・ハッピーバースデー天誅
まだ付き合ってない二人のお話。
・君が褒めてくれたから
付き合ってる二人のお話。
硬梨菜先生がTwitterに投下した存在しない記憶からネタを拝借しました。
「天誅!」
「天誅!」
「てんちゅ…もるぁっ!?」
「肉盾貫通型天誅!」
「ああもう、しつっこい!!」
次から次へと迫りくる志士達を切り捨てながら京極が吼える。
ひとたびログインしたのならリスポンから再び死ぬまで一瞬たりとて気を抜けないのが幕末の世界だ。
ついでに京極はその絶妙なイキリっぷりや天誅させた時の恨みがましい視線がイイとの評判なども相まって何かと狙われることが多いらしい。
そしてさらに、今夜は
かつてのイベントで大量の亡者を引き連れていた時に勝るとも劣らない勢いの襲撃を、時に真っ向から、時には同士討ちを誘発して、手に負えない時には悔しさに歯噛みしつつも撤退を選んで生き延びていく。
その手際はこのゲームでは先達にあたる俺をして見事と言わしめるだけのものであったが、そう易々とはいかないのがこのゲームのクソであり最高な所だ。
「おっ、京極ちゃん見っけ!」
「今日の天気は団子の串時々青龍偃月刀ってなぁ!」
「次から次へと…!今日は本当になんなんだ!」
長屋の立ち並ぶ中を駆けていた京極に屋根の上から針千本と刀雨の遠距離攻撃が迫る。
団子の串の雨を道中で拾った鍋の蓋で弾いて安堵したのも束の間。その脳天をかち割るべく、幕末の物理エンジンに従って位置エネルギーを運動エネルギーへと変換した長大な刃が迫る。
それに対して京極は強引に自らの足を引っかけてわざと転んで寸でのところで回避した。ほう、あいつも自前転倒を使えるようになったか。
致命の一撃を回避した京極だが、反撃をするにも彼我の距離に加えて屋根の上という高所を確保されているのでは分が悪い。
ここは遮蔽物を駆使して戦局を変えるか、あわよくば野生のランカーをかち合わせられれば御の字であるが、さあてあいつはどう出るのか…!
「というかサンラクはさっきから物陰で何をぶつぶつと…!君だけ何故か狙われてないし、絶対何かしただろう…!」
「ナンノコトカワカラナイ」
「お前ええ…!!あとで絶対覚えてろよ…!」
「その時までお前が生きてたらなー!」
怨嗟の籠った視線を一心に浴びながら京極に背を向けて走り出す。
このまま右往左往する京極を見ていたいのはやまやまだが、俺は俺でそろそろ目的の地点へと向かわねばならぬ。
「細工は流々、あとは仕上げを御覧じろってな」
溜め込んでいたイベ限武器を放出しての交渉の甲斐あって、さほど時間をかけることなく(それでも何度かの戦闘はあったが)城下町の中心部へと到達する。
そこで待つこと数分、轟車に追い立てられるようにして京極が現れた。
「サァァンラクぅぅぅぅ!」
「うおっと!そう易々とはやられないぜ?」
上段からの渾身の振り下ろしを刀で受けて至近距離で鍔迫り合う。
そのあまりの勢いに押し負けそうになってしまったその時、俺の背後でドンッと盛大に火薬の爆ぜる音がした。
その音を聞きすわ紅蓮寧土の攻撃かと京極が身構えた、次の瞬間──
「「「「「京極ちゃん、誕生日おめでとうー!」」」」」
「………………えっ?」
辺りに潜んでいたプレイヤー達が一斉に顔を出して祝福の言葉を告げる。空では花火が本来の使い方を思い出したかのように鮮やかな花を咲かせていた。
そんな幕末らしからぬほのぼのとした光景を目の当たりにした京極は、周囲を警戒することも忘れて呆然と立ちすくんでいる。
「いやー、祭囃子が突然『協力して欲しいことがある』なんて言い出した時は何かと思ったけど」
「わざわざ自前の刀を手放してまで誕生日を祝いたいなんてあいつもいい所があるもんだ」
「うむ、たまにはこんな心温まるユーザーイベントも悪くないな」
「というかあの子また強くなってない?俺五人がかりでも普通に突破されたんだけど」
周囲の会話を聞いておおよその事態を察したようで、先程までの怒りもどこへやら、気恥ずかしそうにぽりぽりと指で頬をかきながら京極がこちらに歩み寄ってくる。
