徒然なるインベントリア:シャンフロの小話   作:イナロー

86 / 101
もしもの世界でディープスローターとウィンプが邂逅するお話。
・テセウスの蛇
・彼はゲーマーであるが故に
と同じ世界線です。


同病相(まみ)える

 ──出来損ないの鏡を見せつけられているようだ。

 

 ディープスローター(彬茅紗音)ウィンプ(ゴルドゥニーネ)に出会った瞬間、考えるよりも先にそんな感想を抱いた。

 

「い、いらっしゃいませ!おひとりさま、ですか……?」

「…………」

「な、なにかいいなさいよぉ……!」

 

 赤髪と白髪。

 魔術師と軽戦士。

 二号人類(プレイヤー)モンスター(NPC)

 一見すると彼女たちにこれといった共通点は見当たらない。

 しかし無様なまでに他人の視線を意識する様が、継ぎ接ぎだらけの醜い(愛らしい)身体が、鮮烈で不愉快な既視感をディープスローターに突き付ける。

 目の前の存在そのものが、彼女(彬茅紗音)の魂の深く柔らかな部分をざりざりと無遠慮に傷つけていく。

 

「……サンラクくんは、いないのかなぁ?」

 

 喉の奥からせりあがる吐き気を伴う自己嫌悪を飲み干して、努めていつも通りの笑顔のテクスチャを張り付けながら、ディープスローターは白々しく店内を見回しつつ彼の所在を尋ねた。

 自分が(サンラク)の存在を見落とすはずが無いと自負するディープスローターにとって、全く以て無意味な問いかけ。

 そしてサンラクが居ないのであれば彼女がこの場に居ることもまた全くの無意味。

 にも拘わらず、その場で踵を返して店から立ち去らなかったのは果たして如何なる心情か。

 

「あっ、あいつなら……きょうはきてないわ!」

「そっかぁ、それは残念(ざぁんねん)

「……あいつに、なにかようじなの?」

 

 薄っぺらな笑みの下に隠された激情を察してか、いつもの三割増しで怯えながらウィンプが応える。

 しかしながらヘタレな彼女にしては珍しく、奥に控えるマスターやサイナに助けを求めることなく真正面からディープスローターの瞳を見据えて問いを投げ返した。

 0と1で創られた彼女の(プログラム)に果たして如何なる変化があったのか。

 

「うん、だけど居ないなら仕方ないねぇ、また出直すよぉ」

「でんごんがあるならつたえるわよ」

「……ううん、それはいいかなぁ。自由人なサンラク君がここに来るかも分からないしぃ……もしかしたらまた新しい玩具(・・)を見つけてるかもねぇ?」

「それならだいじょうぶ。あいつ、いつもよるにはここ(・・)にくるから」

「「…………」」

 

 二人の間に静かに火花が散る様を、偶然その場に居合わせていた着せ替え隊の面々がスクショすることも忘れて固唾を呑んで見守っている。

 言外に「お前など無聊の慰めの為の道具に過ぎない」と煽るディープスローターに対し、ウィンプは彼女らしからぬ芯の通った態度で毅然と言葉を返す。

 突然の闖入者に戸惑いながらも目線を逸らすことなく背筋を伸ばして相対するその姿からは、サンラクは自分を見捨てないという並々ならぬ信頼が感じられた。

 それが、ディープスローターにとっては堪らなく腹立たしい。

 

 彼のことを理解(わか)っていると言わんばかりの、その傲慢さが腹立たしい(羨ましい)

 彼の隣に肩を並べて立ったつもりでいる、その不遜な態度が悍ましい(羨ましい)

 彼は己を見捨てないのだと確信する、その自信に満ちた瞳が妬ましい(羨ましい)

 

 どうして彼の唯一の理解者である私ではなく、お前などがそこにいるのか。そんな身を焼き焦がすほどの激しい嫉妬がディープスローターを苛む。

 それと同時に、こんなやつ(ゴルドゥニーネ)までも惹き付けてやまない彼は、やはり私が愛する彼なのだという納得がすとんと胸に落ちる。

 自分自身でさえも見失いかけた()のことを熱烈な視線で撃ち抜いてくれたあの日の(サンラク)は今も変わらずここに居るのだと、それを確認させてくれた功績を以て、ディープスローターは感情の矛をどうにか収めた。

 

「じゃあねぇ、今度はサンラクくんが居るときにまた来るよぉ」

「……そう、すきにすれば?」

 

 ひらひらと手を振りながら出口に向かうディープスローターを、胡乱な目つきのウィンプが見送る。

 これで修羅場は終わりかと、|店内に充満していた不穏な空気が微かに和らいだのも束の間。

 ディープスローターは店を出る直前、不意に足を止め首だけで振り返りながら最後にウィンプに声をかけた。

 

「……ああ、それと君にも言っておきたいことがあったんだぁ」

「きぐうね、わたしもたぶんおなじことをおもってたの」

 

 ──私は、君が嫌いだよぉ。

 ──わたし、あんたがきらいよ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。