「やあバイサー、私と家族になろう」
彼女を家に連れ込んで数日、ようやく下半身が再生して容態が安定したので前に考えていたことを持ちかけてみる。
「......戯言を」
来客用の布団に寝ているバイサーは、そう言いながら力の無い目を向けてくる...若干廃人に近くなっているな。
「そうだな、正直自分で言っててふざけているとしか思えんよ」
「...ここに連れ込まれてから数日、お前の人となりは理解した。しかしそれでも理解できないことがある。」
「聞かせてもらっても?」
「...何故私にここまでする?吐き捨てられる存在である、たかがはぐれ悪魔に」
「そんなこと決まっているじゃないか、同情だよ。人間である私が、悪魔であるキミの境遇を見て憐みを感じているのさ。」
そう堂々と言うと、あまりの清々しさに唖然としたようだ。綺麗事を言うと思ったか、残念ながら私はそういう冗談の類は得意ではないのでね。
「くっ、馬鹿正直に答えてくれる」
「あとはそうだな...キミの過去は、幸せになる未来への対価になりうると感じたからさ」
「対価?」
「そうさ、職業柄そう考えてしまうものでね。キミが今まで苦労し、絶望し、涙を流した経験は...何よりもキミの力になり、幸福な未来を掴みとる権利に値すると感じたのさ。」
錬金術の考え方の一つとして、等価交換の法則というものがある。1から1は作れても、1から2は作れないという先人たちが考え出した法則だ。魔力などのエネルギーを使わない昔の錬金術では、この等価交換の法則は絶対だった。
逆に言えば、対価を払えばそれに見合った物を手に入れられるということでもある。
「だからバイサー、キミは対価を払ってある。そして私は錬金術師だ。
...キミが幸せになりたいと願うのなら、私はキミを幸せにするために全力を尽くそう」
「.........私は、家族を殺された。身体をいじくられ、そしてはぐれ悪魔に成り下がり、全てを失った」
そう語るバイサーの目から、少量の涙が零れ落ちる。誰にも頼れず、誰にも優しくされなかった分衝撃を受けているのだろうか。
「このまま、はぐれ悪魔として死ぬ覚悟もした、したつもりだったッ!!
...でも今の言葉は卑怯だ、生きる希望を感じてしまったではないか...ッ」
「...頼む、私を幸せにしてくれっ、全ての、幸せを失った、私に...家族を、愛を、今までの分も幸せをくれっ......!」
そして嗚咽交じりの声で、私に『依頼』をした。内容はバイサーに幸福を、対価と報酬はすでに払ってある。なら、することは一つだ。
「その依頼、承諾した。これからお前は私の家族だ、バイサー......覚悟してもらおう、私なりにキミを幸せへと導く努力をしよう」
そう言い号泣する彼女を抱きしめ、幼子をあやすように頭を撫でた。
~それからどうした~
「まあそんなことがあった」
「師匠...アナタはやっぱりすごいです...ッ!!!」
バイサーを家族に迎えた翌日、放課後の廊下でイッセーに簡単な報告をしたところである。
彼女を長時間放っておけないので、しばらくオカルト研究部に顔を出していない。なので久しぶりに行こうかと旧校舎に向かう途中で同じく部室に向かうイッセーと会ったので世間話ついでに、というわけだ。
「イッセーの方は何か変わったことはあったか?」
「えっと、シスターの女の子と知り合ったことですかねえ。近くの教会まで案内したんですけど、今度遊ぶ約束なんかもしちゃいました!!
...まあその後、部長にこっぴどく叱られちゃいましたけど」
「まあ悪魔にとって教会は関与してはいけない場所だしな、自分が悪魔であることを忘れてはいけないぞ」
「うっす、以後気を付けます。そしてこんにちわーっと」
「やあイッセー君、そして...東乃君...」
「やあ木場君、やけに私の名を呼ぶ時に熱がこもっているな」
「東乃君、ちょっとお菓子作ってみたんですけど食べてもらえます?」
「ありがとう姫島先輩、何故このチョコクッキーには私特製の媚薬と同じ匂いを感じるのか」
そして今日もオカルト研究部は絶好調である。
~ちょっと時をすっとばして~
さて、今日も私はイッセーの付き添いで契約のお手伝いに来たはずだった。
「あれまぁ~?こりゃまあ、下種で屑な存在カッコ確定カッコトジな悪魔く~んじゃあ~りませんか~」
しかし来てみたらどうだろう、目の前にはトチ狂った神父と出血し、倒れている男がいるではないか。
「テメェ...どうしてこんなことを...ッ!!」
「なぁ~ぜぇ~ってかぁ?決まっているじゃないですか、悪魔に魅入られた人間ですよ?だもんでボクちゃん家族ごとぶっ殺しちゃった☆」
「イッセー落ち着け、どうやらお前ははぐれ悪魔祓いだな?」
「あんれぇ~?そこのジャリガールはボクちゃんのこと分かってるみたいだねえ、そうさわたくしこそ悪魔ぶっ殺すの大好きなフリード・セルゼンクンだよーん!!」
...
