徒然なるインベントリア:シャンフロの小話   作:イナロー

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掌編ssの詰め合わせ。
Twitterでのss作者当てゲームに参加した時のものです。


ショートショート詰め合わせ

◇鬼が生まれた日

 

 鬼に金棒、という言葉がある。

 

 『鬼系のNPCやモンスターは概してSTRとVITを高めに設定されがちなので装備の重量制限などを気にせず高攻撃力の金棒を装備させれば強いよね』という極めてシンプルな脳筋の理論である。

 

 一見すると単純ながら尤もらく聞こえる実現可能な(ロマンのある)理屈であるが、実際の所そう上手くいく訳では無い。

 というのもその手のテンプレートなイメージによるステ振りをされた鬼……というか高火力高耐久のモンスターは、DEXやAGIに難のある場合が多いからだ。

 

 どれほど強力な攻撃と強靭な体力を備えていても、鈍重なエネミーは案山子にされるのがゲーム世界の常である。

 そんな常識が通用しないのがクソゲーの楽しくも恐ろしい所だが、幸いなことに幕末においては先に挙げた例に漏れなかったようで、今回の節分イベント『鬼々怪々』で現れた鬼も幕末に汚染された志士達の手によって瞬く間に天誅の憂き目に遭うこととなった……の、だけれども……

 

「さてここで問題です。鈍いとはいえプレイヤーを一撃でぺちゃんこに出来るくらいSTRガン振りのボスモンスターと真っ向から切り結べて、尚且つその他のステータスも満遍なく化け物じみた人が金棒を持つとどうなるでしょう」

「はぁ?突然何を言い出すのさサンラク。辞世の句なら聞いてあげるから大人しく天誅されな…ぷぺっ」

 

 俺を壁際に追い詰めたと思い油断していた京極が、ゴシャアッというド派手な音を立てて爆発四散する。

 

 京極だったポリゴンと土煙が晴れると、そこには噂の金棒を持ち、にっこりとアルカイックスマイルを浮かべたレイドボスさんが佇んでいて。

 

「うおおおお!鬼はてんちゅ…ごぱっ!」

 

 ――その日、幕末に鬼神が降臨した。

 

 

◇私は貴方のお雛様

 

 そうそう、この年のひな祭りは、瑠美が突然「お雛様になりたい!!」なんて言い出してねぇ。せっかく女の子を授かったことだし、最初は立派なひな人形を買ってあげるつもりだったんだけど……その一言でピンと来たの。この子が求めてるのは()()じゃないって。

 やっぱり血筋なのかしらね。私と仙次さんの子供なだけあって、楽郎も瑠美もこれと決めたものには本当に一直線なのよ。

 それで結局ひな人形は小さめの物にして、代わりに子供用の着物を仕立ててあげようってことになってね…せっかくだから楽郎にもお内裏様を努めて貰ったの。

 

「で、これがその時の写真よ」

「わぁ…!楽郎がちっちゃくて可愛い…」

「二人とも部屋の隅っこで何をして……何見てんの!?」

 

 リビングの片隅で古びたアルバムを開いていた京極と母さんから慌てて写真を奪い取る。

 親というのはどうしてこう人の幼少期を晒したがるのか。

 

「ちょっと、いきなり何するのさ。僕のちび郎を返してよ」

「誰がちび郎だコラ、しかしまた随分懐かしいものを」

「君にもこんないたいけな頃があったんだね、瑠美ちゃんもお人形みたいで可愛いなあ」

「お前も和服は結構着てるだろ」

「僕の持ってる服はよく言えば落ち着いた、悪く言うと地味なのが多いんだよね。お雛様みたいに華やかな服を着たのは七五三の時くらいかな」

「へぇ、勿体無い。お前ならそういうのも似合いそうなのにな」

「…ありがと。まぁこういう色鮮やかなのもいいけど、今は白い和服に憧れてるんだ」

「白?」

「うん、白……ねえ楽郎、いつか私に綺麗な白無垢を着させてね」

 

 ――楽しみにしてるからね?私のお内裏様。

 

 

◇はじめてのVR入門

 

 立って歩く、箸を持つ、剣を振る……その他様々な動作を、人間は日頃特にその仕組みを意識することなく行っています。そしてそれは、突き詰めてしまえば脳の発する電気信号を受けて体の各所の筋肉が反応しているわけです。

 細かい原理までは流石に専門外なので省略しますが、VR機器は機械を装着した人間の脳の信号を読み取り、利用することで動いています。

 例えば右手を動かそうとします。本来ならば現実の身体の右手が動いてしまうところですが、機械により一時的に肉体への信号を遮断。代わりにデジタルの世界の身体に『右手を動かせ』という指令を送ることで、現実の身体と同じようにゲームの中で動き回ることが出来る……

 

「と、いう訳なんですけど、今のところ何かご不明な点などは……?」

 

 長々とした説明を一度区切り、目の前に座る仙さんの様子を窺う。

 以前のふんわりとした解説よりも三段階くらい踏み込んだ内容になっているが、果たして彼女の理解は如何ほどか。

 

「なるほど、おおよその仕組みは分かりました」

 

 ……よし!第一関門は突破!

