GANTZ:S   作:かいな

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戦姫絶唱しないシンフォギア:GX

~地球に帰還してすぐのこと~

 

 それは見知らぬ孤島にて、ヒイロが響への告白を終えてから……暫くした後の話。

 

「……そう言えばヒイロさん」

 

「どうした?」

 

「思ったんですけど……ここからどうやって帰れば……」

 

 ふと思い出したように、響が疑問を溢した。

 

 そう。なんやかんや良い雰囲気の二人だが、現在絶賛遭難中。

 海の孤島に二人取り残されていた。

 

 ──だが。

 

「ああ。どうも、ガンツとの通信は回復してるし……もう帰れるぞ」

 

「ええっ!? そうだったんですか!? 私てっきり遭難しちゃったかと……」

 

「安心しろ。ちゃんと帰れる」

 

 先程まで掛かっていた月遺跡の欠片による通信障害も消えたのか、ヒイロは何時ものようにこめかみに手を当ててガンツとの通信を図っていた。

 

「ま。仮に遭難したとしても俺はサバイバル術を修めているからな……何の問題も無い」

 

「へぇ……通信教育でですか?」

 

「ふっ……新装版灘神影流『いざって時のサバイバル術』。旧版のナイフ術や食べられる虫に加え、虫の調理法や熊と遭遇した時の殺し方等が追加収録された完全サバイバル書だ……」

 

「……」

 

 ドヤ顔で語るヒイロを見て、響は思わずあきれ顔で笑った。

 

「ヒイロさんって本当に変わらないですね……」

 

「おいおい。進化したと言ってくれ」

 

 そう言いながら、ヒイロはしれっと響に手を伸ばす。

 

「……ま。ともかく……帰るか、響」

 

「……そうですね、ヒイロさん!」

 

 そして、ヒイロたちは帰っていく。

 

 ……そう。

 

「──おいオッサン! 月の欠片ってのはどう言う──え?」

 

「あ」

 

 色々とありすぎた故に忘れていた……装者達の元へと。

 

~地球に帰還してすぐのこと その2~

 

 彼女達は一瞬驚いた様に目を丸くして……けれど、すぐに嬉しそうな笑顔を浮かべて俺達を迎え入れてくれた。

 

 思えばそれは初めての経験だった。

 こんな風に仲間に迎えられるのが。

 

 今にして思えば、俺は他の部屋の住人達が羨ましかったのかもしれない。

 俺は何時だって一人で戦ってきた。

 一人で戦場に赴き、一人で戦い、一人で帰ってきた。

 

 けれど……気付けばそこに響が加わって。

 ラストミッションを迎えて初めて……こんなに多くの仲間に囲まれる事になるなんてな。

 

 人生ってのは、分からないもんだ。

 

「……」

 

 ……だから、この展開も読むことは出来なかった。

 

「……」

 

 現在、俺達はファミレスで軽く打ち上げのような物をしていた。

 

 していた……が。

 

「……」

 

「……」

 

 場の空気が最悪だった。

 

 時は1時間ほど前まで遡る。

 俺達が部屋に帰還してからすぐ、俺達は弦十郎さんに事の次第を説明していた。

 そして大体の事を説明し終えた後、弦十郎さんが俺達の事を気遣ってか最低限の報告を終えたら今日はもう解散でいいと言ってくれたのだ。

 

 確かに、今日は色々とありすぎた。

 流石に俺も少し疲れていたし、弦十郎さんのその気遣いはとても有り難かった。

 

 だから俺はさっさと家に帰って寝ようとしていた……のだが。

 

『──そうだ! 陽色さんと響も帰って来れましたし、軽く打ち上げでもしませんか!?』

 

 立花さんが妙なことを言い出した。

 

『えっ、今から?』

 

『そうですよっ! 多分、皆が集まれる機会ってもうそうそう無い筈ですし! 今のうちに行っちゃいましょう!』

 

 俺がえ? マジで? といった風に言葉を溢して目を見開いていると、立花さんは至極当然と言わんばかりに力説してくる。

 

『えぇ……?』

 

