ガーリー・エアフォースサーガ プロイェクト・ジュラーヴリク 作:フリッカー
ヤリックことヤロスラフ・ギンツブルクは、ザイに対抗する秘密兵器「アニマ」の開発に関わるロシア空軍技術中尉。
苦心の末初めて実戦投入が可能なアニマとして生まれたジュラーヴリクは、治安の悪いロシア軍の中ですっかり口が悪い少女となったが、刷り込みによってヤリックの前では甘えん坊。その一方で、完全な適合機が見つからない事に焦りを抱いていた。
そんな彼女を秘密兵器として完成させる使命を持つヤリックは、いずれ彼女を戦場に送り出す事に複雑な思いを抱くようになり、自分が父親としての愛情を彼女に抱いている自覚を持ち始める。
そんな中、本拠地コムソモリスク・ナ・アムーレを襲来したザイを迎撃するべく、ジュラーヴリクは不完全な機体チューニングのまま出撃を命令される。
ヤリックは未熟なジュラーヴリクに実戦を見せようと自ら操縦を買って出るが、EPCMの干渉によりコントロールを失い窮地に陥ってしまう。
しかし、ヤリックの危機を目の当たりにしたジュラーヴリクが覚醒。今までとは別次元の機動を見せザイを退ける事に成功。
その後、遂に完全なる適合機が見つかり──
「あーあ、退屈だあ……ザイ来たりしねえかなあ……」
「物騒な事を言うんじゃない、ジュラ。少佐、データは取れていますか?」
冬空を飛ぶ、灰色のSu-30M2-ANMのコックピット。
前席で操縦を担当するジュラーヴリクは明らかに退屈そうだが、後席のヤリックむしろは忙しい。
『──。このEPCMポッド──』
「すみません、もう一度お願いします」
『────』
隣をSu-35Sが1機飛んでいるのだが、無線が途切れて応答できなくなった。
見える距離だというのに無線が途切れるという異常事態。
普通ならザイの襲来を疑う所だが、そうではないとヤリックはわかっている。
「すごいな、このEPCMポッドの力は」
原因は、30M2が腹に抱えている巨大なポッドだった。
ザイが持つ恐るべき力・EPCMを意図的に発生させられる装置が、この中に入っている。
この装置の試験が、今回の任務だ。
残骸から手に入れたこの装置を解明すれば、アニマの戦力強化はもちろん、ザイの謎を解き明かす鍵にもなり得る。
「適切な出力を見極めないと実戦投入できないな──」
とはいえ、無線が繋がらなくなるレベルでは、試験そのものに支障が出てしまう。
ヤリックは、ポッドの出力を弱める。
すると、無線が戻ってきた。
『──試験小隊、バーバチカ試験小隊、こちらカナレイカ。応答せよ。繰り返す──』
すると、予想していた声とは異なる声が聞こえてきた。
管制機だ。
ヤリックはすぐに応答する。
「こちらアリョール2。試験の影響で無線の乱れが起きていました。何かありました?」
『そちらに迫るEPCM反応多数。ザイだ。試験中止』
ザイ。
その名を聞いて、全身の毛が逆立つ。
こんな時に敵襲とは。
だが、前席のジュラーヴリクは、ははっ、と笑った。
「ほんとに来た! 退屈しのぎにちょうどいいぜ!」
「敵と退屈しのぎなんて問題発言だよ、ジュラ」
「いいだろ? あたしはただ運転手するより戦う方が性に合ってる」
「はあ、君って子は……」
うきうきしているジュラーヴリクの物言いに呆れていると。
『おしゃべりしている場合か! ポッドを切れ!』
隣の35Sから注意された。
直後、警報が鳴り響く。
ミサイル!
直後、ヤリックの体を押し潰さんほどの力がかかった。
30M2が急旋回をしたのだ。
突然の事で反応が遅れたせいで、頭の血が抜け、危うく意識を持っていかれそうになった。
「ジュ、ジュラ……回避するなら、回避するって言ってくれないと……」
「あ、悪ぃ!」
上がった息で注意すると、ジュラはすぐに謝った。
とにかく、戦闘態勢だ。
ヤリックは指示通りにポッドの電源を落とし、外の状況を確かめる。
蜃気楼のように不確かな姿が、遠くに見える。ザイだ。数は、少なくとも6機はいる。
35Sが、早くも先に突入して空中戦を展開し始めているようだ。
「ジュラ、敵が見えるかい?」
「ああ。8機──いや、もっといる。ま、何機来ようと関係ねえけどな」
「関係あるぞ。今武装は必要最低限しかないんだ。まともに相手したら先にこっちが息切れする」
「わかってるって」
今、30M2には本格的にザイと戦うような重武装はしていない。
具体的には、ミサイル4発。せいぜい自衛用の域を出ないものだ。
今は戦闘ではなく試験飛行中なのだから、当然である。
「武装使わなくても落とせればいいんだろ?」
「は?」
「じゃ、行くぜ!」
ジュラーヴリクが何を言ったのか聞き返す余裕もないまま、30M2は加速した。
座席にめり込むと思うほどの凄まじい加速。
ジュラーヴリクのオレンジの髪が、ぼんやりと発光。
それに共鳴するように、機体の幾何学模様がオレンジに光る。
直後、加速度がさらに増していく。
力むヤリックの力さえ、追い付かないほどに。
「蹂躙してやるよっ!」
ジュラーヴリクが叫ぶと、早くも2発のミサイルが発射された。
正面に捕らえたザイ2機に吸い込まれていく軌跡。
それが、やがて炎の花となって炸裂した。
2発とも命中だ。
「まず2機!」
ジュラーヴリクの勝利宣言。
だが、ここで武装の半分を使ってしまった。
そうこうしている内に、別のザイが背後に回り込んできた。しかも2機。
たちまちジェットコースターめいた追いかけっこが始める。
射撃位置を狙うザイ、それから逃げる30M2。
しかし、機動性は向こうが上。不完全な試験機の性能では、逃げきれない。このままでは狙われる。
右に左に激しい機動の繰り返しで、ヤリックの意識がくらみ始める。
それでも、知らせる。
「ジュラ……! 逃げ切れない、ぞ……!」
「へへっ、わざとだよヤリック!」
だが、ジュラーヴリクは楽しそうに笑っている。
「見てな……!」
すると、正面に別のザイが見えた。
その背中を見据えて急降下。
こんな時に別の機体を狙う余裕なんてあるのか?
激しい機動に耐えるのが精いっぱいで声を出せない。
ザイの背中が、どんどん近づいてくる。
衝突しそうなほどの勢いで。
そして、キャノピーいっぱいに広がるほど迫ってきた時。
「おらっ!」
何が起きたのか、ヤリックには理解できなかった。
機首が急激に上がったのだ。
ザイの背中を蹴ってジャンプするように、機首を180度近く上げて逆噴射、反転。
追っていたザイもその機動を追おうとしたが、あまりに予想外だったのか、片方が間に合わず空中衝突。もう片方はかろうじて回避したものの、破片をもろに浴びて姿勢を崩し、落ちていく。
「見たかぁ! 3機同時撃墜だぁ!」
ジュラーヴリクは、弾を1発も使う事なく3機も撃墜して見せた。いわゆるマニューバーキルという手法である。
「なんて、」
もはや理解が追い付かない。
通常の戦闘機には不可能なHiMAT機動など。
「でたらめだ──」
全てを把握できないまま、ヤリックの意識は闇に落ちていた──
(続く)