徒然なるインベントリア:シャンフロの小話   作:イナロー

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そういうゲームであるのなら、きっと躊躇わないんだろうなあっていうお話。


「テセウスの蛇」の続きというか、サンラクさん視点での外道トリオでの会話です。


彼はゲーマーであるが故に

「おっと皆さんもうお揃いで」

「随分と重役出勤じゃないかサンラク。時間になっても君が来ないからとうとう頭の中まで鳥頭になって約束の事を忘れたんじゃないかと心配していたところだよ」

「いやあ申し訳ない、何分抱えているユニークが多いものでね。あっ、悪い。ユニークに縁のないお前にはこの苦労は伝わらないか!」

「よーし、壁と床のどっちの染みになるかくらいは選ばせてやるよ」

「はいはい、二人ともじゃれ合いは程々にね」

 

 約束の時間から三十分ほど遅れて格納鍵内に現れた俺を外道二人が出迎える。

 開口一番に飛んできた皮肉に挨拶代わりに煽り返してやれば、ユニーク自発出来ないマン(オイカッツォ)の堪忍袋の緒は古びた輪ゴムよりもあっさり千切れ飛んでいった。

 そんな俺達を制しつつ、ペンシルゴンは早速とばかりに本題に入っていく。

 

「さて、君も最近すっかり雲隠れが板についてきたみたいだけど、いい加減少しは状況を説明してくれてもいいんじゃないかな?」

「んー、状況と言っても何から話せばいいものか…」

「それじゃ単刀直入に聞くけど…アレは何?」

 

 そう言ってペンシルゴンが指し示す先では、多種多様なアイテムと共に何体ものゴルドゥニーネの体が宙に浮かんでいた。

 それらのゴルドゥニーネたちはそれぞれの体格や体に刻まれたタトゥーの位置などの違いはあるが、既にHPを失い再び目を開けることはないことと、体のどこかを欠損しているということだけは全ての個体に共通している。

 

「今メインでやってるユニークの対戦相手兼戦利品」

「え、このゲームそんな物騒なユニークまであるんだ。ちょっとそれ私も参加出来ないの?」

「エネミーとはいえ人型の死体を収集するシナリオに即決で参戦希望したよこの女」

「複数人参加型のユニークだから不可能ではないだろうけど、これ発生条件というかキーになるキャラとの遭遇条件が未だに謎なんだよな…」

 

 俺がウィンプと鉢合わせたのも完全に偶然だった上に、今までに出会った他のゴルドゥニーネとそのパートナー達の関係からして共闘する条件も各々で異なっているようだった。

 ライブラリ辺りに考察を頼めばもう少し詳細な予測が立てられるのかもしれないが、諸々の都合上あまり情報を広めるのはよろしくなさそうなのが悩みどころだ。

 

「それは残念、じゃあせめてそれがどんな目的のシナリオなのかくらいは教えてくれない?」

「そうそう、中途半端に自慢するくらいならこの際全部ゲロっちゃえよサンラク」

「…まあ、お前らにならいいか。でもこれ本当に他言無用で頼むぞ」

 

 どこまで話したものかと一瞬思案したが、こうしてインベントリアにゴルドゥニーネの体を保管している以上は情報の秘匿にも限界がある。

 この二人ならば裏で暗躍することこそあれど、無意味に情報を拡散することもないだろうと判断の元、最低限の情報は伝えることにした。

 ヘタレなゴルドゥニーネとの遭遇、ユニークモンスター「無尽のゴルドゥニーネ」、ユニークシナリオEX「果て無き我が闘争」、そしてゴルドゥニーネ達の特異な部位回復手段…

 

「またもやEXシナリオを発生させてることに関してはサンラク君のことだからもう驚かないとして…」

「同族での喰い合いが前提って…またエグい仕様だなぁ」

 

 俺が特大のネタを引き当てるのはもう慣れたのか、ユニークモンスター絡みのシナリオであることくらいでは既に大したリアクションを得られなくなっていたものの、他のゴルドゥニーネの体を繋ぐことで部位欠損を修復するというゲームを間違えているんじゃないかと言いたくなるこの仕組みには流石の二人も表情を変えていた。

 実際にウィンプの回復の為に何度か他のゴルドゥニーネの体を切り取っている俺からしても正直この仕様はどうかと思う。

 最初からグロテスクな世界観のゲームならばともかく初見では王道ファンタジーの世界観、それも全年齢向けのゲームでこれはクソゲー一歩手前だろう。

 