 その時点で俺はもう本当に凄く疲れていたので、出来ることならご遠慮しておきたかったのだが──。

 

『打ち上げか……確かに、この機会を逃すと随分と先になるかもしれんな』

 

 何故か風鳴翼も立花さんに同意する様に頷いた。

 

『おいおい先輩、マジでそれ言ってんのかよ』

 

 雪音さんは何処か呆れたように立花さんと風鳴翼を見つめている。

 彼女の考えている事は俺と同じだろう。

 

 連戦に次ぐ連戦で疲れてるってのに、本気で打ち上げするつもりなのか? と。

 

 この時点で賛成二人に反対二人だ。

 本当に打ち上げに行くかどうかは、残りの響、キリカ、マリア、月読さんの四人によって決まる。

 その中でいの一番に動いたのはキリカだった。

 

『私は行きたいデース』

 

『えっ? キリカお前……マジで?』

 

『色々聞きたいこともあるし丁度良いデース』

 

『えっ?』

 

 何処か棘のある言い方で賛成の意を表明してきたキリカに驚いていると、更に驚くべき事が起った。

 

『あ、それなら私も行きたいかな』

 

『えっ? 響?』

 

『私も丁度……ヒイロさんに聞きたいことあるし』

 

『えっ……? お前も……?』

 

 なんと響も打ち上げに賛成だという。コレには衝撃だった。

 なにせ少し前までくろのすの野郎に乗っ取られてたのだ。なのに休みもしないで大丈夫なのか? という俺の心配をよそに、響はつーんとした表情で賛成を表明した。

 

 どうしたんだよ二人とも……。

 

『賛成四人に反対二人……月読とマリアはどうする?』

 

『……』

 

 俺の困惑をよそに、ドンドンと話が進んでいく。

 やばい。何か行く方向で話が纏まりつつある。コレはヤバい。疲れているのもそうだが、女性七に対して俺一と言う肩身が狭すぎる状況で打ち上げなんて可能な限りしたくなかった。

 

 最早こうなれば頼みの綱は月読さんとマリアの二人だけ──!

 

『切ちゃんがいくなら私もいこうかな』

 

『……』

 

『……それじゃあ、もう私が何を言っても変わらないわね。行きましょうか』

 

『……』

 

 頼みの綱は切って捨てられ……俺達はこうしてファミレスで打ち上げすることになった。

 この時俺は正直、『まぁどうせただの打ち上げだし別にいっか』と楽観視していた。だってそうだろう? 互いに積もる話はあれど、それが面倒臭いことには繋がるとは普通は思わない。

 しかしそれは間違いだった。俺はなんとしてもこの打ち上げを止めるべきだった。

 

 ──そう。始まりはファミレスの席に座った直後の切歌の一言からだった。

 

『で、ひーろーともう一人の響さんは何処までヤッてるデス?』

 

 あまりにもあんまりな一言目を放ったキリカのその目は……マジだった。

 マジの目をしていた。

 

 そして冒頭へと至る。

 

~地球に帰還してすぐのこと その3~

 

 そのあまりにマジな雰囲気なキリカの追及を受けたヒイロは、まるで取り調べでも受けてるかのような重苦しい空気の中回答を茶化せるわけでもなく、あれこれ打ち上げだよな? と思いながら冷や汗を垂らしながら口を開いた。

 

「……いや、何処までってお前……そりゃ健全な」

 

「健全な? ん? 何デス? 言ってみるデス」

 

「そ、そりゃその……キ、キスくらいというか何というか……」

 

「えっ!? そうなの響!?」

 

 そしてそれに反応したのは今の今まで沈黙を貫いてきた立花響であった。

 自身が言い出した打ち上げ故、彼女としても切歌の暴走ともいえる質問は打ち切るべきと考えていた。

 しかし恋愛というものが気になるお年頃でもある響にとって自身のクローンである響と、不思議な距離感のお兄さんであったヒイロとのあれやこれは……正直とても気になった。

 

 故に今の今まで沈黙を続けていたが……。

 

「え、う、うん。何て言うか……流れで」

 

