ガーリー・エアフォースサーガ プロイェクト・ジュラーヴリク   作:フリッカー

13 / 14
ALT.13 君を離したくない

「な、何だ!?」

 見えない何かに押し倒された。

 しかも、腰の上に重みがかかり、腕を掴まれて抑え込まれている感覚。

 これは、人の手?

「ふふふふふふふふふ……!」

 すると。

 どこからともなく、聞き慣れた笑い声がする。

 いや、すぐ目の前だ。

「そ、その声は──!?」

 すると、何もなかったはずのヤリックの目の前に、見知った少女の姿が突然現れた。

「ジュラ……!」

「どーだ、びっくりしただろ?」

 ヤリックに馬乗りしたまま、してやったりと面白おかしそうに笑うジュラーヴリク。

 なぜ彼女がそこにいるのか、ヤリックの頭の理解が追い付かない。

 すると、ジュラーヴリクは不意に大きなカプセルを見せ、ネタばらしを始めた。

「見てくれよこれ! こん中にザイのコアが入ってるんだけどさ、こうやってスイッチ入れると──」

 途端、ジュラーヴリクの姿が消える蜃気楼のように消えてしまった。

 え、と目を疑うヤリック。

 すると、すぐにジュラーヴリクの姿がまた見えるようになった。

「すげえだろ? なんかさ、電気的な刺激を与えると、何とびっくり! 持った人が見えなくなっちゃうんだってさ! しかも足音とかも消えちゃって防犯センサーにも反応しないんだぜ! すげえだろすげえだろ!」

 得意げに語るジュラーヴリク。

 しかし、当のヤリックは呆れるしかない。自然と叱っていた。

「……ジュラ。君はそれがどういうものか、わかっているかい?」

「え?」

 ジュラーヴリクが目を丸くする。

「それは、将来君の仲間になるかもしれない大切なものなんだぞ。君だって、そんなザイのコアから生まれたんだ。そんなものを、おかしないたずらなんかに勝手に使っちゃダメだ。アニマになった時嫌われるぞ」

「え……!?」

 途端、ジュラーヴリクが動揺し始める。

 ようやく、自分がした事が理解できたようだ。

「わかったら早く降りなさい。返しに行くよ」

「わ、悪ぃ……」

 結局、ヤリックはジュラーヴリクを連れてコアを返しに行き、一緒に謝る事となった。

 

 一悶着あった後に寝る事になったヤリックだが、寝る前にシャワーを浴びる事を忘れていた事に気付き、服を脱いでシャワールームに入る。

 鏡に映る自分の体は、痣だらけで痛々しい。

「──」

 いつまであいつの後ろに乗る気だ、というレフチェンコ少佐の言葉を思い出す。

 人並外れた力を発揮し始めたジュラーヴリクと飛び続けた事で、体が悲鳴を上げ始めている。

 もはや、彼女を後ろから見守る事は不可能だ。

 そう。巣立ちの時は、近い。

 雛鳥は、いずれ親鳥の下から離れて一人で世界へ羽ばたいていくのが道理。

 だが、それをどこか受け入れられない自分がいる。

 戦場へ送るために育てているというのに、それを拒んでいるという矛盾。

 一体それは、なぜ──

「……ヤリック」

 そんな時だった。

 突然、ジュラーヴリクの声がしたのは。

 驚いて振り返ると、そこには一糸纏わぬジュラーヴリクの姿が。

 肉体を生み出した頃から見慣れた姿とは言え、そんな恰好でシャワールームに入られて動じないはずがない。

「ジュ、ジュラ!? ちょっと、君──」

 ヤリックの言葉も聞かず、ジュラーヴリクは無言でヤリックの胸元に飛び込んだ。

 直に触れる滑らかな肌に、胸元に押し当てられる、やわらかな2つの膨らみ。

 年頃の異性の感触を直に感じてしまい、ヤリックの心拍数が急上昇する。

 一体何のつもりなんだ、と動じるほどに。

「傷だらけ、じゃねえか」

 だが。

 そんな行動に反して、ジュラーヴリクの声はひどく暗かった。顔も伏せている。

「あたしの、せいなんだよな……」

「ジュラ……?」

「あたしが戦えば戦うほど、ヤリックは、こんなになっちゃうんだよな……」

 顔を伏せたまま、ジュラーヴリクはヤリックの胸板をいたわるように撫でつつ、つぶやく。

 まさか、気付いていたのか。

 自分の機動が、普通の人間の範疇を超えたものだという事を。

 ヤリックはそれをあえて言わないでいたのだが、毎回病室送りになって気付かないはずがないか、と思い知る。

「……悪かった」

 ヤリックは、それしか言えなかった。

「なあ、ヤリック……あたし、もう一緒に飛べなくなっちゃうのか……?」

 ようやく、顔を上げるジュラーヴリク。

 その瞳は、今にも泣き出しそうに潤んでいる。

 普段は全然見せないその表情に、どきり、とヤリックの胸がさらに高鳴る。

「あたしが戦えば戦うほど、ヤリックはボロボロになる……でも、あたしはヤリックと一緒にいたい……離れ離れなんて、嫌だ……!」

 そう懇願されても、無理な相談だ。

 言ってやればいい。それはできない、と。君は1人で飛べるようにならなきゃいけない、と。

 だが、今のヤリックにはそれができなかった。

 代わりに出たのは。

「僕だって、本当は──君を離したくないよ」

 そんな、言うべきではない言葉。

 自然と、2人の顔が近づいていく。

 自然と、口が僅かに開く。

 そのまま、引き寄せられるように互いの唇を──

 

「……!」

 そこで、ヤリックは目が覚めた。

 いつもと変わらぬ、暗いベッドの中だった。

「ゆ、夢か……」

 隣に目を向けると、いつものようにジュラーヴリクがヤリックの手を握り、すやすやと寝ている。

 もちろん、着るものはちゃんと着ている。

「全く、なんて夢だ……」

 夢の中でとはいえ、ジュラーヴリクを女として抱こうとしてしまった自分を恥じる。

 父親としてあるまじき行為。

 自分は心のどこかで、ジュラーヴリクを娘以上の存在と認識していたのか。

「ああ、僕はそこまで──」

 ジュラーヴリクを愛してしまったのか。

 ダメだ。

 それはいけない。

 自分は今、踏み込んではいけない領域に踏み込もうとしてしまっている。

 どこかで歯止めをかけなければ。

 どこかでジュラーヴリクを突き放さなければ。

 だが、今のヤリックにできる自信はなく、今はただ悩む事しかできなかった──

 

(続く)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。