そこは都内某所のとある部屋だった。
家具一つ無い殺風景なその部屋には、家具の代わりに一つの黒い球体が鎮座していた。
この球体の名は、GANTZ。
少し前までは夜な夜な死者を集めて化け物と殺し合いをさせていた黒い球である。
そんな黒い球の部屋に謎の紋章が浮かび上がる。
直後、こんな殺風景で不気味な部屋には似つかわしくない眼鏡を掛けた美少女が現れた。
「……」
彼女は部屋についてすぐに一瞬だけGANTZへと視線を向けた後、まるで見下すような表情で視線を下へと向けた。
「……はぁ」
その少女の名前はプレラーティ。パヴァリア光明結社の最高幹部の一人にして錬金術師。
そんな彼女の軽蔑したような視線の先には……一人の男が横たわっていた。
「……お前、何やってるワケ?」
──彼の名はアカツキヒイロ。幾夜も続いた化け物との戦いを潜り抜け、戦い抜いてきた強者。そしてプレラーティの友人であり、彼女が今日この部屋に
そんな百戦錬磨の彼が、何故か弱り切った姿で横たわりながらプレラーティへと助けを求めた。
「……助けてくれ……プレラーティ」
「……」
「……就活が……辛すぎる……」
「……アホかお前?」
──そして、時は数ヶ月前まで遡る。
~就活を初めてすぐの頃~
それは響から意識外の一言を叩き込まれた日の事であった。
「……就活か……よく分からないが就活サイトに登録して、面接やってからエントリーシートってのを書けば良いんだろ」
あの後響から絶対に今から就活を始めるべきだと言われたヒイロは、流石に動き始めるべきか? と思い、取りあえず自身のふわふわな就活知識を思い出しながら就活サイトに登録を始めた。
なお先程ヒイロが語った内容は正確では無く、実際は大抵の場合『応募、企業説明会、書類選考、面接』という流れを取るのでお間違えないよう。
さて、早速登録が完了したヒイロはふむふむと唸りながらサイトに載っている企業を見ていく。
「おおーすげぇ量の企…業…………………」
大手就活サイトに表示される数々の大企業達を眺めていたヒイロだったが、ふとある事に気付いた途端に顔を青くしていく。
「……ここも……ここも……うっ……ここも戦ったことがある企業なんだが!? って言うか、何ならこの就活サイトの会社とも戦ってるわッ! クソなんだこれッ」
そう、この大手就活サイトには大手やその関連企業、中小企業などが登録してあるのだが……企業であると言う事はつまり、ほんの少し前までブラックボールを操っていた黒幕達である。
「くそ……じゃあ中小企業とかは……イヤ駄目だ。大手と関わりが有る時点で一枚噛んでる可能性がある……!」
そしてタチが悪いことに、ブラックボールに関わっていた企業は何も力を持った企業だけでは無い。中小企業もまたブラックボールと関わりがある。
力を持った『企業』の関連子会社として、取引先として、国家成立後の駒として。様々な理由から数多くの企業がブラックボールへと関わっていた。
そして『Apocalypse』後の動乱においても、ヒイロと『企業』達はぶつかり合っていた。
何故なら『企業』は米国と通じていたから。そもそも『企業』がここまで大立ち回りを出来たのは米国からの支援が有っての事だ。
では何故米国は少なくない投資を行い、『企業』と手を組んだのか? それは簡単で有る。
米国としてはブラックボールによって生まれ変わった新世界で、『企業』が支配した日本と言う確実なる味方を手に入れることが出来、『企業』としては日本の実権という莫大な利権を手に入れる事が出来るまたとない機会。彼等は正にWin-Winの関係であった。
