GANTZ:S   作:かいな

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拙者ざむらい その1

 僕は、自分の声が嫌いだった。

 

「おい! カマ野郎! またあれやれやッ! 女みてぇな悲鳴でさ」

 

「ははは! あれマジウケたわ! 佐藤本気で女の子やん」

 

 僕はいじめられている。

 理由は明白だ。何時まで経っても男らしくならない体に、女の子みたいな声。

 高校一年生でそんな様子だから、こうして遠巻きに馬鹿にされる。

 

「……て」

 

 夕日が差し込む教室の中。そこには僕といじめっ子達しか居ない。

 僕のバックを奪い取ったいじめっ子(クラスメイトの人達)は、下品な笑顔を浮かべてニタニタと僕を眺めてくる。

 

「それな! それに何か佐藤ってアニメとか好きそー」

 

「アイツこの前女の子が見るよーなアニメのグッズ持ってたわ」

 

「あ~分かる! コイツそう言うの持ってそー」

 

「……」

 

 ああ、本当に、最悪だ。

 

 僕がオタクって事もバレてしまってから余計にいじめが酷くなっていった。

 以前間違えてそう言うグッズを学校に持ってきてしまって、丁度その時に今日と同じような事になって、バレてしまった。

 

 本当に、最悪だ。もう僕が何を言ってもこの人達は止まらない。

 

「……たすけて」

 

 "誰か助けて"

 いじめっ子(この人達)に聞かれてしまえばまた笑われてしまうようなことを、気付けば呟いていた。

 でもこんな事言ったって、誰も助けてなんか──。

 

「おいおい~お前ら佐藤イジるの止めろよ~」

 

「──え?」

 

 ふと、教室の入り口から声が聞こえてきて。

 

「えぇ、何吉田クンいきなり口挟んできて。ノリ悪ぃー」

 

「いや、ノリとかじゃなくてぁ。さっき生活指導の山田先生がこっち来てたからさ」

 

「えっ!? ちょおっ、それは不味い!」

 

「えっ……」

 

 彼の一言で、いじめっ子達は僕の鞄なんてほっぽって何処かに行ってしまった。

 僕にはどうしようも出来なかった状況を、彼は一言で解決した。

 

「……」

 

 いじめっ子達が消えた教室。けれど何時まで経っても生活指導の山田先生は来なくて、さっきの彼の言葉が僕を助けるための嘘だったことが分かる。

 彼は、いじめっ子達が完全にいなくなったことを見届けてから、僕の方に語りかけてきた。

 

「キミ、大丈夫?」

 

「……え、う、うん……」

 

「あっそ。なら良かった」

 

 彼は東京から来た転校生。

 凄くイケメンで、声も格好よくて、少し怪しい雰囲気はあるけど、一瞬でクラスの人気者になったクラスメイト。

 

 いじめられっ子の僕とは天と地に居る人だ。

 

「キミ、もしかしてアニメとか好きなの?」

 

「え? えっ、え〜とその……」

 

「ああ。別に、さっきのアホ達みたいに馬鹿にしたいわけじゃ無くてさ」

 

「……」

 

 僕は彼に話しかけられるなんて夢にも思ってみなかったし、ましてや助けてくれるとは思ってもみなかった。

 だから、あまり触れられたくない話題を出されて固まってしまって。

 

「実は俺も、アニメとか好きなんだ。こっちじゃそー言う趣味のヒト見つかんなくてさ。ちょっとオレと話さない?」

 

「えっ!? う、うん……」

 

 思わず反射的に頷いてしまい、アッと思ったときにはもう遅かった。

 彼は同性の僕でもドキッとしてしまう様な魔性の笑顔を浮かべながら、いじめっ子達が落としていった僕の鞄を僕に差し出してきた。

 

「オレ吉田な。仲良くしようぜ」

 

「ぼ、僕は佐藤って言います……」

 

 ──これが、彼と僕との出会いだった。

 

 

 吉田くんはかっこいい見た目からは想像が付かない位にオタクだった。

 僕も結構ディープなオタクだと思ってたけど、吉田くんが僕と同じくらいアニメに語り合えるなんて思ってもみなかった。

 

