それは夏と呼ぶにはまだ早く、さりとて肌には汗がじわりと滲むような、初夏の陽射しが燦々と降り注ぐ或る日の午後。
大学の講義を終えて帰宅した楽郎は、勝手知ったる我が家とばかりにだらけきった姿でリビングでくつろぐ京極を見て思わず苦笑を漏らした。
ソファでクッションを抱き枕代わりに寝転んでいた京極が、のんびりとした声でそんな彼を出迎える。
「楽郎、おかえりー」
「ただいま……お前、そんな格好じゃ風邪引くぞ?」
元々楽郎のシャツ一枚で過ごしたりなど、二人きりの時はラフな格好をしていることの多い彼女だが、今日は一段と露出が多い……というか、完全に下着姿だった。
黒のスポブラとシンプルなショートパンツを身にまとった京極は、健康的に引き締まった白い素肌を楽郎の視線を気にする素振りも見せずに惜しげもなく晒している。
「だって、暑かったんだからしょうがないでしょ」
苦言を呈された京極はソファに座り直しながら当然のように答えた。
大学生になって生活を共にするようになったばかりの頃は、お互い多少の緊張や恥じらいも持っていたのが、進学して一年以上も経てばこのくらいはすっかり慣れたものだ。
「まあ、確かに今日は気温高いもんな」
昔は下着が見えただけで赤くなってたのになぁ、と少しだけ以前を懐かしみつつ、楽郎もそれ以上のツッコミは入れずに彼女の言葉に同意した。
冷房のスイッチを入れて京極の隣に腰を下ろすと、彼女はこれ幸いとばかりに楽郎の膝を枕にするように頭を乗せてくる。
「うん、極楽極楽」
「京極、それちょっとオッサン臭いぞ」
「もー、せっかくのいい気持ちに水を差さないでよ」
ぷくりと頬を膨らませて抗議する京極に、楽郎はやれやれと肩を竦めて髪を撫でた。
優しい手つきにで髪を梳かれる感触に彼女はご満悦だ。
「はいはい、悪かったよ……これでいいか?」
「うむ、くるしゅうない」
他愛のない雑談を交わしながら、そのままの体勢で過ごすこと暫し。
心地よさげに目を細めて楽郎の太ももの感触を堪能していた京極が不意にぶるりと身体を震わせた。
「うう……ちょっと寒いや」
「そんな格好してるからだろ、何か着てこいよ」
呆れ交じりに笑ってそう促す楽郎だったが京極はそれに応じず、ゆっくりと身体を起こすと彼の腰を跨ぐようにして正面から抱きついた。
「うん、これで大丈夫」
「お前なぁ」
楽郎の背中に腕を回し、首筋に顔を埋めるようにしてぴったりと身体を密着させる。少し高めな彼の体温が心地よい。
汗の匂いがふわりと鼻孔を擽るが、それもまた不思議と彼女の心を落ち着かせた。
「ふふっ、すっごくあったかいね」
「俺はむしろ熱いんだが」
気恥ずかしさを誤魔化すようにそっぽを向いてぶっきらぼうに告げるが、京極はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて口を開く。
「楽郎は僕とこうしてるの、嫌い?」
「……嫌いじゃねーよ」
少しだけ素直になその言葉に、京極の顔がぱぁっと明るくなった。
そのまま満足そうに微笑んで頰を楽郎の胸に擦りつける。
「でもほら……今の俺、結構汗臭いだろうしちょっとシャワー浴びてくるから」
「うーん、僕もお風呂は入りたいんだけどさ」
もぞもぞと身を捩り京極をどかそうとする楽郎に対し、彼女はわざと更に密着するように抱きついてきた。
唇を楽郎の耳元に近づけ、甘く熱い吐息を吹きかけながら囁く。
「ね、どうせシャワーを浴びるなら……一緒に一汗かいちゃわない?」
「……ったく、お前には適わねえな」
楽郎の事実上の降参宣言に京極は幸せそうに破顔すると、彼の唇にそっと甘い口づけを落とす。
――それから数時間後。クーラーの効いた部屋の中で汗だくになった二人は、仲良く風呂場に向かうのだった。