「えええっ!?」

 

 少し頬を赤らめながら頷いた響を見て、響と切歌は絶叫の如き声をあげた。

 それは恋愛というものに興味津々な少女たちにとって劇薬といっても過言ではない情報だった。

 

 そして、それは何も響や切歌だけの話では無かった。

 何せここには、恋愛経験のない耳年増なシンフォギア装者達が何人も居るのだから。

 

 彼女達はその偏った情報や価値観を元にヒイロと響の関係性を妄想した。

 曰く、『追い込まれている女子高生に手を出すキレた大学生』。

 字面だけで言えばやばい雰囲気がプンプンである。

 

 故に。

 

「クレープ屋お前……いや、普通はそんな感じなのか? いや、でも普通女子高生と付き合うってんならもっと時間掛けるべきだろ」

 

「えっ、ちょっ」

 

 クリスからは大人としての自覚を問われ。

 

「不埒。年端も行かぬ少女に手を出すとは」

 

「あ、あの」

 

 翼からは吐き捨てるような一言で切って捨てられ。

 

「ふーん……そう言うモンなのね」

 

「マ、マリア……?」

 

 憧れのアイドルに自身の恋愛事情を知られ。

 

「ノーコメントで」

 

「……」

 

 妹の親友からである月読からは何とも言えない反応をされ。

 

「はぁー!? そ、そんなのあまりに早すぎデス! 健全でも何でも無いデス! すけべッ!! どすけべひーろーッ!」

 

「……」

 

 そして妹からは顔を真っ赤にしてキレられすけべ呼ばわりされ。

 

「そ、そうですよヒイロさん! 少し早すぎます! もっと段階を踏んでくださいッ!!」

 

「……」

 

 響の元となった少女に顔を真っ赤にされながら窘められた。

 

「……」

 

 それはもう見事なまでの連撃だった。知り合いから憧れの人、妹から何とも言えない間柄(恋人のコピー元)の人まで、全員から自身の恋愛事情について知られたばかりでなく、ついでに駄目出しを喰らうと言う状況。

 

 ヒイロはかつて無いほどの精神的ダメージを喰らっていた。

 しかしここで一つの救いの手が差し伸べられた。

 

「ま、待ってください皆さん!」

 

「ひ、響……?」

 

 そう。それは誰でもない、ヒイロの恋人響だった。

 彼女は騒ぎを抑えるかのように立ち上がると、語り出した。

 

「ヒイロさんは……その。とても私のことを大事に()()()()()()()()し。それにその、キ、キスだってその、緊急事態の時に勢いに乗ってと言うか……ともかく、皆さんが想像している感じの関係じゃないです!」

 

「ひ、響……!」

 

 それは自身の恋人への助け船であった。

 四面楚歌もかくやという状況に差し伸べられた蜘蛛の糸に、ヒイロは思わず声が震えていた。

 

「む……お前がそー言うんならあたしはこれ以上何も言わねーけど」

 

「確かに、本人が了承している間柄なら問題は無いか」

 

「そもそもよく考えれば、あれだけ切歌や響のことを必死で助けようとしていた人が女子高生を誑かす悪漢だとは考えづらいわね」

 

「ああ、それは確かに」

 

「……た、確かに。ご、ごめんなさいヒイロさん……ちょっと興奮しちゃって……」

 

 そしてその効果は絶大で、リアルな恋バナで変な方向にヒートアップしかけていた装者達は落ち着きを取り戻していった。

 

「……」

 

 約一名の義妹を除いて。

 

「……まぁ、分かってくれたんなら別に良いよ。ともかく、何か頼もうぜ」

 

 とにもかくにも、自身に掛けられていたあらぬ誤解が解けた様子に安堵したヒイロは、メニューを開く。

 

 ──しかし、安堵するのはまだ早かった。

 まだ大本命の地雷が残っていたのだから。

 

~地球に帰還してすぐのこと その4~

 

 いや良かった。何か皆変な感じにヒートアップしちゃってたからな。

 

 ヒイロはそんなことを思いながら、響の鶴の一声によって落ち着きを取り戻した打ち上げメンバーを見て安堵の息を漏らす。

 

「……」

 

 変に焦って出て来た汗を拭いながら、ようやく落ち着けるとばかりにメニューを開いた。

 ヒイロは当初こそそこまで乗り気ではなかったが、折角の打ち上げなので、来た以上は楽しみたい。

 

「……」

 

 その為にも、これ以上は変な事は起らないで欲しいもんだが──ま、そうそうそんな事起らないだろうがな!

