ガーリー・エアフォースサーガ プロイェクト・ジュラーヴリク   作:フリッカー

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ALT.05 どこへ行っても恥ずかしくない女の子

 翌日。

 この日は休暇だったので、最近思い悩むジュラーヴリクの癒しになればと、共に冬の街へと繰り出す事にした。

「お出かけなんてひっさびさだー! ひゃっほーい♪」

 車の助手席に乗せたコート姿のジュラーヴリクは、すっかりご機嫌な様子だ。

 本当に子供だなあと感じつつ、ヤリックは車を運転してうっすら雪が積もった街中を進んでいく。

 いつもと変わらぬ街の風景。

 それは、すぐ近くに戦乱が迫っているとは思えないほど、平和なものだった。

「なあなあ、まずはどこへ行くんだ?」

「そうだね、行きたい所はいろいろあるけど、その前に」

「その前に?」

 ジュラーヴリクが首を傾げた。

 街のあちこちで遊ぶ前に、連れて行きたい場所がある。

 そこは──

 

「な、なんだよ、ここ」

 ジュラーヴリクは困惑していた。

 ヤリックが彼女を連れてきたのは、ブティックだった。

 決して高級な場所でも大きな場所でもないが、それでも中は他の店にも負けないおしゃれな雰囲気を持っていた。

「あの、すみません。この子に似合う服を選んで欲しいんです」

 ヤリックは入ってすぐ、店員に依頼した。

 店員は、すぐに2人の姿を物珍しそうに見比べる。

「この子はご家族ですか?」

「ええ、まあ──娘です」

 言ってから、ヤリックは苦笑した。

 なんでこんな事言ったんだ、そこはせめて兄妹でしょうと。

 まだ30歳でしかない自分が、ティーンエイジャーにしか見えない子供を持っているなんて、普通に考えてあり得ないでしょうと。

 案の定、店員は目を見開いた。

「あら、驚きました。お父様、随分若く見えたもので」

「あはは、よく言われるんですよ」

 よかった。とりあえず怪しまれてない。

 ここで不審者扱いされる心配がなくなり、一安心。

 だが、ジュラーヴリクはどうも納得していない様子だった。

「なあ、なんで服買わなきゃいけねえんだよ。遊びに来たんじゃないのかよ」

 思っていた場所と違う場所に連れて行かれたと、ふてくされている。

 無理もない。

 最初からここに行くと言ったら、彼女はまず嫌がるだろうから。

 ヤリックは、向き合ってジュラの両肩に手を置き、告げる。

「その前の下準備だよ」

「下準備なんていいだろ、別に」

「ダメだ。出かける前にちゃんと服装を整えないと」

「なんでさ、めんどくさい」

 今はコートを着てごまかしているが、ジュラーヴリクが来ているのは軍の中でも使っているツナギだ。

 とても外出の時に着るものではないが、彼女はそれを気にせず着ていく。めんどくさいという理由で。

 最初に外出した時もそうだった。とりあえずジャンパーでごまかしたが、これではよくないとヤリックは思ったのだ。

「いいかいジュラ、人の性格は、着ている服にそのまま出るんだ。いいようにも、悪いようにもね。着る服をちゃんとしない人は、人にどう見られるか気にしていないって事なんだ」

「それの、何がダメって言うのさ?」

「かっこ悪い。だらしない。笑われる。見くびられる」

 ヤリックが言った途端、え、とジュラーヴリクが動揺した。

「そう、なのか? 今のあたしって?」

「うん。僕だって、このまま外へ連れて行きたくないと思うくらいにはね」

 途端、言葉を失うジュラーヴリク。

 がーん、という音が聞こえてきそうなほどに。

「それに今のままだと、これからもずっと周りから見くびられっぱなしになるぞ? ジュラはそんなの嫌だろ?」

「そ、それは、確かに……」

 ジュラーヴリクが、目を泳がせ始める。

「遊びたかったら、どこへ行っても恥ずかしくない服をここで選びなさい」

「……わかったよ」

 そして、観念した。

 

 しばらく経って、店員に呼ばれたヤリックが戻ると、ジュラーヴリクが試着室から出てきた所だった。

 見た瞬間、おお、と感心した。

 白い袖なしのブラウスに、ハイウエストな緑のガウチョパンツ。

 それは、がさつだった彼女の印象を、いい意味で大きく変えるものだった。

「な、なあヤリック……これが一番いいんじゃないかって、言われたん、だけどさ……変じゃない、よな……?」

 着慣れないからか、ジュラーヴリクは視線を泳がせている。その頬は、傍から見てもわかるほど赤く染まっていた。

「全然。とても似合ってるじゃないか。いいものを選んでもらったね」

「そ、そうか……?」

「そうだ、後これも試しにつけてみてくれないか」

 ヤリックは、さらに自分で持ってきたものを差し出した。

 それは、三角形のイヤリングだった。

 さすがに服選びを店員任せにするのは気が引けるので、自分でも何か選べるものはないかと探したものだ。

「え? これどうつけるんだよ……?」

 困惑するジュラーヴリクにつけ方を教えつつ、イヤリングをつけてもらった。

 それから改めて、ヤリックはジュラーヴリクの姿を確かめる。

 彼女は、誰も軍に関わっているとは想像できないであろう程、可憐な少女へと変貌していた。

「うん、これで完璧だ。今のジュラは、どこへ行っても恥ずかしくない女の子だ」

「ほんとか!? じゃあ、遊びに行けるんだな!」

「ジュラがそれに満足ならね」

「ああ! ヤリックがそう言うなら、もう満足だよ!」

 嬉しそうに小躍りするジュラーヴリクを見て、ヤリックは思った。

 この子は、ただの戦闘兵器じゃない。

 ちょっと荒っぽいだけの、普通の女の子でしかないんだと。

 それが逆に、これから待ち受ける未来を猶更不安にさせるのだが──

 

「よーし! ようやく遊びに行けるぞーっ!」

 支払いを済ませた後、新しい服を纏ったジュラーヴリクは、コートを着るのも忘れて店を飛び出した。

 案の定、外の冷たい風にさらされて、寒っ、とすぐ身動きできなくなった。

「浮かれすぎだよ。ちゃんとコート着なさい」

 ヤリックは仕方なく、コートを被せてあげる。

 わりいわりい、と苦笑しながらコートに袖を通すジュラーヴリク。

 そんな時だった。

 不意に、ヤリックの携帯電話が鳴った。

 こんな時に誰だ、と思いつつ画面を見る。

 工場からだった。

 どうしたんだ、と思いつつ受話する。

「はい、僕です」

『ギンツブルク君、すぐ戻れ! 緊急事態だ!』

 電話に出た上司の声は、切迫していた様子だった。

「え? 緊急事態? 何があったんです?」

『──だ! ──の──』

 詳しく話を聞こうとしたが、急に通話に激しいノイズが入り始めた。

「何ですか? 聞き取れません! もしもし! もしもし!」

 ヤリックが呼び掛けたのも空しく、通話が切れてしまった。

 何が起きたのか一瞬わからなかったが、すぐに理解できた。

 突如街中に、不吉なサイレンが鳴り響いたのだ。

 周りの市民達も、明らかに困惑し始めている。

「ヤリック、何なんだこれ? どうしたんだ?」

 ジュラーヴリクも同じだった。

 このサイレンは、空襲警報だ。

 しかも、直前の電話がノイズで途切れた。

 それが導くものは、たったひとつ──

「帰ろう、ジュラ」

「え?」

「ザイの空襲が来る」

 

(続く)

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