故に国内に居た時は然る事ながら、国外で米国を邪魔するためだけに傭兵として金を稼いでいた時に『企業』達と直接ぶつかり合った事がある。
そんなことが有ったため、ヒイロにとって『企業』とは人生の宿敵なのだ。
「……これ、応募したらどうなるんだ……? 書類で選考とか面接とかそれ以前の問題じゃねぇか……?」
そんな大事に、今の今まで就活のこと何て考えていなかったヒイロは今更ながらに気が付いた。
「……まぁ、一応応募するか。もうこうなりゃやってみたい仕事で選ぼう……俺は医療に携わりたいし医療系の会社が良いな」
だがだからと言って就活しないと言う訳にもいかない。就職とは人生を決める大切なモノなのだ。
例え相手が殺し合った仲とは言え、手を取り合わなければならないときは何時か必ず来るモノだ。
故にヒイロは取りあえず就活を続けていく。
「この会社とかどうだ? 名前は聞いたこと無いけど待遇が良ければ……えーっと待遇は……」
しかし、ここでもまた躓く。
「……資本金五億円? 1970年に設立? で、初任給20万円弱で……平均勤続年数が10年で有給取得日数が8日? これは多いのか少ないのかどっちだ。うーん……よく分からん……よく分からんが働けるならヨシ! とにかく応募!」
ヒイロは就活サイトで見るべき情報を知らなかった。別に就活生は資本金なんて知らなくても良いし、設立日もそれ程確認する必要など無い。
しかしよく分かっていないがきちんとエントリーしているだけでも偉いので、そこは褒められるべきである。
ともかく何とかエントリーが終わったヒイロだが、ここでメールが届く。
「……あん? さっき応募した企業からか……? え、まさかもう落とされ……ん? 企業説明会?」
どうやらこの企業は以前少しばかり殺し合っただけの前途ある学生を落とす様な企業では無かったらしく、早速企業説明会への案内が届いていた。
まぁ、実際はただただ自動で案内のメールが届いただけなのだが。
ともかく、第一の関門は突破である。
記念すべき内定への第一歩だ。内定までは一万歩あるかも知れないが。
「企業説明会……なる程、これでどんな会社か推し量れってか。よし、これにも応募しよう」
そして、ヒイロはその後も色々な企業に応募し、説明会への参加の予定を入れていった。
「いや良かった良かった。流石にエントリー後即お祈りは堪えるからな」
ヒイロにとってはそれだけで既に一仕事したような気分ではあるが、実際はまだまだ就活は終わらない。
それは流石にヒイロも理解しているようで、説明会のために必要な物を確認していく。
現在ヒイロが直近でやるべき事は、説明会のためのスーツを揃えることである。
「えーっと何々? 来週の10時にこの会場でやるのか。持ち物は筆記用具に交通費、服装は……私服で? ふーん、こう言うのってスーツのイメージだったけど……私服で良いならそれで行くか」
あっ。
「──ヨシ! 準備終わり! さて、撮りだめしてたプリキュアでも見るか」
──確かに私服で良いと要項に書かれている以上、私服でも問題はないだろう。しかし、就活中のイベントは無難にスーツを着て参加した方が変に目立たない。
それを証明するかのように、この後ヒイロは説明会で周りの就活生が皆スーツで来ている事に大いに動揺し、その日の説明会の内容など殆ど頭から飛んでしまうだけで無く、採用担当からも変な学生と言う認識をされてしまうのだが……。
だが我々に出来ることは何も無い。
我々に出来るのはただ祈ることだけである。
そう……ヒイロのますますの活躍を……!
