「ヒ、ヒイロさん!?」
「何だこの揺れはっ……!?」
唐突に発生した謎の揺れは次第に強まって行き……直後。
「……!」
ガンツとの繋がりに……ノイズが発生する。
「これっ……は!?」
何だコレは。何だこの感覚は。
「
繋がりが分断され、ガンツからの応答が急激に無くなっていく。
何だコレは、どう言う事だ!?
通信圏外に出たという訳じゃ無い筈だ。まだ制限時間には余裕が有ったッ。
こんないきなり……!
「ちょっ……どうしたんデス!?」
「……!」
既に転送が始まっている切歌の声が聞こえてくる。
クソ……不味いッ。
「……ぐっ……ガンツッ!」
「ひ──」
ガンツとの繋がり。それが断ち切られる予感があった。
それは、転送を使っての帰還が出来ないという問題よりも前に。
そもそも、今行われている転送が完遂されるかすら危うかった。
空に向かって伸びる電子の光は掠れたように陰っていき、その機能が十全と発揮されていないことは容易に見て取れる。
「……っ!」
もう繋がりが断ち切られる。ガンツを動かせるのは精々後一度切り。
だから、俺に出来たのは。
「──キリカを確実に転送しろッ!」
──せめて、俺の為に月まで来てくれた妹を……生きて返してあげる事くらいだった。
直後、立ち上る電子の光は度重なる要請によって強く光り輝き……切歌の身体は全て転送された。
……そして、時を同じくしてガンツとの繋がりが完全に断ち切られた。
──そして。
「ぐうっ!?」
「きゃあっ!?」
ガゴンッ、という何かが外れるような音が鳴り響き。
──地面が一際大きく揺れた。
◇
「──ひーろーッ!?」
「!? ど、どうしたの切歌ちゃん!?」
──最後に転送されてきた切歌は……転送が終わると同時にガンツへと詰め寄っていく。
「おいッ! ひーろー出すデスッ! あの響さんもッ! おいッ! 聞いてんのかッ!」
「き、切ちゃんッ!?」
「おいッ……出せッ……出せよぉ……っ……」
最初は、その奇天烈な行動に目を丸くしていた装者達だったが、切歌のその異様な雰囲気を見て……次第に何かを察していく。
「……まさか、向こうで何かが!?」
「あの立花の中にまだ『くろのす』がッ!?」
口々に自身の推測を切歌へと投げかけていく装者達だったが、切歌は静かに首を振るだけ。
困惑を深めていく装者達に、切歌は
「違うデス……ッ! 急に……急に何か揺れ出して……ッ!」
「揺れ……?」
「それで……そしたら、ひーろーが私に……!」
辿々しい語り口調。
しかし言葉の端々から、月で何か異変が起こり、転送が出来なくなっているかも知れない……という事を察し取った。
「おい……マジかよそれ」
「──っ」
それを理解していくたび、装者達は顔を青くさせてガンツへと詰め寄っていく。
「おいッ……おいテメェッ! アイツら出しやがれッ!」
「ガンツ……ガンツッ!」
しかしどれだけ語りかけようと、ガンツは沈黙したまま動くこと無くその場に有り続ける。
「……」
ともすれば、ただの通信障害なのかも知れない。
であれば……一日待てば彼等はきっと帰ってくるはずだ。
……けれど彼女達は、皆酷く嫌な予感がしていた。
月遺跡の胎動、直後発生したガンツとヒイロの繋がりの断絶。
幾多もの戦場を駆け抜け、多くの戦いを乗り越えてきた装者達の嗅覚が知らしている。
何か良くないことが月で起こっていると言う事を。
「……っ」
皆、それが分かっているからこそ……ウンともスンとも言わぬガンツに焦燥と苛立ちを抱えていた。
「……」
──彼女以外は。
「……皆、この部屋を出よう」
「!?」
立花響。
彼女は……何処までも落ち着いた様子で装者達へと語りかける。
それはいっそ、彼等の生存を諦めている様にも思える程冷淡で、静かだった。
……当然、その様な態度に反発を覚える者も居た。
「……何言ってるデス」
「……」
──切歌である。
彼女は他の装者達と違い、目の前で異変を目撃している。
「向こうで何か有ったに違いないデスッ! なのに何で……ッ! どうにかしてコイツを動かさないと……!」
「……」
「なのに何で部屋から出るだ何て──」
「……切歌ちゃん。私達は、
「っ……」
しかし。
立花響はあくまでも切歌の言葉を一刀のもとに両断する。
「陽色さんが言ってた。ブラックボールの機能を使えるようになるには……ミッションをこなして、二番を選んで行かないと使えるようにならないって」
「……」
「『企業』の人達ですらちゃんと使いこなせなかったモノを私達が下手に弄っちゃったら、余計に陽色さん達が帰ってこれなくなっちゃうんじゃ無いかな」
