「アーシアっ!!!」
閉められていたドアを大きな音を立てて開き、兵藤一誠は友達の名を呼んだ。僅かな時間しか交流していないが、それでも「友達」と胸を張って言える、彼女の名を。
しかしその友達の返事は、非常に弱々しいものだった。
「イッセー...さん...」
「遅かったわね!アーシアの
アーシア・アルジェントは魔法陣で壁に張りつけられ、儚げに一誠の名を呼んだ。その横で堕天使レイナーレが高らかに笑う、その手には癒しのオーラが見える...そのオーラの持ち主は元々アーシアのものであったハズなのに。
「夕麻ちゃん...アーシアから神器を無理やり取ったのか...?」
「ええそうよイッセー君、でもアーシアちゃんも幸せははずよ...私のような至高の堕天使の役に立てるのだからね!!」
レイナーレ...かつて自分が本気で好きになった「天野夕麻」のあまりに外道な行いに、一誠は現実逃避したくなった。しかし忘れてはならない、目的はアーシアの救出である。彼女を助けなければならない。
「あら、そんなにアーシアちゃんが気になる?いいわよ、もう私には必要ないものだから」
そう言うとレイナーレはアーシアの拘束を解き、その華奢な少女の体を一誠に向けてまるで荷物の如く放り投げた。
「ッ!!?アーシア、大丈夫か!?」
突然のことに驚きながらもアーシアを受け止め、安否の確認をする。
イッセーは事前に東乃進から聞かされていた...神器を無理やり剥ぎ取られた所有者は、死ぬと。
「......イッセーさん、あなたが悪魔でも...私と...友達で...いてくれますか...?」
「当たり前だろう!!でなけりゃ助けにも来ない!!これからもずっと、俺の友達だ!!」
「..........よかった...っ」
「また一緒に遊ぼう、今度は俺の部活仲間も一緒にさ!!美味しいものも食べよう、映画も見に行って、楽しいこともやって、もっと......
だからアーシア、死ぬなッ!!!」
そう言って一誠は倒れこんでいるアーシアを抱え、手を握る。しかし彼女の目は視点も定まっておらず、冷たい手には力がこもっていなかった。
「イッセー、さん」
魔女と呼ばれた優しい『聖女』アーシア・アルジェントは、一誠を見て。
「私、あなたと会えて」
最後の力を振り絞って、笑みを作り。
「幸せ、でした」
その瞳を、閉じた。
兵藤一誠の内面は、現在怒りと憎しみで溢れそうになっていた。
友達であるアーシア・アルジェントの命を奪った相手が、高笑いしているからである。元彼女であり、『人間』兵藤一誠を殺した犯人であることも大きい。
高笑いを止めさせたい。
口を閉じさせたい。
顔を殴りたい。
腹を殴りたい。
肩を殴りたい。
殴って奴を倒したい。
殴って再起不能にしたい。
殴り殺したい。
殺したい。
コロシタイ....
コロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイ.......
(いいかイッセー、憎しみに、力に飲まれてはならない)
「!!!」
その時一誠が不意に思い出したのは、自らが師と呼んでいる東乃進がかつて言った言葉だった。
よく東乃進は一誠に大切なことを教えてくれた。そしてオカルト研究部から教会に来るまでにも、一誠にあることを教えてくれたのである。
(お前は赤龍帝だ、お前には力がある。その力を憎しみで振るってはならない。だからこそ黄金の精神を忘れてはならない、己の中の『正義』の輝きを見失ってはならない)
「黄金の精神...正義...」
一誠は頭に浮かぶ師の言葉を復唱する、己の中の重要な『何か』を掴むように。
《イッセー...こっ、これは一体....!?》
ドライグは驚愕していた、兵藤一誠の中に渦巻いていた『覇』に近い物が全く別の物に変わっていたからである。同時にイッセーから今までの赤龍帝とは全く違う『何か』を感じ、それに呼応するようにイッセーが持っている
その何かは一誠に力を与えるものではなく、むしろ一誠自身から『何か』を引き出すことを促しているように感じた。
「さあイッセー君、アナタもアーシアと同じところに送ってあげるわ!!」
(そしてイッセー。紳士が戦う時、己の大義名分の下に力を振るう時。それは...)
「それは...」
レイナーレが蟻を潰すように、イッセーを殺そうとする。その手から発した光の槍を、レイナーレは掴んだ。
「さよなら、悪魔さん!!!」
そしてレイナーレは光の槍を投げた。そしてほぼ同時に、兵藤一誠は...
「(自らの信じた『正義』を、守る時)!!!」
《Promotion [Rook],change [Gunlance]!!!》
自らの『可能性』を、掴んだ。
「......イッセー、ようやく自分の『可能性』を引き出したか」
東乃進はそう言いながら、フリード・セルゼンをヒートカノンで吹っ飛ばした。
「何なの...何なのよそのでっかい盾と槍は...」
レイナーレは驚愕していた。
今までまるで虫けらのように見えていた馬鹿な男、兵藤一誠が...
「さあいくぜ夕麻ちゃん...いや、レイナーレ!!
