「……」
切歌のぽつりと零したその言葉はしかし、ヒイロにとって一番恐れていた事であった。
だが。
「……おいおいおい……マジかあの爺さん」
「え──お、およよっ!?」
この場は戦場。
死と隣り合わせの過酷な場。
「貴様等本当にいい加減にしろよ……!」
その様な事を考えて居る暇は無い。
訃堂の静かな怒りの言葉と共に、光の剣が雨のようにヒイロと切歌の頭上に降り注ぐ。
「チッ! 掴まってろ切歌ッ!」
「デ、デ、デース!?」
ガシッと切歌の身体を抱きしめたヒイロは、全力の跳躍を以てその光の剣から脱出する。
「おおおッ!」
「ちょっ!? 手、手っ! さ、さわっ──」
爆撃の密度で放たれた『護国の力』。
しかしヒイロはその爆撃を切歌を抱きしめながら敢行していく。
時に身を逸らし、スライディングするように剣を避け、そして──。
「おらッ! こッちだバカッ!」
「デデデース!?」
切歌を戦場の端から放り投げたヒイロは、即座にソードをホルスターから抜き放ち、訃堂へと迫っていく。
「死ねぇッ!」
それは切歌への攻撃を自身へと逸らすための行動。
そんなヒイロの思惑は正しく的中し……静かにキレていた訃堂の攻撃はヒイロへと迫っていく。
だが、それにも一つ誤算があった。
「いやちょぉおおお゛おおッ!?」
そう。
今まで黒スーツ達やシンフォギア達に分散していた訃堂の攻撃
「嘘だろッ!? クソッ」
弦十郎と岡八郎。
彼等ですら完全には防ぎきれなかった攻撃が、ヒイロへと迫っていく。
「──っ」
一撃で自身の身体を破壊するであろう光の剣を避け。
「はあっ、はあっ……!?」
擦るだけでスーツ事身体をもっていく光輪を避け。
「ぐうおおおおォおォォオオおおッ」
空気中の酸素を全て焼却せんばかりの炎がヒイロへと直撃する。
「ちょっ、アイツ!?」
「嘘ッ!」
ギアが軋みを上げ、未だ動けずに居る装者達は皆……ヒイロのその呆気ない最期に息を呑む。
しかし。
「──!」
「……え?」
「……あ、あの人って……」
当然ゼロスーツを失ったことの弊害は大きく。
……切歌の家族事情を知っている装者達は皆、驚愕したような声を上げる。
「……クソッタレがッ!」
そして完全に顔が割れたヒイロは、ゼロスーツの品質の悪さに悪態を吐く。
呼吸口がいの一番に壊れて塞がるとは思いもしなかった。
だがそう愚痴ってばかりも居られない。
既に走り出していたヒイロは、即座に『神殺し』達へと声を掛ける。
「『マネモブ』ッ! 『お嬢様』ッ! 同時だッ!」
先程の『護国の力』の追撃のせいで、想像以上に早く黒スーツ達の武器や装者達のギアが限界を迎えてしまった。
故にこれは苦し紛れの一手。
動ける者の中でも、訃堂との打ち合いが出来る者達でどうにか時間を稼ぐ。
「おうよですわよッ!」
「了解なんだよねッ!」
皆ソードとホルスターに差した有るXガンなどを取りだし、一斉に構える。
「おおおおっ!」
ギョーンと言う異音が重なり──三人がともにソードを抜き放つ。
「ぬうぅっ!」
その一撃には全て『神殺し』が宿っている。
故に訃堂も全力を以て防御を行い──。
「忌々しい……『神殺し』共がァァアアッ!」
そして完全にブチ切れた訃堂は、冷静を失ったように『神殺し』達へと
「避けろッ」
「言われなくてもぉおおッ」
「おいおい冗談やないでコレはッ」
武器を一瞬にして失った三人は、『護国の力』による爆撃から逃げ惑う。
「出し得技止めてくださるッ! やめてください! 死ぬ!?」
『お嬢様』は身体の可動部を無茶に動かしながら、最適解を選びながらギリギリの所で回避していく。
「灘神影流の技は人間相手なら大概どんな奴でも通用するが!
