「ぐうっ……!?」
ハードスーツから放たれたビームの直撃。
その強力な一撃は訃堂の身体の表皮を吹き飛ばすに過ぎず……だが、確かなダメージとして彼の身体を蝕んでいき……。
「ぐっ……!?」
それは、『神の力』による再生能力……並行世界へのダメージの転与を否定する。
「このっ……痛み……!? 貴様……まさか……!」
「……」
「まさかその身そのものが……『神殺し』とでも言うのか!?」
──そう。
神殺しとは、何も立花響の『ガングニール』だけではない。
神殺し。
それは人類が二千年と積み重ねてきた……呪いの積層。
では、呪いとは人類だけのモノか?
否である。
『神』もまた、何かを呪う。
……幾つもの戦いが有った。
神の末裔、剣の神、時の神。
鬼神と呼ばれる者、軍神と呼ばれる者、炎神と呼ばれる者。
そして……七つの福神。
皆強大な力と、それに見合うほどの不死性を持ち合わせていた。
だが。
強大な力を持つが故に、戦いの中で感じたその感情に彼等は困惑した。
どれだけ身体を再生しようとも自らに迫り、幾つもの業を持ってしても殺すことは敵わず。
何度も何度も自身を殺し続ける者達への……
その恐怖は戦いの最中に別の形へと変わっていく。
目減りしていく自身の『神の力』。
このままでは、
──故に。
彼等は死んだ瞬間……自らを殺した存在へと怨嗟の声を投げかけた。
神殺しめ、と。
「……」
強大な力を持つ『神』の
訃堂が『神の力』を『護国の力』へと変質させたように。
その『呪い』は彼等を変質させた。
恐怖は呪いに。
呪いは力に。
そう、故に彼等は──。
「──『神殺し』。貴様も……呪われていたかッ」
『神』から生まれし……『神殺し』である。
「……」
岡八郎。
彼もまた『神殺し』。であれば、その拳の一撃は訃堂に対して必殺の威力を持つ。
更には二十回クリアの特典により、その知識も計算能力も人類を遙かに凌駕した領域にある。
弦十郎にとってこれ以上無い援軍と言えるだろう。
だが。
「……なあ……S.O.N.G.の司令さん」
「!? あんた俺を知っているのか……!」
「──時間稼ぎや。それに徹する」
彼の目には、それでも勝ちは拾えぬと言う結末が見えていた。
「勝ちを拾うんは俺達や無い……
「……!」
何故……と返すよりも先に、岡の方から弦十郎へと言葉を投げかける。
たったのワンセンテンスのやり取り。
だが弦十郎には目の前の男ほどの猛者が何の意味も無くその様な事を言うとは思えず。
『──司令……じゃなくて、弦十郎さん!』
「!? 藤尭か」
『決定した作戦を此方から伝えますッ!』
その直後にS.O.N.G.より伝えられた指令に、目を丸くする。
──その作戦は正に、つい先程岡が語った言葉と相違なかった。
故に数瞬弦十郎は岡を疑った。
何処からか作戦が漏れているのか? と。
「……」
だが、それでも弦十郎は歩みを進めて、
「──あんたのことは……まだ完全には信用できない」
「……」
「だが。それでも手を取り合えると言う事を……俺は知っている」
彼の脳裏に過るのは、自身の弟子の姿。
彼女は……例えどのような相手でも手を差し伸べ、取り合おうとする。
そんな姿を彼はずっと……見守ってきた。
師匠が弟子を導くのなら。
弟子もまた、師匠を導く。
「……なぁ。あんた、名前は?」
「……岡や。……岡八郎」
故に彼は、弟子の姿に感化される様に……岡八郎と共に構える。
そして。
「──行くぞ……岡!」
「……ああ」
彼等は、全力の時間稼ぎを敢行する。
◇
「……久しぶりね、立花響」
「……は、はい! お久しぶりです、サンジェルマンさん!」
場所は変わって後方。
そこでは、挨拶もそこそこに『護国の力』攻略会議が行われていた。
『──では、あの光の性質について……分かった限りのことをお伝えします』
エルフナインの声が空に響き、情報の整理と共に説明が始まる。
まず分かっている事として……あの光は自らに迫る武器、または人を焼き切る性質を持っていると言う事。
あの光
恐らく……その依り代となっているのは二振りの『群蜘蛛』であると言うこと。
以上をおさらいとして語ったエルフナインだったが、それに一つ横やりが入る。
「──少しよろしいですか?」
「! あ、貴方は……!」
「いや、何でまた驚いてんだよ」
そう。
『リーボック』である。
現在彼は重傷者達を再生中だが、再生中は特にすることがなかったので彼女達の会話を聞いていたのである。
そこで一つ気になった事があったのか、彼はペラペラと語り出す。
「あの光……恐らくですが、武器や人ではなく……もっと広い範囲での攻撃が行われていると考えられます」
『……広い範囲?』
「はい。先程のビルを穿った一撃が、武器や人だけでなくビルごと吹き飛ばしていた所を見るに……その範囲は単に武器や人と言う訳では無いと考えられます」
『……』
「個人的な感想としては、恐らく自らに迫る『脅威』を対象に攻撃しているかと」
自らに迫る脅威。
確かに人体を吹き飛ばす事も出来る攻撃だというのに、『お嬢様』に使った際は彼女の両腕だけを破壊し、彼女のホルスターに備え付けられていた武器は破壊されなかった。
なのに何故か……『マネモブ』達はそれと相反する様に武器のみが破壊されていた。
その現象を見れば……確かにそう考える方が納得がいく。