俺の信じる『正義』が、お前と戦って勝てと言っている!!!」
盾で光の矢からその身を守り、巨大な武器を手にしているからである。
左手から赤龍帝の籠手が無くなったイッセーが今持っているのは巨大な盾と、槍に銃の機構を取り付けた「銃槍」と呼ばれる武器である。そしてその銃槍と盾は、赤き龍を模していた...まるで赤龍帝の籠手がその銃槍に変化したように。
レイナーレはそのようなことは一切知らないが、ただ危機感を感じていた。
「今度は俺の番だッ!!!」
《Boost reload !!》
そしてイッセーが攻勢に移る。魔力を装填し、困惑しているレイナーレに近づき。
「おらぁ!!」
《Shot !!》
「キャアッ!!」
彼女に銃口を向け、一発魔力を放った。その一発は羽を焦がし、イッセーをただの格下悪魔と考えていたレイナーレに焦燥感を思い起こさせるには十分なダメージだった。
「グッ......おのれ、クソ悪魔があああぁぁぁ!!」
焦りから精神的に余裕が無くなり、激昂したレイナーレは高く飛びイッセーに光の槍を投げる。
「食らうかっ!!」
しかし、イッセーは片手の盾で槍を防ぐ。堕天使の槍を受けても、その盾は一切傷つくことはない。
「次はこっちの番だ、高く飛んでも逃がさないぞ!!!」
《Promotion [Bishop],change [archer]!!!》
すると一度その銃槍は赤龍帝の籠手となり、籠手から聞こえる声と共に今度は弓と矢になった。
そして飛ぶレイナーレに狙いを定め、矢をつがえ強く引き絞った。
「狙い...溜める......!!!」
《Boost!! Boost!! Boost!!》
Boostの声と共に、矢にこめられる魔力が倍になっていく。
「ハアッ!!」
《Shot!!》
そして矢が放たれる。大量の魔力がこめられた矢は弓から離れた瞬間、無数の矢となりレイナーレを襲う。
「キャッ、ア゙ッ!!」
その矢がレイナーレの足、腕、そして黒き羽に突き刺さる。その激痛に、彼女は飛び続けていることが不可能となりまるで猟銃で撃ち抜かれた鳥のように地面に落ちていく。
「よし、トドメだ!!」
《Promotion [Rook],change [Gunlance]!!!》
そしてイッセーは弓をまた銃槍に変化させ、落ちてきたレイナーレに銃口を向ける。
「龍撃砲、発射用意!!」
《Boost!! Boost!! Boost!! Boost!! Boost!!
Maximum Boost!!》
銃槍から聞こえるBoostの声と共に、その砲身に莫大な魔力が蓄積されていく。まるで龍がブレスを吐く前に、己の力を溜めるように。今のイッセーの姿に、レイナーレは龍の怒りを感じた。
「やめて!私は至高の堕天使なのよ!?殺されるわけにはいかないの!!アザゼル様やシェムハザ様達の寵愛を受けるまでは絶対に死ねないのよ!!
それに私はアナタの彼女だったのよ!?私は天野夕麻よ、あんなに私の為に頑張ってくれたじゃない!!!アナタを愛してる!!だからお願い、殺さないで!!」
死にもの狂いなのだろう、レイナーレはとにかくイッセーに命乞いをする......惨めに、滑稽に。
それを見てイッセーは...
「俺さ、今までモテたことなかったからさ。精一杯楽しませようと、デートの計画も考えたんだぜ?プレゼントなんかも用意してたりさ、色々頑張ったんだ。
......こんなに最低な相手のために頑張ったなんて、こんなに酷い奴のためにアーシアが死んだなんてさ...笑えねぇよ...!
お前はドス黒い悪だ!自分の目的の為なら全く関係ない弱者さえも利用し犠牲にする!!そんな奴許せねえ...俺が信じる『正義』のもとに、引導を渡してやる!!!」
更に決意を新たにして、その瞳をレイナーレに向ける。けして逃げないと...『正義』に背を向けないと言わんばかりに。
「発射ああぁぁ!!!!」
《Draig impact shoot!!》
瞬間、目の前が紅き光線で焼き払われた。
「さあ、いこうアーシア」
イッセーはアーシアを抱え、その場から立ち去ろうとしていた。置いてきていた皆が心配だったからである。
「......手加減はしておいたからな」
そういうイッセーの後ろ...抉れた床の上には、レイナーレが転がっていた。しかし羽は折れ体中傷だらけで、明らかに満身創痍。もはや戦闘は不可能だろう。
そしてイッセーは歩き出す。迷惑をかけた師匠......そして皆のもとへ。
「グッバイ、俺の初恋」
銃槍と弓矢~進君が介入したことで、イッセーが新たな『可能性』に目覚めました。「兵士」の駒の特性であるプロモーションに合わせ、赤龍帝の籠手が変化しました。一体これはどういうことなのか、これは次回で進君がちょっとだけ説明してくれると思います。
ちなみに銃槍と弓矢の元ネタは、言うまでもなくモンスターハンターの武器です。