後方に下がってくれ」

 

「ちょっ、オッサ──」

 

「命令だ。俺が時間を稼ぐ内に……どうにかしてあの光の突破口を探れッ!」

 

「っ!?」

 

 何時になく厳しい口調で語る弦十郎の視線の先。

 ……そこには、()()()()()()()()()()()が生まれていた。

 

『弦十郎さん! 俺も……!』

 

「駄目だッ!」

 

『ッ……だが……!』

 

 即座に弦十郎と共にその時間稼ぎを行おうとしたヒイロだったが、それも弦十郎に拒否される。

 当然ヒイロも言葉を返すが……次いで飛んできた弦十郎の言葉に声を詰まらせる。

 

「君は……切歌君を守るんだろ!?」

 

『ッ……』

 

「こう言う役回りは……年長者に任せろ!」

 

『あっ、おい!』

 

 そして、ヒイロが止める間もなく弦十郎は空に飛んでいる訃堂へと飛びかかった。

 

『……クソっ、雪音! 立花を運ぶぞッ!』

 

「……お前……」

 

『ああッ!? 早く手伝えッ!』

 

「……チッ。分かったっつの」

 

 不承不承ながらに立花響を連れて一度戦線を離脱する事にしたヒイロは、やけに反応が鈍いクリスを急かして立花響を連れて離脱する。

 

「……クリスちゃん……GANTZさん……」

 

『……』

 

「……ごめん……私……」

 

 立花響。

 

 彼女の様子は疲弊している様に見えるが、その理由は当然身体的なモノではない。

 自身を助けて死んだ、幾人もの『マネモブ』の存在故である。

 

「ど、どうしたんですか響さん!?」

 

「な、何か凄い光って全然見えなかったデスけど! 何があったデス!?」

 

 ──そこは風鳴本邸を出てすぐの場所。

 現在その場所には生き残りの黒スーツ達と装者達……そして負傷者達が集められていた。

 

「……響さん?」

 

 しかし、立花響は装者達の心配するような声に応えることは出来ず……地面にへたり込む。

 

「……ごめん……ごめん…なさい……」

 

「……お前……」

 

「私っ、私のせいで……!」

 

 立花響は、へたり込んだ状態で嗚咽を漏らすように嘆く。

 

 ──それは『企業』のビルを吹き飛ばした極光と寸分違わぬ一撃。

 その一撃は、例えどれほどの実力者であろうと耐え切る事など不可能に思える。

 

 その一撃によって()()が溶けていく瞬間を目撃してしまったダメージは思いのほか大きく。

 立花響の精神は随分と疲弊していた。

 

 だがそれを知っているのは響と弦十郎。そして比較的近い場所で射撃していたクリスとヒイロのみである。

 離れて支援を行っていた彼らには何も……見えて等居なかった。

 

「……響さん……」

 

 故に彼女達は響がどうしてこのような状態になってしまったのか、その理由が分からないで居た。

 

 ……いや。

 

 仮に知っていたとして、誰が口を出せるだろうか。

 

「……」

 

 その一部始終を見ていたクリスは、重苦しく口を閉じて。

 同じくそれを目撃していたヒイロもまた……立花響に対してどのような言葉を投げかければ良いのか分からないでした。

 

 それにヒイロもまた……『マネモブ』の死にはおおきな衝撃を受けていた。

 

『……マネモブ……』

 

 彼はぽつりと、散っていった存在への手向けのように……心の奥底に隠してあった彼への想いを、誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟いた。

 

『……勝手だけど……師匠だと……思ッてた……』

 

 そう、ヒイロは……『マネモブ』のことを師とすら思っていたから。

 自身の死生観との完全なる相違、クローンを受け入れる倫理観。それら全てが彼とは合わなかったが……彼の技には幾度も救われてきた。

 

『……ちくしょう……』

 

 複雑な感情は、その一言に込められて。

 

 マネモブ。

 彼は幾年も共に語り合った友であり、自身を救っていた技の師でもあり。

 そして何より……大っ嫌いな考えの持ち主でもあった。

 

 故にこそ、せめてもの手向けの言葉。

 

 返事など、当然期待していなかった。

 

「ふうんそう言う事か」

 

『!?』

 

 ……のだが。

 

「なんだ『ひーろー』。嬉しいことを言ってくれるじゃないか」

 

「!?」

 

『!?』

 

 彼ら彼女達の背後より、『お嬢様』の応急処置を終えた最後の『マネモブ』が現れる。

 

『お、おまっ!?』

 

「真似人さん?!」

 