『マネモブ』は最早焦りまくって弱気な言葉ばかりを吐き捨てる。
「……!」
そして唯一『護国の力』による爆撃を経験していたヒイロは、冷静に行動出来た。
即座にXガンでソードの刃部分を吹き飛ばし、『護国の力』による浸食からソードを守る。
「ぐっ……!」
Xガンは破壊されたが、これでもう一度だけ攻撃が出来る。
ヒイロは自身に降り注ぐ『護国の力』を回避しながらも次なる一手を考える。
だが。
「……」
どう考えてもあと稼げる時間は十数秒程度。
(──クソッ、誰か……誰か居ないか!)
この場に居てまだ動ける奴。
だが下手な相手が訃堂に立ち向かえばすぐにでも殺されてしまう。
(あと少し……あと少しなのに……!)
所定の時間までもう少し。
あとほんの少しの時間を稼げれば……!
「……自爆覚悟で突っ込むか……!?」
最早ソードを犠牲にして、その後単身で訃堂の元へと突っ込む。
残された手段はそれしか残っていない。
「……」
覚悟を決めたヒイロはソードを構え……訃堂へと迫ろうと一歩を踏み出し。
「──苦戦されているようですね」
「!?」
直後、背後より掛けられた言葉に肩を揺らした。
「おまっ──」
「
そして彼はヒイロが止める間も無く……訃堂へと駆け出す。
「これはサービスですッ!」
──彼の名は『リーボック』。
十九回クリアの男であり……その実力は──。
「きさッ」
「ハアッ!」
少し誇張して……『
「──ッ!?」
恐ろしいほどの速度で駆け出した『リーボック』は、強く地面を踏みしめ……宙を駆ける。
宙を浮く訃堂へと放たれたソードの一撃は──真っ正面からの攻撃だというのに不意打ちの形となり。
一刀の下、
だが。
「小癪ッ!」
「──再生ですか。やはり『神殺し』でなければ……!」
着地した『リーボック』の叫び声と共に、訃堂は『神の力』を用いて自身を再生する。
そう。『神殺し』でない攻撃は全て再生が可能である。
当然神の不死性については『リーボック』も重々承知している。
攻撃を無効化されるという事も。
であればこの攻撃の意図とは……一つしか無い。
「私ではやはり一度殺すのが関の山……! ですが……!」
一瞬、訃堂の意識が自身を殺した『リーボック』へと向く。
次の瞬間。
「……!」
「がっ!?」
──居合抜きの構えから放たれた一撃は、弾丸の速度で意識の隙を穿つ。
彼の名は『拙者ざむらい』。
大阪部屋の生き残りにして……リーダーと慕っていた男を殺された怒りに燃える男である。
そして彼だけでは無い。
「おらアッ!」
「ッ!」
香川部屋の青年も、そのほかの度胸有る住人達も。
皆最後の武器を構えて、もう一度時間稼ぎを開始する。
『皆さんッ! 応急処置終わりましたッ! あと一撃……『イマージュ』行けますッ!』
「おっし!」
「助かるッ!」
装者達は皆ギアの形態を変形させていき、最後のダメ押しを図る。
「皆! ギアを重ねるぞ!」
「おうともッ!」
「──!」
そうして放たれた黄金の連撃は、確実に訃堂の注意を散漫にさせていく。
──そして。
「待たせたわね」
「……あんたは」
ヒイロのすぐ傍にサンジェルマンが現れる。
彼女はファウストローブを全身に纏い、既に戦闘状態へと至っている。
彼女は今の今まで……
その彼女がここに居る、と言う事は。
「間に合ったか!」
「違うわ。間に合わせたのよ」
ヒイロの質問に自信たっぷりに返した彼女は……ヒイロに最後の陽動作戦を伝える。
「……私が合わせるわ。だから手を貸しなさいッ!」
「……言われなくてもッ!」