「一体何を企んでいるのかと思えば…」
「ふっふっふ、サプライズは大成功だな」
「驚かされっぱなしなのは悔しい限りだけど…まあ、その…ありがとう」
そう言ってはにかむように笑う京極に、こちらも歯をむき出しにした笑みを浮かべて応える。
「どういたしまして。それじゃ改めて…ハッピーバースデー天誅!」
・おまけ
「まったく、こんな滅茶苦茶な誕生日は生まれて初めてだったよ」
「ははは、でもこんなのも悪くないだろ?」
「…はぁ、まあ楽しかったのは確かだけどさ」
「ほら、ちゃんとしたプレゼントはリアルの方で改めてってことで」
「…えっ」
「どうした、初めて『便秘』のバグ技を食らったカッツォみたいな顔をしてるぞ」
「それどんな顔さ…いやだって、まさか君がそんな殊勝なことを言ってくれるなんて」
「ゲーム上だけの知り合いならともかく、お前ぐらい仲良い奴なら誕生日くらい普通に祝うわ。学校だとお前のファンが凄そうだし、放課後でいいか?」
「うん……あ、ねえそれじゃせっかくだしもう一つだけお願いしてもいいかな?」
「なんだ?今日はお前が主役なんだ、俺に出来る事なら特別に聞いてやるよ」
「……(後ずさって刀に手をかける)」
「何故そこで臨戦態勢」
「いや、そうやって僕に隙を作らせて天誅する気なのかと」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ」
「十分前に君が僕に何をしたか忘れたとは言わせないよ」
「いやまあそれは悪かったって。で、そのお願いって何だ?」
「君はほんとに…まあいいや。実は僕の誕生日って毎年家族が盛大に祝ってくれるんだ」
「お前のところはそうだろうな…」
「それで、いつもなら夕食は身内だけでちょっとしたパーティーみたいなことをするんだけど…君もそこに来てくれないか?」
「ん、なんだそんなことか。むしろ俺がお邪魔しちゃっていいのか?」
「こっちから誘ってるんだから遠慮は無用さ。母上もきっと喜んでくれるよ」
「OK、それじゃ今日は学校が終わったら一度帰ってからお前の家に向かうな」
「ありがとう…ああ、そうそう。兄さんや父上は君に物凄くプレッシャーをかけるかもしれないけど気にしなくていいからね」
「すまん、やっぱり今日はちょっと風邪をひく予定が…」
「おおっと逃がさないよ!君が逃げたら僕は悲しみのあまり『楽郎にハメられて大勢に囲まれたところで襲われた』って口走ってしまうかもしれないなあ!」
「お前…!その仕返しは卑怯だろう…!」
「あー!あー!聞こえなーい!」
□君が褒めてくれたから
「…よし、襖の外に
一日の稽古や勉強を終え、食事やお風呂も済ませてあとはもう寝るだけというある日の夜更け。
僕は部屋の傍で聞き耳を立てている不届き物が居ないことを念入りに確認すると、僕は布団の上に座って枕をぎゅっと抱きしめながら端末を操作してとある相手に電話をかける。
数回のコール音の後、もうすっかり聴きなれた…だけど全く聞き飽きることの無い声が端末越しに聞こえてきた。
『もしもし、京極か?』
「やあ楽郎。今日はちゃんと約束を覚えていてくれたようで安心したよ」
『先週のことはもう許してくれよ…』
「ふふっ、それはこれからの君の態度次第かなぁ?」
先日、クソゲーに熱中するあまり僕との通話の約束をすっぽかした楽郎が気まずげな声を漏らす。
本気で今も怒っているわけではないけれど、楽郎は僕が一日の終わりのこの時間をどれほど心待ちにしているかをもっと理解するべきだと思う。
それから暫しの間は他愛ない会話を楽しんでいた僕たちだが、話が以前から約束していたデートのことになった時、楽郎は信じられないようなことを言いだした。
『なあ、今度の土曜のデートなんだけどさ、一旦中止にしないか?』
「……は?」
自分でも驚くほどドスの利いた声が出た。
だけどそれも仕方がないだろう。部活や稽古で忙しい中どうにか都合をつけて一月も前から計画していたお出かけだったのに、それをいきなり取り止めようとは一体どういう了見だ。
