徒然なるインベントリア:シャンフロの小話   作:イナロー

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京極とペンシルゴンと秋津茜とルストのガールズトーク。

※昨年3/16の春コミで発行した「京の都は今日も賑やか」のweb再録です。
 発行から一周年ということで本日は今話を含めて全四話更新しています。


エース

 ──恋とは、もっと綺麗でふわふわキラキラしたものだと思っていた。

 

「はぁ……」

 

 けれど、実際に身をもって体験したそれは決して楽しい事ばかりでは無くて、思わず物憂げなため息が漏れる。

 楽郎と晴れて恋仲になって数か月。僕たちの仲は至って良好だ。

 毎日一緒に登下校しているし、他に約束が無いのならお昼ごはんを二人で食べる機会も増えた。

 放課後は一緒にラーメン屋さんでデートをしたり、剣道の稽古をしたり。夜にはシャンフロや幕末で明け方まで共に遊ぶことだって珍しくない。

 え、今までと同じだろって?ふふん、ところが違うんだなぁこれが。

 確かに前も一緒に学校に行くことはあったけど、僕が部活がある時なんかは行きも帰りも別々だったんだよね。それが今では楽……サンラクってば、帰宅部の癖に僕に会わせてくれるようになって、部活が終わると何故か玄関にあいつがいて、聞いたら「図書館で勉強してただけ」なんて照れ隠しちゃってさぁ……あ、それと僕が部活の朝練で朝が早い時は、クソゲーで夜更かしして寝ぼけ眼のまま迎えに来てくれてね。いつもよりちょっとだけぼうっとしてふにゃふにゃな顔がなんとも言えず可愛くて……こほん、それは一旦おいておいて。

 お昼だって前までは楽郎はもっぱら購買のパンが学食だったのを、僕がわざわざお弁当手作りしてあげてるんだから!え、ちょっと何さその「お前料理できたのか」とでも言いたげな顔は、喧嘩なら買うよ?ちゃんとあいつからも美味しいって太鼓判を……お世辞じゃないから!その証拠に、サンラクってばあんまりがっついて食べるもんだからご飯粒を口の端に付けちゃったりしてるんだよ?僕が取って食べるまで見当違いの所を探してるのが面白かったなぁ。

 ……え、惚気たいだけならよそでやれって、ちょっと待ってよ、誰がいつ惚気たのさ。こっちは真剣に悩んで……

 

「京極さんはサンラクさんと仲良しさんなんですね!」

 

 な、悩ん……

 

「……バカップルの見本」

「いるよねー、こういうさも私は困ってますって顔してちゃっかり惚気るタイプ」

 

 秋津茜の裏表の無い素直な発言はともかく、あとの二人の言いぐさに、僕は抗議の声を上げた。

 

「ペンシルゴンもルストさんも!人が真剣に悩んでる時にその反応は無いんじゃない!?」

 

 憤慨する僕を尻目に、二人はやれやれとでも言わんばかりに肩を竦める。

 僕の絶叫を聞いて視界の片隅でおろおろしている秋津茜の爪の垢でも煎じて欲しいよ。

 気を落ち着けようと蛇の林檎の新作ブレンドを一口飲む。カップを傾ける僕を見ながらペンシルゴンは改めて呆れを隠さず口を開いた。

 

「いやいや、てっきりもっとサンラク君の弱み……もとい愚痴を期待してたのに、蓋を開けてみれば砂糖を吐きそうなくらいラブラブなんだもの」

「素敵ですねっ!私も憧れちゃいます!」

「……秋津茜もこう言っている」

 

 ぐぐっ、ペンシルゴンはともかく確かにこの純真な秋津茜にも素直に羨ましがられるあたり、僕の言葉にも少し、ほんの少しだけ惚気の要素があったのは認めざるを得ない。

 だがそれはそれとして、恋人ならではの悩みがあるのも本当なのだ。たまたま男連中が不在だったために始まったこの突発旅狼女子会、せっかくなのでこの機に色々と吐き出させてほしい。

 

「まあいいけど、京極ちゃん、そんな幸せいっぱいな生活をしていて本当にそんな悩みがあるの?」

「……悩みの一端は君にもあるんだけどね」

「へっ?」

 

 突然矛先を向けられて、ペンシルゴンが間の抜けた声を出す。

 心当たりの無さそうな反応に、僕より先にルストさんが口を開いた。

 

「早めに自首をオススメする」

「ちょっとぉ!?私本当に心当たりないんだけどなー?」

 

 ルストさんからの厚い信頼に涙を禁じ得ない。

 とはいえ今回はペンシルゴンが悪いとも言い切れないところだ。

 それに……

 

