シャンフロアバターの場合。
シャンフロにおける装備品は、その見た目と性能が必ずしも一致するとは限らない。
見かけ倒しの店売り装備よりも一見してネタとしか思えない装備の方が補正が上、なんてことは他のゲームでもままあることだが、生産職の自由度が恐ろしく高いシャンフロではその傾向が更に顕著だ。
イムロンが作る
そして性能さえ優秀なら、それがたとえ覆面海パンであっても躊躇なく装備するのがゲーマーという生き物である。
だから俺もサバイバアルから「いい装備がある」と聞かされた時、制作者:
その結果──
「あはははは!カッツォ君もサンラク君もよく似合ってるよ!」
「うるさいバカ!!クソっ、こんな見た目なのにAGI&LUK補正が割と優秀なのが腹立つ…!」
「困ったことに結構便利なんだよなこれ、頭装備に聴覚補正まで付いてるし」
頭にはヴォーパルバニー系素材をベースに作られた兎耳装備、胴には新大陸産の爬虫類系モンスターの皮を利用して作られたラバースーツ型の装備、ご丁寧にストッキングを模したアクセサリーまで。
サードレマ上層部の旅狼クランハウスにて、どこに出しても恥ずかしい立派なバニー姿になったカッツォと俺を前に、ペンシルゴンが腹を抱えて爆笑していた。
ちくしょう、立場が逆なら俺も間違いなく同じように大笑いしているから怒るに怒れん。
「んふふ、まるで誰かさんの為に誂えたみたいな性能だよねぇ」
「おいやめろ、考えないようにしてたんだから」
明らかに
装備を受け取った瞬間の興奮しきった変態共の様子を思い出してげんなりする俺を他所に、ペンシルゴンはノリノリで俺とカッツォにポージングの指示を出してくる。
「ほらもっと背筋を伸ばして!目線は敢えて外してやや上向きで!」
「これでいいのか?」
「なんでサンラクはちょっと乗り気なのさ」
「せっかくだからスクショしとこっか……ついでにあの魚臣慧がバニーを着たって噂流していい?」
「おい馬鹿止めろ!!」
「ペンシルゴン、俺にもそのデータくれよ」
「一枚十万マーニでどう?」
「誰がこの装備を提供したと思ってんだ、一枚一万マーニ」
「素材を生かすも殺すも撮影者の腕次第、モデルの知見を存分に活かしたこのショットを他の誰かが撮れるとでも?一枚八万マーニ」
「お前普段は撮られる側専門だろ……しょうがねえ、それじゃ五万マーニでどうだ」
「その手には引っかからないよサンラク君、『一枚』五万マーニでいいのかな?」
「ちっ、鋭い奴め。一枚三万マーニで、これ以上は出さんぞ」
「交渉成立っと、あとでメールで送っとくね」
「お前ら人の写真で取引するなよ!!」
「…………君たち、よくそんな恰好ができるね」
バニー姿で言い争う俺たちの様子に、それまで成り行きを黙って見ていた京極が呆れ交じりに呟いた。ちなみに彼女はいつも通りの和風装備である。
「なんだよ京ティメット、お前も着たいならまだ予備あるぞ」
「変な冗談はやめてよ、いくらゲームだからって僕がそんな変な服を着るわけないでしょ」
「「…………へえ?」」
「……何さ、腹立つ顔だなぁ!」
差し出された装備を歯牙にもかけない京ティメットに対し、俺とカッツォは心底馬鹿にしたように鼻で笑う。
それに対して京ティメットが憤慨するが、俺たちは彼女の怒りもどこ吹く風と言わんばかりに大袈裟に肩を竦めつつ軽妙なトークを交わす。
「おいおい聞いたかいサンラク?随分とまあ甘いことで」
「HAHAHA!言ってやるなよカッツォ、多少腕が立つとはいえ京ティメットもゲーマーとしてはまだまだ初心者なのさ」
「よし、喧嘩なら買うよ」
堪忍袋の緒が切れた京ティメットが刀の鯉口に手をかける。
やれやれ、ちょっと説明してやるか。
「落ち着けよ京ティメット、何も俺たちはお前のリアクションが楽しいからってだけでからかってる訳じゃない」
「……」
彼女からの返事は無いものの、刀からひとまず手が離れる。
一応話を聞いてくれるつもりはあるらしい。
「いいか、例えば幕末で新たにバニー服が実装されたとする」
「ねえサンラク、頭大丈夫?クソゲーのやりすぎで何か別のゲームの記憶が混ざってない?」
「例えだよ例え、そしてその装備を利用したウサミミ天誅やバニージャンプ天誅が有効だったとして……お前はむざむざその可能性を捨てるのか?」
「…………っ!?」
「えっ、京極ちゃんそこで悩むの!?」
うるさいぞペンシルゴン。
