徒然なるインベントリア:シャンフロの小話   作:イナロー

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ロッカーに閉じ込められた楽郎とヒロインちゃんのお話。


ロッカー×密着×危機一髪

 玲さんとロッカーに閉じ込められた。

 

 我が事ながら何とも頓珍漢な状況であるが、実際閉じ込められてしまったのだから仕方がない。

 ロッカーとは本来はただの用具入れであり、中に人間が入ることなど想定されていない。

 そこに特別小柄でもない二人も詰め込まれてしまえばどうなるか……答えは簡単、必然的にお互い密着する形になる。

 

「ぐっ、身動きが……玲さん、大丈夫?」

「だだだ、らいじょうぶでふ!万事問題ありましぇん!」

 

 うん。ダメそうだ。

 現在、俺は玲さんの背後から覆いかぶさるような姿勢になっているため彼女の表情は窺えないが、明らかに呂律の回っていない返答が彼女の混乱を如実に伝えている。

 かく言う俺も、いつになく近い玲さんとの距離に内心ドキドキが止まらない。

 触れ合った彼女の身体はふにっと柔らかく、男と女の身体の違いを否応なしに意識してしまう。

 また、玲さんがやや俯き気味になっていることにより髪が前に垂れ、普段は見える事のないうなじがあらわになっているのもよろしくない。

 緊張、或いは羞恥からか紅く色づいたその部位はロッカーの薄暗闇の中でもわかる程に滑らかで、いけないと思いつつも俺は視線を反らせずにいる。

 このまままだと激しく脈打つ心臓の音が玲さんに聞こえてしまいそうで、俺は内心の動揺を誤魔化すようにそっと彼女の耳元に囁きかけた。

 

「……ごめん玲さん。窮屈だとは思うけど、もう少しだけ辛抱できる?」

「ひゃいっ!その、私はこのまま何日でも耐えられますので…!」

「いや、流石にそこまではかからないから…多分」

 

 ロッカーの隙間から扉の外を観察しながら、些かばかり希望的観測の含まれた予想を告げる。

 完全下校時刻になれば各教室を教師が見回りにくるはずなので、その時に声を出せば助け出してもらえるだろう。

 或いは、近くを通りかかった生徒に頼んで鍵を開けてもらってもいいのだが……

 

「あいつらにこの状況を見られたら絶対面倒臭いことになるからなぁ」

「た、楽しそうです…ね?」

「アレを見てその感想が出てくるあたり、玲さんも意外と図太いというか……いや実際楽しいんだけどね」

 

 ロッカーの外……つまり俺たちの教室では、クラスメイトの男子たちによる雑ピの新作朗読会が催されていた。あれは昼休みにノートに書きこんでたやつだな。

 普段ならば俺も嬉々としてその場に参加しているのだが、今は早く解散してくれと願うばかりだ。

 ただでさえ日頃から俺と玲さんの関係を邪推してくる奴らである。今のこの状況を見られでもしたら向こう一か月は弄り倒されるだろう。こいつらに頼むのは最終手段としたい。

 早くこの場を立ち去ってくれと念を贈りながら暁ハート先生のポエムに耳を傾けて続けるること十数分。

 ようやく祈りが通じたのか、クラスメイト達は各々の荷物を纏め始めた。

 

「おっ、あいつらやっと居なくなりそうだね……玲さん、あと少しの辛抱だから」

「はぁ…っはぁ……ふぁい」

 

 ロッカー内はやや酸素が薄いせいか、先程から段々玲さんの呼吸が荒くなってきている。

 肌が触れた部分もなんだかとても熱いし、早く脱出しなくては。

 

「そろそろ下校時刻だから誰か先生が来てくれるはず……っ!?まずいっ!」

「はひゃうっ!」

 

 席を立った雑ピたちはそのまま教室の後方入口──俺と玲さんの閉じ込められたロッカーの前に向かってくる。

 慌てるあまりつい玲さんを抱きしめる腕に力を籠めてしまったのだけれど、それは間違いなく悪手だった。

 

「………きゅう」

「えっ、ちょっ!?玲さん!?玲さーん……」

 

 脱力した玲さんの身体がロッカーの壁にぶつかりそうになり、慌てて彼女を強く抱きしめる。

 小声で彼女に囁きかけても一向に返事が返ってくる様子はない、どうやら気を失ってしまったようだ。

 手を離すとそのまま玲さんが崩れ落ちてしまいそうなので、胴体に腕を回してしっかりとその体を抱き支える。その際、一瞬腕が触れた柔らかな感触には全力で気付かないふりをした。

 仕方なしにその姿勢を保っていると、教室内から人の気配が消えた。どうやら雑ピたちはこちらに気が付くことなく出ていったらしい。

 危機を乗り切り安堵しつつもこの状況をどうしたものかと頭を悩ませていると、腕の中の玲さんが身動ぎした。

 

「う…ううん……あれ?私、は…いったい……?」

「あ、玲さん気が付いた?」

「らく、ろう…く、ん……!?」

 

 彼女の意識が復帰して数瞬。寝ぼけまなこだった玲さんは現状を思い出すなり、その(かんばせ)を真っ赤に染めて大混乱に陥った。

 

「近くてあったかくて楽郎くんが私を抱いて私今汗をかいてるのででも離れるのはもったいな────」

「れ、玲さんちょっと落ち着いて!」

「あの、その……!もう、無理、です……!」

 

 錯乱状態の玲さんは狭い中で器用腰にひねりを加え、構えた腕を前に突き出す。

すると……

 

「えっ」

 

 ゴガァンッ!とド派手な音をたて、施錠されていた筈のロッカーの戸が吹き飛んだ。

 

「…………」

「…………」

「……ええっと、出られてよかった、ね?」

 

 ──数十分ぶりに自由になった身体をほぐしつつ、破壊されたロッカーを前にこの惨状をどうしたものかと俺と玲さんはしばし途方にくれるのであった。

 

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