ガーリー・エアフォースサーガ プロイェクト・ジュラーヴリク 作:フリッカー
翌日。
この日は休暇だったので、最近思い悩むジュラーヴリクの癒しになればと、共に冬の街へと繰り出す事にした。
「お出かけなんてひっさびさだー! ひゃっほーい♪」
車の助手席に乗せたコート姿のジュラーヴリクは、すっかりご機嫌な様子だ。
本当に子供だなあと感じつつ、ヤリックは車を運転してうっすら雪が積もった街中を進んでいく。
いつもと変わらぬ街の風景。
それは、すぐ近くに戦乱が迫っているとは思えないほど、平和なものだった。
「なあなあ、まずはどこへ行くんだ?」
「そうだね、行きたい所はいろいろあるけど、その前に」
「その前に?」
ジュラーヴリクが首を傾げた。
街のあちこちで遊ぶ前に、連れて行きたい場所がある。
そこは──
「な、なんだよ、ここ」
ジュラーヴリクは困惑していた。
ヤリックが彼女を連れてきたのは、ブティックだった。
決して高級な場所でも大きな場所でもないが、それでも中は他の店にも負けないおしゃれな雰囲気を持っていた。
「あの、すみません。この子に似合う服を選んで欲しいんです」
ヤリックは入ってすぐ、店員に依頼した。
店員は、すぐに2人の姿を物珍しそうに見比べる。
「この子はご家族ですか?」
「ええ、まあ──娘です」
言ってから、ヤリックは苦笑した。
なんでこんな事言ったんだ、そこはせめて兄妹でしょうと。
まだ30歳でしかない自分が、ティーンエイジャーにしか見えない子供を持っているなんて、普通に考えてあり得ないでしょうと。
案の定、店員は目を見開いた。
「あら、驚きました。お父様、随分若く見えたもので」
「あはは、よく言われるんですよ」
よかった。とりあえず怪しまれてない。
ここで不審者扱いされる心配がなくなり、一安心。
だが、ジュラーヴリクはどうも納得していない様子だった。
「なあ、なんで服買わなきゃいけねえんだよ。遊びに来たんじゃないのかよ」
思っていた場所と違う場所に連れて行かれたと、ふてくされている。
無理もない。
最初からここに行くと言ったら、彼女はまず嫌がるだろうから。
ヤリックは、向き合ってジュラの両肩に手を置き、告げる。
「その前の下準備だよ」
「下準備なんていいだろ、別に」
「ダメだ。出かける前にちゃんと服装を整えないと」
「なんでさ、めんどくさい」
今はコートを着てごまかしているが、ジュラーヴリクが来ているのは軍の中でも使っているツナギだ。
とても外出の時に着るものではないが、彼女はそれを気にせず着ていく。めんどくさいという理由で。
最初に外出した時もそうだった。とりあえずジャンパーでごまかしたが、これではよくないとヤリックは思ったのだ。
「いいかいジュラ、人の性格は、着ている服にそのまま出るんだ。いいようにも、悪いようにもね。着る服をちゃんとしない人は、人にどう見られるか気にしていないって事なんだ」
「それの、何がダメって言うのさ?」
「かっこ悪い。だらしない。笑われる。見くびられる」
ヤリックが言った途端、え、とジュラーヴリクが動揺した。
「そう、なのか? 今のあたしって?」
「うん。僕だって、このまま外へ連れて行きたくないと思うくらいにはね」
途端、言葉を失うジュラーヴリク。
がーん、という音が聞こえてきそうなほどに。
「それに今のままだと、これからもずっと周りから見くびられっぱなしになるぞ? ジュラはそんなの嫌だろ?」
「そ、それは、確かに……」
ジュラーヴリクが、目を泳がせ始める。
「遊びたかったら、どこへ行っても恥ずかしくない服をここで選びなさい」
「……わかったよ」
そして、観念した。
しばらく経って、店員に呼ばれたヤリックが戻ると、ジュラーヴリクが試着室から出てきた所だった。
見た瞬間、おお、と感心した。
白い袖なしのブラウスに、ハイウエストな緑のガウチョパンツ。
それは、がさつだった彼女の印象を、いい意味で大きく変えるものだった。
「な、なあヤリック……これが一番いいんじゃないかって、言われたん、だけどさ……変じゃない、よな……?」
着慣れないからか、ジュラーヴリクは視線を泳がせている。その頬は、傍から見てもわかるほど赤く染まっていた。
「全然。とても似合ってるじゃないか。いいものを選んでもらったね」
「そ、そうか……?」
「そうだ、後これも試しにつけてみてくれないか」
ヤリックは、さらに自分で持ってきたものを差し出した。
それは、三角形のイヤリングだった。
さすがに服選びを店員任せにするのは気が引けるので、自分でも何か選べるものはないかと探したものだ。
「え? これどうつけるんだよ……?」
困惑するジュラーヴリクにつけ方を教えつつ、イヤリングをつけてもらった。
それから改めて、ヤリックはジュラーヴリクの姿を確かめる。
彼女は、誰も軍に関わっているとは想像できないであろう程、可憐な少女へと変貌していた。
「うん、これで完璧だ。今のジュラは、どこへ行っても恥ずかしくない女の子だ」
「ほんとか!? じゃあ、遊びに行けるんだな!」
「ジュラがそれに満足ならね」
「ああ! ヤリックがそう言うなら、もう満足だよ!」
嬉しそうに小躍りするジュラーヴリクを見て、ヤリックは思った。
この子は、ただの戦闘兵器じゃない。
ちょっと荒っぽいだけの、普通の女の子でしかないんだと。
それが逆に、これから待ち受ける未来を猶更不安にさせるのだが──
「よーし! ようやく遊びに行けるぞーっ!」
支払いを済ませた後、新しい服を纏ったジュラーヴリクは、コートを着るのも忘れて店を飛び出した。
案の定、外の冷たい風にさらされて、寒っ、とすぐ身動きできなくなった。
「浮かれすぎだよ。ちゃんとコート着なさい」
ヤリックは仕方なく、コートを被せてあげる。
わりいわりい、と苦笑しながらコートに袖を通すジュラーヴリク。
そんな時だった。
不意に、ヤリックの携帯電話が鳴った。
こんな時に誰だ、と思いつつ画面を見る。
工場からだった。
どうしたんだ、と思いつつ受話する。
「はい、僕です」
『ギンツブルク君、すぐ戻れ! 緊急事態だ!』
電話に出た上司の声は、切迫していた様子だった。
「え? 緊急事態? 何があったんです?」
『──だ! ──の──』
詳しく話を聞こうとしたが、急に通話に激しいノイズが入り始めた。
「何ですか? 聞き取れません! もしもし! もしもし!」
ヤリックが呼び掛けたのも空しく、通話が切れてしまった。
何が起きたのか一瞬わからなかったが、すぐに理解できた。
突如街中に、不吉なサイレンが鳴り響いたのだ。
周りの市民達も、明らかに困惑し始めている。
「ヤリック、何なんだこれ? どうしたんだ?」
ジュラーヴリクも同じだった。
このサイレンは、空襲警報だ。
しかも、直前の電話がノイズで途切れた。
それが導くものは、たったひとつ──
「帰ろう、ジュラ」
「え?」
「ザイの空襲が来る」
(続く)