語った。
……全てを、彼女達に伝えた。
この部屋に呼ばれたこと。そしてガンツに指示されるまま……星人という化け物と七年間戦ったこと。
キリカの実の母が、その星人との戦いに巻き込まれて死んでしまったこと。
……そして、今の俺は『暁陽色』でも、『暁ヒイロ』でもない……三度目の『俺』だと言う事も。
「……」
彼女達は……ただ重苦しく、俺の話を聞いていた。
「……ひーろー」
「何だ、キリカ」
「……三度目の『俺』って、どう言う事デスか」
その中でもキリカは一際表情を歪めて此方を見つめてくる。
キリカを含めた装者の皆にはブラックボールの基本的な情報は伝えてある。
……なので分かるはずだ。
俺のこの、言葉の意味も。
「……一度目に死んだのは、お前がF.I.Sに攫われた時に」
「……」
「……二度目は……
「……」
「今の俺は文字通り、三人目の──」
「言わないでッ!」
明言はしなかった。
けれど、装者達の皆はどう言う意味なのか分かった様だった。
「……」
彼女達は無言で俯いたり、口元に手を当てて呆然としている。
そして。
「……そんなっ…ことっ……言わっ……ないでよぉ……」
キリカもまた、目一杯に涙を溜めて……表情をぐしゃぐしゃに歪めながら言葉を投げかけてくる。
「……すまん」
「っ……」
しかし俺に出来るのは、ただ謝ることだけだった。
キリカは一瞬、引きつったような声を上げたかと思うと……またわんわんと泣き出した。
「……」
気まずい空気が流れる中、白髪の少女が此方を伺うように見つめて、尋ねてきた。
「……なぁ、一つ良いか?」
「……何だ?」
「あんたは……何であたし達にそんな……大事なことを教えてくれんだよ」
「……ああ」
それは当然の疑問だろう。
事はキリカと『俺』にまつわる話だ。正直な所、立花さんを除いて彼女達に話す理由など無い。
だが、それには当然理由がある。
「……契約だからな」
「え?」
「弦十郎さんと、あの同盟の取引を行った時に……そう言う約束を交わしたんだ」
そう、約束。
南極で交わされた
あの時、俺と弦十郎さんは契約を……約束を交わした。
「あの人は……俺に一つ条件を付けてきたんだ」
「条件?」
「そう。それは──」
"──もし、彼女達が君の正体に気付いたら……彼女達にも全てを伝えてあげて欲しい"
「意図は良く掴めなかったが、それが弦十郎さんと交わした約束で、契約だ」
「……」
「だから別に、無理に聞かなくても言い。強制はしない。帰りたいのなら……望む場所に送ろう」
俺は彼女達にそう確認を取る。
しかし皆、此方をジッと見て話の続きを待っていた。
「……そうか。じゃあ続けよう。俺の目的と……
◇
それは、最初の俺が遺した無念。
兄として……キリカを守ると言う事。
「……最初はその為だけに戦い続けていた。攫われたキリカを助けて……家族を元の形に戻したかッた……」
その為にキリカを探し続け……今度こそ黒スーツ達に負けないでキリカを助け出せるよう、技を磨いた。
けれどそれが形と叶うことは無かった。
「だからせめて。兄としてキリカを守ってやりたかッた」
「……」
「世界中を奔走して……日本に侵略する可能性が一番高いアメリカを可能な限り足止めした。
俺の言葉に、装者の皆は少なからず動揺したように表情が揺らぐ。
「……私を……守る為……?」
ようやく泣き止んだキリカだったが、また曇った表情を浮かべて今にも泣き出しそうになる。
「……気にすんなよ。俺が勝手にやったことだから」
「……」