「なぁ佐藤、昨日のアニメ何見た?」

 

「うん! やっぱり僕は──」

 

「なぁ、新しいジャンプの連載どー思う?」

 

「うーん、僕は好きなんやけど、一般受けはしなさそうやと思う」

 

「野球観戦行こうぜ」

 

「おお! 僕の猛虎魂見せたるわ!」

 

「今日放課後日本橋いかね?」

 

「えー! 行く行く!」

 

 だから、僕と吉田くんが仲良くなるのに時間は要らなかった。

 いじめられてから学校では誰かと話すこと何て無かったのに、今では殆どの時間吉田くんと話すようになっていた。

 

 けど、そんなこと当然いじめっ子達が許すはずが無い。

 そう思ってたけど。

 

「お前等よってたかって恥ずかしくねーの? 前々から思ってたけど、そう言うのダサいよ」

 

 僕に絡もうとしてきたクラスメイトを言葉で一刀両断してしまった。

 何時だってかっこいい吉田くんが言うと凄い説得力が有って、これを機に僕へのいじめは少なくなっていった。

 

 ……女子からの嫉妬? からくる嫌がらせは続いたけど。

 確かに僕は女の子みたいな顔をしているし、声も女の子っぽいけど、心は普通に男だ。なんでそれで僕に嫉妬するんだろう。

 

 でも、それでもずっと楽になった。学校生活が楽しくなっていった。

 

 吉田くんは、僕にとって大切な友達で……何より、僕を助けてくれたヒーローだ。

 

 だから、後悔は何も無い。

 

 

「そう言えばオレさ、言ったこと無かったけど……声優になりたいんだよね」

 

 それはある帰り道のこと。

 吉田くんは唐突に、自身の夢を教えてくれた。

 

「オレ、自分の声が大好きなんだ」

 

 吉田くんの考えは、僕と正反対のモノの考え方だった。

 

「ナルシストっぽいからあんまり言いたくないけど……かっこいいと思うんだよね、オレの声」

 

「うん。吉田くんの声って、なんか王子様系って言うか……小悪魔的だよね」

 

「……だから、挑戦してみたいんだ。声優」

 

 少し恥ずかしげに語った吉田くんは、何時もの甘い笑みを止めて真剣な表情で此方を見つめてくる。

 

「それでさ、養成所とか通う金なんて無いから、ネット配信してるんだよね」

 

「え?」

 

「そこで演技の練習を色んな人に見て貰ったり、あわよくばアニメ関係者の人に見て貰えたら……って思って」

 

 確かにそう言った流れで声優になった人も居るし、多くの人に演技を採点して貰えると思えば良いことなのかも知れない。

 でも何故だろう。どうしてそれを僕に言うんだろう?

 

 そう思っていると、吉田くんがガシッと僕の両肩を掴んだ。

 

「えっちょっ──」

 

「佐藤。オレと一緒に配信出てみないか?」

 

「……え?」

 

 真剣なトーンに、これが冗談で無い事が伝わってくる。

 でも、なんで僕が配信? そう思っていると、僕の疑問に答えるように吉田くんが話し出した。

 

「お前の声は滅茶苦茶かわいい。絶対に人気出る」

 

「えっ、えぇ?」

 

「それに、一人で演技をするより誰かと演技をした方がずっと練習になると思うんだ」

 

 ……その理屈は、分かる。でも……正直僕には荷が重い。

 だって、僕は自分の声が嫌いだ。嫌いで嫌いで仕方なかった。

 

 出来ることなら、もっと普通の声で生まれてきたかった。

 僕は吉田くんほど自分の声に自信も愛着も持てない。

 

 だから。

 

「……ごめん。それはムリやわ」

 

「……え? す、少しくらいは考えてくれよ!?」

 

 僕は初めて、吉田くんの誘いを断った。

 吉田くんは引き下がってくるけど、僕の声は人様に聞かせられるようなモノじゃ無い。

 

「……だって、僕の声なんてそんないいもんと違うし……」

 

「いや、お前は良い声してるって」

 