 当然ながら恥ずかしいことを呟いたヒイロと、もう『マネモブ』は死んでしまったと思っていた立花響は目を丸くする。

 

「……ふむ。死んだか……私達は」

 

「!?」

 

 そして最後の『マネモブ』はあわあわとしているヒイロを無視して……座り込んでいる立花響へ目を向け、彼女のその弱々しい姿と、先程の巨大な爆音。

 

 ……そして、返ってこない自身の姿に……色々なことを察した。

 

「立花さん……だったかな」

 

「……は、はい」

 

 『マネモブ』は彼女へと視線を合わせるように膝をついて、その感情を伺わせない表情のまま立花響へと言葉を投げかける。

 

 それは──。

 

「彼らの死を気にしているようだが……彼らの事なら気にするな」

 

「……え?」

 

 それは彼女への慰めの言葉だった。

 

「私と『彼ら』は同じ存在だ。死の瞬間に至るまで何を考えていたのかなんて、手に取るように分かる」

 

「……」

 

「彼らが最後に思っていたのは……君が生きていて良かった、という想い。そして生き残って欲しいという想い。この二つだけだ」

 

「……」

 

 そう。

 実際に先程死んだ『マネモブ』は本当に死んでいて……今目の前に居るのは顔が同じだけの別人でしかない。

 だが、ただの別人ではない。同じ記憶、同じ思考、同じ発想の元生きている……正しくクローン。

 

 だからこそ、その言葉の一つ一つには先程死んでいった真似人が宿っていて……。

 

「……だから、彼らに報いると言うのなら……また、私達と一緒に戦って欲しい」

 

「……」

 

 何処か辿々しく、しかし少女を思いやった言葉遣いは、少女の心に確かに届いていて。

 師匠と命の恩人の言葉は……彼女の心を揺り動かす。

 

(……そうだ。私がここでやるべき事をやらないで居たら……助けてくれた真似人さんの思いを踏みにじることになっちゃう)

 

 故に、彼女は立ち上がり……戦意を滾らせ拳を握りしめる。

 

「……そうですね! 立ち止まってばかりも……居られませんよね! 私も一緒に戦いますッ!」

 

 『マネモブ』の言葉によって、彼女は完全に立ち直っていた。

 

『……』

 

 そんな光景を眺めていたヒイロは仮面の奥で、小さく笑みを浮かべ──。

 

「……ったく。心配掛けさせんなよな」

 

 クリス達もまた、何時も通りに戻った立花響の姿に安心していた。

 

「……だけど、これからどうするの? 今は司令が時間を稼いでくれているけれど……」

 

 しかし……それでも問題は幾つも存在し続けている。

 

「……あのお爺さんの武器を破壊する光。どうやって攻略すれば……」

 

「ああ……お爺様そのものの戦闘力を考慮すると、剣無しで一体どうすれば……」

 

「それに、皆さんのイグナイトの制限時間ももう少ししかないデスよ!?」

 

「……」

 

 それは当然、神と至った風鳴訃堂への対応である。

 そして、それに付け加えるように……イグナイトによる使用時間の制限。

 

 イグナイトモジュール。

 それは決戦形態であるが故に、使用時間に制限が存在する。

 

 ()()()()()を重ね、使用時間の上昇とイグナイト状態の安全な解除等様々な改良を実現することは出来たが……既にエネルギーの消耗は激しく、もう一度抜剣した所で、精々十分ほどが活動限界となってしまうだろう。

 

「……」

 

 それは訃堂との戦いを考えると非常に心許ない時間制限だ。

 果たして十分で何が出来るだろうか。

 

 武器は使えず、されど敵は強大。

 しかも戦闘時間そのものにも制限あり。

 

 ──そして何も……問題は装者達だけで無い。

 

『……マネモブ。あんた一人で戦えるか?』

 

「それジョークか? 面白いことを言うなぁこの弟子は……て、言いたい所だけど。戦力の低下は否めないね」

 

『……だよな』

 

 既に満身創痍となっている黒スーツ達である。

 主戦力である『神殺し』達は全員ボロボロで……この中で現状戦力と言えるのは香川部屋と大阪部屋の住人達だけだろう。

 

『岡のオッサンは……何か消えてるし……()()()も全然来ねぇ……!』

 

 しかも皆統率が全くと言って良いほど取れていない。

 

 で、あるならやはり……今戦力として数えられるのは無傷の香川と大阪部屋の住人達となる……が。

 

 その有効な戦力だって、装者達と同じ問題を抱えている。

 ブラックボールの持つ優秀な武器を封じられている、と言う制限を。

 