気にするなと言葉を投げかけても、キリカはしくしくと涙を流すだけ。
どうすれば良いかと思っていた所で、マリアが神妙な顔でこちらを見ていた。
「あの同盟はその為の……」
「……ああ。
「……」
「まぁ……守るって言っても、君達皆自衛手段持ってるみたいだし……弦十郎さんも仕事があるからあまり目立って行動してたみたいじゃ無いらしいけど」
そう、キリカには……あのコスプレと言う名の強化スーツ、『シンフォギア』が有るという。
なので、弦十郎さんへの契約は保険の意味合いが近かった。
だが。
「……ま、まさかあの地獄の訓練が増えたのって……そう言う事なの!?」
「……あ、あの地獄の訓練が……!?」
「あ、あれが……暁を鍛えて守る為の……!?」
「……」
どうやら俺の知らないところで弦十郎さんは随分と動いたようだった。
地獄の訓練って何だよ。
「……で、だ」
ともかく、気を取り直して話を続ける。
「俺にはもう一つ……目的がある」
そう言ってガンツに触れ……話を続ける。
「それは、二番目の俺が遺した想いを……繋ぐこと」
ガンツの表示が切り替わっていき……
「……何だそれ……て」
「……え?」
急に映し出されたその一覧の意味が分からずにいる少女達だったが、その中の最後尾に映る人物を見て……目を丸くする。
「……ガンツは、な。いい加減な奴なんだ」
「……」
「この部屋は本来……死者だけが身体を再生されて……集められる。……だが、稀に生きてる奴を再生してここに呼ぶことが……あった」
立花さんは、その表情を固まらせ。
雪音さん達は……俺の説明にその表情を青くさせて。
「──この部屋には以前、『俺』以外にもう一人……住人がいた」
「……」
「そいつは……オリジナルが生きているのにこの部屋に呼ばれてしまい……けれど、それでも必死に生きた」
彼女達の視線の先。
そこには……明るい印象を受ける少女の写真があった。
「──そいつの名前は
◇
「……ま、待ってくれ……ちょ、ちょっと情報が多すぎる……」
雪音さんはいの一番に訳が分からないとばかりにそう言って頭を抱えた。
いや、彼女だけじゃ無い。
「……た、立花が……二人……」
「……愛?」
風鳴翼も、マリアも、調さんも。
皆……困惑していた。
「……そういう事デスか」
しかし、その中でもキリカと。
「……」
当の本人とも言える立花さんだけは……何故か、納得がいったような表情で此方を見ていた。
「陽色さん」
「……立花、さん」
そして彼女は──。
「思い出せたんですね、大事な人」
「っ……」
彼女は何でも無い風に笑って……俺にそう投げかけた。
「ちょっ、おま……」
「大丈夫だよクリスちゃん。ちょっと驚いただけ」
「え、えぇ?」
「でも……そっか。そりゃ似てるよね、私に」
彼女は……何処か納得したような、寂しそうな表情でそう呟いて……此方を見る。
「陽色さん」
「……」
「……もう一人の私は……死んでしまったんですか?」
立花さんは何処か言い淀みつつも、単刀直入に尋ねてくる。
その言葉にハッとしたのは他の装者達だった。
「……」
そう。響はこの部屋の住人だったと言うのに……今はもう部屋にいない。
ブラックボールの部屋のシステムも一通り話して有る為、彼女達もすぐに気が付いた。
もう一人の立花響が、既にこの世にいないという可能性を。
立花さんの言葉に一度息を呑んだ俺は、話しはじめる。
「……『俺』は……彼女を愛していた」
「……」
「だから……彼女が死んでしまった時、『俺』は深く絶望した。記憶を全て消して……逃げてしまうほど」
