徒然なるインベントリア:シャンフロの小話   作:イナロー

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付き合ってない大学生楽京のお話。
多分悪友√アフターの世界線。


あいつは顔が良い

「陽務君って結構良くない!?」

「………………はい?」

 

 それは大学の同期の女性陣による飲み会……所謂“女子会”というものの最中、目の前の学友が発した言葉の意味を理解できず、思考が一瞬停止する。

 

 ヒヅトメクンッテケッコウヨクナイ?

 

 はて、僕の記憶する限りではヒヅトメクンとやらに該当する人物は高校時代からの付き合いであるクソゲー馬鹿の陽務楽郎ただ一人であるのだが、彼が良いとは一体どういうことであろうか。

 幕末やシャンフロに於いての僕の扱いを見るに、あいつが実にイイ性格をしていることについては異論はない。しかし彼女の口ぶりからしてそういう意味の言葉では無いのだろうことは容易に察せられた。

 唐突な発言に困惑する私をよそに、女子会に居合わせた他の面々はその言葉を皮切りに口々にその陽務何某への評価を述べていく。

 

 曰く、レポートで困っている時に助けてくれた。

 曰く、留学生たちと原語で流暢に会話していた。

 曰く、明るく社交的な性格で交友関係が広い。

 曰く、無邪気に笑う姿が可愛い。

 曰く、顔が良い。

 etc.…

 

「えっと……それはまさか楽郎のことじゃ、ない……よね?」

「何言ってるのさ龍宮院さん!その陽務楽郎君のことに決まってるじゃん!」

「そういえば龍宮院さんってよく陽務君と一緒に居るよね?もしかして実はもう付き合ってたり…?」

「いやいや、同じ高校出身のよしみでなんとなく連んでるだけだよ」

 

 驚くほどの高評価の連続に、もしやこの大学には僕の知らないヒヅトメクンとやらが在籍しているのではないかと思い確認するも、やはり話題の陽務君とやらはあの楽郎のことで相違ないらしい。

 しかも何やら話の雲行きが怪しくなってきた。この手の勘違いは高校時代からしばしばあったけれど、僕と楽郎はあくまで気の合う友人同士に過ぎないのだが。

 

「ほんとかな~?」

「ほんとほんと、僕からすれば皆があいつのどこがそんなに良く見えるのか不思議なくらいだよ」

 

 レポートを手伝ってくれる?

 なるほど、確かに僕も課題やテストで困ったときには楽郎に泣きついているさ。既に提出済みの余裕を見せつけながら煽られるのを承知の上でね!

 

 外国語が堪能?

 多種多様な言語でスラングを飛ばす姿は見てきたけれど。

 

 社交的で交友関係が広い?

 おかげで前回のイベントでは談合されて志士達からの集中砲火で散々だよ!!覚えてなよサンラクぅ……!

 

 無邪気で可愛いだって?

 あの邪悪な笑顔の何処に可愛げがあるって言うのさ!!!

 

 顔が良い?

 それは……

 

 

 

 

「……俺の顔に何か付いてるか?」

「目と耳が二つと口と鼻が一つずつ」

「それは良かった。目が四つになると視界がダブって大変なんだ」

「えっ、なにそれ気持ち悪い」

 

 昼休みの学食で日替わり焼き魚定食(ホッケ)に舌鼓を打ちながら、目の前で醬油ラーメンを啜る京極とそんな他愛もない会話を交わす。

 眼球増殖はこないだ便秘で新たに見つかったバクなのだが、現時点では有効な利用法は見つけられずにいる。使いようによっては中々悪さが出来そうなのだけれど……

 

 閑話休題。

 

 さて、俺の顔に|異常≪バグ≫が無いのであれば、京極は一体どうしてそんなに俺の顔をじっと見つめているのであろうか。

 正面から突き刺さる視線に言いようのない座りの悪さを感じていると、トッピングの煮卵を箸で割りながら京極がポツリと呟いた。

 

「……顔は良いんだよなぁ」

「何言ってんのお前」

 

 京極らしからぬ突然のお褒めの言葉にたまらずツッコミを入れる。

 いきなり何を言い出すんだこいつは。

 

「や、こないだ同期の面々で女子会してたら楽郎の話題になってさ」

「えっ、俺お前らになんか噂されてんの?」

「別に悪口って訳じゃないから安心しなよ、むしろ女の子たちの間では随分評判がいいみたいだよ?」

「ええ……それはそれで心当たりが無くて怖いんだけど」

「……ふふっ、まあ君はそういう奴だよね。安心しなよ、楽郎はそんないい男じゃないって説明しておいてあげたから」

「おい待て、お前は一体何を言った」

 

 小学生の悪ガキのような嗜虐心に溢れた笑みを浮かべる京極に一抹の不安が浮かぶ。

 知らぬところで過度に美化された噂をされるのも怖いけれど、かといって悪し様に言われたい訳でもない。

 そう言って事の次第を尋ねる俺を見て、京極はけらけらと楽しそうに笑いながら先日の女子会でのエピソードを語った。

 

「俺そんな風に見られてんの!?」

「まあ、僕からすれば偶像崇拝もいいところなんだけど……こうして改めて楽郎の顔を見てみたら、確かに顔はいいよねって思ってさ」

「ああ、それで人の顔をやけにじっと見てたのか」

 

 これでようやく京極から向けられる熱い視線への合点がいった。

 しかしそうか。顔が良い、ねぇ……

 

「……顔が良いのはどっちだよ」

「へっ?………………へ~え?」

「………………………今の無し」

 

 つい口をついて出てしまった言葉を拾った京極がニヤニヤと勝ち誇ったような笑みを浮かべている。

 ぐっ、俺としたことが……!

 

「へー、ほー、どっちだよ、かー!」

「くっそミスった…!」

 

 腹立つ顔もやっぱり良いなコンチクショウ!

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