GANTZ:S   作:かいな

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──巻き戻して

「……響」

 

「……あれ? ……え? 何……が……」

 

「……響、なのか?」

 

 目を開け、最初に飛び込んできたのは……心配そうに私を見つめるヒイロさんと、心配そうな言葉だった。

 

「え? は、はい。私……ですけど……」

 

「……俺が好きな食べ物は何だ」

 

「……ハ、ハンバーグ? ……あ、でも最近はチーズを載せるのが好きですよね──!?」

 

 よく分からずにそう答えると、何処か髪が伸びた様な、何というか精悍な顔つきになっているヒイロさんは……目に涙を溜めて抱きついてきた。

 

「えぇ!? ちょ、どうしたんですかヒイロさん!? い、いきなりなんで……」

 

「……良かった……良かった……響……」

 

「……ヒイロさん?」

 

 一瞬、いきなりどうしてしまったのだろうと顔が紅くなるのを感じたけれど……ヒイロさんの雰囲気が何時もと違うことに気が付く。

 

 ──そして。

 

「……あ」

 

 曖昧になっていた記憶が、ゆっくりと思い出される。

 

「……私……」

 

 そうだ、私は確か……『くろのす』に取り込まれて……あれ?

 

「……ヒイロ、さん。私……『くろのす』に……」

 

「……」

 

「……それに……あの……」

 

 さっきからチラチラと、何か気になっているモノが視界に映っている。

 

「……」

 

「……私……? と……あの……コスプレした人達が居るんですけど……」

 

 ──何故か、ゴテゴテした鎧のようなモノを着飾った私と……色取り取りの競泳水着の様な格好をした女性達が、私とヒイロさんを見つめていた。

 

「……状況が、随分と変わった」

 

「……状……況……」

 

 ふと、その言葉に記憶を揺さぶられ……色々と察しが付いてくる。

 ……朧気な記憶と……成長したヒイロさんの姿。

 

 そして……時間が経つにつれ薄れていく、あの無限に続くような時間と……その、終わり。

 

 霞掛かった思考が晴れていき、それらの要素について考えられるようになるたび……血の気が引いていく。

 

「……ヒイロさん……もし……かして……私……」

 

「……」

 

「わ、私──」

 

 よく見ればヒイロさんの姿はボロボロだ。

 腹部からは血が滲んで居て、所々抉れたような傷がある。

 

 情報が点と点で繋がっていくたび、身体の震えが止まらなくなっていく。

 怖かった。だって、私の考えが正しいのなら、この傷は……。

 

「私……わたっ……私がヒイロさんを……っ」

 

 この傷は私が──ッ!

 

「──大丈夫だ」

 

「……あ」

 

「……大丈夫だよ……響……」

 

 それでも。

 ヒイロさんは優しく……私を抱きしめて、まるで子供をあやすように背中をさすってくれた。

 

「かすり傷だ、こんなもん。お前の苦しみに比べれば」

 

「……ヒイロ……さん……」

 

「……遅くなってごめんな、響……」

 

「っ……ヒイロっ……さん……っ」

 

 私は、気付けば涙を携えて……ヒイロさんの腕の中で泣いていた。

 

 

「……」

 

 その時間は……ただ静かに流れていき。

 

「……ったく。そういうのは家でやれっての」

 

「……!」

 

「えっ、あ、ああ……すまん……」

 

 気付けば、何処か恥ずかしがるような女の子の声が聞こえてきた。

 そこでようやく私は、私とヒイロさん以外にも六人ほどいたことを思い出す。

 

 あせあせとヒイロさんと私は恥ずかしがるように距離を取ったが、何というかこう……生暖かいモノを見るような視線が私達に集まって、羞恥というか、何というか……そう言う恥ずかしさが募って行く。

 

「……!?」

 

 そんな折、ふと痛烈な睨み付けの気配を感じる。

 

「……チッ」

 

「切ちゃん……?」

 

「何でも無いデース」

 

 ──金髪の女の子だった。

 

 彼女は何というか……目つきが酷かった。

 凄い目で此方を見ている。何て言うんだろう、形相って言う言葉が似合いそうな眼力だ。

 

 そして、ようやく見られていることを思い出した私は……少し顔を赤くしながらもヒイロさんの腕から顔を上げる。

 

「……ヒイロさん、あの人達は……」

 

「時間が無いから今は全てを説明できないが……彼女達は皆、俺に協力してくれた……仲間だ」

 

「……仲間……」

 

 何時になく優しい目で彼女達を見つめたヒイロさんは……噛み締めるようにそう言った。

 

「……」

 

 私もヒイロさんに習うように、彼女達へと視線を向ける。

 

 ……()()()()()()も居るけど……知らない人の方が多い。

 

 ……私を助けるためだけに、これだけの人が……?

