徒然なるインベントリア:シャンフロの小話   作:イナロー

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京極誕生日記念ss
大学一年生の二人のお話。


プレゼント・イズ・ユー

 六月二十五日は、京極の誕生日だ。

 

 付き合い始めてすぐの頃などはプレゼントやデートプランに大いに悩み、恥を忍んでペンシルゴンや瑠美に頭を下げて協力を仰いだものだが、それも今は昔のこと。

 あいつと知り合って早数年。互いの趣味嗜好などもおおよそ把握し尽している。

 更に俺達が大学生になってからは、もはや半同棲と呼べるほどに四六時中寝食を共にしていることもあり、最近のあいつが喜びそうな物にも大体の見当は付く。

 その分プレゼントの調達と保管を気づかれないようにするのには若干の警戒を要したのだが、どうにかバレることなく迎えた誕生日当日の朝。

 いつもより少し早くに目を覚ました俺は、隣で眠る京極を起こさないように注意しながらそっとベッドを抜け出した。

 

「さて、とりあえず飯の支度でもしとくか」

 

 顔を洗って軽く身なりを整えると、誰に聞かせるでも無く一人ごちる。

 日頃の食事に関してついつい京極に甘えがちな俺だが、最低限の料理スキルは持ち合わせている。簡単な朝食くらいは問題ない。

 

 炊飯器に米をセットしてから、冷蔵庫を開けて作り置きの昆布と煮干しの出汁を取り出し小鍋に入れて火にかける。

 普段の言動からつい忘れがちになるが、お嬢様育ちで舌が肥えている京極はインスタントな味噌汁やだしの素を好まない。その割には化学調味料が山ほど入ったラーメンも嬉々として食べるのが不思議ではあるが、本人曰く「それはそれ」らしい。

 幸い我が家は魚介関連の食材は仕送りという名目で父さんから嫌という程送られてくるため出汁をひく材料には事欠かず、常に何かしらの煮干しや節が冷蔵庫にストックされている。

 塩鯖を二切れグリルに入れて、作り置きのひじきの煮物を小鉢によそっていると出汁が沸いた。豆腐とわかめを入れて弱火で温めつつ、冷蔵庫からいつもの赤味噌……ではなく、京極が実家から送ってもらっている白味噌を取り出して汁に溶く。

 あらかたの準備を終え、使った器具を洗っていると、寝室からこちらに近づいてくる気配を感じた。どうやら本日の主役のお目覚めの様だ。

 

「おはよ……って、あれっ⁉楽郎がごはん作ってくれたの?」

「おはようさん、まあ、今日くらいはな」

 

 寝巻代わりにしている俺のシャツを着たまま台所に現れた京極は、珍しいエプロン姿の俺を見て驚きに目を丸くしている。

 適当にそれを受け流しながら小皿に味噌汁を入れると、とてとてと隣に駆け寄ってきた彼女に手渡した。「んっ、美味しい……」とはにかむ様子を見るに、どうやら合格点は貰えたようだ。

 

「もうすぐご飯も炊きあがるから、先に顔洗って来いよ」

「うん、そうする……でも一体どういう風の吹き回し?」

「……お前、まさか今日が何の日か覚えてないのか」

「えっ?別に普通の平日じゃ……あっ」

 

 なんと京極は今この時まで本当に自分の誕生日を忘れていたようで、俺の指摘を受けた彼女はぽかんと口を開けて呆けている。

 もしや、この様子ならばあそこまで必死にプレゼントを隠すのに必死にならなくてもよかったのか……?

 

「まあそういう訳で、京極、誕生日おめでとう」

「ありがと、楽郎」

 

 気を取り直して祝いの言葉を告げると、京極は照れくさそうに破顔した。

 まだプレゼントも渡していないというのに彼女はあまりにも幸せそうに笑うものだから、見ているこっちがなんだか無性に気恥ずかしい。

 

「えへへ、こうして楽郎に祝ってもらえるなんて、なんだか不思議な気分だね」

「いや、今までも毎年お祝いはしてただろ」

 

 友人としてだったり恋人としてだったりとの違いはあれど、少なくとも高校時代の三年間は毎年欠かさず何かしらのプレゼントと共に祝っていたはずだ。

 そんな俺のツッコミに、京極はやれやれと言わんばかりに首を横に振りながら肩を竦めた。

 

「もう、楽郎は分かってないなぁ」

「何をだよ」

「ほら、今までは学校でだったりゲームの中でだったでしょ?」

「まあ、それはそうだな」

「だからその……こうやって、朝起きてすぐに直接『おめでとう』って言って貰えるのが嬉しくて」

 

 はにかみながらそう告げられて、俺も京極の喜びように得心がいった。言葉一つでこうも喜んでもらえるならば彼氏としては嬉しい限りだ。

 

「それじゃせっかくだし、プレゼントも一番に渡そうか、今部屋から持ってく……」

 

 持ってくる、と言いかけた俺の言葉は不意に抱き着いてきた京極によって遮られた。

 突然の行動に驚きつつも抱きとめると、彼女は俺の背に腕を回して上目遣いでおずおずと口を開く。

 

「ねえ楽郎……()、欲しいものがあるんだ」

「ふっふっふ、俺を舐めるなよ?ちゃんとお前の期待に添えるであろうブツを用意して……」

「楽郎」

「なんだよ、ってかとりあえずちょっと離れて……」

「だから、楽郎」

 

 尚も俺を緩く拘束する京極に声をかけるものの、彼女は一向に俺を開放する様子はない。

 京極はほんのりと頬を朱に染めながら、何か期待の籠った視線で俺を見つめて繰り返し俺の名を呼ぶ。

 

「誕生日のプレゼントは、楽郎(・・)が欲しいな」

 

 大胆なその一言に、俺の脳が一瞬機能を停止した。

 フリーズした俺に構わず、京極はつらつらと自分の言い分を話し続ける。

 

「ほら、高校はサボるわけにもいかなかったけど、大学なら色々融通が利くでしょ?」

「それは、まあ……」

 

 常日頃は真面目に講義に出ているため、多少の自主休講をする余裕はある。京極とは大学が違うので彼女の方の事情は分からないが、この分だと向こうもずる休みをする気満々らしい。

 

「それに、実家にいた時みたいに突然兄さんが乱入してくる心配もないし……」

「……去年の國綱さん、物凄い形相してたもんな」

 

 放課後、京極の部屋でそれとなくいい雰囲気になっていたところに、所用で府外にいるはずの國綱さんが現れた時には本当に肝が冷えた。

 隣り合って座る俺達の手と手が繋がれているのを見たあの人は……いや、これ以上はよそう。

 

「……楽郎?」

 

 かつての恐怖体験を思い出して身を震わせていると、返事が無いことに焦れた京極が軽く頬を膨らませながら答えを急かす。やれやれ、わがままなお嬢様だ。

 講義の内容をあとで教えてもらわなきゃな、とさぼった後のことを頭の片隅で考えながら、京極の前髪をかき上げて額にそっと口づけを落とす。

 

「わかったよ、今日は一日煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

「言ったね?もう思いっきり甘えてやるんだから、覚悟してよね、楽郎」

「……はいはい、お手柔らかにな」

 

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