「実を言うと、ルストさんも無関係じゃ無いって言うか」

「……私が?」

「うん、ついでに秋津茜も」

「私もですかっ!?」

 

 まさかのこの場の全員が関係していると言われた彼女たちが目に見えて困惑する。うん、我ながらあまりに自分勝手な言いがかりだという自覚はあるんだけれど。

 そんな中、最初に京極の内心を推察したのは、やはりと言うべきか人心掌握に長けたペンシルゴンだった。

 

「まさか、京極ちゃん『僕のサンラクに近寄るなこの女狐め!』って思ってる?」

「いや……その……」

 

 当たらずとも遠からず、といったところな絶妙なペンシルゴンの予測に、僕は返答に窮して言い淀む。

「そうだよ」と肯定するには些か語弊があるし、かといってあながち的外れでもないし……

 自分の気持ちを上手く言語化出来ない僕に、残る二人が追撃する。

 

「束縛する女は嫌われる」

 

 うぐっ。

 

「私、サンラクさんとお話したら駄目ですか……?」

「そうじゃないんだよ!そうじゃない、んだけど……」

 

 秋津茜に捨てられた小動物のような瞳で見つめられると、罪悪感が物凄い。

 どうにかして波風を立てず説明しようと苦心していると、ペンシルゴンがパンパンと軽く手を打ち鳴らして場を取り成した。

 

「まあまあ、まずは落ち着いて京極ちゃんの話を聞いてみようじゃないの」

「そもそも君が変なことを言いだしたせいなんだけど?」

「でも即座に否定しなかったってことは、まるっきり見当違いでもないんデショ?」

「それは……まあ……」

 

 本当にペンシルゴンは人をよく見ている。

 呆れとも関心ともつかない心境で言葉を濁す僕に対し、彼女は珍しく邪気の無いお姉さんのような顔で優しく諭してくる。

 

「何はともあれ話してみなよ、おねーさんが君のお悩み相談にのってあげよう」

「……ありがと」

 

 お言葉に甘えて、僕はとつとつと胸の裡を吐き出した。

 

 

 ほら、楽ろ……サンラクって、妙に顔が広いところがあるでしょ?え、『もう今更だから楽郎』でいいって?それじゃお言葉に甘えて。

 話を戻すよ、楽郎は妙に知り合いが多いというか……人気者とか有名人とはまた少し違うんだけど、気が付けばいつも周りに誰かがいるんだよね。それこそゲームでもリアルでも。

 例えば、あいつが僕の通う中学に転校してきたばかりの頃。人がせっかく学校を案内してあげようとしてるのに、いつの間にかクラスの男子と仲良くなってそいつと校舎巡りに行ってたんだよ!信じられないよね、こっちは夏休み中……幕末も含めればもっと前からの知り合いだっていうのになんでぽっと出の野郎に美味しい所をかっさらわれなきゃ……こほん、話が逸れたね。そんな感じで楽郎は気が付けばあっちへふらふら、こっちへふらふらしてるんだ。

 でもまあ、流石にお兄様にも認めさせて大手を振って恋人同士として過ごせるようになてからは楽郎も変わってさ。

 予定を立てる時は第一に僕のことを気にかけてくれるようになって……ちょっと、揶揄わないでよペンシルゴン。素敵な彼氏さんですね!って、ありがとう秋津茜。うん、君らの関係はちょっと参考にならないかなルストさん。

 そんな訳で、リアルの方は万事順調と言っても差し支えないんだけど……問題はゲーム(こっち)の方。

 楽郎がクソゲー大好きクソゲーマーなのは重々承知だし、そもそも僕らが出会えたのも幕末(クソゲー)がきっかけだった訳だから、感謝だってしてるよ。でもさ……

 

「もう少しくらい僕と一緒に遊んでくれてもよくないかなぁ!」

 

 長々と話したけれど、結局はそういうことなのだ。

 僕の渾身の叫びを聞いたペンシルゴンたち三人はそれぞれ顔を見合わせて、言葉を交わすことなくこくりと頷いた。

 なんだ、僕が気が付いていないだけで何か有効な解決策が……

 

「よし、解散!」

「はいっ、お疲れ様でした!」

「……時間の無駄だった」

「って、何でさ!」

 

 完全に終わった雰囲気を出して席を立とうとする三人を慌てて引き留める。

 答えを出してくれとまでは言わないけれど、もう少し真面目に聞いてくれてもいいじゃんないかな⁉

 

「何処が真剣な悩みなの!やっぱり最初から最後まで惚気でしょーが⁉」

「の、惚気とは何さ!」

 

