GANTZ:S   作:かいな

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よくできたヒストリー

 立花響の一撃。

 それは訃堂にとって命にも等しい『群蜘蛛』を破壊しただけに留まらず……彼の力の源にまで及んだ。

 

「……馬鹿、な……」

 

 『神殺し』。

 本来であればその力は、『護国の神』と至った訃堂をも砕く一撃となっていただろう。

 しかし、少女の優しき思いが込められたその一撃は誰かを傷つけるモノではない。

 

 故に、訃堂は身体を砕かれること無く……シェム・ハの腕輪のみが真っ二つに裂けて砕けた。

 

「……はっ……」

 

 自身の身体から力が流れていく事を理解した訃堂は、自身の夢の終わりを悟り……自虐的に笑ってから立花響へと語りかける。

 

「……終わりだ……我が夢も……この国も」

 

「……」

 

「何時の日か……後悔する時が来る。儂を……受け入れ無かった事を」

 

「!」

 

 そして。

 訃堂はまるで糸が切れたかのように自由落下を始める。

 

「希望は今砕かれた。絶望しろ、明日に……未来に」

 

 彼の言葉には万感の思いが詰められていた。

 

 ──時は百と幾数年前に遡る。

 彼が風鳴家に生まれた頃、日本は夷狄による蹂躙を受けていた。

 

 最初はよく理解していなかった訃堂だったが、防人として成長して行くに日本の危うい状況を理解していく。

 しかし理解したからと行って、幼少の頃の彼には何も出来るわけが無かった。

 

 故に当時の彼に出来たのは、ただ見ていることだけだった。

 

 愛する日本が蹂躙される時も。

 親兄弟、先達達が血を流し、命を賭して国を守護している時も。

 

 ──それでも日本が夷狄による蹂躙を完全には防げず、訃堂を残して皆死んでいった時も。

 

 彼はただ、無力に眺めている事しか……出来なかった。

 

 故に彼は自己鍛錬と、国土防衛に傾倒していった。先達達に顔向けできるように……何より、愛する母国を守る為に。

 護国のためならばどのような事でも出来た。残忍なことも出来た、幾つもの犠牲を払ってきた。どのような苦痛も、自身の死すらも受け入れられた。

 

 そうして訃堂は誰にも負けぬ強靱な肉体と正確無比な戦闘術を手に入れ、『護国災害派遣法』という国土防衛の為の法律を作り上げ、この混迷の世界においても圧倒的な抑止力となり得る……『神の力』を手に入れた。

 

 だが。

 

 そうして彼が幾星霜幾星霜と積み上げてきたモノは、しかし。

 今この瞬間に全て崩れ去った。

 

「──」

 

 故に彼は……先に散っていった『群蜘蛛』の後を追う様に、自由落下による落下死を選ぶ。

 彼は最早、生きることに執着など無い。

 だが。

 

「っあああああ!」

 

「……!? 何故ッ!?」

 

 立花響は訃堂の死など許さない。

 シンフォギアの出力を上げて、落下を始める訃堂へと手を伸ばす。

 

「──逃げるなッ!」

 

「……!」

 

「貴方がしてきた事はッ! きっと誰かの為にしてきた事だったのかも知れない……けどッ!」

 

 手を伸ばさない訃堂へと、それでも少女は手を伸ばし続ける。

 

「ならッ! その『誰か』の為にも……して来た事にちゃんと責任を取れッ!」

 

「──」

 

 その言葉は……訃堂の在りし日の記憶を思い出させる。

 

『何故、死刑を受け入れるのか……だと?』

 

 そう。

 それは父を最後に見た日の事。

 

 最後に生き残った父は、終わったはずの戦いの責任を取らされて死刑となってしまった。

 だが、訃堂は知っていた。父が全力で動けば……その様な判決など幾らでも回避できたと言う事を。

 

 そんな問いかけに……父は厳格な父の姿でこう返した。

 

『──そんなこと。日本の為に決まっている!』

 

 責任を取ることが……ですか?