淡々と、しかし諭すような言い方は切歌の心にスッと入り込んできて……落ち着かせていく。
「……だから。私達に今できるのは……この部屋の中でガンツを動かすことじゃなくて……部屋の外で、別の方法を模索することだと思う」
「……」
「それに、ブラックボールを扱える人に協力して貰えれば、きっとすぐにまた月に行ける! その為にも、今は陽色さん達を信じて……外に出よう? 切歌ちゃん」
「……」
そうしてガンツの前に座り込んでいた切歌へと伸ばされた手を……彼女は掴んだ。
「……分かったデス。私は……ひーろーを信じるデス」
「うん! きっと陽色さんは無事だよ! 安心して! だって、
「……むしろ不安になったデス」
「えっ?」
「……冗談デス」
そう言ってフッと笑った切歌は……意を決したように立ち上がる。
「──よし! じゃあまずは司令やエルフナインに相談デスッ!」
「……うん! 皆で頼めば、きっと司令やエルフナインちゃんは手を貸してくれる!」
そうして立ち直った様子の切歌を見ていた装者達も、皆自分に出来る事をし始め──。
「よっし。じゃあ早速オッサンに電話を──」
それはクリスが携帯を取り出した時だった。
「……ん? オッサンから……?」
その電話の主は、当の風鳴弦十郎からだった。
妙なタイミングでの電話に奇妙に思いながらも、彼女は電話に出る。
そして。
『──クリス君かッ!? 今何処に居る!?』
「えっ!? えーっと……あの、クレープ屋……暁の兄貴の部屋だけど」
『……そうか。ならば至急此方に来てくれッ! 大変なことになっている!』
「……え? ……大変なこと……?」
異様な雰囲気のクリスの電話に……俄に騒がしかった部屋は静まりかえっていく。
彼女の困惑したような相槌だけが部屋に響き、次第に険しくなっていくクリスの表情は電話の内容の重大性を物語っていた。
「……は?」
そして、思わず聞き返したクリスの言葉に……装者達は目を丸くした。
「……月の欠片が……地球に向かってきている……だと!?」
◇
「──響ッ!」
「ヒイロさんッ!?」
巨大な衝撃の後、衝撃に空に浮かんだ響を抱えて体勢を整える。
「……」
そして。
あれ程振動していたというのに、今はもう不気味なほど静まりかえった月遺跡に……非常に嫌な予感を覚える。
「ヒイロ……さん……」
「大丈夫だ、響」
「……」
胸中の嫌な予感を表には決して出さずに、響を宥めるようにそう言った。
しかし、嫌な予感というのは的中してしまうモノだ。
『──何が大丈夫なんだ? ……パパ』
──その声は、まるでこの空間から直接響く様に聞こえてくる。
何処か男勝りな語り口調のその声は……忘れようにも簡単には忘れられないくらいに、忌々しい程に美しい音色で。
気色の悪い呼び方も相まって、こんな事を言う奴なんて一人しかいない。
「!? この、声……!?」
そう、コイツは──。
「……『くろのす』」
既に肉体を失ったはずの……時の神だ。
「……お前……」
『おっ。その顔……どうして生きてるんだ、って聞きたいんだろ……ふっ…くくっ……良いぜ、教えてやるよ』
「……」
『くろのす』は一体何処から俺達を認識しているのか、俺達の困惑顔を楽しむように笑ったかと思うと……一人、語り始めた。
『私が以前、お前に初めて殺されかけて身体を失った時……緊急避難的に魂を『マルドゥーク』の一部に移したのを覚えているか?』
「……」
『ここは本来魂を保管するような施設じゃ無い上に、先客もいるって言う最悪な状況だったが……私、実は
「……」
『──そう。私はまだ……この『マルドゥーク』を身体であると捉えていた。だから助かったよ。お前の身体を追い出されても……まだギリギリの所で生き残れた。……いや、延命って……言った方が良いか』
「……」
『私はもうすぐ死ぬ。もって精々……数分と言ったところだ。身体を再生しようにも……二年も前のモノを再生する力はもう、私には無い』
そこで一旦言葉を句切った『くろのす』は、何処か寂しそうに息を吐いて……声色を変えた。
『──だから』
「──! 響ッ!」
「えっ──きゃあっ!?」
直後、圧倒的なまでの縦方向のGが俺と響にのしかかる。
『だからッ! せめて最後に……私のッ! 俺の悲願を叶えるッ!』
「ッ、コレッはっ!?」
『今、マルドゥークの一部を切り離し……私の『時操術』によって地球に向かって加速し続けているッ!』
「!?」
──確かに、『くろのす』の言うとおり、頭上に輝いていたはずの地球の姿がぐんぐんと近付いてきている。
最早誤魔化しようが無い。
コイツ……ッ!
