徒然なるインベントリア:シャンフロの小話   作:イナロー

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楽郎の誕生日プレゼントを相談する紅音のお話。


隠岐紅音は祝いたい

「ペンシ……永遠さん!今日はお誘いありがとうございます!」

「すみません永遠様、私まで呼んでいただいてしまって……!」

「もう、二人ともそんなに畏まらないでいいのに」

 

 煌びやかながらも落ち着きのあるシックな装いの高層ホテルの一室で、季節の栗や柿を使用したアフタヌーンティーに舌鼓を打ちながら、天音永遠(ペンシルゴン)は二人の少女──隠岐紅音(秋津茜)と陽務瑠美──の緊張を解すようににこやかに話しかける。

 慣れないお洒落で高級な雰囲気に対する気後れや、憧れを通り越して信仰の域に達した人物を前にした高揚などで目に見えてガチガチに固まっていた紅音と瑠美も、そんな永遠の優し気な態度に絆されてようやく肩の力を抜いて冷めかけた紅茶を口にした。

 ペンシルゴンと秋津茜、天音永遠と陽務瑠美、隠岐紅音と陽務瑠美の間ではそれぞれ交友があったものの、この三人が一堂に会することは珍しい……というよりも初めての事態だ。そんなイレギュラーな会合を開くことになった要因、それは──

 

「サンラク君へのプレゼント選びなんて面白そ……もとい、重大な相談を受けたとあっては人生の先輩としてお姉さんが一肌脱ぐしか無いデショ?」

「わぁ!ありがとうございますっ!」

「永遠様、素敵です……!」

 

 隠し切れない野次馬根性を覗かせる永遠であるが、純真な紅音と盲目(敬虔)な信者である瑠美は気にすることなく感謝と称賛の声を上げる。

 それに気を良くした永遠は、マロンパイを一口食べると早速とばかりに本題に入った。

 

「さて、それで問題のサンラク君へのプレゼントだけど、今のところ何か候補はあるの?」

「それが、中々思いつかなくて……」

「あのクソゲーハンターっぷりだとゲーム以外の物を欲しがる姿ってあんまり想像できないよねぇ」

「それで、私先輩に『何か欲しい物は無いですか?』って聞いてみたんです!」

「わぁ、清々しいくらいにド直球」

 

 サプライズよりも祝われる本人が喜ぶものを。そんな真っすぐな善意からの紅音の行動に、永遠は軽く目を瞠る。

 本人に聞いたならばそれ以上第三者の出る幕は無いのでは、という思いが一瞬脳裏を過ったものの、困った顔をした紅音の様子を見るにそう簡単にはいかないらしい。

 

「そしたら、幾つかのゲームの名前を教えてくれたんですけど、調べてみたらどれもぷれみあ?というのが付いてて、私のお小遣いじゃとても買えなくって……」

「よーし、サンラク君は市中引き回しの刑に処そっか」

「賛成です!……ねえ紅音、あんなクソバカにプレゼントなんて用意しなくていいのよ?」

 

 今にも泣きだしそうな表情の紅音に庇護欲を擽られた二人は、彼女にこんな顔をさせた唐変木(げんきょう)への殺意をメラメラと滾らせる。

 自分の誕生日近辺で彼女から欲しい物を聞かれ、馬鹿正直に手の届かない高額な品を答える愚か者へのプレゼントなど鉄槌がお似合いだ。そんな風に息巻く二人を紅音は慌てて宥めようとした。

 

「そっ、そんなのはダメだよ!せっかくの誕生日なんだから、ちゃんとお祝いしなきゃ!」

「アカネちゃんは本当に健気でいい子だねぇ、サンラク君には勿体ないくらい」

 

 シャンフロプレイヤーではない瑠美が居ることを考慮して、本名ともキャラクターネームとも取れる呼び方で永遠がしみじみと呟いた。さしもの彼女もこうも真っすぐな視線に当てられては毒気が抜けてしまう。

 あの果報者め、とこの場に居ない男に向けて口には出さずに毒づくと、気を取り直してプレゼントの選定に話題を戻す。

 

「それじゃあ改めてサンラク君の欲しい物は何かってことだけど……ちなみに瑠美ちゃん、家族からはいつもどんなものをプレゼントしてるのかな?」

「……我が家のケースは参考にならないと思います」

 

 やはりここは身近な人間に聞くのが一番、ということで期待を込めて瑠美に話を振ったのの彼女の反応は芳しくない。

 敬愛する永遠の期待に沿えないことに忸怩たる思いを抱きながら、瑠美は重い口を開いた。

 

