徒然なるインベントリア:シャンフロの小話   作:イナロー

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愛猫に塩対応される京極のお話。
猫ちゃんの名前は捏造です。


御機嫌ナナメな御猫様

「ねえ、ごめんって。僕が悪かったからそろそろ機嫌を直しておくれよ」

「…………」

 

 再三に渡る謝罪に耳も貸すこともなく、彼は僕を無視し続ける。

 こちらに背を向け僕を一瞥さえしてくれないその姿が、彼の不機嫌さを何よりも如実に物語っていた。

 

「クラスの女の子達との付き合いで行っただけで、浮気するつもりなんてこれっぽっちも無いんだよ」

「…………」

 

 けんもほろろな態度に挫けそうになる気持ちを奮い立たせ、尚も説得を試みてみるものの、彼は一向に僕に心を開く素振りを見せない。

 

「……ほ、ほら!君も意地を張ってないでいい加減こっちにおいで──」

 

 パシッ、と軽い音を立てて差し出した手が無情にも弾かれる。

 あまりにもあっけなく行われたその動作に一瞬意識が追い付かず、僕は右手を伸ばした姿勢のまま数秒ほどその場に固まった。

 僕の手を尻尾(・・)で振り払った彼は、鼻で笑うかのようにニャアンとひと鳴きすると、これまで呆れた顔で僕らのやり取りを見守っていた楽郎の膝の上にするりと滑り込む。

 それが、限界だった。

 

「ううう……お願いだから許してよ(ウルトラ)ぁ……!もう猫カフェなんていかなからぁー!!」

「おーよしよし、薄情なご主人様は放っておいて今日は俺と遊ぼうなー、ウル」

 

 半泣きになる僕を尻目に、楽郎はこれ見よがしに我が家の愛猫──(ウルトラ)の艶やかな黒い毛並みを撫でまわす。

(ウルトラ)がそれを拒むことなく、むしろ心地よさそうにゴロゴロと喉を鳴らす姿がより一層僕の寂しさと悔しさを募らせた。

 

「楽郎ばっかりズルいよ!僕には触らせてもくれないのに!」

「そんなこと言ったってウルが嫌がってるんだからしょうがないだろ。他の猫と遊んできたお前が悪い」

「違うんだよ!別に君に飽きたとか他の子に現を抜かした訳じゃ無くって、本当にちょっとした興味本位で行っただけで…!」

「その割には随分楽しんできたみたいだけどな。制服に猫の毛がそんだけたくさん付くくらいには」

「…………原因はこれかっ!!?」

 

 楽郎が指差した先を見ると、プリーツスカートには猫カフェで戯れてきた三毛や白猫のものと思しき毛が幾つも付着している。

 楽郎の指摘で僕はようやく今日の(ウルトラ)が何故ここまで怒っているのかを理解した。

 言うなればこれは、帰宅した楽郎が他所の女の髪の毛をシャツに付けてきたようなものだ。

 それは確かに想像するだに腹立たしく、爪を引っ立てることな無視で済ませてくれるだけこの子の対応は僕などより随分と大人なのかもしれない。

 

「なるほど、これは本当に僕が悪かったね。ごめんね(ウルトラ)、さぞかし不愉快だっただろう?」

「おい、何故そこでウルじゃなくて俺を見る」

「自分の胸に聞いてみればいいんじゃない?」

「あの件は誤解だっただろ……」

「誤解を生むような迂闊な真似をした方も悪いってことだよ」

 

 実際に竹刀を持ち出しての大喧嘩に発展した過去の苦い思い出を振り返りながら、僕は(ウルトラ)の気持ちを思い深く反省した。

 さて、何はともあれ原因が分かれば対処のしようはある。僕は衣装箪笥から替えの服を取り出すと大急ぎで制服を脱ぎ捨てる。

 

「って、いきなり脱ぐなよ!着替えるなら一旦俺部屋から出るから……」

「僕と君との仲なんだから細かいことは気にしないでよ」

「この場面を万一國綱さんに見られたら俺の命が危ないんだよ!」

「その時は辞世の句くらいは聞いてあげるから大丈夫……よし、これでOK!」

 

 部屋の外の様子をしきりに気にする楽郎を適当にあしらいながらいつものシャツに着替えた僕は部屋の隅で毛づくろいをしていた(ウルトラ)に向かって両手を広げて呼びかける。

 着替えの甲斐あってか、先程まで僕に見向きもしなかった(ウルトラ)はテクテクと歩を進めると……僕の横を通り過ぎ、そのまま部屋を出ていった。

 

「……って、なんでさ!?」

「まあほら、猫は気まぐれだから」

 

 ──この後、お風呂に入って猫の匂いを落として僕はようやく(ウルトラ)の許しを得ることができたのだった。

 

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