~プレラーティの思惑~
あれから数ヶ月が経った。
流石にこの数ヶ月の間で色々と学んだのか、ヒイロは少しだけ就活に詳しくなった。
もう説明会にジーパンとTシャツで行くという暴挙はしないだろう。
しかし、分かったからこそ辛くなる事もある。
「俺……『企業』に就職したくねぇ……」
「……」
「俺さ……つい最近まで一件百万ドルクラスの仕事してたんだぞ……? なのに何で月給20万円で働かなくちゃいけないんだ……?」
「……」
「今までの仕事は全部この部屋で完結してたのに……何で時間を掛けて出勤しなくちゃいけないんだ……?」
──そう。それは以前までの傭兵稼業とのギャップ。
数時間戦闘すれば日本円にして1億は堅かったと言うのに、『企業』に就職すればどれだけ働いても月給20万円。
また以前までは仕事を受注してから後、転送で直接職場に赴けていたと言うのに、就職すれば基本は電車通勤である。転送通勤などしようモノなら定期券の履歴の提出を求められたときに詰んでしまう。
「……それに……それに……!」
そして、何より許せないことがあった。
「普通に考えて敵対してた上に国家転覆企んでた奴等の下で働きたくねぇよ……」
「……」
そう。そもそも『企業』は敵だった。
面接の時に御社の企業理念に惹かれて……なんて口が裂けても言えない関係だった。
以上の事からヒイロは就活がもう、イヤでイヤで仕方なくなっていた。
「……ああ……もうイヤだ……」
「……」
そしてヒイロはここ数週間ずっとこの調子である。
と言うのも、ここ数週間響がS.O.N.Gの手引きによって、立花響の双子の妹と言う形でリディアンに編入出来たので有る。
そんなことも有ってか響と居られる時間が減り、結果見栄を張る事も少なくなった事でこの就活イヤイヤ期が数週間ほど続いているのである。
「……はぁ」
そんなヒイロの目も当てられない惨状を目の当たりにしたプレラーティは、溜め息を吐いて寝転がったヒイロへと近付くと。
「う・ざ・い!」
「ぐおっ!?」
寝転がったヒイロの頭を踏みつけた。
しっかりと靴を脱いで登場していたため、ヒイロは頭から靴下越しにプレラーティの体温を感じる。
「さっきから黙って聞いてればグチグチグチグチと、うざったいたらありゃしないワケだ」
「……」
「第一お前が語ったことなんて、そんな事早い段階で気付けるワケだ」
「ぐっ……それは……俺だって……」
「ああ、もしかしてあれか? お前、皆がやってるから、言われたからって、何も考えず行動していたワケか。そんなんじゃ幾ら時間を掛けたって何も解決しないワケだ」
「……」
「お前はどっち付かずのまま、何も決めないまま、ただ無意味に時間を浪費していただけなワケだ」
「……」
「お前のやり方、正しくないワケだ」
ふみふみと足を動かしながら正論を叩きつけるプレラーティ。
それはもう、人生の先達からのガチの説教だった。
──そう。
ヒイロとて分かっていた。自分を押し殺していた。
何せ世間体というモノがあった。今後響を養うためにも安定した給料が必要だった。今までみたいに気軽に命を的に掛けられなかった。もう自分の人生は自分のモノだけではなくなっていた。
だから、心の奥底に根付いた『企業』への不信感と嫌悪感、傭兵時代との待遇のギャップ。自分の感情やら何やらに板挟みになりながらも、頑張って就活をしていた。
だが響と居られる時間が減って、最近色々と分からなくなってきた。
もし、彼に親が居れば彼等に相談するだろう。
もし、S.O.N.Gの職員達や司令が世界中を飛び回っていたりしなければ、彼等にだって相談しているだろう。
もし、セバスチャンがもう少し人生相談できるほど頼りがいのある大人だったら、相談しているだろう。
「……じゃあ教えてくれよ。この就活の終わらせる方法を」
しかし彼は誰にも相談できぬまま一人で抱え込んで、ここで倒れている。
今の彼は暗闇の荒野を明りも持たぬまま歩く旅人も同然だ。