「……」
「──だが、彼女は生きていた」
その言葉に、装者の表情が驚愕に染まる。
「月遺跡『マルドゥーク』。その一区画で……身体を一柱の神に乗っ取られて」
「……月……遺跡……」
「ああ。既にマッピングも終えて……すぐにでも向かえる様になッている」
月遺跡『マルドゥーク』。
コイツを調査するのに協力してくれたのは、あの三人の錬金術師達。
彼女達の御陰で……響が眠っているブロックを突き止めることが出来た。
「俺の目的は二つ。キリカを守る事……そして──」
二つの目的の内の一つ。
キリカを絶対に守る。
その為に奔走し……結果として歪んではいながらも、十分な水準まで達成できた。
日本国内における内乱という最悪の状況を一先ず抑える事に成功し……
現時点のアメリカは国家として最強だ。
だが強すぎて孤立している。
誰も彼もがその存在を疎んでいるが故に、誰も彼もを敵に回す立ち回りを強いられた。
御陰で随分と時間稼ぎが出来た。
日本には……『マネモブ』も『お嬢様』も、一応『リーボック』もいる。それに……まだ未熟でも磨けば光る様な奴等が沢山居る。
それだけの期間アメリカを拘束することが出来れば、日本もある程度は立て直せる。
更にコレに加えて弦十郎さんという保険。
最悪日本が滅ぶ様な事があったとしてもキリカ達は無事だろう。
故に、『
なら。
「──そして、響を救出すること」
今度は、『
それが俺の……最後のミッション。
「俺はこれより……月遺跡に突入する」
陽色とヒイロ。
二人の想いを受け継いだ……
◇
まず、いの一番に語りかけてきたのは……キリカだった。
「……それは、危険なことデスか?」
「ああ。目覚めた直後の『くろのす』……神なら……まだ勝てた。だが……今の、再生の時間を与えてしまったアイツに確実に勝てるとは……言えない」
キリカへの返答は俺の本心そのまま。
あの時ですらしぶとく再生し続けたあの子作り女に二年も休む時間を与えてしまった。
確実に勝てるとは、口が裂けても言えない。
俺の言葉にすぐに反応したのは、雪音さんとマリアだった。
「……おいそれって……」
「死ぬ気なのね、貴方」
……死ぬ気、か。
「その可能性も大いにあるが……だからって死ぬつもりは無い」
「……」
「行って、帰ってくる。それだけだ」
そんなモノは更々無い。
響のためにも……俺のためにも。
もうこの想いを誰かには渡したくないから。
「──話は終わりだ。俺はこの後幾らか準備して月に行く。アンタ達もやること有るだろ? 今なら何処でも転送してやる」
そう言ってガンツの前に座り込み、彼女達の言葉を待つ。
「……一人で行く気か?」
「ああ」
「……」
風鳴翼の問いかけに対して端的に返し……少女達は黙り込んでしまった。
「……一人で戦うのは慣れてる。第一元から……全て一人でやるつもりだった。何の問題も無い」
しまったと思いフォローの言葉を彼女達に投げかけ、彼女達をすぐに送れるよう転送の準備をガンツにさせる。
「何処に転送すれば良い? S.O.N.G.本部か? 風鳴本邸か? それとも自宅?」
「……」
中々答えない少女達の返答を急かすと、ようやく動きが見える。
「……はぁ」
まず、マリアが大きく溜め息を吐いた。
本当に呆れた、という様な溜め息を。
「司令が何故貴方とそんな契約を結んだのか……ようやく分かったわ」
「?」
「良いわ。私が行きたい場所なんて……決まっている」
そして彼女は窓の外を指さしたかと思うと……高らかに叫んだ。
「──
「……え?」
え? なんで?