 ……それに、何より彼らは。

 

「……なぁ」

 

『……あ? 俺?』

 

 その()()の中から、香川の部屋の男がヒイロに話しかけてきた。

 

「そっちの人にも聞いたけどさ……アンタはさっきあの緑の子から聞いた話……どう思う?」

 

『……聞いた話?』

 

「……いや、『企業』云々の話なんだけど……あの金髪の……()()()()()()が言ってた……」

 

()()()()()()()()()?』

 

 そう言って香川の部屋の住人は装者達と話し合っている切歌へと視線を向け、ほらあの子が言ってた……と言葉を付け加える。

 

『は? 滅茶苦茶可愛いだろ』

 

「え? そこ? ……いやまぁ……確かによく見たら可愛い………………違う! そうじゃなくてさ!」

 

『……じゃあ何だよ』

 

「そんなの! 一つしかねぇだろッ! 『企業』って奴等が篝火球……ブラックボールを操っていたって話だよッ!」

 

『……』

 

「クソ……俺達は……俺達は……どうすれば……」

 

 そう。

 彼らは何も知らないかったし、その所属も消滅した結果何もかもが宙ぶらりんだ。

 

 なのに、いきなり真実を告げられても……自分達はどうすれば良いのか。

 

 香川部屋の青年の言葉は、そんな彼らの代弁をして居るように見えて。

 

『……』

 

 ヒイロはその一幕だけで分かってしまった。

 彼らの戦意が……既に薄れてしまっていることを。

 

 そんな彼らをヒイロは──。

 

『……その答えは、自分で見つけるべきだ』

 

「……え?」

 

 ヒイロは、何処までも突き放すような言葉を彼に返した。

 

『戦う理由ってのは……誰かに聞くもんじゃない』

 

「……」

 

『だが俺は戦う。それだけの理由が……俺にはある』

 

 最後にそれだけを香川部屋の青年へと投げかけて……ヒイロは彼から離れた。

 そして。

 

「……『ひーろー』。君はブラックボールを完全に掌握してるんだろう? 負傷者の傷を治して欲しい」

 

 そんな一幕を見ていた『マネモブ』はしかし、その無表情な顔面をピクリともさせずにヒイロに頼みこんだ。

 

『……ああ、分かった。だが時間的に出来て精々一人ぐらいだぞ』

 

 そう。

 ()()()()()に居てブラックボールの機能を十全と扱えるのはヒイロだけである。

 既にミッションの体を為していない以上、ブラックボールの機能は全て使える状態だが……それでもブラックボールが傷を治すのには時間が掛かる。

 

 これからすぐに行動に移るとして……その時間で治せるのは一人だけだろう。

 

「……それと……出来れば戦力として私を三人ほど再生して欲しいんだが──」

 

『それジョークか? 面白いこと言うなこの蛆虫は』

 

「はいはい。冗談だよ」

 

 だと言うのに、付け加えるように放たれた『マネモブ』の言葉はヒイロの神経を逆なでする。

 

「なら……再生は彼女を頼む」

 

 さて。

 上記の幾つかの理由により……怪我を再生する相手は既に決まっている。

 

「……あら? 貴方どちら様?」

 

『俺は……『ひーろー』だ。初めましてだな、『お嬢様』』

 

「……あぁ……マザコンの……」

 

『は?』

 

 それは両腕を失った『お嬢様』である。

 

『……チッ。怪我治してやる』

 

「……頼みますわ。すぐにあのお爺ちゃんをどうにかしなければ……」

 

『……ああ。分かったよ』

 

 ──黒スーツ達と装者達。

 問題は山積みで……それらは到底簡単には克服する事はできないだろう。

 

 だが、希望とは得てして絶望の中でこそ見えてくるモノだ。

 

『──皆さん! あの光についての詳細が掴めました!』

 

「!? エルフナインッもう分かったの!」

 

『はい。それに伴って……支援に来て貰いましたッ!』

 

「……支援?」

 

 その通信の内容に眉を顰めたマリアだったが──。

 

「!? あ、貴方は……!」

 

 直後。

 マリア達は現れた人物達に目を丸くした。

 

「あ、貴方は……」

 

 その長い髪を後ろに纏め。

 知略に溢れたその容貌は見る人を魅了する。

 

 ()こそ……つい先日十九回クリアを果たし、『企業』からの支配の脱却を果たした男。

 

 そう、彼は──!

 

「さ──! 皆さん! 私が到着しましたよ!」

 

「……」

 

「……ん?」

 

「……誰?」

 

『え、だ、誰ですかその人?』

 

 

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