──しかし。
「ああ、教えてやるワケだ。私がな」
「……え?」
彼には頼れる友人がいた。
「……お前、私が作る会社に来ないか?」
そう、だんだんとヒイロを踏みつけるのが
~プレラーティの思惑 その2~
ヒイロは踏みつけられた体勢のまま、彼女の話に耳を傾ける。
「実は最近、裏の世界で色んな奴が動きを見せ始めているワケだ」
「……裏の世界?」
「ああ。今まであった常識が壊れて、新たな秩序が生まれようとしている。そんな状況下で、日の目を浴びられずに居た奴等が動き始めるのは当然なワケだ」
「……」
そして語られたのは何とも物騒な話。
裏の世界に明るくないヒイロとしては何とも実感の湧かない話だ。
「……それで、それが何で会社を作ることに繋がるんだよ。言っとくが俺はもうあまり物騒なことには──」
「そりゃ当然、物騒な事の為に会社を作るワケだ」
「……」
「おっと、勘違いするなよヒイロ。話には続きがあるワケだ」
もう聞くことは無いなと言わんばかりに立ち上がろうとしたところで、プレラーティからの待ったが掛かる。
「私達が作ろうとしているのは、所謂傭兵の派遣会社なワケだ」
「……」
「会社を作る理由は簡単。動き出した裏の組織達に対抗するため。主な構成員は錬金術師の予定なワケだが……ここで一つ問題があった」
プレラーティは大袈裟なまでに溜め息を吐くと、言葉を続けた。
「アダムのクソ野郎の暴力に従ってた奴等が抜けた結果、結社内の武闘派錬金術師の数は少なくなり、その数少ない武闘派を各地に派遣せざるを得なくなった事で──」
「……」
「──すぐに動かせる錬金術師達は皆ひ弱で虚弱な奴等しか居なかったワケだ」
「えぇ?」
そうして出て来た言葉はあんまりなモノだった。
「研究成果すかすか、戦闘能力ざこざこ、何もかもが駄目な奴しか今のパヴァリアは動かせないワケだ」
「……」
酷い言われようなざこ錬金術師達である。
あまりの言われように少しざこ錬金術師達が可哀想に思えてきたヒイロだが、ふと気付く。
「……なぁ。結局何で俺は新しく作る会社ってのに誘われたんだよ」
すると待ってましたと言わんばかりにプレラーティはヒイロへ顔を近づける。
「ヒイロ。パヴァリアのざこ錬金術師達を鍛えてやってくれ」
「……は?」
~プレラーティの思惑 その3~
プレラーティの言葉を要約すると、世界の秩序が崩れたタイミングで表に出て来た裏の勢力を叩くため、パヴァリアが対抗組織を結成しようとする。
しかし現状動かせるのはざこ錬金術師達しか居ない。
そこで、戦闘経験豊富なヒイロに錬金術師達を使える程度に鍛え上げて欲しい、とのことである。
確かにこの仕事内容であれば、ヒイロ自体は物騒な事には巻き込まれないだろう。
ヒイロにとってもプレラーティが作った会社であれば何の忌避感も無い。
なので、ここで気になってくるのは一つだけだった。
そう。それは待遇。幾ら友人関係とは言え無償で仕事は出来ない。いや、むしろ友人だからこそしっかりとお金のやり取りはしなければならない。
「……なぁ」
「──ああ。給料については安心して良いワケだ。これだけ用意しているワケだ」
そしてそれはプレラーティの方も当然理解していたようで、ヒイロが言い終わるよりも先に答えた。
しかしその返答は言葉では無く、手を広げて五本指をヒイロに突きつけるだけであった。
「……何? 五万円だって?」
「桁が一つ少ないワケだ」
「……え? 何、
それは新卒の給料としては破格な内容。
その内容に面食らっているヒイロを見て、くつくつとプレラーティは笑う。
「ふっ……違うワケだ。これは
「……え日給!?」
それはもう破格とか言うレベルでは無い。
一ヶ月に大体20日ほど働くとなると、月給一千万である。
年収にして一億二千万円。
何処の会社の社長だよと言わんばかりの給料である。
「……いや、え? それマジで言ってる?」
「マジだぞ」
