ガーリー・エアフォースサーガ プロイェクト・ジュラーヴリク   作:フリッカー

9 / 14
ALT.09 awake from the deep

「そんな──ヤリック! ヤリック──ッ!」

 ジュラーヴリクの悲痛な叫び。

 ここはどこなのかわからない。

 今まで何をしていたのかもわからない。

 ただ、仰向けの体に何かが覆い被さり、足元からぎこちなく這い上がってくる。

 ジュラーヴリクだった。

 彼女も力尽きる寸前なのか、這い上がり方はぎこちない。

「死ぬなっ! 死なないでくれっ! あたしを、独りに、しないでくれ──っ!」

 やっと眼前に来たジュラーヴリクは、必死にヤリックの体をゆすって呼びかける。

 その瞳からは、今まで見た事のない涙が。

 そうか、と気付いた。

 自分は、彼女を泣かせるほどひどい事をしてしまったのかと。

 だが、残念だ。

 彼女にしてしまった事が一体何だったのか、もう今となっては思い出せない。

「すまない、ジュラ……何も、してやれなくて……」

 それだけしか、言えなかった。

 錆びついたように重い右手を、ジュラーヴリクの頬に伸ばす。

 涙で濡れながらも柔らかな頬を撫でていられるのも、あとどのくらいか。

「君とは、もっと違う形で、出会いたかった……」

 ああ、なんて悲しい。

 こんな形で、お別れをしないといけないなんて。

 だから、せめて後悔のないように。

 親として、これだけは言っておきたい事を、口にする。

「愛してるよ、ジュラ」

 親としての、最後の愛の言葉。

 そして顔をゆっくり引き寄せ、額にそっと口付けた。

 唇を離すと、そのまま、意識が闇へと落ちていく──

 

「ふざ、けんな……ふざけんな──ふざけんなああああああああっ!」

 だが。

 ジュラーヴリクの怒りの叫びと共に、世界に感覚が戻った。

 再起動するディスプレイ。

 唸るエンジン。

 振り切るメーター。

 そして、激しく体を押し潰す力がかかった。

 それが、ヤリックの意識を急激に引き戻す。

「な、何、だ……?」

 Gが解けたと同時に、太陽が目に入る。

 上昇に転じているようだ。

 振り返ると、30M2の翼にあり得ない事が起きていた。

「光って、いる……?」

 ダークグレーの翼に──いや、機体全体に、オレンジの幾何学的な光が走っている。

 それが、ザイにも見られる模様。

 だが、その色はジュラーヴリクの髪の色と同じ。

 はたと、振り返る。

 目に涙をにじませ、怒りに燃えているジュラーヴリクが、そこにいた。

 その髪は、ぼんやりと発光している。

 今まで見た事のない現象。

 まるで、機体と共鳴しているかのようだった。

「てめえら全員! 蹂躙してやる──っ!」

 叫びに呼応するように機首が上がり、世界が反転する。

 視界いっぱいに広がる地上。捉えるは不確かな敵の姿。

 その1機に狙いを定め、急降下。

 地上の獲物を見つけた猛禽のように。

「らあああああああっ!」

 機関砲が火を噴いた。

 いかなる航空機も1発浴びれば無事では済まない30mmの弾丸が、相手を射抜く。

 その真横を通り過ぎた直後、その相手は爆散した。

 まさに流れ切りだった。

 だが、急降下が激しすぎる。

 どんどん迫ってくる市街地。

 瞬間、世界がぱたん、とひっくり返ったかと思った。

 一瞬で、機首が上がったのだ。時計に例えれば7時から11時まで一気に。

 そのまま逆噴射をかける形で、強引に落下速度を相殺、まるでロケットのように再上昇。

 あり得ない。

 こんなの、飛行機離れしている。

 ヤリックにも、それだけは理解できた。

「おおおおおおおおっ!」

 上昇に転じながら、ミサイルが2発同時に放たれた。

 相手は、こちらの動きに追い付けていない。

 無防備な腹を見せていた敵2機が、ミサイルの直撃をもろに受けた。

 その爆発を背にして、上昇に転じる機体。

『見ろ! 何だあの動きは!?』

『あれが噂の新兵器か……!? まるでUFOじゃないか!』

『データリンクを見ろ! 繋がってるし、ノイズが消えてるぞ!』

 無線で味方が驚いているのがわかる。

 ヤリックは驚くばかりだ。

 ジュラーヴリクに、こんな動きができたのか?

 深淵に眠っていた未知なる力が、目覚めたというのか?

 これが、ジュラーヴリク──いや、アニマの真の実力──!

「──っ、まだだあああっ!」

 機体はそのまま宙返りし、地面に向いた所でミサイルを4発発射。

 ジュラーヴリクはどのように相手を捉えているのか、まるでわからない。

 またしても4機のザイが、爆散して散っていく。

 ここに来て、ようやくザイの方も立ち直り始め、再び上昇する30M2を追撃する。

「はあ、はあ、はあ──」

 だが、ジュラーヴリクの息が上がっている。顔にも明らかに疲労の色が濃くなっている。

 もはや力尽きる寸前のマラソンランナー。明らかに無理をしていた証拠だった。

「まだ、だ──」

 そして、力なく目を閉じ、がくり、とうなだれてしまった。

 途端、髪の光が消え、機体もオレンジの光が消える。

 一瞬で落ちるエンジンパワー。急激に落ちる速度。

 あっという間に追いすがるザイとの距離が詰まっていく。

 だが、ヤリックにはぼんやりと見ている事しかできなかった。

『援護しろ!』

 レフチェンコ少佐の声。

 同時に、30M2の周囲に地上からミサイルが飛んできて、ザイの行く手を阻む。

 追撃を阻まれた相手は、瞬時に散開。何機かは、ミサイルの直撃を受け落ちていく。

 どうやら、地上からの対空射撃が助けてくれたらしい。

 そして、味方の35Sが隙を逃すまいと追いすがり始めた。

 それを背後に、力を失った30M2が失速し始める。

 がくん、と機首が下がり、地面に吸い込まれていく。

 警報。

 何かのシステムが作動した。

 それが何かを確かめる前に、ヤリックの意識は今度こそ闇に落ちていった──

 

(続く)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。