 そんな訃堂の質問に、父は言葉を続ける。

 

『そうだ。俺達の戦いは全て……御国の為のモノだ。だがそれらは全て俺達が自発的に行ってきたモノ。そうしたい、そうすべきと思ったから……俺達は戦ってきた』

 

『……』

 

『だから……その責任を御国に擦り付けてはいけない。守るべき存在に……手を煩わせてはいけない』

 

『……』

 

『何より、護国のため……防人の犠牲は最小限に抑えなければならない。そうすれば、次の防人がその使命を果たしてくれる』

 

 訃堂の父はそこで言葉を句切ったかと思うと……優しい表情を浮かべて、父としての最後の教えを訃堂へと投げかけた。

 

『……訃堂。俺がお前に教えられる最後の事だ。もしお前や……お前の部下が何かに失敗して、責任を取らねばならぬ時が来たら……その責から決して──』

 

「──逃げるなッ!」

 

 ──ふと、目前に迫る少女の言葉と……亡き父の言葉が重なる。

 

(……ああ)

 

 そうだ。

 風鳴訃堂……彼は常に防人として組織の先頭に立ち、護国の為に心身を削ってきた。

 愛する日本の為、幾人と散っていった先達に報いるため。

 

 故に大きな失態が起こり、組織の存続が危ぶまれた時は即座にその責を負った。

 自身の命を礎に後世へと防人を遺した父のように。

 

「……手をッ!」

 

 彼女の言葉は、訃堂のそんな薄れていた記憶を想起させ……。

 

(……全く儂も……耄碌したものだ)

 

 訃堂は少女へと、その手を伸ばした。

 

 

「……お父様」

 

「……弦十郎か」

 

 全身の骨を砕かれていた筈の弦十郎だったが、少し休んだことで歩けるほどには回復したのか……装者達の肩を借りて、若い姿のままの訃堂へと近寄る。

 

「……」

 

 彼は今までの暴れようが嘘のように、大人しく座り込んでいる。

 

「……お父様。貴方は何故……」

 

 そんな彼に、今であれば全ての行動の真意を聞けると思い……尋ねようとする。

 

「護国のため。それ以外に儂が何かするとでも? 弦十郎よ」

 

「……」

 

「だが……最早儂に出来ることは一連の騒動の責を負う事。事の全ては獄中で語ろう」

 

 けれど彼はただそれだけを弦十郎に返して……大人しく手錠を受け入れた。

 

 そして。

 

「──皆さん!」

 

「! 緒川さん……て、その子は……」

 

 あの激しい戦闘の中本邸からの脱出の気を伺っていた緒川が姿を現す。

 彼が抱える腕の中では、死んだと思われていたエルザが小さく息を立てて眠っている。

 

「ノーブルレッドのエルザさんです」

 

「……」

 

 ノーブルレッドとは微妙な関係の装者達は皆反応に困ったが、ともかく生きているのは良いことだ。

 そうして今の今まで息を殺して潜入していた緒川だったが……彼はエルザを抱えながら装者達へと頭を下げる。

 

「すみません、ほんの少ししか援護できず……」

 

「……あ! やっぱり最後のって緒川さんが……!」

 

 そう。

 訃堂が立花響の一撃から逃げようとした瞬間、動きを止めたのは何を隠そう緒川である。

 

 技の名は『影縫い』。

 投擲物を影に放ち、影事相手の身体を縫い付ける緒川の得意技である。

 

「……やはり僕の業前程度では訃堂殿相手に一度しか有効打を決めることが出来ず……」

 

 そう。彼はエルザという要救護者を守りながら待ち続けた。

 一度切りの有効打が、最も最適に発動する瞬間を。

 

 そう言った、あくまでも忍者としての立ち回りを徹底した形となった今回の戦い。

 しかし緒川は、そのことを気に病んでいた。

 何故なら彼は、死闘に次ぐ死闘を目前にしながらも、作戦を確実な形と為すために潜伏し続けなければならなかったのだから。

 

 せめてもう少し自身の業前が磨かれていれば……と落ち込む緒川だったが、そんな彼の肩に手が乗せられる。

 

「気にするなよ緒川。お前は今回、やるべき事をキチンとしたんだからな」

 

「……司令!」

 

 弦十郎である。

 割と重傷だった筈だが、彼はもう普通に動きながら緒川を称えた。

 

「……しかし、やることが山積みだ!」

 

 そして彼は気を入れ直すように辺り一面の焼け野原を眺め……今後の予定をぼやく。

 

 

「ともかくは……この焼け野原から本邸の情報を可能な限りサルベージ──」

 

