鉛筆騎士王:みんな、お正月は何してる?
サンラク:なんだ急に
鉛筆騎士王:いやぁ、正月特番にお呼ばれしてたんだけど、出番まであまりに暇だったから
モルド:お正月からお仕事大変ですね……僕は台所で今お餅焼いてます
ルスト:私は今お雑煮のおかわりを待っている
サンラク:なぁ、もしかしてルストの食べてる雑煮をモルドが作ってる?
ルスト:正解
秋津茜:わあ!仲良しですね!
オイカッツォ:俺も雑煮食いたいな…こっちは今しがた新春ゲーム大会が終わったところ
サンラク:カッツォ、さっき某掲示板に餅×魚臣慧の新作が上がってたぞ
鉛筆騎士王:あ、それ私も見た。どろどろになるまで煮たお餅は流石に火傷しちゃうんじゃないかと思うんだけどなぁ
オイカッツォ:新年早々食欲の失せる話題をありがとよ!!!
京極:こっちは実家に親戚が集まってるから挨拶回りだよ…めんどくさい
鉛筆騎士王:あー…京極ちゃん、結構いいとこのお嬢様なんだっけ
京極:無駄に古いだけだよ……ああもう、明日もまたあの狸爺共相手に愛想笑いしなくちゃ行けないのかと思うと気が重い…
モルド:た、大変ですね…
サンラク:お嬢様にはお嬢様なりの苦労があるんだな…
オイカッツォ:サンラクはまたクソゲーやってんの?
サンラク:そうしたかったのはやまやまなんだが、さっきまで妹に初売りの荷物持ちさせられてた
秋津茜:いっぱいお買い物しちゃいました!
京極:あ、そこの二人も一緒なんだ
ルスト:秋津茜とサンラクはペアみたいなものだから
サンラク:そんでさっきようやく買い物が一段落して、今俺の家でのんびりしてる
鉛筆騎士王:サンラクくん、クソゲー福袋に気を取られてないでちゃんと秋津茜ちゃんのお相手してあげないとダメだからね?
サンラク:……なぁ、うちの妹は俺の買い物内容までお前にリークしてるの?
鉛筆騎士王:んふふ、全てはこの私に筒抜けだと思いたまえ
サンラク:こえーよ!
オイカッツォ:流石にこれは同情する
京極:ほっといたら一人でゲームばかりしてそうなサンラクの方がわるいんじゃない?
サンラク:いくら俺だって彼女を放っておいめてVRにログインはしないっつーの
ルスト:……サンラクはこう言ってるけど
秋津茜:一緒にいるときは二人で遊んでます!
サンラク:な?
鉛筆騎士王:うわウザ
オイカッツォ:ぶん殴りたいどや顔してるのがありありと目に浮かぶ
モルド:まあまあ
京極:秋津茜達は今日はずっと一緒に過ごすの?
秋津茜:はいっ!これからサンラクさんと姫初めするところです!
◆
「ごほっ、ごほっ!?」
「わわっ!?大丈夫ですか、楽郎先輩?」
突然飲んでいたお茶を吹き出しむせる俺を見て、隣に座っていた紅音が目を丸くして驚いている。その姿は相変わらず純真そのもので、とても今しがたチャットにとんでもない爆弾発言を投下した人物には見えなかった。
俺はどうにか息を整えると、背中をさすってくれていた紅音に礼を言いつつ先の発言の真意を尋ねる。
「ありがとう、もう大丈夫だから」
「本当ですか?私にできることなら何でも言ってくださいね!」
「……それじゃ一つ質問したいことがあるんだ」
「はいっ!何でしょうか?」
「さっき旅狼のチャットで紅音が言ってた、その……」
「姫初めですか?」
「!?……そう、その姫初めについてちょっと聞きたくて」
俺が言い淀んだ先を察してこともなげに言ってのける紅音に仰天すると共に、何やら俺は重大な勘違いをしている気配を察知した。
コウノトリやキャベツ畑を信じるほどには無垢で無いとはいえ、どこぞの
「……俺、姫初めするなんて初耳なんだけど」
「あれっ?でも、今ご飯炊いてるんですよね?」
……そこで何故ご飯?