「……まだエイプリルフールには早いぞ」
「マジだぞ」
「……嘘だ。俺を騙そうとしている」
「マジだぞ」
「……そ、そうだ! きっとあれだろ、死ぬほど働かせるつもりだろっ!?」
「完全週休二日制で各種休暇も取りそろえてるし、有給もちゃんと出すワケだ」
「きゅ、休暇……有給……」
「しかも週40時間のフルフレックスタイム制を導入して居るワケだ」
「フ、フルフレックスタイム……」
「それにこの御時世、お前の家族や恋人に何かあったら不安だろ? そうならないよう、何かあったときに私が助けてやるオマケ付きなワケだ」
「……それは……」
「なぁヒイロ。この待遇で良いと思わないワケ……?」
「うっ……」
この瞬間ヒイロは確信した。
プレラーティはマジでこの待遇でヒイロを会社に迎え入れようとしている。
目がマジだった。あの時の切歌と同じ目をしていた。ヒイロは何度か経験しているから分かる。
これはマジで言っているんだと。
「……何で、そんな好待遇で俺を引き込もうとするんだよ」
「私はお前を高ぁく評価しているワケだ。これくらいの事何でも無いわけだ。それに……私とお前の仲だろう?」
「……」
少し顔を赤らめながら、しかしヒイロを踏む足は退けぬまま、恥じらうように語るプレラーティを見て、ヒイロは思わず心の中で呟いた。
いや、胡散臭い。
あまりにも胡散臭い。
絶対何か裏がある。
だがこの待遇が本当だったら……。
プレラーティに踏まれながら頭の中で色々な考えが飛び交っていく。
「……」
そんなヒイロの姿を尻目に、プレラーティは怪しくにんまりと口を歪める。
(……くくく。悩め悩め。ほれ、また考える要素を足してやるワケだ)
「……そうそう。もう一つ重要な要素が有るワケだ」
「え?」
「──お前、自分の前年の所得税がどうなってるか把握してるか?」
~プレラーティの思惑 その4~
ふっ。見える見える。お前の間抜け面に『ぜんねんのしょとくぜい?』とはてなマークが浮かんでいるのが見えるワケだ。
くくっと笑いそうになるのを堪えながら、私はヒイロへと言葉を続ける。
「お前、去年大分荒稼ぎしたワケだ」
「……ああ」
「当然、そこには給料に対しての税金が発生し、お前は得た給料に対しての所得税の支払いの義務が存在するワケだ」
「……義務?」
本当に何も分かっていなさそうなヒイロの奴の頭をぐりぐりとしながら、私は憐れみを含ませながら、ヒイロへと残酷な真実を突きつける。
「そう。お前が去年稼いだ約百億円。それはお前の所得となり、大体稼いだ額の4割強の額の税金を数日後の支払日までに支払わなければならない」
「……は?」
「つまり大体四十億円をお前は数日で用意しなければいけないワケだが……手持ち有る?」
「……」
ああ、駄目だ。ヒイロの気の抜けた顔を見ると笑みがこぼれて仕方が無い!
だ、駄目だ…まだ笑うな…堪えるんだ…し、しかし……!
「……一万円くらい」
「ぷふっ」
「お、おいっ!」
む、ムリだッ! こんなの笑うなと言う方がムリな話しなワケだッ!
だって、だってこんな……!
「──じゃあ、追加の条件を教えてあげるワケだ」
「え?」
「今ここで私の会社に入ると約束してくれたら……その四十億、立て替えておいてやるワケだ」
「……!」
こ、ここまで上手くヒイロを
──そう。
これは以前より画策していた、ヒイロの引き抜き計画。
私が今語った内容に嘘は無い。
ヒイロが私の会社に来てくれたのならきちんと語ったとおりの待遇で迎え入れるし、いずれは幹部の座も用意している。
さっき言った四十億と言うのもマジの話しだ。
だが、話していない事だって有るワケだッ。
(──今! 世界中で勃発している戦争によりブラックボールを完全掌握している人材の価値は爆上がりしているッ! それこそヒイロほどの実力者で有れば数日で四十億稼ぐことなど容易い程に……! そう、私が示した待遇なんてお友達価格も良いところなワケだッ!)