 

「……」

 

 "私"以外のその五人は皆見覚えの幾らか見覚えのある少女達も居る。

 

 何処か以前までの険が取れて雰囲気が柔らかくなった翼さんと、あの白髪の少女。

 

 彼女も何処かで……何処かで見た覚えがある。

 

「──で、クレープ屋。一応確認なんだが……そいつはちゃんと戻ったって認識で──」

 

「……あ。あの時の赤い痴女さん……」

 

「は?」

 

 そうだ、思い出した。

 東京スカイタワーでノイズと戦っていた……()()()()()さんだ。

 

「……痴女?」

 

 その白髪の少女は、まるで私の発言が意外だったと言わんばかりに目をまん丸くして此方を見ていた。

 

「……"あちら"の立花は今何と?」

 

「……もしかしてまだ『くろのす』に……」

 

「と言うか何時まで抱き合ってるんデス? ん?」

 

「切ちゃん?」

 

 ──いや、彼女だけじゃ無い。

 彼女達全員が私の方を見てヒソヒソと何かを話している。

 

「……」

 

 ……何だろう、この妙な雰囲気。

 ち、痴女って言ったことがそんなに駄目だったかな!?

 

 ……。

 

 駄目だよ。

 助けてくれた人にそんなこと言っちゃ駄目だよ。

 

 わ、私は何てことを……!?

 

「ご、ごめんなさい! わ、私悪気があってそう言ったわけじゃ……!」

 

 にわかに悪くなっていく彼女達の雰囲気に、自ずと頭を下げる私だったが。

 ──しかし。

 

「待て。大丈夫だ。コイツは正真正銘……立花響だ」

 

「……!?」

 

 ヒイロさんはギュッと私を抱く力を強めて……力強く、もう一度胸元に私を引き寄せてきた。

 自然顔は火照って赤くなり、心臓の鼓動が激しくなる。

 

「──」

 

「……あ、あの……ヒ、ヒイロさん!?」

 

 そして何より……あちらのコスプレをした五人の内の金髪の女の子が凄い目で此方を見ている。

 

 凄い目をしている。ハッキリ私を睨み付けている。迫力が凄い。何なら少し怖い!

 けれど私や金髪の女の子の事など知ったことかと、ヒイロさんは言葉を続けた。

 

「キチンと作戦通りに事は進んだ。『くろのす』は確かにコイツの身体の中から消滅した。受け答えも認識も……二年前のスカイタワーの時のままだ」

 

「……ふぅん。なら、そいつは『くろのす』……じゃないと?」

 

「ああ。断言する。コイツは立花響だ」

 

「……」

 

「雪音さんの懸念は分かるが……大丈夫だ。安心してくれ」

 

 ヒイロさんは真剣な目つきでそう断言し、それを聞いていた彼女達は……しかし、至極無表情のまま頷いた。

 

「……そうか」

 

「ああ」

 

「……」

 

 一瞬、気まずい空気が流れ……。

 とりわけ、二人の少女の表情は険しいまま。

 

「……」

 

 金髪の女の子と。

 

「………………ん? あれちょっと待てよ」

 

 何かに気が付いた……白髪の少女を除いて。

 

「……ひーろー……」

 

「え?」

 

「何時までくっついてるデス……? もう十分デスよね……? 何で離れないデス……?」

 

「えっ……いや……」

 

 まず金髪の女の子がほの暗いオーラを放ちながらヒイロさんに詰め寄り……。

 

「おいてめぇ。思ったが……二年前の時点であたし様に対する認識が『赤い痴女さん』ってぇのはどう言う了見だ?」

 

「えっ……」

 

 白髪の少女は拳をゴキゴキとかき鳴らしながら大股でヒイロさんへと詰め寄っていく。

 

 そして。

 

「待った! 俺はあの時……見たままを言っただけだッ! 悪意ある意味で言った言葉では無い!」

 

「ああん!? てめぇが言ったのかよッ!? それに驚きだわ! あたしの何処が痴女だってんだよッ!」

 

「いや……」

 

「目をそらすなよッ!?」

 

「もう良いデスよね!? なんで離れないデス! いい加減離れた方が良いデス! 治療……そう、治療のためにも!」

 

「ちょっ……切歌?!」

 

 ぐいぐいと私とヒイロさんは引き離され……ヒイロさんはあの金髪の女の子と白髪の少女に連れられていってしまった。

 

 そのあまりの早業に呆気にとられていた私は、ふとその気配に気付く。

 

「……」

 

「……あ、あはは……」

 

 気付けば、私のすぐ近くに……"私"が居た。

 

「……こんにちは、私」

 

 彼女は、私よりも何処か成長した様な……大人っぽくなっていて。

 座っている私に視線を合わせながら挨拶をしてきた。

 

「……こん……にちは? えっと……"私"?」

 

「うん。こんにちは。本当に『くろのす』じゃ……ないんだね」

 

「……」

 

 "私"は何処か、()()()()()目で私を見つめて……そう言った。

 ……ああ、そう言う事なんだ。さっきまでの私、よっぽど酷かったんだ。

 