 

 緊張と長尺の台詞で渇いた喉をやや冷めた玉露で潤しつつ、とりあえずの掴みは悪くないことにそっと胸を撫でおろした。

 気付けば仙さんもお茶を手に取り小休止の構えを見せていた。普段はおっとりとしつつもどこか冷ややかな緊張感を漂わせている彼女だけれど、こうしてまったりしている姿は玲さんとよく似た柔らかな空気を感じさせる。

 

「それにしてもなぜ急にVRの話を聞きたいと?失礼ながら、仙さんはあまりこの手のものに興味は無いものだとばかり」

「ええ、確かに私自身は機械を得手ではありません。ですが、私としても妹たちと…将来の義弟が熱中している物の事はもっと学びたいと思いまして」

 

 

◇似た者兄妹

 

 

「永遠様、撮影お疲れ様です!今日も最高でした!」

「ありがとう、瑠美ちゃんもバッチリ決まってたよ」

 

 本当にいい子だなぁ。

 

 ティーンズ向けファッション誌の撮影を終えた私は、差し出されたミネラルウォーターを受け取りながらそんな素朴な感想を抱く。

 あのサンラク君の妹なのだからさぞかし破天荒な少女なのかと思いきやそんなことは一切なく、至って常識的で…そして可愛い女の子だった。

 

 連絡先を交換した時の反応やその後の交流から察するに、瑠美ちゃんが随分と熱心な(天音永遠)のファンであることは疑いようもない。

 そんな彼女が私と個人的な交友を持つに至ったのだから、私は正直この子がそれを他人に自慢したり、距離感を勘違いして馴れ馴れしく接してくる可能性も考えていた。

 だけど蓋を開けてみればそんなことは一切なく、私に対する尊敬と崇拝の意思はそのままに、つかず離れずの距離感でもって接する彼女のいじらしい態度は、年上としての庇護欲を擽った。

 また、モデル活動においても日頃からスタイルの維持に努めるのは勿論、服飾費を捻出するために自らバイトに精を出しているというのも好印象だ。

 

 小難しい理屈を並べたが要するに私は――陽務瑠美という少女のことを、殊の外気に入っていた。

 

「はっ、はひ!永遠様にそう言っていただけて光栄です」

「んふふ、こんなに固くならなくていいのに。私と瑠美ちゃんの仲デショ?」

「そそそそそんな畏れ多い!」

 

 うーん、実にからかい甲斐のある反応。

 

「本当に瑠美ちゃんは素直で可愛いねぇ、これがあの万年ジャージクソゲーマーの妹なのはこの世の不思議だよ」

「そこは私も不満に思ってます」

「実はやっぱり血が繋がってないなんてオチだったりしない?」

「な、何で知ってるんですか?、兄から聞いたんでしょうか?」

「なーんて冗だ……えっ?」

 

 想定外の瑠美ちゃんの反応に言葉を失う。思い出すのはGGCの打ち上げの時のサンラク君の言葉。

 サンラク君はあの時嘘だと言っていたけど、まさか彼らは本当に血が…?

 

「…っぷ。ごめんなさい永遠様、エイプリルフールの冗談です」

 

 ……前言撤回。

 やっぱりこの子はサンラク君の妹だ。

 

 

◇練習風景

 力一杯投げつけられたスーパーボールのように軽快に宙を跳ね飛びながら、シルバージャンパーがケイオースキューブへと肉迫する。

 

(よし、振り切った!これならもう追いつかれることは……しまった!?)

 

 今度こそ勝てる。そんな希望的観測は、視界の端でティンクルピクシーがウルトクリスタルを殴り砕く姿を見た瞬間に露と消えた。

 右手をキューブに向けて目一杯伸ばすものの、既に四度の空中ジャンプを使い果たした身ではそれ以上の加速は叶わない。

 あと数フレームで勝利を掴めた筈のその掌がティンクル☆パウダーの効果で指一つ動かせなくなったのを忸怩たる思いで見つめたまま、シルバージャンパーはそのHPゲージを0にした。

 

「あーもう!上手く出し抜いたと思ったのに!」

GG(グッドゲーム)メグ、今のは俺もヒヤッとしたよ」

 

 チーム練習用のVRマシンから起き上がるなり、シルバージャンパーのプレイヤー――夏目恵が悔し気に叫ぶ。

 魚臣慧はそんな彼女の健闘を称えるものの、彼女の表情は優れない。

 

「……でも、結局ケイの勝ち越しじゃない」

「いやいや、あそこでクリスタルが出現しなければ俺の負けだったよ」

「運も実力の内、ランダム要素への対策を怠った私のミスだわ」

「相変わらず真面目だなぁ……もう三時間くらいぶっ続けだし、ちょっと休憩する?」

「……いえ、もう1セットだけ相手をお願いしてもいいかしら」

「了解。メグのそういう負けず嫌いで努力家な所、俺は好きだよ」

「んなぁっ!?」

 

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