徒然なるインベントリア:シャンフロの小話   作:イナロー

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楽郎の誕生日プレゼントに悩む京極のお話。


龍宮院京極は祝いたい

『恋人 誕生日 プレゼント』

『高校生 男子 喜ぶもの』

『アクセサリー メンズ』

『財布 男性用』

『マフラー 編み方』

etc.……

 

「ああああ……今年のプレゼント、どうしよう…!」

 

 時は深夜二時。僕以外の家族はとうに床に就き、静寂に包まれた部屋の中。今の思考をそのまま映し出したかのような検索履歴の並んだ端末の画面を前にして、苦悩の声が口から零れる。

 楽郎の誕生日まで残すところあと一週間。買うにしろ作るにしろ、猶予はギリギリと言っていい時期だ。例年ならばこの頃には既にプレゼントを購入済みであるか、そうでなくても何を贈るかくらいは目星をつけ終えていた

 ……しかしながら、今年の僕は未だプレゼントの候補すら決めきれずにいた。

 

「キーホルダーは中学生の頃にプレゼントしたし、手拭は刺繍を入れて去年の誕生日に贈ってる。剣鍔も去年のクリスマスで渡しちゃったしなぁ……」

 

 プレゼントを決められない理由は幾つかある。

 僕が楽郎と出会ってから早数年。今までにも互いの誕生日やクリスマス等で既に何度もプレゼントを贈り合っていて、それらと内容が被ってしまうことが一つ。

 

「そもそもあいつ、ゲームとエナドリ以外に物欲あるのかな……アクセサリー類を渡してもあんまりつけてくれなかったらちょっと嫌だし」

 

 楽郎の興味関心がクソゲーに一点集中し過ぎていて他に欲しいものが思いつかないのが一つ。

 いくら楽だからって普段着が九割方ジャージなのはどうかと思う。うちの高校は服装に関してはまあまあ厳しく、学校で装飾品を付ける訳にもいかない。ネックレスやブレスレットの類はそもそも身に着ける機会がほぼ訪れないだろう。

 指輪は……どうせなら楽郎から貰いたいしね。

 

「となると無難に財布やパスケースなんかの実用品か……それもちょっと味気ないような」

 

 そして何よりも私の頭を悩ませていることは──

 

「……恋人になって初めての誕生日なんだから、思い出に残るものにしたいよね」

 

 そう、今まではあくまでも仲のいい友人相手のプレゼントだったので気軽に選ぶことができた。

 だけど晴れて彼と付き合うことになった今、『恋人』という新たな関係性が私の決断を大いに鈍らせていた。

 

「やっぱりここはマフラーか手袋辺りを編んで…!でも、あんまり自信無いんだよね……」

 

 道着の補修などで針仕事は慣れているけれど、編み物に関しては正直得意とは言い難い。

 最後に編み棒を持ったのは小学生の頃、お母様に教わってお爺様へ手袋をプレゼントしたのが最初で最後。

 当時は最高傑作のつもりだったそれは、今にして思えば編み目はゆるゆる、左右でサイズもずれていて大層不格好だったことだろう。手袋としてまともに機能していたかも怪しいものだ。

 流石に今ならもう少しまともな形に出来るとは思うものの、せっかくの誕生日に不格好な物を贈るのは些か気おくれしてしまう。

 これから寒さの増す季節、防寒具を贈るというアイデア自体は悪く無い。ならば無難に百貨店で既製品を見繕ってこようか。

 悩みに悩んだ結果、僕はそんな日和った考えに至りかけ……ふと、在りし日のお爺様の姿が脳裏を過る。

 

(……ああ、でもあの時のお爺様、すごく嬉しそうにしてくれてたっけ)

 

 お爺様に手編みの手袋をプレゼントしたあの日。

 凪いだ海原や不動の大樹を思わせるほど常日頃から泰然自若とした姿を崩さない富嶽お爺様が、幼い僕の目から見てわかるくらいに相好を崩して喜んでくれていた。

 『ありがとう、京極』という簡素なお礼の言葉と共に、手袋をはめたその手で僕の頭をわしわしと撫でられた暖かな感触は今でもはっきり覚えている。

 

 ──楽郎も、あのくらい喜んでくれるかな。

 

 思い出の中のお爺様の笑顔に、萎みかけたやる気が急速に蘇ってくるのを感じる。

うん、多少不格好でも大事なのは真心だよね。大体恋人がわざわざプレゼントを手作りしてあげるんだから、彼氏としては感涙にむせんで喜ぶべきでしょ。喜ばなかったら天誅してやる。

 深夜テンション交じりの頭でそんなことを考えながら、今年のプレゼント内容が決定した。

 明日は早速毛糸を買いに行かなくちゃ。

 

 

「なんだかんだで楽郎も結構人気者だよね」

 