「……でもっ!」

 

 そうだ。

 何を言われようと、僕は誰かに自分の声を聞かせたいだなんて思えな──。

 

「オレはお前の声が好きだ」

 

「っ……!?」

 

「お前がどれだけ自分の声を嫌いだろうと、オレはお前の声が好きだ」

 

「……」

 

「だから……俺の為に……一緒に出てくれないか?」

 

「……」

 

 ……そんなの、ズルい。

 そんなこと言われたら、やるしか無いじゃんか。

 

「……分かっ…たよ。吉田くんがそこまで言うなら、僕も配信出るよ」

 

「……! ありがとう佐藤!」

 

「……でも! 僕の声が少しでも不評やったらもう出ないからねっ」

 

 そうして、僕は吉田くんの配信に参加することとなった。

 

 

 その日の夜、軽く配信の流れについて説明を受けてから……早速配信に出ることにした。

 

「こんござ~今日も短い時間でござるがよろしく頼むでござるよ~」

 

 ──まず、吉田くんの一言目でまずギョッとした。普段とキャラが違いすぎてビックリした。

 ……別に、所謂キャラになりきるタイプの配信者というのは聞いていたけど、声が明るすぎて全然イメージと違う。

 

 そして次に驚いたのは視聴者の人達だった。

 

『こんござ~』

 

『あ~雌蛸になる^~』

 

今日もかっこいい声ありがとうございます。私事ですが先日──

 

今日は何の演技するんですか? 決めていないのであれば是非この漫画のキャラクターを──

 

「おっスパチャありがとうでござる!」

 

「……」

 

(い、いきなり視聴者数5000!? こ、これってトップクラスじゃ……!? コメント数も凄いし、あ、赤スパ*1がこんなに一杯……!?)

 

 そう言えば、変に緊張されても困るからって全然名前を教えて貰えなかった。

 急いでチャンネルの名前を調べてみて、更にギョッとした。

 

(『拙者、さむらいのヒロフミch』……チャ、チャンネル登録者数……100万……)

 

 聞いたことある名前だ。

 民間の配信者の仲でも最大手とか何とか言われてた気がする。

 

 よく思い返せば、画面に映ってる吉田くんのアバターも見たことがあるモノだった。

 何度も動画投稿サイトの急上昇枠のサムネに映ってた。

 

「……」

 

 こ、この配信に僕が出るの……?

 緊張で吐きそうになっていた僕へ追い打ちをかけるように吉田くんが話を振ってきた。

 

「そうそう、早速でござるが皆に紹介したい人が居るでござる」

 

『紹介したい人?』

 

『私のことを遂に皆に伝えてくれるのねヒロ』

 

『は? ヒロフミ"くん"でしょ馴れ馴れしくない?あんたまさか…』

 

「あはは、喧嘩しないで欲しいでござるよ~。はい、それじゃ拙者のお友達のサトウ(仮名)くん!」

 

「えっ!? あ、あの、は、はい……サトウ(仮名)……です……」

 

 あまりに雑すぎる振りに何とか返事をする。

 するとコメントが爆発的に増えた。

 

『え? 女?』

 

『いやこれは男と見た』

 

『えっ、彼女?』

 

『えヒロくん彼女いたの?』

 

『におわせにしては釣り針がデカい』

 

誰ですかそれ

 

 困惑するようなコメントの数々で、これは不味い方向に向かっているんじゃ無いかと思った。

 けど。

 

「あはは~彼女じゃないでござるよ~。サトウ(仮名)くんは男でござる~」

 

『え? 男?』

 

『マジで男だった』

 

『かわいいね♡』

 

『えっ、彼氏?』

 

「ははっ! と、も、だ、ち! って言ってんだろ~」

 

 吉田くんが一言説明するだけである程度落ち着きを取り戻して──いや、何か変な方向に進んで行ってない?

