ガーリー・エアフォースサーガ プロイェクト・ジュラーヴリク 作:フリッカー
直後、遠くで爆発音がした。
見ると、建物の天井が燃えている。
その周囲に、さらに隕石めいた何かが次々と落ちてきて爆発した。
何をどう見ても、ミサイルだった。
周りの人々は、たちまちパニック状態になって逃げ惑い始める。
「な、何だ!?」
「早く車に!」
ヤリックはとっさに叫んでジュラーヴリクの背中を押していた。
もたもたしている暇はない。
次々と爆発の音が響く中、先にジュラーヴリクを車へ押し込む。
直後、轟音と銃声。
頭上で、何かが飛び去った。
見上げると、そこにいたのは異形の飛行機。
幾何学的な模様を持つそれは、水晶のように光輝きながらもまるで蜃気楼のように姿が不確かだった。
あれこそが、ザイ。
隣国を呑み込みつつある未知の敵性飛行物体──
「急がないと!」
すぐに運転席に座り、ドアを閉めた。
空襲で、道路が使えなくなってしまう可能性だってある。その前に戻らなければ。
「しっかりつかまってるんだ!」
エンジンをかけて、アクセルを一気に踏み込む。
体が一気に席に押し付けられ、ロケットスタートしていく車。
急いでいるせいか、今までした事もない荒っぽい運転だった。
逃げ惑う人々に対して逆走する形で、道路を進んでいく。
だが、目の前に駐車されていた車が、急に爆発した。
驚いて、とっさに左折し別の道に入る。
危ない所だった。1秒でも反応が遅れていたら、そのまま衝突していただろう。
「ヤリック! こっちに来る!」
ジュラーヴリクが叫んだ。
見ると、彼女はいつの間にか窓を開け、頭を外に出して後ろを見ていた。
「何やってるんだジュラ! 危ない──」
言い終わる前に、すぐ近くで爆発がした。
衝撃で車が振られる。
それを力ずくで抑え込み、前に進み続ける。
それでも爆発は止まず、次々と炎が横を通り過ぎていく。
映画で見たように、右に、左にハンドルを切りまくる。
まだ運転できているのが奇跡だとヤリックが思うほどに。
見上げると、不確かな異形の翼が飛び去って行くのが見えた。
「おい! もっとスピード出ないのかよ!」
「無茶言わないでくれ! その前に頭を引っ込めなさい!」
向こうからすれば、こちらがどんなに速度を出したところでアリの早歩きも同然。
まともに競争しようとしても、勝ち目などないのだ。
そして、ついに。
「うわあっ!」
何度目かの爆発をよけようとして、道を右へ曲がり切れなかった。
カーブが大きく膨らみ、建物に横っ腹から突っ込んでしまった。
激しい衝撃。
ヤリックは額をぶつけてしまい、危うく意識が飛びそうになった。
「ヤリックッ!?」
ジュラーヴリクが慌てた様子で覗き込んでくる。
彼女は大したケガをしていない様子だった。言った通りに頭を引っ込めてくれたのだろうとヤリックは一安心する。
「だ、大丈夫だ……」
「ほんとか!? 頭から血出てるぞ!?」
「そうみたい、だね……」
バックミラーを見ると、額からが赤い何かが垂れてきているのが見えた。
だが、今ケガに構っている暇はない。敵はすぐそこまで来ているのだ。
エンジンが止まっている。衝撃でエンストしたらしい。
エンジンをかける。だがかからない。
もう一度やってみるが、結果は同じ。
「くそっ! かかってくれ!」
何度やっても、かからない。
そうこうしてる内に、敵が空から迫ってくる。
死が少しずつ迫ってくるのを感じて、ヤリックはジュラーヴリクだけでも逃がそうと考えた。
運転席側のドアは建物が邪魔で開けられそうにないが、助手席側なら開く。
「ジュラ……! 君だけでも先に逃げろ!」
「何言ってんだよ!? ヤリックだけ置いてくなんて嫌だ!」
「僕も後から行く! だから、早く!」
「嫌だ! ヤリックと一緒じゃなきゃ嫌だ!」
もう、こんな時に甘え癖が。
そんな時、1機の異形の翼が迫ってきたのが見えた。
建物の間を抜けるほどの超低空。確実にこちらに機首を向けている。
間違いなくこちらを狙って、銃撃でも浴びせるつもりだろう。
もはや、ここまでか。
ヤリックは自分達の最期を確信し、とっさにジュラーヴリクを抱き寄せた──
が。
相手は、突如として機首を上げて飛び去った。
まるで、何かに驚いたように。
「……?」
助かったらしい事に気付いた直後、頭上を何かが飛び去った。
先程までとは違い、確かな姿かたちを持った翼。
白い翼、Su-35S。
味方だ。味方の防空部隊が来てくれたのだ。
もしかしたら、レフチェンコ少佐の機体だろうか、とヤリックは思った。
彼の部隊なら、限定的ながらザイに対抗できる装備を持っているからだ。
それだけではない。
道路にも、見慣れない大型トラックが現れていた。ハリネズミのように武装した砲塔を背負っている。
自走対空砲パーンツィリ-S1だ。早速不確かな相手目掛けて銃口を向け、射撃を開始する。
「味方だ! 味方が来てくれたぞヤリック!」
「よし、今の内に──」
この時間を無駄にはできない。味方もいつまで持ちこたえられるかわからないのだから。
ヤリックはもう一度エンジンをかけてみる。
かかった。エンジンがようやく唸りを上げる。
これならまだ逃げられる。
「行くよジュラ! 席に座って!」
ジュラーヴリクが席に座ったのを確かめて、アクセルを踏み込んだ。
車が、再び動き出す。
上空で戦いが繰り広げられる中、車は何とか街からの脱出に成功した。
(続く)