「ふーむ、つまりこれ同族限定とはいえ別のモンスターの体を継ぎ接ぎできるってことだよね?それって元の体の持ち主のスキルとかを引き継げたりはしないの?魔法特化型の個体に物理職のスキルを持った腕を繋げたり、四肢をそれぞれ別属性の魔法が使えるの物に取り換えたりとか」

「発想が完全に主人公に滅ぼされるマッドサイエンティストのそれ」

「倫理観なんて気にせず探求心の命じるままに突き進む科学者って私好きだよ。最後は研究所ごと爆発するまでがお約束だよねえ」

「絶対にこいつにそのシナリオを発生させちゃダメだ…!」

 

 ペンシルゴンの発言にカッツォが戦慄しているが、似たようなことは俺も考えており、そのあたりのシステムもある程度は確認済だ。

 あと俺は生命を弄ぶタイプの悪役は自分で作り上げた生き物に反旗を翻される展開が好みだ。

 

「いや、あくまでも欠けた肉体を補う以上のことは出来ないらしい。ウィンプに聞いてみたけど特に何か新しいスキルや魔法をしたりはしていないと言っていた。」

「なんだ残念。それじゃこれはそのウィンプって子の体の予備?」

「それもあるけど、主な用途はゴルドゥニーネとパーティ組んでる他のプレイヤーとの交渉用」

 

 いくらあいつが弱いとはいえ部位欠損クラスのダメージなどそうそう食らうものではない。

 にも関わらずこいつらに今までに倒したゴルドゥニーネの体を保管しているのは、戦利品はとりあえず集めておくゲーマーの性というのもあるが他プレイヤーとの取引の為の側面が強い。

 

「なんでわざわざ交渉を?そんな血みどろなバトルロイヤルをしてるなら背中刺されるリスク抱えるよりサクッといっちゃった方がよくない?」

「チッチッチ、30点だよカッツォ君」

「俺の話をちゃんと聞いていたか?そんなんだからお前はユニーク自発出来ないマンなんだよ」

 

 俺達の煽りにカッツォは握りこぶしをプルプルと震わせているもののとりあえず話を聞く気はあるのか、自分の中の衝動と戦いながらも殴り掛かっては来ない。

 そんなカッツォに見る者全てがイラっとするような渾身のドヤ顔を披露しつつペンシルゴンが答える。

 

「確かにこれは『さあ争ってください』と言わんばかりの仕組みだよ…でもね」

 

 奴はそこで一度言葉を区切ると、意味深な笑みこちらにを浮かべながら先程の話の内容を確かめる様に語り掛けてくる。

 

「サンラク君。念のためにもう一度聞くけれど、別のゴルドゥニーネの体を繋げたからといって別に強くなれたりはしないんだよね」

「ああ、俺も気になって色々試してみたが欠損した体を補う以上の効果はない。それどころか繋ぐパーツと本体のサイズが合わないと慣れるまでは前より弱くなるくらいだ」

 

 そこまで話せばカッツォも俺達と同じ答えにたどり着いたのか、苦虫を数十匹ミキサーにかけて一気飲みしたような顔をして口を開く。

 

「つまりあくまでも同族との戦いはマイナスをゼロに戻すのが精々で、何かがプラスになるわけでは無いと?」

「そういうことだな。極論全てのゴルドゥニーネが五体満足でいるのなら少なくともプレイヤーである俺達には争う合理的な理由は何もない」

 

 とはいえ実際はゴルドゥニーネ達が基本敵対関係にある上に、その争いの中で体を失った個体が複数存在する現状ではそれも絵空事だ。だが俺はこれらの事実から一つの懸念を抱いている。それは…

 

「ユニークモンスター『無尽のゴルドゥニーネ』は複数のゴルドゥニーネ達での共闘が必須の可能性がある」

 

ククク…さも同士討ちが前提であるかのような設定を持ち出しておいて、いざボス戦となった時自分が切り捨ててきたものこそが勝利の鍵だったと思い知らされる。

 なんともクソゲー染みた展開であるがこのゲームならばそのくらいはやりかねない。天地律、やはり奴こそはクソゲーの伝道師…!

 

「なるほどね、それで敵を全滅させずに協力する余地を残しているわけだ」

「そういうことだ。まああくまでも念のためだけどな」

 

 最終目標は無尽のゴルドゥニーネを倒すことであって、俺としては他のゴルドゥニーネとは必要に迫られない限りは積極的に戦うつもりは無い。

 あのゴルドゥニーネにはラビッツでの借りとついでにウィンプの右腕を取られた借りがある。お返しに今度戦う時はあいつの両腕を捥ぎ取ってやろう。

 

 いつか来る決戦の日を想い改めて戦意を高めつつ、その鍵となるウィンプの元へと帰るべく俺はインベントリアを後にした。

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