ヒイロが頷いた直後、ヒイロとサンジェルマンは共に構える。
「……」
作戦とは名ばかりの同時攻撃。
だが。
走り出したヒイロを援護するように……サンジェルマンは全弾を一息に撃ち尽くす。
「──行けッ!」
──それは、一見すればヒイロを主軸とした攻撃に見えるだろう。
何せ『神殺し』であるヒイロによる突貫と……それを補助するように放たれた、サンジェルマンの全霊が込められた弾丸。
「──」
故に訃堂は誤認した。
あの弦十郎達の全力の時間稼ぎも。
黒スーツ達による一斉射も。
シンフォギアの新武装による攻撃も。
全ては彼等『神殺し』による攻撃を成立させる為のカモフラージュでしかないと。
故にこそ数を用意し、意識を分散させるような攻撃ばかりを行っていたのだと。
「……くっく……くっ!」
そう理解した訃堂は不敵に笑い、今も放ち続けていた他二人の『神殺し』達へ放っていた『護国の力』を止め──。
「っおおおおお!」
目の前で飛びかかってきたヒイロの排除へと二振りの『群蜘蛛』を構え……全力の『護国の力』を放つ。
それは希望を絶つため。目の前で戦う者達の気力を削ぐため。
『群蜘蛛』に纏われた『護国の力』はより洗練され、二振りの『群蜘蛛』が長大な二つの刀と変わる。
研ぎ澄まされ、成長した全力の一撃は……『企業』を焼き払った瞬間よりも莫大なエネルギーを極限まで圧縮することで顕現し。
──
「──果敢無き哉ッ!」
故に勝ちを悟った訃堂は……高らかに叫ぶ。
「所詮は人の浅知恵よッ! 人はッ、神をッ、超えられぬのだッ!」
そして訃堂へと飛びかかったヒイロは──。
「……」
「──あ?」
不敵に笑って、元よりそうであったかのように……ソードを横に構えて『護国の力』を受け入れる。
そして。
弾かれたヒイロの背後より──黄金を纏った少女が訃堂へと迫る。
「ッ!? 貴様は──ッ!」
直後、訃堂は悟った。
この戦いの真意を。
そう、訃堂の推察もまた全てが外れていた訳では居なかった。
けれど彼は読み違えた。
幾多もの戦いと陽動。
思い通りに行かぬ戦況と、怒り。
それにより……彼は失念させられていた。
「私は歌で──ぶん殴るッ!」
立花響の……
「──貴様ッ、ガングニールのッ!」
この場に残された、もう一つの『神殺し』。
その出現に、彼は二振りの『群蜘蛛』をそのままに立花響へと向け、そして。
「!? 何故ッ、力が霧散してッ!?」
その異常事態に、ここで初めて訃堂は……明確な悪手を打った。
「出力を上げ」
「──抜剣ッ!」
「!? 加速!?」
そう。
誰かと繋ぐ為の手のひら。それは『脅威』などでは無い。
誰かを守りたいという……少女の強き思い。
それは敵である訃堂ですらも例外では無く……故に出力をどれだけ上げようと、その一撃を排する事など出来ない。
──そして。
優しき少女の祝福は、二千年に渡る呪いを上書いて。
「おおおおっ!」
二振りの『群蜘蛛』へと到達し、黄金の輝きと魔剣の輝きが……その二振りをへし折り進む。
「!? 我が命にも等しき『群蜘蛛』がッ──」
命に等しき『群蜘蛛』をへし折られ、自身へと突き進む慈愛の手。
「まだだ! まだ……!」
風鳴訃堂は……それでも怪物だった。
彼は神の力を解放し、立花響の一撃から逃れようとする。
だが。
「!? 身体……がっ!?」
突如、身体が金縛りに遭ったかのように……一瞬だけその動きを止めさせられた。
故にその手のひらは……訃堂へと届き。
「ッ、があああああああぁあぁっぁあああああ!?」
訃堂に巣くう『神の力』のみを──貫いた。