幕末においては天誅が全てだ。まあ、それでも各々の好みの得物というものはあるだが、選択肢が多いに越したことはない。
「分かったか?強くなれる可能性があるのなら、それが浅葱の羽織でも全身甲冑でもバニー服でもなんでも試すのが俺たち──幕末志士ってものさ」
「……僕が間違っていたよ、サンラク。こんなザマじゃバニーレイドボスさんには勝てやしないね」
「うん、俺が言いだしておいてなんだけどレイドボスさんは別にバニー服着て無いからな?」
流石にあの運営もそこまでぶっ飛んだことは…しない、筈……
基本的に刀や銃、花火等の手持ち武器以外の装備は変わらない幕末であるが、生類憐みの令のような前例があるのでプレイヤーの姿が変えられる可能性そのものはゼロでは無いのが恐ろしい所だ。
クソゲーの無限の可能性に思いを馳せている俺に、京ティメットは自分のシステムウィンドウを操作しながら話しかけてくる。
「幕末のことはさておき、性能が大事なのは確かだし、僕にもその装備を一着貸してよ」
「……本当に着るのか?というかお前は自前の狐耳があるけど、この
「ユニークモンスターのマーキングとは違うから、装備には特に不自由してないよ……まあ、今は聴覚強化は要らないから胴装備とアクセサリーだけでいいや」
「了解……っと」
言われた通り頭装備以外のバニー装備一式を京ティメットに譲渡する。
自分のアイテム欄にそれらが追加されたことを確かめた京極は、そのままウィンドウを操作して自分の装備を変更してステータスの変化を確かめている。
「うわ、本当に結構強化されてる。見た目はともかくこれは確かに悪くないかも……」
「…………」
「数字だけ見てもいまいち実感が湧かないし、何か適当なモンスターとでも戦って感覚を確かめ……って、ぽかんと口開けちゃってどうしたのサンラク?」
ウィンドウから顔を上げた京ティメットと不意に目が合う。
俺が何の反応も示さないことに不思議そうに首を傾げている彼女だが、俺はと言えば実は自分でも今の己の気持ちがよく分からない。
ただ一つだけ言える事、それは──
「
「…………うへぁっ!?」
顔の造形は違えども、リアルの彼女の体形に近いであろう細身の京ティメットのアバターに、ぴっちりとしたバニースーツはよく似合っていて、しなやかな美しさを感じさせる。
定番のうさ耳に代わり頭に生えた狐耳も、不思議とバニーの印象を崩さず愛らしい魅力を醸し出していた。
赤面して言葉にならない叫びを上げる京極の姿をどこか遠い世界の出来事のように眺めながら、俺の口は素直に思ったことを吐き出し続ける。
「学校とか道場だとどっちかというと格好いい系のイメージだったけど、そういうセクシー系も意外と似合ってる」
「ら、楽郎!?突然何を言い出すのさ!!?」
「いや、そういう京極も可愛いなって思っただけで……」
「可愛っ!?」
アバターの顔を真っ赤に染めてフリーズした京極の様子を見て、俺はようやく自分が酷くこっ恥ずかしいことを言っていたと気が付いた。
しかし時すでに遅し。この場にはそんな俺の迂闊な発言を決して聞き逃さない
「もしもーし、お二人さん?いい雰囲気のところ悪いんだけど俺たちのこと忘れてない?」
「「!?」」
「いやー、甘酸っぱい青春だねー!お姉さんキュンキュンしちゃったよ」
──この日は羞恥に耐えられなくなった京極がログアウトするまで、ニヤニヤと嗜虐的な笑みを浮かべたペンシルゴンとカッツォに散々揶揄われる羽目になるのだった。
・おまけ
鉛筆騎士王:サンラク君大好きな京極ちゃんに耳寄りな情報があります
京極:べ、別に僕はあいつのことなんて何とも思ってないから!
鉛筆騎士王:あそこまでデレデレしておいてその言い訳は無理じゃないかなー?
京極:デレデレなんてしてないし!
鉛筆騎士王:えー、さっきまであんなに赤くなってたのに?
京極:サンラクの歯の浮くような台詞が似合わなすぎてこっちが恥ずかしくなったの!それだけ!
鉛筆騎士王:ふうん、そっか。それじゃ余計なお世話だったかなぁ
京極:?そういえば耳寄りな情報がどうとかって一体──
鉛筆騎士王:こちらそのサンラク君が歯の浮くような台詞を言ってる時の録画データとなっております
京極:!??
鉛筆騎士王:でも京極ちゃんが要らないならこのデータは残しておいても仕方がないし、勿体ないけど削除しちゃおうかなぁ
京極:…………幾ら?
鉛筆騎士王:んふふ、お買い上げありがとうございまーす