ガーリー・エアフォースサーガ プロイェクト・ジュラーヴリク   作:フリッカー

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ALT.14 娘

 この日、ヤリックは朝から35Sに乗って忙しく飛んでいた。

 ジェムギ飛行場に多数の来客が飛来し、そのエスコートに追われてたのだ。

 その来客とは、各国の要人や研究者達を乗せた、ビジネスジェット機である。

『飛行場までの護衛、感謝する』

 このグローバルエクスプレスが、最後の1機。

 無事に滑走路に降り立ったのを、ヤリックは上空から確認した。

「こちらアリョール2、最後の着陸機が着陸しました」

 肩の荷が下りて、ふう、と息を吐く。

 久しぶりの一人での操縦、それも来るかどうかもわからない敵襲に神経を張り巡らせるミッション。それが、無事に終わった。

『よしヤリック、これで任務は完了だ。俺達も降りるぞ』

 レフチェンコ少佐からの無線。

 右隣を見れば、別の35Sが並んで飛んでいる。

「了解」

 このままザイがおとなしくしてくれる事を祈ろう。

 そう思いつつ、ヤリックは操縦桿を倒して帰路に就く。

 今日は、世界の対ザイ戦の切り札となる新兵器──つまりジュラーヴリクを世界に初お披露目する日なのだ。

 

 エスコートを終えても、ヤリックに休む余裕はそれほどない。

 お披露目の際は、ジュラーヴリクによるデモフライトが予定されている。いつものように同乗しなければならない。

 すぐに、格納庫に置かれた30M2の下へ向かう。

 だが、そこでヤリックの下にやってきたジュラーヴリクは、意外な事を言い出した。

「え? 一人で飛ぶって?」

「あ、ああ……エスコートで、ヤリックも疲れてるだろ……? だ、だからさ、休んでてくれよ」

 ジュラーヴリクの様子が、いつもと違う。

 目も泳いでいるし、話し方も言い慣れてなさそうにぎこちない。

「そんな、僕なら大丈夫だよ」

「い、いいから!」

「どうして」

「ほ、ほら! あたし、ヤリックにも見せたいんだ! これまで練習した成果って奴をさ!」

「いや、一緒に練習したからわかるよ、それくらい」

「そ、そーじゃないんだよ! あーもうっ!」

 ジュラーヴリクが苛立っている。

 言葉がうまく伝わらないもどかしさで、という感じだ。

「とにかく、ヤリックはゆっくり休んででくれっ!」

 ジュラーヴリクはヤリックの背中に回り、無理やり押していく。

「ど、どうしたんだジュラ!? 何意地を張ってるんだい!?」

「張ってねえよ!」

「そういうのを意地を張るって言うんだぞ?」

「張ってねえって!」

 言い合いをしながら、ヤリックは格納庫の外へ押し出されていく。

 いつもと違うジュラーヴリクの態度に、戸惑うばかりのヤリック。

 そのため、正面に人がいる事に気付かず、ぶつかってしまった。

「あっ、すみません!」

 とっさに一歩引いて謝る。

 目が合った瞬間、驚いた。

 相手は東洋人だった。

 という事は、この飛行場の人間ではない。お披露目にやって来た来客の一人だ。

 みすぼらしく太った眼鏡の男だった。お世辞にも健康的な容姿とは言えない。そんな相手が、何だこいつは、とばかりにヤリック──いや、ジュラーヴリクも含めてにらんできている。

「ほ、ほらジュラも!」

 ヤリックは、とっさに小声でジュラーヴリクを促し、前に出させて謝らせる。

 すると、男の視線がジュラーヴリクに向く。どこか違和感がありそうに。

「驚いたな。ここはロシアの秘密施設と聞いていたが、部外者を入れるほどセキュリティが杜撰だったとは」

「部外者だと!?」

 男のどこか嫌味な言葉に、ジュラーヴリクが食らいついた。

「あたしはな、あの戦闘機の──むぐっ!?」

「あ、いえいえ! おっしゃる通りです! この子、いつも勝手に入ってきてしまうもので、今ちょうど手を焼いていた所でして……」

 とっさにヤリックが笑みを作りつつ口を塞いで抑え込む。

「む、むぐ! むぐーっ!」

「ちょっと失礼しますね!」

 ヤリックは、無理矢理ジュラーヴリクを格納庫の外へと連れて行く。

 ジュラーヴリクが抵抗しようとしているが、所詮は少女。抑えるのは容易だった。

 見えない所まで連れて行ったところで、ジュラーヴリクを離す。

「何するんだよ!?」

「いいかいジュラ。君の事は、あのお客さん達に知られちゃいけない事になってるんだ」

 そして、ジュラーヴリクの目を見ながらしっかりと諭す。

「はあ!? なんでだよ!? 機体だけ紹介してあたしの事は紹介しないなんて変じゃねえか!」

「僕もそう思うけど、そういう決まりになってるんだ」

 そう。おかしな話である。

 このジュラーヴリクの存在は、このお披露目でも公開しない、極秘情報になっている。

 理由は単純。

「年端も行かない少女を戦闘に狩り出すなんて、どうかしてる」という批判を避けるためだ。

 何せ、開発陣でさえそう思ったのだ。

 それは、ヤリック自身も例外ではない。

「でもさ──!」

「とにかく! 今日一人で飛ぶのは認めてあげるから、今はここでおとなしくしてなさい! いいね!」

 そう言って、ヤリックはジュラーヴリクを置いて格納庫へ引き返す。

 戻ると、先程の太った男が、待たされて迷惑そうな顔で待っていた。

「大変失礼しました」

 改めて謝ると、太った男が問いかけてきた。

「ひとつ聞かせてくれ。この飛行場で『娘』という言葉を何度か聞いたが、まさかあの娘の事か?」

 ぎく、と一瞬ヤリックが凍り付く。

 どうやら彼は、意外とロシア語がわかるらしい。

「い、いえ、違います! あの子は関係ありません!」

 とっさに、否定した。

 だが、どうする。

 彼女が無関係であると納得させるのに、何かうまい言い訳は──

「えっと──そう! この戦闘機です! 我々はこの戦闘機の事を、『娘』と呼んでいるんです!」

 ヤリックはとっさに、背後にあった30M2を指さして、言った。

 途端、太った男は何を言ってるんだとばかりに目つきを変えた。

 ダメか、通じないか。

 ヤリックは内心焦る。

「……なるほど。娘か──英語の『ドーター』なら『ファイター』に近い。戦闘機を超えた戦闘機、としては悪くない秘匿名かもな」

 だが。

 意外にも、太った男は納得してくれた。

 ヤリックは、ほっと胸をなで下ろした。

 もっとも。

 この時のでまかせが、アニマが駆る戦闘機を「ドーター」と呼ぶきっかけになるなど、まだヤリックは知る由もなかった。

 

(続く)

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