そんな俺の困惑も何のその。
装者達は皆揃ってしたり顔を浮かべて語り出した。
「ふっ……マリアらしい。それで? その月旅行は何時出発する? 私も防人として同行しよう」
「へっ……そりゃ良いね。あたしら皆次の日曜まで休暇貰っちまったからな」
「うんうん! あんな大変な戦いがあった後なんだし、旅行の一つでも行きたいよね!」
「……な、何を言ってんだ……アンタ達……」
マリアも、風鳴翼も、雪音さんも……立花さんも。
「……あたしも。切ちゃんのお兄さんの事なら……人事じゃないし」
月読さんも、チラリと横で俯いているキリカを見ながらそう言って。
そして。
「……ねぇ。ひーろー」
「キリ──」
パシンッ、と。
キリカに頬を平手打ちされた。
「……キリカ」
「……勝手デス。何もかも……勝手デスよ、ひーろーは」
「……」
「私を守ろうって沢山傷ついて。……それで本当に死んじゃって。それでも……私を守ろうとしてくれて」
「……」
「──私がッ!」
キリカは、涙を溜めながらも……今度はそれを流さずに、俺を睨み付けた。
「私がっ、どれだけ……どれだけあなたの力になりたいって、思ったことかッ!」
「……」
「私が……どれだけ……あなたを心配したか……」
「……」
「好き。大好きっ。愛してるッ! 沢山助けて貰ったッ! 沢山守って貰ったッ! だから、ひーろー……っ」
そして。
俺の胸ぐらを掴みあげたキリカの目には……もう涙は無く。
「今度は……私に手伝わせてよ……」
ただただ……悲しそうに、そう言った。
俺は……。
「……」
俺は……泣いていた。
「……俺……俺は……」
「……」
「一人……だッた……ずっと……一人で……」
ずっと、一人で戦っていた。
孤独な戦い。孤独な勝利。孤独な努力。
目標と追っていた父は、俺に恐れて蒸発して。
塞ぎ込んでいた俺をずっと慰めてくれた母は、俺のせいで死んでしまって。
どれだけ戦っても見えてこない妹の情報を追い続ける日々。
そんな地獄の中……ようやく苦しみを分かち合えたのが響だった。
でも、彼女も居なくなって、俺は……また孤独になった。
思えば、奪われてばかりの人生だッた。
そんな俺が……良いのか? 彼女達を頼って。
「良い訳無いッ! 駄目だッ! 俺は……お前達を頼れな──」
「──狼狽えるなッ!」
「!?」
ガンツを起動し、彼女達を強制的に転送しようとした瞬間。
空気が震えるような音量で……俺の好きな、綺麗な声が響く。
「何が頼れないだッ! そんなに頼るのが怖いかこの腰抜けッ! もっと誰かを頼れバカッ!」
「……でもッ」
「──それとも、あなたの好きな
「っ……」
「それは──私への愚弄よ!」
「ッ……」
そして。
マリアに続くように……彼女達は俺に叱咤を投げかける。
「ああ。私のファンを救ってくれた貴方が死地に向かうと言うのに……風鳴翼が黙っていられようかッ!」
「大体よ、ミイラ取りがミイラになりに行きますーって目の前で言われて、止めねぇ奴のが少ねぇってのッ!」
「将来的にもお兄さんに手を貸しておくのは良い選択だと思うしっ!」
「……」
風鳴翼も、雪音さんも、月読さんも。
──彼女も。
「……私、真似人さんと会って分かったんです」
「……」
「あの人は全員同じで、でも全員違っていて。だから……多分もう一人の私と私は……全然違う人で──」
立花さんは……。
「私と何も変わらない……命なんです」
「──」
自身の胸に手を当てながら、彼女と同じ言葉を紡いで行った。
「なら、人助けが趣味の私としては……放って何ておけませんッ!」
彼女は、朗らかに笑って……拳を俺に突きつけた。
「だから、陽色さんッ!」
「ヒイロッ!」
「お兄さんっ」
「GANTZ殿っ」
「クレープ屋ッ!」
そして。
装者達は皆、立花さんに続くように俺にその答えを求め──。
「──一緒に行こう、ひーろー!」
最後にキリカがそう言って、俺に手を伸ばした。
「……」
ああ。
こりゃ……駄目だな。
◇
その部屋には黒い球があった。
直径1m程のチタンのような光沢のあるドス黒い球だ。
この球には様々な武器が収められていて、その性能はどれも現代科学の範疇から外れている。
──その黒い球の前にて。
一人の男と……六人の少女がいた。
「──『くろのす』が居るのは広大な『マルドゥーク』内の一区画。アイツの発言や攻撃からして……『くろのす』の周囲一帯に直接飛ぶのは危険だ」
トンっ、という音と共に、黒い球に描かれた何処かのマップを男は指で差す。
「故に、目標よりも少し離れた場所に転送する。その際遺跡の排除機構が襲いかかってくるので……各自備えてくれ」
一通りの説明を終えた男は、立ち上がり……最後のチャンスと言わんばかりに少女達を見る。
だが彼女達は皆何も言わず、真剣な表情で彼を見ていた。
「……行くぞ」
故に彼も覚悟を決め……黒い球に触れ。
そして。
「──ラストミッションだ」
転送が始まった。