 そして迎えた誕生日当日の放課後。

 部活が休みだった僕は楽郎と肩を並べて帰路につきながら、そんな言葉をしみじみと呟いた。

 

「え、そうか?」

「そうだよ、今日はことあるごとに誕生日祝って貰ってたじゃん」

「と言ってもせいぜいジュース奢られたり文房具渡されたくらいだぞ」

「それだってある程度好ましく思ってる相手じゃなかったらわざわざプレゼント渡さないでしょ、全く羨ましい限りだよ」

「いや、それを言ったら京極の誕生日なんて両手に紙袋引っ提げて帰るレベルで貰ってただろ」

「……ああ、貰ったともさ。あとで念入りに中身の精査が必要なプレゼントの山をね」

「あっ」

「…………本当に楽郎が羨ましいよ」

「……人気者も大変だな」

 

手作りケーキやミサンガ等に仕込まれていたあれやこれやを思い出して遠い目をする僕を、楽郎がいたたまれないものを見るような視線で見つめてきた。

うん、この話はもうやめよっか。

 

「まあ、僕のことはもういいんだよ。それより楽郎、僕に隠れて女の子からプレゼント貰ってたりなんて……しないよね?」

「貰ってねーから殺気を向けるな!つーか俺、それを言うなら肝心の相手からのプレゼントを貰えてないなーなんて」

 

 よし、万が一浮気の気配を感じたなら即座に天誅するところだったけれど、どうやら楽郎の言葉に嘘の気配は無い。

 それどころか物欲しそうにこちらにチラチラと視線を向けてプレゼントの催促をしてくる始末だ。

……しょうがないなぁ楽郎は!

 

「えーっ、誰のことかなぁ?楽郎はそんなにその子からのプレゼントが欲しいんだ?」

「うわウザッ」

「待って今なんつった?」

「おっといけない、つい本音が……まあ、そりゃ彼女からのプレゼントが欲しくない彼氏なんていないだろ」

「……そ、そっか」

 

 一瞬本気でドスの効いた声を出してしまったが、続く楽郎の言葉を聞いてなんだか段々照れ臭くなってきた。

 うん、そうか。私、楽郎の彼女だもんね……うん、それならしょうがない。

 

「もう、わかったよ。それじゃあそんな寂しがりな彼氏さんに……誕生日おめでとう、楽郎」

「ありがとう、開けてもいいか?」

「好きにしなよ……言っとくけど返品は受け付けないから」

「そんな事しねーよ…っと、これは手袋……ひょっとして手編み?」

「……うん、その…あんまり上手じゃなくて申し訳ないんだけど」

「そんなことないって!すっげー嬉しい!」

「…そっか、よかった」

 

 言葉の通り満面の笑みを浮かべて喜ぶ楽郎を見て、ほっと安堵の息をつく。

我ながら随分と緊張していたようで、知らず知らずのうちに握りしめていた手から力が抜けた。

 慣れない編み物はちょっと大変だったけれど、まるで大作クソゲーをクリアしたかのように笑う楽郎を見ていると、頑張った甲斐があるというものだ。

 と、そこで早速手袋をはめてニヤニヤしていた楽郎が、ふと何かに気が付いたような顔をして僕に尋ねる。

 

「!お前が最近授業中にやけに居眠りが多かったのって、まさかこの為か?」

「えっ、見てたの!?……恥ずかしいなぁもう。まあその、せっかくなら少しでも良い物をって思ってたら、ついつい夜更かししちゃってさ」

「ありがとな京極、絶対大事にする」

「もー、大袈裟だなあ……でも、ありがとう」

 

 

 

おまけ

 

「やあ陽務君、誕生日おめでとう」

「ありがとうございます國綱さん。急用を思い出したのでこれで失礼しますね」

「はっはっは、道場に来るなりいきなり帰ることは無いだろう?せっかくの誕生日、プレゼント代わりと言ってはなんだが今日は僕が付きっきりで稽古をつけてあげようじゃないか」

「いやいや、お気持ちだけで十分ですから俺なんかより他の門下生を優先してあげてください」

「そう遠慮するな、君には丁度聞きたいこともあったからね」

「な、なんでしょうか…?」

「いやなに、新しい手袋の履き心地などを少々…ね?」

「あはははは……とっても暖かかったです」

「そうかそうか、それは何より……やはり京極が夜なべして編んでいたのは君の為か……僕だって京極の手作りのプレゼントが欲しいのに!!」

「ついに本音が出ましたね!?ってかそれは俺じゃなくて京極に言って下さいよ!!」

「言ったさ!だけど京極は『今それどころじゃない』とけんもほろろでっ…!勝負だ楽郎!

僕が勝てばその手ぶくろは僕の物だ!!」

「あげませんよ!??何があろうとこればかりは死守させてもらいますからね──お義兄さん!」

「貴っ様ァァァァァ!!」

 

 

 

 

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