徒然なるインベントリア:シャンフロの小話   作:イナロー

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紅音と瑠美の買い物に連行される楽郎のお話。


荷物持ちも楽じゃない

 それは、中学校の修学旅行を間近に控えた日曜日の昼下がり。

 紅音と瑠美はこの二泊三日の旅程をより有意義なものにするべく、身の回りの品を買い揃えに街のショッピングモールへと足を延ばしていた。

 

「瑠美ちゃん、今日はお買い物に付き合ってくれてありがとう!」

「どういたしまして。と言っても私も色々入り用だったから丁度良かったわ」

「……なぁ、修学旅行ってこんなに気合い入れて準備するものだっけ?」

 

 当初の目的の買い物を半ばまで終え、モール内のフードコートで昼食を取りながらの雑談の最中。

 瑠美に荷物持ちを命じられ同行していた楽郎は、ふと牛丼を食べる箸を止めると午前中の買い物行脚を思い返し、若干の気疲れを滲ませつつ素朴な疑問を呈した。

 

「万年ジャージの誰かさんには分からないだろうけど、女の子は大変なのよ」

「す、すみません楽郎さん!せっかくのお休みなのに……」

「いや、気にしないでくれ。今は急いでクリアしたいゲームも無かったしな」

「……お兄ちゃん、なんか紅音には甘くない?」

 

 申し訳なさそうに頭を下げる紅音を制した楽郎の様子に不信感を抱き、若干のジト目で瑠美が見咎める。

 親友として紅音の恋路を応援したい気持ちはあるものの、その相手が楽郎()であるとなればその心境は中々に複雑だ。

 そんな友人の内心を知る由も無い紅音はといえば、好物のワンタンメンに舌鼓を打ちながら無垢な笑みを浮かべ、来たる修学旅行へと思いを馳せていた。

 

「ごちそうさまでした!来週の修学旅行、楽しみだね!」

「そうね、この辺じゃ見ないような服とか小物もしっかりチェックしてこないと」

「寺社仏閣RTAかってくらい予定詰め込まれるから自由時間の行動は細かく決めといた方がいいぞ。俺の時は適当に買い食いしながら土産屋見てたらあっという間に終わってた」

「大丈夫、そこは抜かりないから。めぼしいお店はあらかた既にリサーチ済みよ」

「瑠美ちゃんは本当にお洒落で凄いなぁ……」

 

 自分の中学生時代の経験を元にアドバイスをする楽郎に対し、瑠美は心配ご無用と詳細な住所や営業時間、集合場所から店への経路などが入力された地図アプリを立ち上げて端末の画面を見せつけた。

 その気合の入れように紅音は思わず感嘆の声を漏らす。

 

「紅音が無頓着すぎるのよ。私ほど熱中しろとは言わないけど、紅音も年頃の乙女なんだから、もう少しくらいファッションに気を使ってもバチは当たらないんじゃない?」

「えへへ、服とかお化粧のことはあんまり分からなくて……」

「ま、それが紅音らしいのかしらね」

 

 頭に手を当てたははと苦笑する紅音に対し、瑠美は仕方がないなと軽く肩を竦める。

 この話はこれで終わり……かと思いきや。

 

「──だ、け、ど!」

 

 一瞬の間の後、クワッ!と目を見開いた瑠美が人差し指を紅音の胸部に向けながら声を荒げた。

 突然の叫びに驚いた紅音は座ったままびくりと飛び上がりかけて、その衝撃で年相応以上に豊かに育った胸がふるりと揺れる。

 斜め向かいに座っていたことでその動きをしかと目撃してしまった楽郎は慌てて横に視線を反らした。

 

「ほら、こんな風に良からぬ目をした不届き者もいるんだから、せめて下着くらいは気を使いなさい!学校だと基本部活があるからスポブラなのはいいとして、まさか普段着からブラトップとかチューブトップばかりだとは思わなかったわ」

 

 一連の動きを見逃さなかった瑠美はおよそ肉親に向けるものとは思えないツンドラもかくやという程に冷え切った軽蔑の視線を兄に送りながら、己の魅力に無自覚な紅音に苦言を呈する。

