ありがとうカスの嘘を流し込む鉛筆お姉さん。
「よお、飲んでるかー?」
「お前……そんなに強くないんだからほどほどにしておけよ」
「陽務くんグラス空いてるよ、おかわり頼むね!」
「ああいや、俺はまだ……」
「すいませーん!こっちにハイボールとカルーアミルクください!」
「って聞いてないし……」
単位を落として留年するようなこともなく、無事大学生活も三年目に突入した、ある日の同期達との飲み会にて。
早々に酔っぱらった野郎には水を押し付けつつ、女子に手渡されたやけに濃いめのハイボールをライオットブラッド(国産)で程々にレジストしながらちびちびと舐める。
酒そのものは嫌いじゃないんだが、酔っぱらいの相手は永遠の相手だけで十分だ。一次会が終われば早々に退散しよう。
そんな考えが顔に出ていたのか、朝まで飲み明かす気満々の酔っぱらい共は、逃がさないぞと言わんばかりに更に俺に絡んでくる。
「今日はとことん付き合えよー」
「いや、俺もうここ出たら帰るから」
「えー、陽務くん、せめて二次会行こうよー」
「そうそう、お前普段は中々飲み会来ないんだから、たまには親睦を深めようぜ」
「……ええい、わかったよ!二次会までな!」
これはもう少し付き合ってやらないと後が面倒だなと腹をくくり、しぶしぶもう一軒付き合うと言質を取られた、その時。
「んぁ……陽務、お前虫に刺された?」
「へっ?」
へべれけに酔っぱらって強引に肩を組んできた男が、不思議そうに俺の首元に視線を送る。はて、蚊が飛ぶには時期が早いし、最近は実家に顔を出した覚えもない。
心当たりが無く内心首を傾げていると、さっきまでやけに距離が近かった女子が何やらショックを受けた顔をして俺から一歩離れていた……えっ、何事?
「陽務君、とりあえず自分で見てみたら?はい、これ」
「あ、ああ……ありがとう」
訳も分からず困惑している俺に、別の女子が手鏡を俺に手渡してくれる。助かるが、こちらは何故かニヤニヤと俺が永遠やカッツォを煽る時のような笑みを浮かべているのが気にかかる。
借りた鏡で自分の首元を見ると、確かにそこには虫刺されと思しき赤い点が幾つかついていた。いつのまにこんなところ刺されたんだ?
幸いにして痒みや痛みはないが、シャツで隠れるような位置でも無いので意外と目立つ。
「どう?心当たりは?」
「うーん、やっぱり思いつかないなぁ特に山とか林にいった訳でもないし」
「……なるほど、この無防備さは心配にもなるか」
「何か言ったか?」
「ううん、なんでもない」
手鏡を返しながら記憶を辿るが、やはり原因は分からずじまいだ。
そんな俺を見た彼女が何かぼそりと呟いたが、飲み屋の喧騒に紛れて聞き取れない。
「それより、陽務君はここで抜けちゃって大丈夫よ」
「え、マジ?」
「うん、待ってる人も居るんでしょ?」
「ああ、遅くなるとご機嫌取りに苦労するから助か……あれ、俺そのこと言ったっけ?」
永遠の所に入り浸りがちとはいえ、世間的には一人暮らしで通しているつもりだったんだが。
不思議そうにする俺を、どこか微笑ましい物を見るような目で見つめながら彼女はけらけらと笑って流した。
「言ってないけど分かるのよ……ほら、面倒なのに絡まれる前に行った行った」
「よくわかんないけどサンキュー、それじゃまた学校で」
自分の分の飲み代を払い、未だざわめく面々を残し俺は居酒屋を後にした。
……思ったよりも早く終わったし、永遠に土産のスイーツでも買って帰ろうか。
◆
「もしもし、永遠か?」
『あれ?ラク君、今夜は飲み会じゃなかったっけ?』
「ああ、さっきまで飲んでたんだけど、何故かもう帰っていいとのお達しが出てな、ちょっと早いけど今から帰るよ」
『ふうん……酔っぱらって醜態でも晒したの?ちゃんと録画した?』
「生憎、俺はどこかのモデル様とは違って正体をなくすほどには飲んじゃいねーよ」
『なんだつまんない』
「こないだ散々酔って帰ってきていきなり膝枕を要求してきた誰かさんの姿ならちゃんと端末に残してるけどな」
『ちょ!?ラク君、あれ撮ってたの!??』
「これに懲りたら少しは酒を控えるんだな……ああそうだ、そう言えばお前虫刺されは大丈夫か?」
『へっ?藪から棒にどうしたの?』
「いや、実は俺もさっき言われて気付いたんだけどいつの間にか首元を虫に食われててな」
『首元の虫刺され……ああ、そういうことか』
「永遠も心当たりがあるのか?これ結構目立つからお前の場合撮影とか不味いんじゃ……」
『ううん、私は大丈夫だよ……ちなみに、その虫刺されを見た子は何か言ってた?』
「いや、特に何も……ああ、でも何故かショックを受けたりニヤニヤしてるやつはいたような」
『んふふー、そっかそっか、
「……お前、また何か企んでないか?」