徒然なるインベントリア:シャンフロの小話   作:イナロー

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楽郎と意気投合する百さんにモヤモヤするヒロインちゃんのお話。


気の合う二人に危機感募り

 楽郎君が、笑っている。

 

「お、そのカップ麺は確か先週出た新作の……」

「ほう、そこに気が付くか!いかにも、ここのメーカーは外れが無いので毎回欠かさずチェックしてるんだ」

「確かに美味いですよね、家の戸棚にも常に幾つかはストックしてます」

 

 私は楽郎君の笑顔が好きだ。

 新しいゲームを買った時の、溌溂とした少年らしい笑顔が好きだ。

 クラスの友達とふざけ合う、悪戯気な子供のような笑顔が好きだ。

 夕暮れの帰り道で手を繋ぎ、少し大人びた雰囲気の笑顔が好きだ。

 妖艶な笑みと共に睦言を囁かれた時には心臓が止まるかと思った。

 私は、楽郎君が笑ってくれるのならその全てを愛せるのだと思っていた。

 

「中々話が分かるじゃないか。私もそれなり(・・・・)の数のカップ麺を食べてきたが、これの定番ラーメンの味は何処かホッとする」

「元々が地元のラーメンですし、やっぱり舌に馴染みがあるんですかね?」

「確かにそれもあるだろうな。加えて言えばこの会社はそれ以外にも全国のご当地ラーメンを再現したりと冒険心を忘れていない点も評価したい」

「あぁ、冒険といえばここの激辛ラーメンに何度か挑戦しては毎度痛い目見てるんですよね……」

「あれか……辛いだけでなく確かな旨味もあるせいで妙に癖になるんだ、私にも覚えがある」

「辛さと痛さで眠気が吹っ飛ぶんで、エナドリ飲みながら食べるとゲームは捗って助かってます」

「その活用法は予想外だな……」

 

 だけど今、目の前で姉と──私以外の女性と親し気に談笑する彼を見て私の胸に去来する思いは、紛れもない悲しみだった。

 楽郎君と百姉さんに他意は無いことは分かっている。

そもそも、今日二人が出会ったのだって仙姉さんから頼まれたお使いと楽郎君からの不意の放課後デートのお誘いを天秤にかけられなかった私がきっかけだ。

「家族ぐるみのお付き合い」というシチュエーションに憧れて楽郎君を百姉さんの住む部屋まで連れてきてしまったものの、まさかこの二人がこんなに意気投合するなんて。

 実の姉に対してこんなにも醜い感情を抱いてしまう自分が情けない。

こんなことなら用事があるからと楽郎君の誘いは断り、デートは後日に回す……のは、やっぱり無理ぃ…!

 

「陽務君、だったか。大したもてなしも出来ないが良ければゆっくりしていってくれ」

「こちらこそすみません、なんか急にお邪魔しちゃって」

「気にするな、私の方こそこんなラフな姿ですまないな」

「いえいえ、俺も普段はもっぱらジャージですから」

「なんだ君もか。私も部屋着やコンビニに行くくらいなら気にしないんだが、姉さんや永遠の奴がうるさくてな」

「そういえばペンシルゴンとはリアルで友達なんでしたっけ。うちにもファッションに煩い邪教徒(いもうと)が居るんで気持ちは分かります」

「奴とはただの腐れ縁だよ。お互い身内の小言には苦労するな」

 

 それにしても楽郎君も楽郎君です!

 いくら相手が私の姉とはいえ、か…か、彼女である私を差し置いてそんなに姉さんとばかり話さなくてもいいじゃないですかぁ……

 複雑な私の心境など知る由もない二人の会話は無情にも続いていき──

 

「それで斎賀さんは……」

「百でいい」

「え?」

「斎賀だと玲や他の家族と紛らわしいだろう?だから私のことは百と呼んでくれて構わない」

「ええっと……分かりました、百さん」

「うむ、それでいい──楽郎(・・)

 

 その一言を聞いた瞬間。

 ぷつり、と自分の中で何かが切れる音がした。

 

「………るいです」

「……玲さん?」

「…姉さんは、ズルいです」

「どうした玲、突然何を言って…」

 

 湧き上がる激情とは裏腹に零れ落ちる声音は氷のように冷たくて、これが自分の声なのかと頭の中の冷静な部分が他人事のように驚いていた。

 突然の私の豹変に楽郎君と百姉さんが戸惑っているのは伝わるけれど、我慢の限界を迎えた私の言葉は止まらない。

 

「二人とも、初対面の筈なのになんでそんなに親しいんですか!!」

「いや、初対面と言ってもゲーム内ではそれなりに話してたし」

「最近ではリュカオーンのユニークシナリオ関連で共同戦線を張っていたし、玲も同席していただろう」

「それにしたって順序というものがあります!会ってすぐに名前で呼ぶなんて…!わ、私がそこにたどり着くまでどれだけの時間が……」

 

 声が震えて尻すぼみになる。気が付けば、楽郎君が眉根を寄せて悲し気な表情を浮かべていた。

 嗚呼、そんな顔をさせたい訳じゃ無かったのに。

 

「……ごめんね玲さん、俺が無神経だった」

「いいえ、私の方こそ急に変なことを言ってごめんなさい」

「これは、随分と珍しいものを見たな」

 

 楽郎君にそっと目元を拭われて、そこで初めて自分が泣いていることに気が付いた。

 気づかわし気な楽郎君と、驚きに目を見張った姉さんの視線に今更ながら羞恥心に襲われる。

 我ながらなんて面倒くさい……これで、もしも楽郎君に嫌われてしまったら。

 そんな不吉な未来予想図にさぁっと顔が青くなる。

 

「変なんかじゃないよ、というかむしろ光栄と言いますか……」

 

 しかし、深刻な私の想像に反して楽郎君は何故か少し嬉しそうに、そして何処か恥ずかしそうにはにかんでいる。

 ……光栄?

 

「だって、俺ってそんなに長いこと玲さんに思われてたんだなーって」

「そうぇあ!??」

「私も驚いたぞ、玲は昔からあまりわがままを言わない子だったんだが……恋とはここまで人を変えるものか」

「ねねね、姉さん!?」

 

 どうやら嫌われてはいないみたいだけれど、これはとてもよくない気がする!

 楽郎君の笑みが、クラスメイトのポエムを読み上げている時のそれと被る。

 姉さんは姉さんで何やら視線が生温い。そんなしみじみと恋だなんて!いえ、確かにその通りではあるんですが!

 

「楽郎、改めて妹をよろしく頼む」

「勿論です、こんなに愛されてそれに報いなきゃ彼氏失格ですから」

「ふふふ、これは頼もしい。玲、良い男を捕まえたじゃないか」

「うぅ……そろそろ勘弁してください……」

 

 とても嬉しい言葉を聞かされて天にも昇る心地だけれど、それはそれとして恥ずかしさで死んでしまいそうだ。

 それなのに姉さんは容赦なく私に追撃の言葉を放つ。

 

「立派な義弟が出来て私も嬉しいよ」

「おと…!?かぞ……にゅうせっ!??」

 

 私はその後、37.8℃の熱を出した。

 

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