ガーリー・エアフォースサーガ プロイェクト・ジュラーヴリク   作:フリッカー

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ALT.10 最初の勝利

 ベッドの上で目が覚める。

 白い天井を見て、病室かと気付く。

 そして、誰かが顔を覗き込んできた。

 ジュラーヴリクだった。

 その目から大粒の涙をこぼしていた事に、ヤリックは一瞬驚く。

「ヤリックゥゥゥゥ!」

 ジュラーヴリクは大泣きしながら、抱き着いてきた。

「もう死んじゃったかと思ったぞおおおおお!」

「こ、こら、ジュラ……! い、痛い……!」

 抱きしめる力が強くて、体に痛みが走る。

 体に結構傷があるようだ。

 だが、ジュラーヴリクは抱き着いたまま胸元で声を上げて泣き続けている。

 こんな事は初めてだ。

 そこまでの事をしたのか、と思い至って、

「どうしたんだ、その態度は?」

 別の声が割り込んできた。

 レフチェンコ少佐だった。フライトスーツ姿のままだが、なぜかヤリックの事を微笑ましく見ている。

「そいつはお前が担ぎ込まれてから、ろくに飯も食わずにずっと付きっきりだったんだぞ。心配かけたなくらい言ったらどうだ」

 そう言われて、思い出した。

 自分は戦闘に出撃していたのだ。

 あの時、ザイに追いすがれてジュラーヴリクは機体もろとも機能停止して、そして──

「ザイは? ザイはどうなったんですか少佐!?」

「心配するな。ザイは追い払えた。そいつのおかげでな。記念すべき最初の勝利だ。基地のみんなも浮かれてるし、参謀殿もご機嫌だ」

「え、勝ったん、ですか……?」

「ああ、とはいえお前達も危ない所だった。ザイ由来の高度な自動操縦装置がなかったら2人共墜落してたぞ」

 どうやら記憶が飛んでいる間にザイは退却し、30M2は自動的に着陸したらしい。

 窓の外を見れば、平和な青空が広がっている。

 本当に、勝ったのか。

 どうも実感がないが、抱きしめてくるジュラーヴリクが伝えてくる痛みで、夢ではないのだろうとヤリックは悟る。

 それに、ジュラーヴリクが怒りで次々とザイを落としていった記憶も、おぼろげながらある。

 この勝利は、小さいながらも人類にとっては大きな意味を持つものになるだろう。

「そうだったんですか……」

 改めて、ジュラーヴリクを見る。

 胸に顔をうずめて泣き続ける彼女の髪を、そっと撫でる。

 すると、ジュラーヴリクがようやく泣き止んだ。

「何だか、君に助けちゃったみたいだね、ジュラ」

 はたと、顔を上げるジュラーヴリク。

 涙が溜まった瞳で、ヤリックを見つめてくる。

「ごめんな。あんな事言っておいて、僕は何もできなかった。それでも君がザイを追い払ったなんて、大手柄じゃないか」

「え、いや、あん時は、ヤリックがやられたと思って……」

「君もやればできるんだね。見直したよ」

 途端、ぽかんと目を丸くするジュラーヴリク。

 そんな彼女の額に、ヤリックは自然と口付けていた。

「ほら、もう泣くな」

「ヤリック……」

 こうすれば、泣き止むだろうと自然と思ったのだ。

 何というか、勝ち気な彼女に涙は似合わない。そんな気がして。

 ジュラーヴリクに、ようやく笑顔が戻り始める。

 そして。

「ヤリック大好きだっ!」

 あろう事か、ヤリックに口付けてきた。それも、マウストゥーマウスで。

 予想外の行動に、ヤリックも動揺。

 反射的に、ジュラーヴリクを引きはがしていた。

「こ、こらジュラ、そういうのはね、気安くするものじゃ──」

「なんでさ。ヤリックも愛してるんだろ、あたしの事」

 不服そうなジュラーヴリクの言葉に、ヤリックはますます戸惑う。

 そんな事、いつ言っただろうかと。

「だからあたしも愛してる。あたしはずっとヤリックと一緒だからな」

 そして、再びマウストゥーマウスの口付け。

 無邪気な犬のように一方的な愛情表現に、ヤリックはどうしたらいいかわからなくなる。

「わ、わかった、わかった、から──!」

 そう言っても、ジュラーヴリクをやめさせるのにしばしの時間がかかった。

 その間、レフチェンコ少佐にくくく、と笑われながら見守られていたのは言うまでもない。

 

 数日後。

 ケガから回復したヤリックの前で、新たな適合試験が行われようとしていた。

 台座型の神経融合インターフェースに繋げられているのは、前回行ったSu-33と似ているようで全く異なる機体だった。

「倉庫で埃をかぶってたこいつでもダメだったら、どうするんだ?」

 誰かが、そんな事を言った。

 それはヤリックも同じだった。他の誰もが、きっと同じ気持ちだろう。

 傍らで見守るクリノフ参謀も、複雑そうな表情だ。

 既に使われなくなって保管されている機体でも試してみようとはなったものの、うまく行く保証はどこにもないのだから。

 そんな一同の前で、試験が始まった。

「ダイレクトリンク開始」

 指示に合わせて、ジュラーヴリクが念じ始める。

 すると、早速動きが見られた。

 翼の舵が、ぱたぱたとスムーズに動いたのだ。

 それだけではない。

 背部のスピードブレーキも、車輪も、スムーズに収納と展開を繰り返している。

 おお、と研究員達の声が上がった。

「すげえ……軽い! 滅茶苦茶軽い! こいつだ! 間違いなくこいつだ!」

 ジュラーヴリクの、歓喜のつぶやき。

 今までにない成果だった。

 今搭乗している30M2でさえ、ここまでスムーズには動かなかった。

 つまり、これが探し求めていた本命。ジュラーヴリクの半身となるに一番ふさわしい機体。

 その機体の名は、Su-27M。試作のみに終わったタイプだ。

 しかし、そのコックピットは単座である。

 つまり、乗れるのはジュラーヴリク1人だけ。

 それが、ヤリックを複雑な気持ちに駆り立てた。

 これが適合機という事は、ジュラーヴリクは近い将来ヤリックの側にいられなくなる事を意味していたのだから──

 

(第一部:終)

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