それはヒイロも知らないヒイロの価値。
幾星霜とたゆまぬ努力を積み重ね、手にしてきたヒイロの力。
それは決して安いモノなどでは無いワケだ。
ヒイロを普通の大学生として見ればそりゃカスみたいな価値しか無いだろう。
だがヒイロをヒイロとして見た時、その価値は大きく変わるッ!
ここでヒイロを確保できる事の利はとても大きい!
「……なぁ、ちょっと考えたいんだが──」
……それに、だ。
「駄目。今決めるワケだ」
「……」
「……」
傭兵として命を的に掛けて神や化け物と戦って、良い事なんて何一つ無いワケだ。
それで得た不相応なまでの大金なんて、争いを産む火種になりかねないワケだ。
「……」
出会って少ししか経っていないけど、分かる。
お前はもう十分頑張った。
「……」
……なのに。
仕事探しで苦労しているとか。今まで敵だった奴等と働きたくないとか。
お前は何でそう言う事を、相談してくれないワケ?
「……」
思えば、なんで柄にも無く……
~プレラーティの思い~
そう、最初はあのクソ野郎をぶっ飛ばして貰ったお礼がしたくて、何日か後にお前に会いに行ったんだ。
戦いの最中『ファミチキ』がどーたら言ってたからそれを手土産にして。
そしたらお前、大爆笑しやがって。
あの時は流石にキレそうになったが、何とか堪えて……いや普通にブチ切れたな。
とっつかみあいの喧嘩をしたのは子供の時以来だった。
それで私とお前は……。
『……ふふっ。なんか久しぶりに笑ったわ。ありがとうな、プレラーティさん』
『は? 何感謝してるワケ? キモいワケ──』
『ありがと、な。これで結構、一杯一杯だったんだ。なんか、気が楽になったわ』
『……』
『……食べようぜ、ファミチキ。割と好物なんだよ』
『……ああ』
私とお前は、友人になった。
きっかけや、友人で居た時間なんて、友情には関係ない。
私は友人には構う方の人間なワケだ。
お前はもう、あの時みたいになる必要なんかない。
「……」
もう、ゆっくりしても良いワケだ。
「……プレラーティ」
「……何だよ」
「ありがとな、色々気、使ってくれて」
「……」
「──っし。就活は終わりだッ!」
「ちょっ、おい!?」
いきなりヒイロが立ち上がったことで、バランスが崩れ、後ろに倒れそうになる。
しかしヒイロの華麗な身のこなしで体を支えられる。
「……おい」
「悪い悪い。さっきまで踏まれてた仕返しだ」
そう言われるとバツが悪いワケだ。何か流れで踏んでたワケだし。
「……ふん。何時まで体に触ってるワケだ」
「好きでしてる訳じゃねーっての。ほれ」
そう言ってヒイロは私を立たせると、互いに向き合う。
「……ま、プレラーティ。今後ともよろしくな」
「ああ。今後ともよろしく、ヒイロ」
こうして、私の当初の目的であったヒイロの確保は成功したのだった。
~プレラーティの恥~
それはヒイロとプレラーティの駆け引きが終わった後のこと。
思えば終始ヒイロを翻弄していたプレラーティだったが、唯一一つだけ失敗があった。
「……そう言えばプレラーティ」
「なんだよ」
「これは友人としての忠告なんだが……」
「あ?」
そう、それは──。
「人の上に立つときはスカートは止めた方が良いぞ」
「は?」
「丸見えだっ──」
「死ねッ! そんなんだから友達がいねーワケだッ!!」
彼女の名誉のため、伏しておこう。