 

『ホモでしょ』

 

『ほもだち』

 

誰ですかそれ

 

「皆さんの拙者への態度が最近本当にヒドイ! 拙者はノーマルでござる!」

 

 けれど吉田くんは全く気にした様子は無くて、何時ものことのように慣れた雰囲気で説明をし始めた。

 

「前々から配信に誘おうと予告してた友達でござる~。演技の相方が欲しいって前に言ったでござろう? 彼がその友達でござる」

 

『ああ前回言ってたあれね』

 

『本当に友達居たんだ』

 

『ヒロくん本当に彼女匂わせの手法が多彩すぎる』

 

『匂わせが全員別人ってのも業が深い』

 

まだ募集してますか?

 

「友達いるっつってただろ~? ははは~…あ、スパチャありがとうでござる!」

 

まだ募集してますか?

 

一緒に演技したいです!!!

 

「残念ながら定員は一杯でござる~申し訳ないでござる。でもスパチャありがとうでござる!」

 

 一瞬コメント数が爆発していたけれど、吉田くんが話すウチに段々と落ち着いてきた。

 本当に焦った。僕が出たことで炎上しちゃったらどうしようとか考えた程の勢いだった。

 

「さて、と言う訳で今回はサトウ(仮名)くんの顔合わせ回でござる! 色々質問して欲しいでござるよ~」

 

「あ、は、はい! 何でもどうぞ!」

 

『何歳? 彼氏いる?』

 

『スリーサイズ教えて』

 

『立ち絵まだないの?』

 

『イントネーションが関西弁っぽいけど、大阪住み?』

 

『ヒロくんとは何処まで行ってんの?』

 

「あ、プライバシーに関わるモノは答えないので悪しからず。立ち絵は準備中でござる~」

 

「あ、は、はい! 何でもは無理です! 立ち絵は準備中です!」

 

 ──そうして、初めての配信は進んでいき。

 

「おっと、もう良い時間でござるね。それじゃあ今晩はこのくらいで! さよござ~」

 

 あっと言う間に初配信は終わってしまった。

 

「……よし! 終了っ…お疲れ佐藤」

 

「……お、お疲れ吉田くん……って」

 

「ん?」

 

「よ、吉田くん超大手の配信者やん!! そんなの聞いてないんやけど!?」

 

 そして。

 終わった瞬間吉田くんに詰め寄っていた。

 

 内容は当然、想像以上に大規模だった配信のこと。

 

「い、今見たら同接1万くらい行ってたんやけど!? ヤバいやん! 大手やん!?」

 

「あ、ああ。伝えてなかったのはスマン。でも変に伝えるよりは良かっただろ?」

 

「良くない!!!! そんなん死刑宣告を前日に受けるか当日に受けるか位の違いしか無いやん!!!」

 

 はぁああ……と気が抜けてへたり込む。

 ああ……緊張した。今までの人生でも一番に緊張した。

 

「と言うか、なんやねんあのキャラ」

 

「ああ、馬鹿みたいな口調だよな。でもあれくらい現実離れした奴を演じきる事が出来たら、オファーが来やすいかなって」

 

「……」

 

 めっちゃ俗物的な理由だ……。

 そんな理由で僕はあのキャラが強いアバターに合わせなければいけなかったのか……。

 

 吉田くんめ……。これは恨む。暫くは引きずる。

 

「……」

 

 ……でも。

 ふと先程の配信の内容を思い出す。

 

「……でも、お前の声を否定する奴はいなかったろ?」

 

「……うん」

 

 それは、吉田くん以外に初めて僕の声を褒めてくれた人達のこと。

 

『結構好きな声してる』

 

『声優向きの声だな』

 

『サトウ(仮名)、声優になれ、でなければ帰れ。ヒロフミ、原付に乗れ』

 

『本当に男なら最高』

 

『声優になれ』

 

『っ…!! オタクの人って何時もそうですよね…! 声カワ男子のことなんだと思ってるんですか!? 私も同感です!!』

 

「……」

 

 ……ふざけている人も多かったけど、心には確かに響いてきて。

 

「……嬉しいなぁ」

 

 ……僕は初めて、自分の声のことが好きになれる気がしたんだ。

 

「よし、帰るか佐藤。夜も遅いし、駅まで送ってくよ」

 

「……うん」

 