 チラリと周囲を見渡せば……私の周りには"私"しかいなかった。

 

「……ごめんね。会っていきなりこんな疑うような事して」

 

「……なんだか、自分に謝られる何て変な気分」

 

「ははっ。私も、自分に謝るのって変な気分!」

 

 ──"私"の身に纏った鎧。

 それは今も雄々しく顕在していて……きっと、今この場の誰よりも、"私"は強いのだろう。

 

「……ねぇ、私」

 

「……どうしたの、"私"」

 

 だから彼女は……私に一つ、問いかけてきた。

 

「……陽色さんのこと、好き?」

 

「……」

 

 私は、思いもしない問いかけに……目を丸くする。

 けれど彼女は、巫山戯ているようにも馬鹿にしているようにも見えず。

 

「……」

 

 至極真面目に、私に問いかけてきた。

 ヒイロさんのことを……好きか、と。

 

 ……そんなの、聞かれるまでも無く決まってる。

 

「好き」

 

「……」

 

「私は……ヒイロさんの事が……好き」

 

「……それは、未来とか……学校の友達よりも?」

 

「……分か……らない。皆に対する好き……とは、ちょっと違うって言うか……何て言うか……」

 

「……」

 

「……分からない。けど、きっとこの気持ちは……愛なんだ」

 

「……愛?」

 

 軽く首を傾げながら聞き返してきた彼女に、私は……思いの丈を吐露していく。

 

「──私、きっとヒイロさんの為なら何だって出来るし、何だってしてあげたい」

 

「……」

 

「ヒイロさんが私に色々なモノをくれた様に……私も、ヒイロさんに色んなモノをあげたい」

 

「……」

 

「……うん、そうだ。この感情は好きって想いで……でもただの好きじゃなくて。私はきっと……」

 

 そう、私は──。

 

「ヒイロさんの事を、愛してる」

 

 

 

 

 

「……そっか。分かった」

 

 ──彼女は、そのやり取りの中で何かを掴んだのか……さっぱりと笑いながら私に手を伸ばした。

 

「帰ろう、響! 陽色さんと、一緒に!」

 

「……」

 

「貴方は『くろのす』なんかじゃない。間違いなく、立花響だ!」

 

 ……ああ。

 私とは違う"私"は……そんな風に、笑えるんだ。

 

「……」

 

 私の笑顔は、私よりもずっと自然な笑顔で……。だから気になった。

 

 私とは違う"私"は、一体どんな人生を歩んだんだろう。

 どんな風に生きていたんだろう。

 

 きっとそれは、私も歩んでいたはずの……人生で。

 だから……。

 

「……少し、貴方が羨ましいな」

 

「……私も。貴方みたいに……凄く凄く、誰かを好きになりたい」

 

 互いに互いを羨みながらも……しかし、互いに違う人間として……私と響は手を取り合った。

 

 

「……よし。じゃあ帰るぞ」

 

「うん」

 

 ──最後に少しだけバタバタとしたが、取りあえず場は一段落した。

 

「でも、ちょっとだけ気になるわね……月遺跡」

 

「ああ。先史文明期の遺跡。バラルの呪詛もあると言うし……一体何が祭られているやら」

 

「まっ。そんなのもう何時でもこれるんだ。敢えて今日見る必要はねーだろ」

 

「ふっ……それもそうだな」

 

 装者達はキョロキョロと遺跡の内部を確認していたが、すぐに諦めが付いたのか、俺へと視線を向ける。

 

「……よし、転送始めるぞ」

 

「ああ、頼む」

 

 ジジジッ……という電子音が鳴り響き、まず風鳴翼から地上へと転送されていく。

 

「──ヒイロ! 帰ったら、美味しいご飯でも奢りなさいよ!」

 

「えっ……マリアと会食……!?」

 

「ヒイロさん?」

 

「そーだな。私を痴女呼ばわりした罪は美味い飯で帳消しにしてやるよ」

 

 次いでマリアと、雪音さん。

 

「月遺跡……もっと探索したかったなぁ……」

 

「え!? 調ちゃん意外とSFに興味が!?」

 

「うん……何て言うかこう……私に取り憑いていた過去の亡霊的に」

 

「え? 亡霊?」

 

 そして、月読さんと立花さんを転送して。

 

「……ふーんデス」

 

 残った切歌は、ツーンとした顔付きで此方を見つめていた。

 

「切歌……機嫌を直してくれよ」

 

「ふーんデス。これは百回は買い物に付き合って貰わないと、この機嫌は治りそうにないのデス」

 

「……分かったよ」

 

「……! 本当デスか!? 本当の本当に!?」

 

「ああ、良いよ。幾らでも付き合う」

 

 そう言ってやると、切歌はやったと跳ねて俺の手を取った。

 

「約束! 約束デスよッ! ひーろー!」

 

「ああ。約束──」

 

 そう言って、切歌の転送が始まった……直後。

 

「ッ!?」

 

「え?」

 

 ──謎の揺れが起こった。

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