「永遠様も紅音も知って通り、うちは家族全員それぞれ違う趣味を持ってるので……欲しい物は当人が誰よりよく分かってるからと、諭吉さんを二枚直接渡されるんです」

「そ、それはまたなんというか……」

「去年のお兄ちゃんは確かVRマシンのメモリを増設したとか言ってました」

「うーん、先輩へのプレゼントはやっぱりゲームがいいのかなぁ……」

 

 現実的と言えば聞こえはいいものの、あまりにも夢の無いプレゼントに永遠と紅音は絶句する。

 問題が振り出しに戻ったことにより、紅音は困った顔をして悩まし気にぽつりと呟いた。

 

「むむぅ、ゲームの他に楽郎先輩が今一番好きな物ってなんだろう……」

「「……ん?」」

 

 その紅音の言葉を聞いて、真っ先に脳裏を過ったもの(・・)に永遠と瑠美が揃って声を上げる。

 互いに同じものを想像していると気が付いて、二人はまじまじと紅音の顔を見つめた。

 

「……お兄ちゃんの」

「一番好きなもの、といえば……」

「えっ?何?私の顔に何かついてますか?」

 

 突然二人に凝視されたことにより、頭に疑問符を浮かべながら紅音が戸惑いの声を上げる。

 そんな紅音を他所に、永遠と瑠美は顔を見合わせると得心がいったようにこくりと頷いた。

 

「もうプレゼントはアカネちゃん自身でいいんじゃないかな」

「私がプレゼント、ですか……?」

「うん、お兄ちゃん(アレ)に紅音を渡すのは業腹だけど、丸一日デートでもしてあげればきっと何より喜ぶわよ」

 

 確信を以て告げる永遠と瑠美だが、紅音はいまいちピンとこないようでしきりに首を傾げている。

 永遠はニヤニヤと些か邪悪な笑みを浮かべつつ、からかい半分真面目半分のアドバイスを告げた。

 

 ──紅音から、思わぬ反撃を食らうとは夢にも思わずに。

 

「そうそう、ついでに帰り際にキスの一つでもしてあげればサンラク君もメロメロになること間違いなしだよ」

「そんな、いつも通り(・・・・・)のことでいいんでしょうか……?」

「だいじょーぶ!いつも通、り……キス、して……?」

「?どうかしましたか?」

 

 何食わぬ顔でとんでもないことを言われた気がして、永遠は思わずフリーズした。

 永遠が突然固まった理由が分からない紅音は自分の爆弾発言にも気が付かず不思議そうな顔をしている。

 数瞬の後に再起動した永遠は、恐る恐るこの年下の友人に尋ねた。

 

「あの……アカネちゃん、もしかしてサンラク君といつもデートの時キスしてるの?」

「ええっと、その……はいっ!二人きりになったら、先輩とキス……してます!」

「そ、そっか、二人は付き合い始めて結構経つもんね……うん」

 

 改めて聞かれると流石に気恥ずかしいのか、紅音は頬を朱に染めながらもその問いかけに肯定の意を返す。

 想像よりも随分と進展していた二人の関係に驚愕しつつもどうにか言葉を返す永遠だが、辿々しいその口調には普段の弁舌の滑らかさは見る影もない。

 一方、紅音はといえばあのペンシルゴンのアドバイスならば間違いは無いと純粋に信じたようで、キラキラと目を輝かせながら礼を言う。

 

「分かりました!楽郎先輩の誕生日には、デートに誘ってみます!」

「あー、うん。お兄ちゃんも最近受験勉強続きで疲れてるだろうし、いい気分転換になるんじゃない?」

「うん!二人とも、相談に乗ってくれてありがとうございました!」

 

 未だ驚愕から抜け出せないままの永遠を置き去りにして、紅音と瑠美は誕生日デートについて話を進めていく。

 永遠はどこか現実離れした心地のまま、そんな二人の会話を眺める。

 

「ああ、でも今年のお兄ちゃんの誕生日は平日の真ん中だからデートに誘うなら週末の方がいいかもね、確か模試とかは何も無いって言ってたわ」

「そうしてみるね!……あの、瑠美ちゃん」

「…………なぁに?」

「その、デートの日に──もしもお泊りになったら、瑠美ちゃんと一緒ってことにしてもらっても、いい……かな?」

「…………………分かったわ」

 

 とりあえず、今度シャンフロで会った時はいっぺんキルしておこうと心に決めた永遠であった。

 

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