 

 ヒイロがこれ以上無いほどのフラグを立てながらメニューを見ていると……ふと、隣に座っていた響が立ちっぱなしである事に気付いた。

 

「? どうしたんだよ響。座らねぇのか?」

 

「……」

 

「……?」

 

 不思議に思って声を掛けたが、響はヒイロの言葉を無視するように俯いたまま言葉を発した。

 

「ヒイロさん。さっき、私も聞きたいことがあるって、言いましたよね」

 

「……ああ。言ってたな」

 

「今それを聞きたいんですが」

 

「……飯の後じゃ駄目なのか」

 

 何だ。

 何か凄い嫌な予感がする。

 

「そんなことよりもずっと大事な事です」

 

「……」

 

 しかし何処か生気を感じさせない瞳で響はヒイロの言葉を切って捨てると──とんでもない事を言い出した。

 

「ヒイロさんの好みのタイプなマリア・カデンツァヴナ・イヴさんって誰ですか……? 私が居ない間にその方と何があったんですか?」

 

「──えっ」

 

 投下された爆弾は、落ち着きを取り戻した装者達にざわめきを取り戻させた。

 

「え。私!?」

 

「は? マリア? は? 浮気?」

 

「えぇ……?」

 

「マリア……?」

 

「マジかよクレープ屋」

 

「……?」

 

 いきなり巻き込まれたマリアを筆頭に、義妹が、義妹の親友が、翼が、クリスが、立花響が。

 思い思いに困惑の表情を見せ、ドン引きしたような表情をヒイロに向ける。ついでにマリアにも。

 

「……」

 

 そこでようやく、ヒイロは思いだした。

 『全知の神』の置き土産である、怒濤のネタバレを。その中にさりげなく混ぜられていた地雷を。

 そして悟った。此より後の時間は全て、打ち上げなどではなく──。

 

「ああ……」

 

 ギロリと此方を見つめてくる装者達への言い訳に使われるのだな、と。

 

~地球に帰還してすぐのこと その5~

 

 もうやだ。

 つかれた。

 どうして俺がこんな目に。

 思わずベッドに倒れ込む。

 

「ご、ごめんなさいヒイロさん……! 変に疑っちゃって……」

 

「ああ……こっちこそスマン。俺が説明不足だった」

 

 響はそんな俺の姿を見て申し訳なさそうな様子だが、謝るべきは此方だ。

 そりゃ、目が覚めたら彼氏の様子が変わってて、周りに女しか居ない状況とか普通に考えて不安すぎるよな。しかも『全知の神』からのネタバレ付きだ。

 俺が逆の立場だったら動揺しすぎて脳が破壊されているところだ。

 

 とは言え、あらぬ疑いを晴らすのに疲れたというのも事実だ。

 

「……しかし、出禁になるとはな」

 

 時刻は既に昼。朝からファミレスに向かい、今は昼だ。

 

 ──そう。

 あの後結局、装者達からのあらぬ疑いを解くのに昼まで掛かってしまった。

 最終決戦の事、『全知の神』についてのこと、俺がマリアの正当なるファンである事。

 これらを全て伝えてようやく納得して貰えた。

 

 そしてようやく全てが終わったと思えば、今度はファミレスの店長さんが出て来て、『君達騒がしいから出禁ね』と言われてしまった。

 結局その場は解散だ。

 

 そうして場所は変わって、久しぶりに帰ってきた俺の部屋。

 切歌やS.O.N.Gの人達が管理してくれていたのか埃などはなく、そのままの状態で残っており、取りあえずはそのまま暮らせる様な状態である。

 

