徒然なるインベントリア:シャンフロの小話   作:イナロー

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胸囲の格差社会に恨み骨髄な京極のお話。


持たざる者の嘆き

「男ってやっぱり皆大きい胸が好きなの?」

「…………はい?」

 

 素材集めも兼ねた新大陸の樹海探索がひと段落し、セーブテントを立ててドロップアイテムを確認しながらの休憩中。

 俺に同行していた京極が、青聖杯を使用した俺の胸元にジトっとした目を向けながら唐突におかしなことを言い出した。

 

「なんだ、巨乳好きNPCからのクエストでも受けたのか?」

「は?そんな変態NPCなんているわけないじゃん、馬鹿なの?」

「…………」

 

 馬鹿はお前だと今この場で反射的に京極に刃を突き立てなかった俺の理性を誰か褒めて欲しい。

 ちなみに後日ディプスロから聞かされた話によれば、幾人かのNPCには明確に性的嗜好(せいへき)が設定されており、アバターの胸囲でクエストの受注難易度が変わることもあるらしい。

 変なところまで手を抜かなすぎだろシャンフロ。

 

 閑話休題。

 

 発言の意図が掴めず困惑する俺を他所に、京極は「あんな脂肪の塊の何が……」「邪魔なら削げばいいのに……」などと怨嗟の声を上げ続けている。

 俺の胸に注がれる視線には、幕末であれば間違いなく殺気システムが反応していたであろう程の濃密な殺意が籠められていた。

 

「……サンラクもどうせ大きいおっぱいが好きなんでしょ」

「何故そうなる!?」

 

 突然の風評被害に声を荒げて抗議するが、京極はそれ以上の剣幕で捲くし立ててくる。

 

「じゃあその胸はなんなのさ!さっきからばるんばるん見せつけてくれちゃって!嫌味?嫌味なの!?」

「俺だって好き好んでこのサイズにしたんじゃねーよ!取れるもんなら取りたいわ!」

 

 男アバターでの戦いやすさを優先した結果こんな姿になってしまっただけで、決して俺が大きな胸にご執心という訳では無い。

 重心はブレるし動くと痛いしで全く持っていい事など無いのだが、そんな弁明は怒り心頭な京極には逆効果だったようだ。

 

「はー!おっきい人は大変ですね!楽郎といい百さんといい、さも『私は大変です』って顔しちゃってさぁ!竹刀振るんだかおっぱい振るんだかどっちかにしろっての!」

「……お前、先週の立ち合い稽古で百さんにボロ負けしたこと引き摺ってる?」

「ボロ負けしてないし!ちゃんと二本取ったから!」

「十本勝負で二本はボロ負けの範囲じゃねえかな……」

 

 まあ、十本中一本しか取れなかった俺が言えた言葉では無いのだが。

 話題が突然リアルのことに移って一瞬困惑したものの、ようやく京極のご乱心の元凶が見えてきた。

 何かと日頃の稽古でも何かと百さんをライバル視している京極だが、剣の腕ならまだしも胸のサイズであの人と競うのは無謀が過ぎるのではないだろうか。

 そんな憐憫にも似た俺の思いも知らず、京極は百さんへのリベンジに向けて気炎を上げている。

 

「ぐぐぐ……見てなよ、次こそは僕が勝ち越すんだから!」

「はいはい、お互い頑張ろうな」

 

 まあ、俺としても勝負事に負けっぱなしで居るのは趣味じゃない。

 彼我の実力差は身をもって理解しているが、そのくらいで諦めていてはクソゲーマーの名が廃るというものだ。

 共に百さんへの雪辱を誓い、この話はここで終わり……とは、ならなかった。

 

「で、実のところ楽郎は大きい胸が好きなの?」

「その話、まだ続けるのか……?」

 

 最初の質問に話題がループして、思わず驚きと呆れ交じりの声が零れる。

 しかしながら京極の眼差しは驚くほどに真剣で、茶化した返答をするのも憚られた。

 

「胸の大きさにこだわりはねーよ。さっきも言ったけど、このアバターだって俺がわざと設定したんじゃ無いからな?」

「本当に?」

「本当だよ。お前はなんでそんなに俺をおっぱい星人にしたがるんだ」

「…………だって、楽郎が百さんにデレデレしてたから」

 

 先ほどまでの剣幕から一転、悲し気に自らの胸元を見下ろしながら京極が嘆く。

 こいつ、そんなことを気にしてたのか。

 というか……

 

「別にデレデレなんてしてないだろ」

「嘘!百さんから一本取った時なんか『驚いたな、まさかもうここまで強くなっているとは……』って褒められてニヤニヤしてた!」

「それは純粋に成長を認められたのが嬉しかっただけだって!」

「じゃあなんでその後も二人で付きっきりで稽古してたのさ!他の門下生の皆も唖然としてたんだからね?」

「『せっかくだから型を見てやろう』って言われて断る理由もないだろ!あの人だって龍宮院流の使い手なんだし」

「それなら私と稽古すればいいじゃないか!」

「いや、お前とは普段からやってるだろ」

「それは……そうだけどさぁ!」

 

 会う機会が少ない相手との交流を優先させてくれという至極真っ当な俺の理屈に、反論の言葉を失った京極が歯噛みする。

 一方で俺はといえば、京極のいちゃもんの原因が彼女の嫉妬心からの物だと分かり些か意地の悪い喜びが胸中を満たしていた。

 突然ピザ留学をすることもなく直接不満をぶつけてくれる京極のなんと可愛らしい事か。

 

「……百さんって女の僕から見ても綺麗で魅力的だし、楽郎もああいう人の方がいいのかなって」

「まったく、俺がそんなホイホイ浮気するような男に見えるのか?大体もし仮に俺が百さんに目移りしたって、向こうが相手にしないだろうに」

「──そういう無自覚な所が不安なんだけどなぁ」

「ん?何か言ったか?」

「なんでもない………はぁ、どうにも僕の取り越し苦労だったみたいだね」

 

 何やら京極がもごもごと口ごもっていたかと思えば、可哀そうな人を見る目で俺を見ながら一人で勝手に納得したように頷いている。

 よく分からないが俺への疑念は晴れたらしい。

 

「気は済んだか?」

「……一応は、変なこと言ってゴメンね」

「気にすんなよ、お前が変なのはいつものことだろ」

「ありが……待った、今なんて言った?」

「いつも素敵なセンスをしてるなって言ったよ」

 

 京極の怒りのボルテージが再び上がっていく気配を感じるが、俺は構わず言葉を続ける。

 

「お前は色々気にしてるみたいだけど、百さんは百さん、京極は京極だろ。お前の良い所は俺が一番よく知ってるさ」

「楽郎……!」

「──俺、京極の手のひらに収まるくらいの胸も大好きだぜ」

「~~~~!馬鹿っ、変態っ!天誅っ!!死んじゃえっ!!!」

 

 わざとらしいキメ顔と共にサムズアップする俺を唐竹割にせんと、バフを重ね掛けにした刃が襲う。

 ギリギリ回避できなくもないが、俺は彼女の攻撃(ツッコミ)を甘んじて受けて……

 

「っておい!?食いしばりが無かったら死んでたぞ!!?」

「死ねばいいでしょ。どうせまたここで復活(リスポーン)するんだから、もう一度キルしてあげるよ」

「リスキル天誅は幕末だけにしてくれ……」

 

 容赦なく刈り取られた体力を見て、あまりに躊躇いの無いその殺意に戦慄する。

 

 本日の教訓。

 ──現役PKをからかうのは程々に。

 

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