 不届き者扱いされた楽郎は一言物申したく思いつつ、会話内容が男子高校生としては触れにくいジャンルに突入しかけて無言にならざるを得なかった。

 

「うう…だってこっちの方が楽だからつい……ワイヤーが入ってるとかさばるから、遠征の時とかも使いにくくて」

「そりゃ楽なのは分かるけど、紅音は発育がいいんだから今から気を付けないと形が崩れちゃうでしょ!」

「ご、ごめんなさい!」

「……よし!良い機会だから今日はとことん紅音をコーディネートするわよ!」

「お手柔らかにお願いします……」

「残念ながらそのお願いは却下よ、ことお洒落に関しては私の辞書に“妥協”の文字は無いわ」

「あわわわわ……!」

「実は前々から着替えの時とか気になってたんだけど、紅音あなた胸のサイズちゃんと計測してる?どうにもブラが身体に合ってない気がするのよね」

「ええっと、細かい数字は忘れちゃったけど前にお母さんとお買い物したときにちゃんとお店の人に測ってもらったよ」

「ちなみにそれは何時の話?」

「……去年の秋、だったような…Dカップになってるから新調しましょうって言われて」

「!?ゴホッ、ゴホッ!!?」

「わわっ!?楽郎さん、大丈夫ですか」

「そこの変態は無視していいわよ紅音」

「でも……」

 

 紅音があまりにも無邪気に極めてパーソナルなデータを開示したことで、我関せずといった態度を装い水を飲んでいた楽郎が堪らずむせる。

 気づかわしげな紅音に対し、瑠美はどこまでも楽郎に冷淡だ。最早自分の兄という存在を無かったことにしかねない有様である。

 

「そんなことより!それなら午後はサイズの測り直しからね。目測になるけど明らかに一つ……下手すれば二つはカップ数が変わってるわ」

「そうなの?」

「もう、自分の身体のことなんだからしっかりしなさい!幸い修学旅行中は班も部屋割りも一緒だから、この機に日頃のケアの何たるかをみっちりと……そういえば、紅音って寝るときはブラはどうしてるの?」

「?特に何もつけて無いけど…」

「となるとナイトブラもいるわね。これがあれば仰向けに寝た時なだらかな胸から感じる虚しさともおさらばよ」

「えっ、仰向けでも何も変わらないよ?」

「くっ、これが格差社会……!」

 

 こてんと不思議そうに首を傾げる紅音の胸元に視線を送りながら、瑠美の口から驚嘆交じりの呻きが漏れる。

 瑠美には知る由もないことであるが、友人の発育に戦慄くその姿は彼女が敬愛する天音永遠が斎賀百(友人)に向けるそれと酷似していた。

 

「そうと決まれば善は急げね。ご飯も食べ終わったことだし移動しましょ」

「なあ、俺はちょっと用事を思い出した(中古ゲームをチェックする)から一旦別行動に……」

「荷物持ちが離れちゃ駄目でしょ、ゲーム買うなら帰りに付き合ってあげるからお兄ちゃんもちゃんと来てよね」

「無茶言うなよ!?男子高校生に女性用下着売り場はハードルが高すぎるんだって!!」

「る、瑠美ちゃん。私も下着を選ぶのに楽郎さんと一緒なのは……」

「あら、そんなことを言っていいの?せっかくお兄ちゃんの好みを知れるチャンスなのに」

「!!楽郎さん、もう少しお付き合いお願いします!」

「紅音さん!??」

 

 どうにか別行動を取ろうとする楽郎の逃げ道を、瑠美は紅音を利用しつつ塞いでいく。

 お洒落に無頓着な紅音であっても楽郎を餌にすれば真剣に選んでくれるだろうと見越しての策謀である。

 思惑通りにまんまと乗せられた紅音の華麗な手のひら返しに楽郎の口から悲鳴が上がった。

 

 ──その後、楽郎は妹と年下の友人に挟まれて連れられたランジェリーコーナーで、なんとも気まずい時間を過ごす羽目になったのだった。

 

「楽郎さん!私はこのオレンジのと青いのが好きなんですけど、楽郎さんはどっちが好きですか?」

 




新PVの秋津茜、あれでDは絶対嘘でしょ
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