事ここに至って、どうやら俺と紅音の思い描く「姫初め」が全く別の物事を指しているらしいと確信し、俺は思い切ってどストレートに彼女に尋ねた。
「なあ、紅音の言う姫初めって何をすることなんだ?」
「ええっと、その年の最初に白いご飯を食べること、です」
「ご飯?」
「はい!おせちやお雑煮を食べたあとは姫初めにしましょうねって、おばあちゃんがよくご飯をよそってくれてました!」
「…………ごめん、ちょっと待ってくれるか」
端末の画面を切り替えて、「姫初め 意味」で検索する。
そこに表示されていたのは──
ひめ‐はじめ【姫始め】
① 一年の初めに
② 新年最初に男女が交わること
……間違いなく、紅音はこれの前者のことを指していたのだろう。それを俺はいらぬ知識で不埒な想像をしていたわけで。
「生まれてきてごめんなさい……」
「楽郎先輩!?急に何を……もしかして具合が悪いんですか?」
突然テーブルに突っ伏して訳の分からないことを口走り始めた紅音の純粋な心配の視線が胸に痛い。なんだか自分が酷く汚れた存在になってしまったかのようだ。
瑠美が自室に行っていてよかった。この場にもしあいつが居れば間違いなく今後一週間は軽蔑しきった目で見下され続ける羽目になったことだろう。
「いや、大丈夫……」
「ほ、本当ですか?無理しちゃダメですよ」
「無理してないよ、ただちょっと重大な間違いに打ちのめされただけで」
「間違い、ですか?私何か変なこと言っちゃいましたか?」
「いや、間違ってたのは俺の方で──」
と、そこまで言いかけてある事に気付く。
俺は確かに下世話な勘違いをしたが、これは俺が特別変態だからというわけではない……筈だ。
その証拠に、先ほどから放置していた旅狼のチャットに視線を戻せば紅音の発言を見たカッツォやモルドなどが大層慌てている。会話の流れを見るに、どうやら京極と鉛筆は紅音の発言の真意を正しく理解しているようだ。ルストは…恐らくこの言葉自体が初耳なのか、一人完全に会話に取り残され、モルドに度々意味を尋ねては酷く困らせていた。
この様子を見るに、姫初めと聞いて俺と同じ想像をする男は決して少なくはないのだろう。ならばもし、何かの拍子に今のように気軽に姫初めをするなどと他の男に話そうものなら余計な勘違いをさせかねない。
自分の恥も晒す羽目になるが、ここは紅音の為にも覚悟を決めてこの言葉の持つもう一つの意味を教えるべきか……
「あの、楽郎先輩……?」
「なあ紅音、ちょっと耳を貸してくれるか」
「?」
紅音は訝しみながらも素直に俺に頭を寄せてくれる。俺は彼女の耳元に口を近づけて、努めて平静に姫初めの意味を伝えた。
初めはふむふむと頷いていた紅音だが、段々意味を理解するにつれて口数が少なくなり、頭から湯気が出そうな勢いで頬を紅潮させていった。
「!?え、あ、わっ……私、そんなつもりじゃ!?」
「分かってる!紅音に他意が無いのは分かってるから!……ただ、俺みたいな勘違いをする野郎もいるかもしれないから、よそではあんまり迂闊に言わないで欲しい」
勝手に勘違いした挙句、勝手にいるかどうかも分からない他の男を警戒して小言を言う俺こそが一番のクソ野郎なんじゃないかという思いが首をもたげるが、幸いにして紅音は深く気にすることなくコクコクと頷いてくれた。ふぅ、正月早々無駄に気疲れしてしまったな……
「変なこと言ってごめんな?さて、そろそろご飯も炊けるだろうし俺も台所に行って配膳くらいは手伝ってくるよ」
「私もお手伝いします!」
恥ずかしい話はここまでにして、夕食の準備をするべく腰を上げる。
紅音も俺に続いて立ち上がり、さて部屋を出ようとしたところで、不意に服の裾を彼女に摘ままれ足を止めた。
「紅音?」
「えあっと、その……今夜はお夕飯にお呼ばれしたって、さっきお母さんに電話したんです」
「う、うん」
「……そしたら、もし遅くなるようなら泊めてもらってもいいって、からかいながら言われてしまって、私はそれは迷惑だよって言ったんですけど」
「迷惑なんかじゃないさ、紅音が止まるなら瑠美も喜ぶよ」
「……楽郎先輩も、喜んでくれますか?」
「勿論」
「ありがとうございますっ!」
おずおずと、未だ赤みの引かない顔で上目遣いに尋ねる紅音に向かって断言する。
親戚一同の集いは明日の夜だし、今夜は別に泊って行っても構わないだろう。
そう説明する俺の言葉を聞いた紅音は、嬉しそうに……だけど何故だか恥ずかしそうにはにかんで、不意に俺の耳元に顔を寄せて囁いた。
「楽郎先輩」
「ん、なんだ」
「今夜、瑠美ちゃんが寝た後に先輩のお部屋に行きますから……」
──私と姫初め、しませんか?