はぐれ悪魔祓いとは、悪魔を殺すことに魅入られ殺戮に染まった存在...いわば暴走したようなものだ。
正直、今のイッセーでは厳しい相手である。
「とりあえず二人とも首チョンパしてあげよう、アーメンッ!!」
フリードがこちらに向かって跳躍してくる、流石に迎撃しなければ危ない。
周囲に軽く影響が出てしまうが緊急事態なので仕方がない、私はポケットからカードを一枚取り出し、床に落とす。
「
「ゴアアァァ!!」
その瞬間子犬大のクロゴマちゃんが召喚され、家の中を黒いモヤで充満させる。戦闘モードではないので、吸引してもバーサク状態にはならない親切仕様である。
「イッセー、流石に分が悪い。今のうちに逃げるぞ」
「オッス「えっ...イッセーさん?」ッ!!アーシア!?」
アーシア、と呼ばれた少女はモヤの中、声を頼りにこちらに近づいてきていた。
イッセーはそれに数秒気を取られていた、結果フリードの接近に気付かず、斬撃を一発もらうことになる。
「ぐっ、あああ!!!」
「イッセーさん!?神父様、なんでこんなことするんですかっ!!」
「なんでって、そりゃあ悪魔は祓われるものだァからですよ~ォん」
「イッセーさんが悪魔...そんなこと「ホントだよ、アーシア」イッセーさん!?」
......今のうちだ。フリードが会話に気を取られているうちに、簡易な連絡用の転移錬成陣を書いて部長達にこの事態を知らせよう。
胸ポケットからチョークのようなものと何も書かれていないカードを取り出す、そして慣れた手つきで錬成陣を書きこんでいく。
発信地...今いる場所の特徴を書き込み、受信地...オカルト研究部の場所の特徴を書き込む。そして発動....繋がるか!?
『...どうしたの東乃君、いきなり錬成陣が部室に浮かび上がって』
「話は後だ、今はぐれ悪魔祓いに襲われている!!」
『な、なんですって!?』
「応援を求む、浮かび上がっている錬成陣からこちらに来れるハズだ!!」
「おっ、シスターと悪魔の禁断の恋、ってヤツですかァ妬けますな~」
「クッ、くそっ!!」
「そんな!!あぁ神は何故...!」
応援要請はしたが、今のイッセー一人でフリード相手に時間稼ぎは無茶だったか...?
既に満身創痍なイッセー、モヤも晴れてきたし私も少々加勢するとしよう。
「クロゴマちゃん、GO!」
「ゴアァ!!」
「ちょ、なんですかこのちっこいのわァ!!?」
「私のペットだ!」
クロゴマちゃんがフリードをかく乱し、隙を作りだす。今のうちにイッセーにアルティメット湿布とハイポーションで治療を施す。
「ありがとうございます師匠、俺やっぱり弱いっすね...」
「今はそんなこと考えている場合じゃないぞ、今すぐ部長達が来る」
そう言った瞬間、連絡に使っていた錬成陣が刻まれたカードから皆が飛び出してきた!
「二人とも、無事かい!?」
「なんとかな...師匠がいなかったらどうなっていたことか」
「いいねいいね!そういう熱い友情ってやつゥ!?ねえどっちが受け?攻め?」
「......ふざけたヤツです...!」
小猫君が僅かに顔を歪ませながら言う、私も同意する。
「でも残念で~したぁ、シスターちゃんはこっちだよ~ん」
「痛っ、イ、イッセーさん!!」
「ア、アーシア!!」
いつの間にか神父服を着た男がアーシアを抑えつけていた...あちらも増援を呼んでいたか!!
「そしてグッドニュ~ス、なんとこちらに応援が複数向かっていまーす!!」
そう言ってフリードが指さす先には魔法陣...堕天使のモノと複数人の神父服が。
「不味いわね....退くわよ!」
「来いイッセー、今のお前では...ッ!!」
「離してくれ師匠!アーシア!!アーシア!!!」
「...イッセー、さん...」
私達は無事に転移し、追撃を受けることなく逃亡に成功した。イッセーは頑なに転移を拒んだが、私とクロゴマちゃん、そして小猫君で無理やり転移させた。
転移の瞬間のイッセーの叫びは、どのような表現よりも彼の悔しさを表していた。
「アァァァシアアアアアア!!!!!!!!」
媚薬チョコクッキー~何故進君が媚薬入りだと分かったか、進君も依頼で媚薬を作ることがあるからです。その媚薬は少々特殊な香りを発していて、姫島先輩はそれを使ったと考えられます。それも匂いが分かる程大量に...がっつきすぎです、姫島さん。
召喚カード~進君はいつもクロゴマちゃん召喚用のカードと、複数の何も書かれていない白紙のカードを持っています。どちらもとっさの非常時に備えてのことです。他にもアルティメット湿布とハイポーション(200mlペットボトル入り)を召喚するカードも持っています。