 確かにちょっと、ほんのちょっとだけ楽郎との生活を自慢しちゃったかもしれないが、悩みそのものは本物だ。

 

「大体、ペンシルゴンも悪いんだよ!どうして内緒話をするだけでわざわざ円卓(別ゲー)に呼び出したのさ!悪だくみなら蛇の林檎(ここ)でも出来るでしょ!」

「秘密保持には色々気を遣うんですー!京極ちゃんだって大事な作戦が漏れて逆にハメ殺し、なんてゴメンでしょ?」

「ぐぐっ」

 

 一月ほど前、夜電話しても楽郎が円卓にインしていて繋がらなかった時のことを思い出して噛みついてみたものの、見事に正論でねじ伏せられる。

 

「先週は幕末でイベントが始まるっていうのに新しいバグがどうとかで三日も遅れて参戦してくるし……その癖僕より戦績がいいし……」

「京極ちゃん、それどっちかというと後者が恨みの本体では?」

 

 うるさいよペンシルゴン。

 

「すっ、すみません!私がサンラクさんをお誘いしたばっかりに……!」

「ああいや、君は悪く無いから謝らないで」

「……そう、これは京極が大人げないだけ」

 

 ううう、その通り過ぎて言葉もない。

 だけどこれだけは言わせてほしい。

 

「ルストさんも朝から楽郎を拘束し過ぎ!あいつ、僕と一緒に学校に行く約束を忘れてネフホロしてたの、昨日が初めてじゃないからね!」

「……ネフホロが最高のゲームなのが悪い、ので」

 

 これにはちょっと分が悪いと察したのか、ルストさんがふいと気まずげに目を逸らした。

 ペンシルゴンと秋津茜もやや呆れ顔だ。

 

「京極ちゃんの言い分はわかったけど、それはもう当人同士で話し合って解決してもらうしかないんじゃないかなぁ」

「はいっ!話し合いは大事です!サンラクさんならきっと分かってくれますよ!!」

「ま、眩しい……」

 

 思わず浄化されそうなほどの純粋な秋津茜の言葉が身に染みる。

 分かってはいたものの、もしそれで楽郎に嫌われたらと思うと中々踏ん切りがつかずにいたのだ。

 そんな不安が表情に出ていたのだろうか。いつの間にか立ち上がっていたルストさんが僕の肩に手を置くと、確信を籠めた言葉で告げる。

 

「心配は杞憂」

「うう、でも……」

「……これは本当は口止めされていた、けど」

「へっ?」

 

 尚もうじうじと悩む僕を見ていたルストさんは、微笑ましい物を見るような優しい目をして独り言のように呟いた。

 

「サンラクは、いつも京極の話をしている」

「────え?」

 

 それは、僕が思ってもみなかった真実で。

 

「あ、それ言っちゃう流れ?」

「ペンシルゴン?」

 

 僕が言葉の意味を飲み込めずにぽかんと口を開けて呆けていると、何故か訳知り顔のペンシルゴンが後に続く。

 

「これを知られるとほんっとうにサンラク君に怒られそうだから、ここだけの話にしておいてほしいんだけど」

「……うん」

 

 僕が素直に頷くと、にやにやとした笑みを浮かべたペンシルゴンが楽郎の秘密を暴露する。

 

「サンラク君からは円卓でちょいちょい恋愛相談を受けてたんだよね」

「あいつが……相談?」

「そっ、だから私はネフホロに夢中なサンラク君の部屋にまで京極ちゃんが上がり込んで起こしたことも、京極ちゃんがすっぴんを見られるのを恥ずかしがってたことも全部お見通しなのだ」

「ちょっ!?そんなことまで⁉」

 

 あいつは何をしてくれてるの⁉

 自分の情報が知らず知らずのうちにペンシルゴンへと流出していたことに驚くやら怒るやらで感情表現が定まらない。

 だけど、楽郎が僕の知らないところで僕のことをそんなにも考えてくれていたという事実に胸が暖かくなる。

 

「サンラクさんが言ってました、幕末以外のゲームもあいつと一緒に遊びたいって!」

「……まったく、素直じゃないのはお互い様かぁ」

 

 勝手に無理だと諦めていたのはどうやら僕も楽郎も同じで、悩みの内容も似たりよったりのようだ。

 

「しょうがないなぁ楽郎は」

 

 そんなにも想われたなら仕方ない。どんなゲームも僕無しでは満足できない身体にしてやる。

 

 ──待ってなよ楽郎。君のエースの座は、他の誰にも渡さないんだから!

 

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