徒然なるインベントリア:シャンフロの小話   作:イナロー

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大学生の楽郎と京極が一緒に鍋をつつくお話。


同じ釜の麺を食う

「うー寒っ、今夜は随分冷えるな……」

 

 春を迎えたとはいえ夜はまだまだ肌寒い。

 吹きすさぶ風に身を震わせながら家路を急いでいると、遠目に見えるアパートの自室の窓から何故か明かりが漏れていることに気が付いた。

 

「消し忘れ…ってことはないよな」

 

今日は朝から大学の講義があったのでそもそも電気を付けてすらいない。

 ならば恐らく今俺の部屋には誰かがいるということで。

 

「端末に連絡も無いってことは母さんや瑠美がひょっこり遊びに来た線も消えた、と」

 

 となると一人暮らしの我が家への訪問者の可能性として残る選択肢は空き巣か、或いは……などと考えながら足を進めていると、件の我が家の目の前に辿り着いた。

 間抜けな泥棒の可能性も無いことはないが、恐らくまた彼女(あいつ)が遊びに来たのだろう。

 この部屋の合鍵の持ち主の姿を脳裏に浮かべながら、俺は案の定鍵の開いていたドアノブを回した。

 

「ただいまーっと、やっぱりお前か」

「お帰り楽郎。丁度良かった、もうすぐご飯ができるところだよ」

 

 1DKの台所で何やら調理をしていた京極が、ガスの火を止めて振り返りながら出迎える。その瞬間、料理の邪魔にならないよう高めの位置で纏められた髪がふわりとたなびいた。

 

「ありがとう、いつも作って貰って悪いな」

「ふふん、愛情たっぷりの僕の料理を食べられる幸福に存分に感謝するがいいよ」

「いやマジで感謝してる。今日の弁当も滅茶苦茶美味かったし、毎日京極の飯が何よりの楽しみだ」

「~~!真面目くさった顔で何言ってんのさ!?ほら、もう食べられるから早く手を洗ってきて!」

 

 瞬く間に顔を紅潮させた京極にぐいぐいと背中を押され、手洗い場へと追いやられる。

 そんな可愛らしい反応を微笑ましく思いながら手を洗い、ついでにバシャバシャと顔を濡らして鏡で自分の顔面を確認する。

 ……よし、もう赤くないな。

 慣れない本音を伝えたせいか、はたまた京極の照れが移ってしまったのか。彼女と同様に熱を持ってしまった顔が元に戻ったことを確かめると、京極の待つキッチンへと戻った。

 

「何か手伝うことはあるか?」

「それじゃ取り皿とお箸出しといてもらえる?今日は寒いからお鍋にしたよ」

 

 先ほどから鼻孔を擽る出汁と醤油のいい匂いの正体はそれか。

 コンロの上で沸々と煮える鍋を意識すると、今にも腹の虫が鳴き出しそうだ。

 

「冷凍庫のお魚勝手に使っちゃったけど大丈夫かな?」

「大丈夫……というかむしろ使ってくれて助かる。いかんせん量が多くてな」

 

 一人暮らし用でさほど容量の大きくない我が家の冷凍庫の大部分は父さんから送られてきた魚が常に占拠している。

 食費が浮くのは大変助かるのだが一人で食べるにはあまりにも多く、こうして料理してもらえると本当に有難い。

 

「お鍋煮えたよー」

「了解、俺が運ぶから京極は先座っててくれ」

「ありがと。あー、僕もお腹へっちゃった」

「ええっと、鍋掴みどこ置いたっけ…」

「ミトンなら調味料棚横のバスケットにしまってあるよ」

「ああ、あった。よし、鍋行くぞー」

 

 熱々の鍋を食卓の中央の鍋敷きに乗せる。蓋を開けると、食欲をそそる香りと共に白い湯気が勢いよく広がった。

 醤油ベースの出汁で薄く茶色に染まった白菜と長ネギに、しめじやマイタケなどのキノコ類。タラ、メヌケにアサリやホタテなどの魚介類もたっぷり入ったその鍋は、見ているだけで今にも涎が垂れてきそうだ。

 そんな俺の反応を見た京極はくすりと笑うと、鍋の具材をバランスよく大盛で取り分けてくれる。

 次に京極が自分の分もよそい、二人揃っていただきますの声を上げた。

 

「あー、超美味い……」

「お口にあったなら何より、お鍋はやっぱりあったまるねぇ」

「引っ越しのときに土鍋買っといたのは大正解だったな」

「僕の言うことを聞いといてよかったでしょ、というか楽郎ってばほっといたら本当に必要最低限のものしか買わないんだもん」

「男の一人暮らしでそんなに色々いらないだろ……」

「それにしたって鍋一つとフライパン一つは少なすぎ、楽郎だって料理出来ないわけじゃないでしょ。魚捌くのなんて僕より上手いじゃん」

「出来るとやるかは別問題なんだよ、最悪カップ麺とエナドリがあれば……」

「……本気でやめてよ、そんな百さんみたいな食生活」

「でも京極も毎日のようにラーメン食ってるじゃん」

「毎日じゃないよ人聞きの悪い……せいぜい週三くらいだから」

「……ふーん、ちなみに今日の鍋の〆は?」

「…………ラーメンだけど」

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