徒然なるインベントリア:シャンフロの小話   作:イナロー

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Twitterでの硬梨菜先生の性癖暴露に触発されて書いたお話。
もしもの世界のウィンプとサンラク。


テセウスの蛇

 グジュリ、と湿った生々しい音を響かせながらそれ(・・)が私に繋がっていく様を、私は努めて平静を装いながら眺めていた。

 他ならぬ私自身の生存の為にはそうするべきだと分かってはいるものの、私ではない()に体が作り変えられるような心地がしてこの作業は何度やっても好きになれない。

 数瞬もすれば先ほどまで何も無かった私の左足首の先もすっかり元通りだ。よく見ると少しだけ肌の色が違っているし、肌に残る傷跡がちぐはぐな印象を与えるものの動く分には問題無い。

 

「…何度見ても見事なもんだな。どうだウィンプ、今までと比べて違和感は無いか?」

 

 隣では半裸の鳥頭(ふしんしゃ)がその様子を見守っていた。

 見守ると言ってもそこに込められた感情は心配や気遣いといった慈愛を含んだものではなく、まるで整備した道具に不具合がないかと確認する職人のような、どこか無機質さを孕んだ物だったけれど。

 確認を受けた私は足首の先をくるくる回してみたり、その場でぴょんぴょんと軽く跳ねて調子を確かめながら答えていく。

 

「…もんだいないわ。これならいつおそわれてもにげられるわよ」

「それは何より。だがお前は自分で動こうとするとすぐ死にかけるんだから変に無理をしないでいざという時はサミーちゃんさんを頼れ」

「ぐっ…こ、これはちょっとゆだんしてただけよ!」

 

 失礼な物言いに反論したいところだけれど、不運にも遭遇してしまった「傷だらけ」に左の足首から先を食いちぎられてしまった私には返す言葉もなく、悔し紛れに声を張り上げることしかできない。

 こいつはそんな私の心情を知ってか知らずか、まるで駄々をこねる幼子に語り掛けるような声色で話しかけてくる。

 

「そうか、なら今後はくれぐれも樹海で油断は禁物だ。今回はスペア(・・・)にあてがあったから良かったけど、お前の部位欠損を直すのは簡単じゃないんだからな」

「…わ、わかってるわよ」

 

 簡単じゃないと言いながら、私の体が欠ける度にどこかから別の()の体を持ってくるこいつは一体何なんだろう。

 

 ———サンラク。その身に黒狼の傷を刻まれた、何故かいつも素顔を隠したままの開拓者。

 

『初めましてだゴルドゥニーネ、なんとも素敵な姿だが姉妹喧嘩でもしてきたか?』

 

 初めてこいつに遭った時、その身に纏う強者の気配を感じた私は思わず生を諦めかけた。

 サミーちゃんがついているとはいえ()との戦いの中で右腕を失っていた私にこいつと戦って生き残るビジョンは全く見えてこなかったし、イチかバチかで試みた支配も忌々しい狼の傷によってあっさりと弾かれてしまった。

 最早ここまでかと思った私だったけれど、何故だかこいつは私を倒そうとはせず、それどころか共闘の誘いを持ち掛けてきた。

 それが死にかけの私を憐れんでのものだったのか、それともこいつなりに何か目的あっての事だったのかは未だによく分かっていない。

 ただその時、初めてサミーちゃん以外に自分の身を預けられる存在ができたことに思った以上に安堵したことはよく覚えている。

 

「ところで本当に右腕は良かったのか?今回のゴルドゥニーネはお前と随分体格も近かったし、せっかくならそっちも持ってきたんだぞ」

「…べつにこれももうなれたからいいのよ。そもそもわたしのうではまだちゃんとついてるんだけど?」

「そこはほら、まずは一思いに傑剣への憧刃でスパッといってだな…」

「ぜったいにいやよ!?わたしのからだをなんだとおもってるの!?」

 

 …本当にこいつに身を預けていいのかは時々不安になるけれど。

 人形の手足を取り換えるような気軽さで人の腕を切り落とそうとしないで欲しい。開拓者というのは命の扱いが軽いとは聞くけれど、その中でもきっとこいつは別格だ。

 咄嗟に左手で右腕を抱くようにして庇いながら目の前の狂人から一歩距離を取る。その際、腕の付け根に刻まれた歪な文様が目に入った。私の背中にもそれによく似た、それでいて決して同一ではないものが刻まれている。

 これは彼の狼の傷のように強者を呼び寄せることもなければ、その身に降りかかる呪いを弾く訳でもない。それは、ただ私が私であることを証明するためだけにそれぞれの私が己が身を傷つけて印していく。

 私の今の右腕は共闘関係を結んですぐの頃、()に襲われたときにそれを返り討ちにして奪い取ったものだ。その()は私よりも少しだけ体が大きくて、おかげで左右の手の長さの違いに慣れるまではちょっとだけ苦労した。

 そしてそれは、私が同族に負けるということの意味を初めて真に理解した瞬間でもあった。

 

 もし、私が()に殺されてしまったら。

 私は「ウィンプ」でもなにものでもない、ただのゴルドゥニーネになってしまうのだろうか。

 私たちが今まで倒してきた、他の()と同じように。

 

「それは、なんだかさみしいわ…」

「ん?ウィンプ、何か言ったか?」

 

 私の呟きがよく聞こえなかったのか、こいつは私の名を呼びながらその鳥頭を傾げている。

 その姿がなんだか可笑しくて、私はくすりと小さく笑みを零した。

 

「…なんでもないの、やっぱりしぬのはいやだなあっておもっただけよ」

 

 だから私は、今日もこうして生きるのだ。

 鬼畜で頭がおかしくて、だけどとっても愉快な彼と一緒に。

 

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