徒然なるインベントリア:シャンフロの小話   作:イナロー

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ハロウィンでも平常運転な楽郎と京極のお話。


Trick or Topping

「…………遅い」

 

 放課後の校舎の昇降口前にて、待てど暮らせど一向に現れる様子のない京極に、不満と心配の気持ちが湧いてくる。

 京極がやけにワクワクした表情で「楽郎、今日の放課後ラーメン食べに行こうよ!」と言い出したのが今日の昼休みのこと。

 そして俺達のクラスのホームルームが終了してからかれこれ三十分は経つ。

 何やら少し寄るところがあると言っていたが、こんなにも時間がかかるものだろうか?

 端末への連絡にも反応がなく、いい加減あいつを探し行こうかと足を動かしかけた、その時。

 

「楽郎、お待たせ!」

「ようやく来たか、随分時間がかかっ…たな…?」

 

 やっと現れた京極に文句の一つでも言ってやろうかと思いながら振り返った俺は、目に飛び込んできた予想外の彼女の姿に言葉を失った。

 

「ごめんごめん、皆が中々解放してくれなくてさ」

「皆?というかお前その格好は一体……?」

「どう?結構似合ってるでしょ」

 

 京極はくるりとその場で一回転して、漆黒のマント(・・・・・・)を翻す。

 彼女はいつもの制服ではなく、ワイシャツの上から赤のベストを着込み、その上に大仰なマントを羽織っていた。端的に言い表すのなら、ようは吸血鬼のコスプレである。

 つい先程までは至って普通の姿だった筈だが、この数十分の間にこいつに何があったのか。

 

「確かに似合ってはいるが」

「ふふーん、でしょ?」

「その衣装はどっから持ってきたんだ?」

「服は僕のファンだっていう子にお願いしたら快く貸してくれたよ。ミイラやら小悪魔風やらも着せられそうになったんだけど、露出も多くて外に出るには不向きだったからこれだけ借りてきたんだ」

「相変わらずお前のファン達はキャラが濃いな……ってかこれからラーメン屋に行くんじゃなかったのか?」

 

 それが何故突然コスプレに目覚めたのか。

 疑問が頭を埋め尽くす俺に対し、京極は自分の端末を操作すると画面を見せつけてきた。何々……

 

「これは…いつものラーメン屋のSNSか。『ハロウィンキャンペーン実施中!本日、仮装してご来店のお客様にはお好きなトッピングが無料』……まさかこの為に?」

「うん!これはもう行くしかないでしょ!」

 

 キラキラと瞳を輝かせる京極を微笑ましく思いながら苦笑する。

 生粋のお嬢様にも関わらず変なところで庶民的というか世俗に染まっているというか。

 ……まあ、そんなところも嫌いじゃないんだけれど。

 

「あ、そうだ。楽郎ちょっと頭出して」

「なんだ?俺の血なんて吸っても美味くないぞ」

「楽郎の血はカフェインたっぷり入ってそうだよね……ってそうじゃなくて」

「ん?今度は一体何を…?」

 

 京極の手によって何かが俺の頭に装着される。

 カチューシャのようなそれを手で触って確かめると、何やらふわふわとした布のような物が取り付けられている。

 

「おっ、楽郎も似合ってるじゃないか」

「おい待て、俺になんの格好をさせた」

「別にそこまでおかしなものは付けてないよ、ほら」

 

 京極が差し出した手鏡を覗き込めば、そこにはぴょこんと犬耳を生やした自分が写っている。

 

「楽郎は狼男ってことで。本格的な被り物とか手袋付きもあったんだけど、それだとラーメン食べられないしね」

「ええ…俺も仮装するのか?」

「いいじゃないか、せっかくのイベントなんだし楽しんだもの勝ちだよ」

「にしてもこれで街中を歩くのはちょっと恥ずかしいような」

「細かいことは気にしない!ほら、それより早く行こうよ。僕もうお腹空いちゃった」

「へいへい」

 

 その後、吸血鬼と狼男の二人は揃ってブタダブルヤサイニンニクマシマシアブラ(卵付き)を食べたのだった。

 

「ところで、吸血鬼がニンニク食べていいのか?」

「それを言ったらイヌ科にニンニクもご法度じゃない?」

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