「ああ、それはもう終わってます」

 

「え?」

 

 ──それは、殆ど全壊状態となってしまった風鳴本邸に秘められた情報のサルベージである。

 あくまでも今回の作戦の要は家宅捜索と風鳴訃堂の逮捕にある。

 あの様子では本人による自供もあるだろうが……それにしても物的証拠は必要だ。

 

 故にあの瓦礫の山から必要なモノを回収しなければならないという、中々に骨が折れる仕事……の筈だった。

 

「これだけあれば訃堂殿の起こした一連の騒動、その他幾つかの事件の摘発には十分かと」

 

 弦十郎の気が抜けたような表情を見た緒川は、何でも無いように本邸にあった様々な情報をスーツの懐から取り出す。

 

「……お前、やっぱり忍が本職だよ」

 

「え?」

 

 弦十郎の言葉に疑問符を浮かべる緒川だったが、しかしコレにてS.O.N.G.の()()()仕事は無事完了したと言う事になる。

 

 ──さて。

 黒スーツ達は現在……二通りのグループに分かれていた。

 

 一つは、『リーボック』による治療を受けている者。

 

「重傷者の方を先に寄越してください!」

 

 本来ミッションが終われば自動的に部屋に転送され、その際に身体を治療して貰えるのだが……今回のミッションを設定していた『企業』のブラックボールが皆吹き飛んでしまい、皆治療も帰宅も出来ないでいたのだ。

 

「え? 蘇生ですか? 蘇生は元の肉体をロードしない限りは……」

 

「……」

 

「肉体がないのであれば……やはり通常通り三番で再生が良いかと」

 

「……!?」

 

「海外のミッションを受注すればポイントが入りますので、腕に覚えがある方はそちらで稼ぐのが良いかと」

 

 怪我を負った者、仲間を喪った者。皆それぞれ、『リーボック』に詰め寄って質問攻めしていた。

 

 だが皆が皆『リーボック』による治療が必要な者達ばかりでは無い。

 

「……」

 

 それがもう一つの……軽傷で、今後のことを考える余裕のある者達だ。

 

 彼等は……皆不安そうに一点を眺めていた。

 風鳴本邸の残骸。そこでは、S.O.N.G.の職員が忙しなく働いている。

 

「……私達、どうなるんでしょうか」

 

「さぁ……」

 

 そう、それは彼等の今後である。

 何せ彼等は……反逆の片棒を勝手に担がされていたのだから。

 

 『神殺し』達もつい先程知った事の真相。

 

 それは彼女達に衝撃と、未来への心配を与えた。

 

「『ひーろー』は何か事情知ってそうでしたのに彼は今何処で何をしているのかしら?」

 

「あそこだけど……」

 

 そしてその驚愕の真実を彼等に示したヒイロは……二つのグループ何方にも属さず、静かに一人の男の元に居た。

 

「……あんたがこんなにやられるとはな、岡」

 

「ああ」

 

 岡八郎の下である。

 

「まぁ勝てたからええやろ。今回は楽しかッた」

 

「……」

 

 岡八郎。

 彼は生粋のバトルジャンキーだ。

 

 そんな彼が……両手両足を吹き飛ばされて負けたというのに、何処か晴れ晴れしい表情を浮かべて横たわっていた。

 

「……治療は良いのか?」

 

「治療はええ。俺は今回で"上がる"わ」

 

「……」

 

 ──彼は、死ぬことを選んでいた。

 

「……」

 

 ヒイロはそんな彼の姿に若干の困惑を覚えつつも……何処か納得していた。

 

「……なぁ。セバスって……今何処いるんだ?」

 

「……」

 

「……もう、()()()()()()()()()()()()。あの……『Apocalypse』の日からずっと……」

 

 故に、最後に知りたいと投げかけた質問に……岡はゆっくりと口を開いた。

 

「……全てを知るって……どう言う事か教えたろか?」

 

「……え?」

 

「文字通り全てを知るんや。自分の……たった数十年の人生よりもずッと重く、ずっと濃い情報が……絶え間なく濁流のように……流れてくる……」

 

「……」

 

 ──それは、超越者の苦悩だった。

 

「万能感なんて何も無い。ただ気付くだけや。自分という存在が……どれだけちっぽけなのかを」

 

「……」

 

