ガーリー・エアフォースサーガ プロイェクト・ジュラーヴリク 作:フリッカー
「な、何だ!?」
見えない何かに押し倒された。
しかも、腰の上に重みがかかり、腕を掴まれて抑え込まれている感覚。
これは、人の手?
「ふふふふふふふふふ……!」
すると。
どこからともなく、聞き慣れた笑い声がする。
いや、すぐ目の前だ。
「そ、その声は──!?」
すると、何もなかったはずのヤリックの目の前に、見知った少女の姿が突然現れた。
「ジュラ……!」
「どーだ、びっくりしただろ?」
ヤリックに馬乗りしたまま、してやったりと面白おかしそうに笑うジュラーヴリク。
なぜ彼女がそこにいるのか、ヤリックの頭の理解が追い付かない。
すると、ジュラーヴリクは不意に大きなカプセルを見せ、ネタばらしを始めた。
「見てくれよこれ! こん中にザイのコアが入ってるんだけどさ、こうやってスイッチ入れると──」
途端、ジュラーヴリクの姿が消える蜃気楼のように消えてしまった。
え、と目を疑うヤリック。
すると、すぐにジュラーヴリクの姿がまた見えるようになった。
「すげえだろ? なんかさ、電気的な刺激を与えると、何とびっくり! 持った人が見えなくなっちゃうんだってさ! しかも足音とかも消えちゃって防犯センサーにも反応しないんだぜ! すげえだろすげえだろ!」
得意げに語るジュラーヴリク。
しかし、当のヤリックは呆れるしかない。自然と叱っていた。
「……ジュラ。君はそれがどういうものか、わかっているかい?」
「え?」
ジュラーヴリクが目を丸くする。
「それは、将来君の仲間になるかもしれない大切なものなんだぞ。君だって、そんなザイのコアから生まれたんだ。そんなものを、おかしないたずらなんかに勝手に使っちゃダメだ。アニマになった時嫌われるぞ」
「え……!?」
途端、ジュラーヴリクが動揺し始める。
ようやく、自分がした事が理解できたようだ。
「わかったら早く降りなさい。返しに行くよ」
「わ、悪ぃ……」
結局、ヤリックはジュラーヴリクを連れてコアを返しに行き、一緒に謝る事となった。
一悶着あった後に寝る事になったヤリックだが、寝る前にシャワーを浴びる事を忘れていた事に気付き、服を脱いでシャワールームに入る。
鏡に映る自分の体は、痣だらけで痛々しい。
「──」
いつまであいつの後ろに乗る気だ、というレフチェンコ少佐の言葉を思い出す。
人並外れた力を発揮し始めたジュラーヴリクと飛び続けた事で、体が悲鳴を上げ始めている。
もはや、彼女を後ろから見守る事は不可能だ。
そう。巣立ちの時は、近い。
雛鳥は、いずれ親鳥の下から離れて一人で世界へ羽ばたいていくのが道理。
だが、それをどこか受け入れられない自分がいる。
戦場へ送るために育てているというのに、それを拒んでいるという矛盾。
一体それは、なぜ──
「……ヤリック」
そんな時だった。
突然、ジュラーヴリクの声がしたのは。
驚いて振り返ると、そこには一糸纏わぬジュラーヴリクの姿が。
肉体を生み出した頃から見慣れた姿とは言え、そんな恰好でシャワールームに入られて動じないはずがない。
「ジュ、ジュラ!? ちょっと、君──」
ヤリックの言葉も聞かず、ジュラーヴリクは無言でヤリックの胸元に飛び込んだ。
直に触れる滑らかな肌に、胸元に押し当てられる、やわらかな2つの膨らみ。
年頃の異性の感触を直に感じてしまい、ヤリックの心拍数が急上昇する。
一体何のつもりなんだ、と動じるほどに。
「傷だらけ、じゃねえか」
だが。
そんな行動に反して、ジュラーヴリクの声はひどく暗かった。顔も伏せている。
「あたしの、せいなんだよな……」
「ジュラ……?」
「あたしが戦えば戦うほど、ヤリックは、こんなになっちゃうんだよな……」
顔を伏せたまま、ジュラーヴリクはヤリックの胸板をいたわるように撫でつつ、つぶやく。
まさか、気付いていたのか。
自分の機動が、普通の人間の範疇を超えたものだという事を。
ヤリックはそれをあえて言わないでいたのだが、毎回病室送りになって気付かないはずがないか、と思い知る。
「……悪かった」
ヤリックは、それしか言えなかった。
「なあ、ヤリック……あたし、もう一緒に飛べなくなっちゃうのか……?」
ようやく、顔を上げるジュラーヴリク。
その瞳は、今にも泣き出しそうに潤んでいる。
普段は全然見せないその表情に、どきり、とヤリックの胸がさらに高鳴る。
「あたしが戦えば戦うほど、ヤリックはボロボロになる……でも、あたしはヤリックと一緒にいたい……離れ離れなんて、嫌だ……!」
そう懇願されても、無理な相談だ。
言ってやればいい。それはできない、と。君は1人で飛べるようにならなきゃいけない、と。
だが、今のヤリックにはそれができなかった。
代わりに出たのは。
「僕だって、本当は──君を離したくないよ」
そんな、言うべきではない言葉。
自然と、2人の顔が近づいていく。
自然と、口が僅かに開く。
そのまま、引き寄せられるように互いの唇を──
「……!」
そこで、ヤリックは目が覚めた。
いつもと変わらぬ、暗いベッドの中だった。
「ゆ、夢か……」
隣に目を向けると、いつものようにジュラーヴリクがヤリックの手を握り、すやすやと寝ている。
もちろん、着るものはちゃんと着ている。
「全く、なんて夢だ……」
夢の中でとはいえ、ジュラーヴリクを女として抱こうとしてしまった自分を恥じる。
父親としてあるまじき行為。
自分は心のどこかで、ジュラーヴリクを娘以上の存在と認識していたのか。
「ああ、僕はそこまで──」
ジュラーヴリクを愛してしまったのか。
ダメだ。
それはいけない。
自分は今、踏み込んではいけない領域に踏み込もうとしてしまっている。
どこかで歯止めをかけなければ。
どこかでジュラーヴリクを突き放さなければ。
だが、今のヤリックにできる自信はなく、今はただ悩む事しかできなかった──
(続く)