徒然なるインベントリア:シャンフロの小話   作:イナロー

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大学三年生の京極の誕生日。


滑り込みBirthday

 兄さん

 大学の友人

 道場の門下生

 お母様

 兄さん

 高校時代の友人、

 道場の師範代

 大学の友人

 大学の先輩

 兄さん

 道場の門下生

 高校時代の後輩

 ………

 

「今日来たメッセージはやっぱりこれで全部、か……」

 

 時刻は夜の10時を回り、一日の疲れをシャワーで流してあとはもう寝るばかりとなった頃。

 本日五度目となる端末へのメールやSNSのメッセージ欄の確認をした僕は、老若男女問わず送られてきた多種多様な祝いの言葉達の中に僕がもっとも望む相手からのものが無いことを改めて確かめてひどく気落ちしていた。

 一応の礼儀としてそれらのメッセージに一通り返事を送ってから端末の画面をオフにして、僕は濡れた髪もそのままに楽郎の(・・・)ベッドへぼふりと身を投げた。

 

「……楽郎の馬鹿、せめてお祝いの言葉のひとつでもくれたっていいじゃないか」

 

 家主不在の部屋の中、恋人の誕生日にプレゼントはおろか連絡さえも寄越さない薄情者へと不満を零す。

 枕に顔を埋めると楽郎の匂いが微かに鼻孔を擽って、それがより一層寂しさを募らせた。

 思い返せば楽郎と知り合ってからはどこかに遊びに行ったり家で過ごしたり、或いはゲームの中でだったりの違いはあれど、互いの誕生日には毎年直接祝っていたのでこうして一人で過ごす誕生日は初めてだ。

 

「……もう試合は終わったかな。はぁ、何でよりにもよって今日…」

 

 イギリスのプロチームが来日するということで急遽組まれたエキシビションマッチ。その試合に楽郎が“顔隠し”として召集されたのが一週間前のこと。そして六月二十五日の今日がその試合の当日だった。

 大学生活も後半に差し掛かり、本格的に爆薬分隊からのスカウトを受け入れることを視野に入れた楽郎からすれば簡単に断れるものでは無いということを頭では理解している。事前の調整等のスケジュールの問題もあり、気軽に電話やメールが出来ないのもわかる。

 だけど理屈で感情を制御できれば人間苦労はしないもので。

 僕の口からはやり場のない憤りがとめどなく溢れ出してくる。

 

「……ばか、あほ、とうへんぼく。今度絶対天誅してやる」

 

 これだけ僕に寂しい思いをさせたんだから、ちょっとやそっとの埋め合わせなんかじゃ絶対満足してやらない。

 他のゲームに浮気させずに一日中幕末で斬り合って、それから楽郎の奢りで気になってたラーメン屋巡りに連れてってもらって、たまには新しい服を買いに行ったりもして……

 

「……会いたいなぁ」

 

 そんな僕の呟きが、誰にも届かず宙に消える――はずだった。

 

「おう、俺も会いたかったぞ」

「だったら早く帰ってきて、よ………!?」

 

 聞こえる筈の無い声が聞こえたことに理解が追い付かず、一拍遅れて跳ね起きる。

 部屋の入り口を見れば、ケーキ屋さんの紙袋を片手に持った楽郎がそこに立っていた。

 

「え、どうして?帰りは明日の予定じゃ…?」

「俺の試合が終わった瞬間に即効で抜け出してきた。幸い今回は勝ち抜き戦じゃないから一ゲームで終わりだったしな、レオノーラ・ロジャーが相手ならもうちょい長引いたかもしれないけどそっちはカッツォが受け持ってくれたし」

 

 きっちり勝ってきたぜ、と得意気に語る楽郎の言葉が右から左へ抜けていく。

 僕は驚愕冷めやらぬままにフラフラと立ち上がると、楽郎の目の前に移動して彼の頬を強くつねった。

 

「……きょうほく、いはい」

「痛いってことは、夢じゃない……?」

「それは自分の頬っぺで確めてくれないか?」

「うん、痛い」

「本当に確めんでも……おっと」

 

 改めて自分の頬をつねった僕を見て楽郎が苦笑する。

 ようやくこれが夢や妄想の類ではなく現実なのだと理解した瞬間、僕は堪らず楽郎に抱きついた。

 

「今日は一緒にいれなくてごめんな」

「本当だよバカ、帰って来るなら来るで連絡してよバカ」

「いやあ、サプライズで驚かそうかと」

「大体、私が出掛けてたりしたらどうするつもりだったのさ。勝手に入った私が言うのもなんだけど、そもそもここ楽郎の家だし」

「そこは京極なら俺の家に来てるかなーって何となく……勘?」

「……ほんとバカ」

「いや、そんなにバカバカ言わなくても……」

「……うるさいばーか」

 

 恋人を寂しがらせる大馬鹿野郎の抗議の声を聞き流し、無言で抱き締める力を強くする。

 やれやれと呆れたような気配を感じるものの、楽郎から抱き返す力が強まったことで不問に付した。

 

「……なあ、京極」

「…………なに、楽郎?」

 

 手櫛で髪を梳くように頭を撫でながら楽郎が私に囁きかける。

 低く響く声が耳朶を打つのが心地好い。

 

「誕生日おめでとう、これからもよろしくな」

 

 愛する人の温もりに包まれながら告げられたその言葉が、私には何よりの贈り物だった。

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