「だから……求めるんや。自分という存在の存在意義(アイデンティティ)を。自分が自分である理由を。()()……それが強い奴との戦い……やッた……」

 

 そしてゆっくりと、もう見えていないはずの目でヒイロを見つめたかと思うと……ぽつりと零す。

 

「──セバスは死んだ。あの日……自分から……」

 

「……」

 

「アイツのアイデンティティは……お前が生きて……幸せを得る事……だッた……それが……果たされると信じたから……役目を終えて……自ら……死んだ」

 

 ヒイロは、幾つもの死に立ち会ってきた。

 だから分かる。もう目の前の男は……次の瞬間にでも死んでしまうのだと。

 

「……何……悲しそうな顔……してるんや。今日……会ッたんが……初めてやろ……」

 

「……」

 

「……安心せい。こう見えても俺は……来世では……勝ち組や…………二年後……ロシアの田舎の娘の……息子として生まれる…………その娘は割と……美人や」

 

 そう言って全知ジョークを笑いながら語った岡は、最後にヒイロにこう言葉を投げかける。

 

「頑張れよヒイロ。お前なら……きっとやれる。……気張ッて行けや」

 

 ヒイロは……目の前で死んでいく男の言葉を一言一句違わずに噛み締め……そして。

 

 

 

 

「……」

 

 俯くヒイロの背後に、数人の足音が近付いてくる。

 

「……ひーろー」

 

「……」

 

 それは彼も予期していた事なのか、特に動揺することも無く……振り返る。

 そこでは……涙を目一杯に溜めた切歌が、ヒイロを見ていた。

 

「……やっ……ぱり……」

 

「……」

 

「っ、ひーろーッ!」

 

 そして、抑えが効かないとばかりに抱きついてきた切歌を、ヒイロはしっかりと受け止めた。

 

「っ……ひーろーっ、ひーろーっ!」

 

「……切歌……」

 

「うああああっ!」

 

「……」

 

 切歌は今までの思いの丈を伝えるかのように……もう離さないと言わんばかりに、ヒイロへと抱きつく。

 

「……立花さん」

 

「GANTZさ……いえ、陽色さん、ですか?」

 

「……」

 

 そして、ヒイロの下へ来ていたのは何も切歌だけでは無い。

 装者達は皆……彼の下へと来ていた。

 

「……その人は……」

 

「死んでるよ。それが望みだッた」

 

「……」

 

 装者達の中でも交流のあった立花響はすぐに彼へと話しかけ……そして、彼の背後にある亡骸に気付く。

 それを尋ねてもヒイロはそれ以上のことを答えようとはせず、立花響もまたそれ以上は聞かずに口をつぐむ。

 

「……ヒイロ君」

 

「……弦十郎さん」

 

「……彼は……いや、そうか」

 

 そして、一通りの仕事を終えた弦十郎もまたヒイロの下へと来て……共に共闘した岡の姿を見て、一度祈るように目を伏せた。

 

「──ヒイロ君」

 

 目を開けた弦十郎は、ヒイロへと切り出した。

 

「……俺は()()を果たす。例えこの命に代えても。だから君も……教えてあげて欲しい。彼女に、全てを」

 

「……」

 

 未だに泣き続ける切歌の頭を優しく撫でながら……ヒイロは息を吐いて覚悟を決める。

 

「分かりました」

 

 

「……ここが」

 

「ああ。ここが……東京の部屋だ」

 

 俺は装者達を部屋へと転送させた。

 弦十郎さんはまだ現場でやるべき事があるらしく、あの場に残った。

 

「……コレが……」

 

「そうだ。コイツが……ガンツだ」

 

「……」

 

 転送されてきた皆はキョロキョロと不思議そうに部屋を見渡して、これ見よがしに部屋に鎮座してあるガンツを興味津々と言った様子で眺めている。

 

「……さて、じゃあ何処から話そうか」

 

「……」

 

 だが、俺が一言言葉を投げかけると、彼女達はすぐに此方に注目してくれる。

 

「……そうだな。やっぱり……」

 

 俺は言葉を選びながら……ガンツにある星人を表示させる。

 コイツは俺が最初に戦った星人。

 

「──"一番"から、順に話していこう」

 

 そして。

 俺は、ヒイロの歴史(ストーリー)を語り出した。

 

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