「……テメェ……コイツを地球にぶつけようとッ!」
『そうだッ! 最早私に地球改変を行うだけの力は無い……ならッ!
「ッ──」
コイツは。
『はっはははははッ! 今計算したが、このまま加速し続ければ着弾時には地球の表面を消し飛ばす程の威力となるッ!』
「お前……ッ」
『これで! これでやり直せるッ! 例えどれだけ時間が掛かろうと、何十億年後にはまた必ずッ! 新たな知的生命体が誕生するッ!』
っ……コイツはッ。
『私はッ! そんないつかの未来に……全てを賭けるッ!』
コイツは……狂っている。
「何が……ッ! 何がてめぇをそこまで……!」
コイツの行動基準、価値基準は全て狂っている。
何もかもが……異常だ。
コイツは……ッ。
『──そんなの決まっている。
コイツは……。
「──」
……俺は、コイツの狂気の根源……ようやく見えた気がした。
『そう。
「……」
コイツは本気で……この行為が全て人類のためになると、信じている。
今有る全てを焼却しようと、過去を書き換えようと。
その果てに生まれた命が最善を尽くすのであれば……それで全てが報われるのだと、本気で信じている。
『──我が名は『クロノス』ッ! 時の神ッ! 我が身この世に有る限り……時はッ、決してッ! 止まることは無いッ!』
知らないんだコイツは……それが悪い事だと。
だからコイツは、人類皆殺しなんて大虐殺が正義の行いだと確信している。
『パパッ! 其処は特等席だッ! 見ていてくれッ! 人類が生まれ変わる……瞬間をッ!』
コイツは……全力で、真っ直ぐに一直線に。
何も知らない子供のように……人類を滅ぼそうとしている。
「……」
──コイツだけは、絶対に止めなければならない。
「……言ったはずだ」
『──あん?』
「地球を救うのは……『神』じゃ無いッ!」
『……』
「地球を救うのは……
──『くろのす』は、俺の啖呵を……鼻で笑った。
『──はっ! ヒイロ……お前一人に何が出来るッ! 何をやれるッ! 人はなァッ! 一人じゃ何にも出来ねぇーんだよッ! 弱くて、脆くて、そのくせ分かり合うことも出来ないッ! 誰もッ彼もッ!』
「……」
──それは、悔しいほどに正論だ。
遺跡は巨大で、俺にはもう武器も無い。
でも……それでもやらなければならない。
帰らなきゃ行けない理由が、俺にはあるんだ。
「それでも……俺はッ!」
重くのしかかるGを無視するように立ち上がる。
ただのそれだけで身体が軋みを上げ……それでも、一歩を踏みしめる。
「帰ってこいって……言われたんだよッ!」
プレラーティに……帰ってこいと言われたッ!
装者の皆にも……まだ何も返せていないッ!
弦十郎さんにも、世話になった人達にも!
何より……響を……!
俺は……諦めることも、裏切ることも出来ないッ!