『……脅威の破壊。……本気で護国を為すつもりか、あの男は』
通信機から八紘の呆れるような声が響き、前提条件が修正される。
『……護国の力。正に護国災害派遣法の化身、と言う訳か』
そして語られたのは……それらの現象から導き出された、訃堂の力の正体である。
「……護国災害派遣法の化身……ああっ! そ、そう言う事だったんデスかッ!」
「!? ど、どうしたの切ちゃん! 何か分かったの!?」
「わ、私は凄いことに気付いちゃったのデス……」
そんな折、何かに気付いたように切歌が大声を上げて叫ぶ。
「護国災害派遣法……! そして刀の形……! きっとあの技の名前は"護国災害波剣砲"なのデス!」
ドヤっとした顔で語る切歌だったが……それを聞いてた者達の目を皆冷ややかで。
また切歌が馬鹿な事言ってるよ、と言わんばかりの冷たい視線が彼女の元へと突き刺さる。
「……あれ?」
「……切ちゃん。巫山戯ていいのも時と場合によるよ」
「え、え?」
一番の味方であるはずの調からもあっさりと見捨てられた彼女は一瞬にして窮地に追いやられる。
……だが。
『いえ、切歌さんの言葉もあながち間違いって訳でもありません』
「え?」
エルフナインは何故か切歌の言葉を肯定した。
それは『神の力』の性質に由来する。
『神の力の具現化。それは力が宿る存在の"深層意識"が所以となります』
『──故にあの光の剣は……『護国災害派遣法』そのものと言っても良いだろう。迫る脅威を武力を以て排除する、という効果を見ても、それは歴然だ』
護国の象徴であり……訃堂そのものと言っても言い『護国災害派遣法』。
つまりは特異災害などの異常事態への即応と即時排除。
剣の形をしたその力は……半自動的に『脅威』を排除する絶対的な力。
「……なぁ。思ったんだが、そんな力なら何で自分に向けられた攻撃にも反応するんだ? 国を害する……まぁ、ミサイルとかに反応するなら分かるんだけど……」
だが、そうなると必然的に湧いてくる疑問がある。
何故国を守る為に動いてる力が……訃堂に迫る脅威にも反応するのか? という疑問だ。
しかしその答えは実に分かりやすいモノ。
『恐らくだが、あの男は
「……え?」
『自分こそが護国の化身。自分こそが護国の鬼。そう考えているが故に……自分だけは斃れる訳にはいかないと、心の底から思っているのだろう』
「……」
『故にあの力は訃堂を全力で守る。訃堂が望む望まないに限らず……な』
その八紘の言葉に……沈黙が生まれる。
何故なら。
「じゃああの爺さんに攻撃するには……どうにかしてあの光の剣を突破するしか無いって事か」
そう。
『護国の力』はあくまでも半自動的なモノで、使うには一度起動しなければならないという欠点がある。
そう言った欠点故に発動させる間もなく攻撃出来れば脅威では無いのだが……訃堂相手にそんな事が出来る人間など非常に限られている。
『そうなる』
「……マジかよ」
八紘のその即答に、彼女達は息を呑む。
何故なら……訃堂本体の卓越した戦闘技能に加え、自らに迫る脅威を対象としての破壊、更には神に対する奥の手『神殺し』を封印された今、どのようにして戦えば良いのか……装者達には見当も付かなかった。
だが。
『ああ。それを可能とするために……彼女達に協力して貰ったのだ』
「……え?」
反撃の狼煙は既に上がっている。
『──まず、神殺しについてですが……あの訃堂お爺さん本体には効くと思われます』
「え!? き、効くのか……!?」
語られたエルフナインの言葉に、クリスは意外そうな顔を浮かべて聞き返す。
『はい。あの神殺しを押さえ付けたのはあくまでも
「! そうか、神殺しそのものはあのお爺さんに効くと言う事……!」
そう。
あの時、確かに『護国の力』は訃堂を守るように動いていた。
故に依然として『神殺し』の力は訃堂への有効打になり得る。
しかし。
「……でも、結局あの光の剣を突破しないことには……」
「……そうだ。護国のためにお爺様を守るというのなら……あの力は何が何でも立花の攻撃を防ぐはず……」
「こっちが『神殺し』なら向こうは『神殺し殺し』デスよ!」
それが通じぬと言う事は、先の戦いで既に露見している。
『──突破できます』
「……え?」
──それでも、エルフナインは断言する。
『護国の力』は突破できると。
『向こうが摂理を捻じ曲げて、『神殺し』を突破しているのなら……此方もまた摂理を捻じ曲げることで突破します!』
自らに迫る脅威の突破。それを為す要とは即ち。
『その要は、響さんのアームドギアですッ!』
「……わ、私のアームドギア!?」
傷付けるためじゃない。
誰かと繋ぐための両手。
……立花響のアームドギア。
「……つまり、お爺様に対して攻撃するのでは無く……」
「──そう。あの時私にしたように……手を伸ばす事。それこそがあの剣の突破法」
そして、今の今まで黙っていたサンジェルマンが口を開く。
「サンジェルマンさん……」
「──言ったはずよ。私は
彼女は自身の手にスペルキャスターを構え……装者達へと向ける。
「え? ちょ、サンジェルマンさ──」
「黙って受け入れなさい」
「……」
一瞬たじろいだ立花響だったが……サンジェルマンのその行動に敵意が無い事に気づき、動きを止める。
「……誰かと繋ぐための手が届かないというのなら……私がその背を押してくれるッ!」
直後、黄金が煌めいた。