 とは言え今後の諸々の手続きなどがあると考えると億劫である。

 

 そうして無言でいると、響が語りかけてくる。

 

「……疲れましたね」

 

「……疲れたな」

 

「……結局、ご飯食べられなかったですね」

 

「……そうだな」

 

 ベッドから顔を上げると、響と目が合う。

 

「……」

 

「……」

 

 そして暫く無言で見つめ合っていると、何方ともなくプッと笑い出す。

 

「あーあ、なんか気が抜けちゃいましたねっ!」

 

「そうだな。なんつーか、全部纏めて終わり、とはなんねーな」

 

「そりゃそうですよ! 人生はこの後が長いんですからっ!」

 

「お、語るじゃねぇか高校生が」

 

「むっ! 人生経験なんて長さじゃないんですよっ! 濃さなんです! 私ほど壮絶な人生送ってれば色々と語れますからっ!」

 

「おいおい、それを言ったら俺も相当なもんだぜ?」

 

「……」

 

「……」

 

 そしてまた互いに見つめ合い、二人して笑い出す。

 

「なんか作るか」

 

「そうですね! 久しぶりに腕を振るっちゃいます!」

 

「ああ……いやまてよ? 材料あったか?」

 

 ああ。

 ようやく、戻ってきたんだな。

 

「うーん、見事にすっからかんですね」

 

「──っし、何か買い行くか」

 

「はい!」

 

 平凡で……普通な日常に。

 

 さっきまで、何処か実感できないでいた……平和に。

 

(……母さん。俺、やっと戻って来れたよ)

 

 この日常に……大事な人()と、一緒に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~新たなる試練~

 

「そういや今日は月曜か。ついでに小ジャンとヤンマガ買うか」

 

 食材調達の帰り道、ヒイロさんは昔と何も変わらない口振りで、そう語りかけてくる。

 

「了解です! じゃあ途中のコンビニ寄りましょう」

 

 そう返事を返して、ふと違和感を覚えた。

 

「……」

 

 本当に小さな、小さな違和感。

 ヒイロさんは確かに昔と何も変わっていないけれど……何故違和感を覚えるんだろう。

 

「……あっ!」

 

 コンビニに入るまでその妙な違和感に首を傾けていたけれど、その違和感の正体はコンビニの書籍コーナーに()()()()を見たことで判明した。

 

「……」

 

 思わずその本を手に取り、パラパラと捲って読み進める。

 そして読み進めていく内、ドンドンとヒイロさんは大丈夫なのかと気になってくる。

 

 結局その好奇心に負けて、すぐ隣に立つヒイロさんに聞いてしまった。

 

「ヒイロさん……」

 

「あん? どうした響」

 

「あの……つかぬ事をお伺いしますが……」

 

「なんだよもったいぶって──」

 

「──就活って、大丈夫ですか?」

 

 瞬間、私とヒイロさんの間に沈黙が生まれる。

 

「……」

 

「……」

 

「……卒業とか、大丈夫ですか?」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 まるで鳩が豆鉄砲を喰らったかのような表情から察するに、きっとヒイロさんは意識すらしてなかった事だろう。

 

 ヒイロさんは留年していなければ現在大学三年生。

 私の手元には、就活についてのイロハが書かれた本がある。そしてそこには、大学三年生の内から動くべし、とか何とか書かれている。

 

「……」

 

「……」

 

 きっとそれが全てではないだろうけど、就活が大変だという話はリディアンの時から良く聞く話だ。

 

 そうだ。

 私が抱いた違和感の正体が分かった。

 来年に就活を控えているのに1年前と全く変わってないヒイロさんに……私は違和感を抱いたんだ。

 

「……」

 

「……」

 

 ミッションとは関係ない、普通の生活がこれから始まっていく。

 

 ──でも、普通とはかけ離れた生活を送っていたヒイロさんにとっては、それはミッション以上の新たなる試練なのかも知れない。

 

「……」

 

「……」

 

 完全に固まってしまったヒイロさんを見て、私はそう思った。

 

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