 全部、吉田くんの御陰だった。

 いじめが無くなったのも、学校生活が楽しくなったのも。

 嫌いだった自分の声が……好きになれたのも。

 

 全部、吉田くんの御陰なんだ。

 

 だから。

 この選択を……本当に後悔はしていないよ。

 

「──この雌豚が。やっぱり女じゃないか」

 

「えっ?」

 

「っ、吉田くん!」

 

 帰りの暗い夜道のこと。

 怨嗟の言葉と共に鬼気迫る表情で現れた女が、大きなナイフを構えてこちらに駆け寄ってきた。

 だから思わず吉田くんを突き飛ばし──。

 

「かっ……あっ……」

 

 お腹に、ずぐりと痛みが入ってくる。

 

「っ……佐藤!?」

 

 駆け寄ってきた吉田くんが、僕の背を起こす。

 

「お、おま……血が……!?」

 

「……よ…しだ……くん……」

 

 命が流れ出るのが分かる。

 

 痛い、苦しい、怖い、なんで。色々な負の感情が湧いてくる。

 ──でも。

 

「お前が……お前が悪いんだッ! 私がっ、私がヒロにどれだけ貢いだと思ってるのッ! それをいきなり現れて、そんなの許せない……ぶっ殺してやるッ!」

 

「おいッ、佐藤ッ! 佐藤ッ!? 速く救急車を……!」

 

「……よし……だくん……」

 

 痛みや苦しみ(そんなもの)よりも、ずっと。

 彼が無事だったことに、ただただホッとする。

 

 だから。

 

「生きて…」

 

 怖くても、苦しくても、大丈夫だ。

 後悔は……ない。

 

 

 

 ──本日、大阪で錯乱した女が男子高校生二人を切りつけると言う事件があり、()()が意識不明の重傷を負いました。

 

 ──その女は、被害者との間に男女関係があったと証言。

 

 ──被疑者は錯乱状態にあり、何度も『私と彼は付き合っているのに、浮気されたと』語りました。

 

 ──しかし被害者の証言によりその様な事実は認められず、警察は被疑者の妄想であると断定。

 

 ──また、被疑者は『()()()()()()()()()()()』と何度も証言し、警察は事実関係を調べています。

 

 ──さて、次のニュースです!

 

 

 

「……え?」

 

「おっ、新人が来よったな。今回は一人か?」

 

「……は? 何処だよ……ここ……」

 

 暗い夜道から、明るい部屋。

 謎の黒スーツを着た男達と、不思議な雰囲気の青髪の少女。

 かすむ目を擦りながら……状況を理解しようと頭を落ち着かせる。

 

「むっ……なんやよく見たらごっつ()()()()やなぁ~」

 

「おい……どう言う事だこれは!? あの女は……佐藤は何処行った!?」

 

 でも、気付けばオレは、怒りと共に目の前の金髪の外人に怒鳴っていた。

 外人男は怒鳴られたというのに、何も気にした様子も無く。

 むしろ哀れなモノを見る目でオレを見つめた。

 

「……なんや辛いことでもあったか。そらそうやろな。死んでんやからな」

 

「……は? 死?」

 

「キミも覚えとるやろ? 自分が死んだ記憶」

 

「……あ?」

 

 そして、よく。よく記憶を探ってみると。

 確かに、オレは。

 

 ()()()()は。

 

 あの、オレのファンを名乗る女に……()()()()()()()()

 

「そや、キミは死んだんや。でも、今ならまだ元の生活に戻れる」

 

「……え?」

 

 そして、目の前の外人男。

 

 いや、『なんJ』はオレに……『拙者ざむらい』に、黒い球体の部屋について語り始めた。

 

 

 ──これが、今から丁度2年前の話。

 

「……」

 

 今でも鮮明に思い返せる。後悔の念は尽きない。

 

 だからオレは、あの2年前のあの日を境に、ずっと。

 もうずっと……喋っていない。

 

「……」

 

 だって、オレは……。

 

 もうどうしようも無いほど、自分の声が嫌いになってしまったから。

*1
スーパーチャットと言うお金を払ってコメントできる機能を用い、1万円以上の支払いをしたチャットの事

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