ガーリー・エアフォースサーガ プロイェクト・ジュラーヴリク 作:フリッカー
「そんな──ヤリック! ヤリック──ッ!」
ジュラーヴリクの悲痛な叫び。
ここはどこなのかわからない。
今まで何をしていたのかもわからない。
ただ、仰向けの体に何かが覆い被さり、足元からぎこちなく這い上がってくる。
ジュラーヴリクだった。
彼女も力尽きる寸前なのか、這い上がり方はぎこちない。
「死ぬなっ! 死なないでくれっ! あたしを、独りに、しないでくれ──っ!」
やっと眼前に来たジュラーヴリクは、必死にヤリックの体をゆすって呼びかける。
その瞳からは、今まで見た事のない涙が。
そうか、と気付いた。
自分は、彼女を泣かせるほどひどい事をしてしまったのかと。
だが、残念だ。
彼女にしてしまった事が一体何だったのか、もう今となっては思い出せない。
「すまない、ジュラ……何も、してやれなくて……」
それだけしか、言えなかった。
錆びついたように重い右手を、ジュラーヴリクの頬に伸ばす。
涙で濡れながらも柔らかな頬を撫でていられるのも、あとどのくらいか。
「君とは、もっと違う形で、出会いたかった……」
ああ、なんて悲しい。
こんな形で、お別れをしないといけないなんて。
だから、せめて後悔のないように。
親として、これだけは言っておきたい事を、口にする。
「愛してるよ、ジュラ」
親としての、最後の愛の言葉。
そして顔をゆっくり引き寄せ、額にそっと口付けた。
唇を離すと、そのまま、意識が闇へと落ちていく──
「ふざ、けんな……ふざけんな──ふざけんなああああああああっ!」
だが。
ジュラーヴリクの怒りの叫びと共に、世界に感覚が戻った。
再起動するディスプレイ。
唸るエンジン。
振り切るメーター。
そして、激しく体を押し潰す力がかかった。
それが、ヤリックの意識を急激に引き戻す。
「な、何、だ……?」
Gが解けたと同時に、太陽が目に入る。
上昇に転じているようだ。
振り返ると、30M2の翼にあり得ない事が起きていた。
「光って、いる……?」
ダークグレーの翼に──いや、機体全体に、オレンジの幾何学的な光が走っている。
それが、ザイにも見られる模様。
だが、その色はジュラーヴリクの髪の色と同じ。
はたと、振り返る。
目に涙をにじませ、怒りに燃えているジュラーヴリクが、そこにいた。
その髪は、ぼんやりと発光している。
今まで見た事のない現象。
まるで、機体と共鳴しているかのようだった。
「てめえら全員! 蹂躙してやる──っ!」
叫びに呼応するように機首が上がり、世界が反転する。
視界いっぱいに広がる地上。捉えるは不確かな敵の姿。
その1機に狙いを定め、急降下。
地上の獲物を見つけた猛禽のように。
「らあああああああっ!」
機関砲が火を噴いた。
いかなる航空機も1発浴びれば無事では済まない30mmの弾丸が、相手を射抜く。
その真横を通り過ぎた直後、その相手は爆散した。
まさに流れ切りだった。
だが、急降下が激しすぎる。
どんどん迫ってくる市街地。
瞬間、世界がぱたん、とひっくり返ったかと思った。
一瞬で、機首が上がったのだ。時計に例えれば7時から11時まで一気に。
そのまま逆噴射をかける形で、強引に落下速度を相殺、まるでロケットのように再上昇。
あり得ない。
こんなの、飛行機離れしている。
ヤリックにも、それだけは理解できた。
「おおおおおおおおっ!」
上昇に転じながら、ミサイルが2発同時に放たれた。
相手は、こちらの動きに追い付けていない。
無防備な腹を見せていた敵2機が、ミサイルの直撃をもろに受けた。
その爆発を背にして、上昇に転じる機体。
『見ろ! 何だあの動きは!?』
『あれが噂の新兵器か……!? まるでUFOじゃないか!』
『データリンクを見ろ! 繋がってるし、ノイズが消えてるぞ!』
無線で味方が驚いているのがわかる。
ヤリックは驚くばかりだ。
ジュラーヴリクに、こんな動きができたのか?
深淵に眠っていた未知なる力が、目覚めたというのか?
これが、ジュラーヴリク──いや、アニマの真の実力──!
「──っ、まだだあああっ!」
機体はそのまま宙返りし、地面に向いた所でミサイルを4発発射。
ジュラーヴリクはどのように相手を捉えているのか、まるでわからない。
またしても4機のザイが、爆散して散っていく。
ここに来て、ようやくザイの方も立ち直り始め、再び上昇する30M2を追撃する。
「はあ、はあ、はあ──」
だが、ジュラーヴリクの息が上がっている。顔にも明らかに疲労の色が濃くなっている。
もはや力尽きる寸前のマラソンランナー。明らかに無理をしていた証拠だった。
「まだ、だ──」
そして、力なく目を閉じ、がくり、とうなだれてしまった。
途端、髪の光が消え、機体もオレンジの光が消える。
一瞬で落ちるエンジンパワー。急激に落ちる速度。
あっという間に追いすがるザイとの距離が詰まっていく。
だが、ヤリックにはぼんやりと見ている事しかできなかった。
『援護しろ!』
レフチェンコ少佐の声。
同時に、30M2の周囲に地上からミサイルが飛んできて、ザイの行く手を阻む。
追撃を阻まれた相手は、瞬時に散開。何機かは、ミサイルの直撃を受け落ちていく。
どうやら、地上からの対空射撃が助けてくれたらしい。
そして、味方の35Sが隙を逃すまいと追いすがり始めた。
それを背後に、力を失った30M2が失速し始める。
がくん、と機首が下がり、地面に吸い込まれていく。
警報。
何かのシステムが作動した。
それが何かを確かめる前に、ヤリックの意識は今度こそ闇に落ちていった──
(続く)