ことと次第によってはリアル天誅も辞さない覚悟で楽郎に問い詰める僕だったが、続く楽郎の説明は一応の納得のいくものだった。
『…最近、クラスの女子が噂してるんだよ』
「噂って?」
『「最近あの龍宮院さんが誰かと付き合ってる」だってよ』
「あー…バレた?」
僕と楽郎が付き合っていることは、一応まだ二人だけの秘密ということになっている。
僕としては別に公表してもいいと思っているのだけれど、僕のファンや何より兄さんに知られてしまうと色々と面倒なのも事実だからだ。
とはいえ必要以上にコソコソするのも僕たちの性には合わず、放課後や休日などは割とおおっぴらに二人で出かけたりもしていたのだがどうやらそこを見られていたらしい。
楽郎が聞いたという噂の内容によると、未だ確証を得るまでには至っていないらしいのがせめてもの救いか。
「そういえば最近はファンの皆が前よりちょっとしつこかったような」
『大抵の奴らは興味本位で話のタネにしてるくらいだったけど、一部ガチっぽいやつらもいたからな…』
なんでも中にはストーキングの計画じみた話まで漏れ聞こえてきたようで、そこで流石に僕が心配になってデートの中止を申し出てきたとのことだ。
僕の身を心底案じていることが通話越しでさえも伝わってくる楽郎のその声になんともむず痒い気分にさせられる。だけど、私をそう甘く見ないで欲しいな。
「事情は分かったよ。でも大丈夫、土曜日は予定通りにデートしよう」
『何か策でもあるのか?』
「ふふん、まぁ見てなよ。楽郎は余計なことは気にしないで楽しいデートプランでも考えていればいいのさ」
『…京極が自信満々な時って大体何か失敗するフラグだからなぁ』
「なにおう!!」
◆ ◆ ◆
そしてデート当日。
僕は周囲の男性たちから集まる視線を努めてスルーしながら、楽郎との待ち合わせ場所に向かっていた。
幾度ものナンパを適当にあしらいながら目的地にたどり着くと、約束の15分前だというのに楽郎はもう到着していた。
こうしてデートを繰り返すうちに知ったのだが、普段はもっぱら学校の制服かジャージで過ごしているくせにあいつの服のセンスは意外と悪くない。
手近な柱に背を預けつつ端末に視線を落とす姿は何気に様になっていて、それを見た私の胸は自然と高鳴ってしまう。
「おーい、らくろ…」
(いや、待てよ…?)
早足気味に彼に近づき声をかける直前。僕は腰まで伸びるウィッグをした今の自分の恰好を思い出し、ちょっとした悪戯を考え付いた。
熱狂的なファンの子たちの目を欺くための変装だけど、この姿ならば楽郎だってすぐには僕と分からない筈だ。
「んんっ…こほん」
軽く咳払いをして喉の調子を確かめる。いつもより気持ち高めな声色を作ると、改めて今も僕を待っている楽郎に話しかけた。
ふふふ、さーて君はいつ僕だと気が付くかな?
「あの…お兄さん、今お暇ですか?」
「ん?あー、ごめん。俺今人を待ってて……って、何やってんだ京極」
「あれっ?」
ところがそんな期待に反して楽郎の反応はあっさりとしたもので、一瞬余所行きの態度をとっていたものの僕の姿を視界に入れた途端にその正体を看破されてしまった。
「え、楽郎。なんで僕だってわかったの?見た目だけじゃなくって声とか立ち居振る舞いも一応変えてみたんだけど」
「なんでって…そりゃ散々幕末とかシャンフロで見慣れてるし」
「あ」
言われてみればその通りで、リアルでこそ長髪姿は珍しいもののゲームの世界ではその限りではない。
向こうの世界での私のことも良く知っている楽郎ならば見分けることもわけないだろう。
「なんだつまんない」
「…ああ、でもそうだな」
「?」
「長髪姿も似合ってる……その、綺麗だと思うぞ」
「!!?」
「ええい、いいから行くぞ!」
楽郎は言いたいことだけ言ってから私の右手を強引に掴んでぐいぐい引っ張り歩き出す。
私はと言えば思いもよらぬ殺し文句に頭は完全にパンクして、何一つ言葉を返すことができずにいた。
繋いだ手が熱い。心臓が今にも破裂しそうだ。
緊張と喜びで未だ纏まらない思考回路の中、私は一つの決意を固めていた。
──髪、伸ばしてみようかな。