「っ──おおおおおおッ!」
渾身の力で拳を地面に叩きつけ──遺跡を揺らす。
確かな感触が帰ってくる。二年前よりもより研ぎ澄まされた一撃は、遺跡の深部まで衝撃を伝えている。
しかし。
『──もう止めろよ、ヒイロ。無理だ。見ろ……お前の渾身の一撃は……ほんの少し遺跡を揺らした程度だ』
「ッ……」
『
そう……確かに衝撃は伝わっている。でも……敵が巨大すぎる。
俺一人の力じゃ、この遺跡を破壊しきるのには時間が掛かりすぎる。
「──じゃ、無い」
でも──。
「──一人じゃ、無い!」
『……あ?』
「ヒイロさんは……一人じゃ無いッ!」
俺には……響が居る。
「……響……お前……」
「……ヒイロさん」
彼女は、こんな状況だというのに……何処までも落ち着いた様子で俺を見ていた。
目覚めた直後だというのに、大変な事があった後だというのに。
そんな事を感じさせないように……響の目は真っ直ぐに俺を見つめている。
「……何か、考えが有るんだな」
俺のその問いかけに、響はこくんと頷いて……両の手を差し出してくる。
「……分かった」
正直、響が何をしようとしてるのか……さっぱり分からん。
でも。俺は
お前が何かしたいってんなら……俺はそれを信じて、お前に全てを賭ける。
シンフォギアでも、ガンツでも、ガンツの武器でも無く。
響……お前を信じている。
「……」
……思えば、何時からだったんだろうな。こんなにお前のこと……信じるようになったのは。
ふと思い出されたのは……あの日、最初にあった日の事。
あの時は普通に、巻き込まれてしまった一人の子供としか思っていなかった。
だから最初は本当に……ただ家に泊めてやるってだけだった。
「……」
でも。
でもお前と過ごしている内に……俺の人生の中の比率が、ドンドンお前に寄って行って。
お前に……生きる意味を貰った。
生きなくちゃならない意味がどれだけ増えても……生きる意味だけは、ずっと響だった。
「……」
もし『ヒーローへのラストピース』が存在するのなら。
それはお前だ、響。
「……私の全部、ヒイロさんに預けます」
「……なら。俺の全部を……響に預ける」
響の両手を取って、目をつぶる。
「──」
そして響は……歌を歌った。
◇
ずっと、考えて居た事があった。
もう一人の私の……シンフォギアという力の事を。
"私"が見せていたあの力強い鎧。
私が今着ているシンフォギアとは、少し違った形をしていた。
何でもアレは、"私"の誰かと手を繋ぐという思いが形となった
──じゃあ、私の
私の想いが形となったモノ。
「……」
ヒイロさん。
私、ヒイロさんの事が好き。
……愛しています。
……私には、ヒイロさんが居ます。
だから、繋ぐ両手はずっとヒイロさんで埋まっていて……。
そんな私の想いが形となるのが
きっとそれは──。
「Gatarndis babel ziggurat edenal──」
貴方と繋ぐこの手が、私のアームドギア。
「Emustolronzen fine el baral zizzl──」
ヒイロさん。
私の全部を……貴方に託します。
「Gatrandis babel ziggurat edenal──」
だからヒイロさんも私を信じて。
全てを委ねて。
「Emustolronzen fine el zizzl──」
これが、私の……。
「……ううん。私達の……」
「ああ。俺と響の……」
二つの光、瞬いて──。
「──これが二人の……絶唱だぁあああああッ!」
◇
──白と黒。
混ざり合わないはずの二つの力の輝きは……融解し、融合し、一つの輝きと錬成され──全てが一人へと集約されていく。
『ッ!? なんだ……それは!? 絶唱……なのか!?」
「……ヒイロさん……」
全てを託した少女は……男の腕に抱かれながら、愛おしむように彼の名前を呟く。
『知らない……何だそれは!? 私が使った時よりも……ずっと……!?」
『くろのす』の目前。
そこには……純白と漆黒が混ざり合った鎧を纏う……ヒイロが居た。
黒を基調としたスーツを下地に、端々に淡く『黒』が舞った白いシンフォギアが……輝きを放ちながらヒイロを覆う。
「……そうか、これが……」
──響の力を全て託されたヒイロは、一瞬困惑したように両手を眺め……しかしすぐに力を理解していく。
『っ……何処にそんな力が!? 何を握って力と変えた!? そうだ……お前が纏っているモノは何だ!? それは本当に私が使った力なのか!? お前が纏うそれは一体なんだ! なんなのだッ!?』
そして彼は響を優しく抱きかかえながら『くろのす』を見つめ……不敵に笑う。
「……決まってる。これは響と俺の……二人のシンフォギア」
──
十回クリアを果たし、GANTZの一部となったヒイロ。
ライブ会場の惨劇により、身体の一部にSymphogearが埋め込まれた響。
力そのものと言える二人が、響の『ヒイロと繋ぐアームドギア』によって繋がった。
「──そして。
次いで、響が語りながら……ヒイロは拳を構える。
直後。
『……あ。ああああああぁあああッ!!! 嫌だ嫌だ嫌だッ!』
莫大なフォニックゲインが顕現する。
星を穿つ一撃を、更に穿つその一撃。
「──行くぞ、響ッ!」
「──うん、ヒイロさんッ!」
二つの力が混ざって溶けて、一つとなったその技の名を──。
『ッ、私はッ! 俺はッ! まだッ、死ねないッ! 死ねな──』
──『GANTZ:S』
インパクトの衝撃は巨大な黒球となって月遺跡を吹き飛ばし──。
『──ッああああああぁあああッぁぁ……』
『くろのす』の魂を──吹き飛ばした。